海外駐在員レポート 

豪州のフィードロット産業

シドニー駐在員 鈴木 稔



はじめに


 わが国が米国、 豪州との牛肉交渉で3年後の完全輸入自由化を決定した1988年
当時、 豪州産牛肉と言えば、 それは、 基本的にはグラスフェッドを意味し、 輸入
牛肉の世界では、 グレインフェッド=米国産と対をなし、 グラスフェッドは、 豪
州産の代名詞ともなっていた。 

 ところが、 それから足かけ10年を経た現在、 わが国に輸入されている豪州産牛
肉の36%はグレインフェッドとなっている。 

 この変化は、 日本の市場開放を大きな契機として、 豪州でも、 グレインフェッ
ド牛肉を生産するフィードロット産業が急速に発達してきたことを意味している。 

 しかしながら、 急拡大を続けてきたフィードロット産業も、 最近では、 飼料コ
ストの増大やメインとする日本市場での米国産牛肉との競争激化という内憂外患
を抱え、 厳しい経営環境にあり、 いくつかの大型フィードロットが閉鎖される状
況となっている。 

 今回は、 このように、 産業構造の転換期に差しかかったと考えられる豪州のフ
ィードロット産業について、 この10年の動きを中心に振り返るとともに、 今後の
展望を概観してみたい。 

1 フィードロット産業の歴史・変遷


 豪州肉牛産業は、 わが国や米国と異なり、 伝統的に牛の生産から肥育まで、 全
ての過程を草地 (放牧) に依存しており、 この基本は現在でも変わらない。 では、 
なぜそのような豪州においてフィードロットが必要となってきたのか、 産業発展
の背景・歴史について、 はじめに説明しておきたい。 


(1) フィードロット産業の歴史

 豪州のフィードロット産業は、 1960年代初めに、 クインズランド州南東部のダ
ーリングダウンズと呼ばれる丘陵地帯で始まったとされている。 おそらく、 わが
国の畜産関係者の多くの方が、 「フィードロット」 という言葉からは、アメリカの
大規模な企業的フィードロットを想像すると思うが、 伝統的に放牧飼養の豪州に
おいて、 当時のフィードロットは、 基本的には干ばつにより草地で牛が飼えなく
なった際の飼料補給の場であり、 グレインフェッド牛肉の生産を目的としたもの
ではなかった。 

 なお、 ダーリングダウンズは、 豪州でも有数の穀倉地帯であり、 現在でも豪州
フィードロットの中心地帯の1つとなっているが、 クインズランド州という豪州
の肉牛産業の中心地で、 牛に与える (穀物) 飼料があった場所という意味で、 フ
ィードロット発祥の地となったことは肯ける。 

 このような、 干ばつ時の 「牛の緊急避難場所」 としてのフィードロットの出現
は、 65〜66年の干ばつが大きな契機となっているが、 その後、 60年代後半から70
年代初めにかけて、 ごく少数のグレインフェッド牛肉の生産を目的としたフィー
ドロットが設立されている。 

 なお、 「牛の緊急避難場所」 としてのフィードロットは、その設置目的からして
も、 常時牛を飼養するわけではないので、 豪州では、 状況に応じて牛を飼養する
フィードロットという意味で、 「機会フィードロット (Opportunity Feedlot)」と
呼ばれ、 グレインフェッド牛肉の生産を目的として、 常時牛を肥育する 「商業的 
(企業的) フィードロット (Commercial Feedlot)」 と区別されている。 

 70年代初めまでに、 飼養規模1,000頭以上のフィードロットが30以上設立され、 
そのほとんどが日本市場への輸出を目的としていたとされる。 74年にオイルショ
ックに伴う牛肉価格の暴落により、 わが国が牛肉輸入を一時停止したため、 これ
らのフィードロットの多くが閉鎖に追い込まれるという事態が発生したものの、 
75年の輸入再開、 その後の日本市場の拡大により、 フィードロット産業は、 着実
にその基盤を固めてきた。 

 当時のフィードロット産業の規模に関する公式統計はないが、 いくつかの調査
報告によれば、 75〜85年の間に、 フィードロットの牛の収容能力は、 10万頭台の
前半から後半に増加してきたとされている。 このあと詳述するが、 豪州のフィー
ドロット産業は、 88年のわが国の牛肉輸入自由化決定を契機として、 この後、 急
拡大し、 現時点での収容能力は約86万頭となっているが、 歴史的にみても、 約30
年前の勃興期から日本市場の存在を前提としてきたことは興味深い。 


 (2) この10年の変遷

 このように、 豪州のフィードロットは、 その生い立ちは、 牛の緊急避難場所と
してでありながら、(また、 もちろん、 現在でもこのような性格のフィードロット
は多数存在するが、) 日本へのグレインフェッド牛肉の輸出を目的とした「肥育場」 
(=企業的フィードロット) の出現が、 「産業」 化の契機となっているが、 今日の
発展の引き金は、 88年の牛肉輸入自由化の決定であり、 ここではこの10年の動き
を振り返ってみたい。 

 豪州のフィードロット産業は、 その歴史も浅いことから、 統計資料も整備され
ておらず、 飼養規模・頭数等については、 ようやく、 90年から豪州フィードロッ
ト協会 (ALFA) と豪州食肉畜産公社 (AMLC) による四半期ごとの共同調査が開始
されたに過ぎない。 従って、 90年以前の状況については、 いくつかの単発調査の
結果に頼らざるを得ないが、 これらの調査結果から、 これまでの動きを見てみる。 

 まず、 豪州全体のフィードロット収容能力は、 85年当時は20万頭に達していな
かったとされているが、 ALFA/AMLCの調査が開始された90年7月の時点では36万
6千頭 (図1) となっており、 85〜90年の5年間に豪州のフィードロット産業は、 
ほぼ2倍に拡大したと推定される。 

◇図1:フィードロットの飼養動向◇

 さらに、 91年に調査された232ヶ所のフィードロットのうち、 44%に当たる102
ヶ所は、 86〜90年に操業を開始している。 

 これらの数値からは、 88年前後に大きな動きがあったことが窺われる。 また、 
AMLCは、 85年以降、 グレイン/グラス別の対日牛肉輸出量を発表しているが、 グ
レインフェッド牛肉の対日輸出量は、 88年まで数千トン台で推移していたものが、 
89年には2万3千トンと前年の約4.5倍に跳ね上がっており (図2)、 これからも、 
88年が大きな転換期であったことがわかる。 

◇図2:豪州の対日牛肉輸出量の推移◇

 この転換期の牽引力となったのは、 日本企業の投資であるが、 筆者の知る限り
では、 88年以降2〜3年の間に、 日本企業の直営、 日豪合弁等により、(フィード
ロットに限定したものではないが、 資本参加先の豪州パッカーがフィードロット
を所有していたという形のものを含め、)少なくとも10ヶ所の日系の企業的フィー
ドロットが誕生している。 

 これらの日系フィードロットは、 88年以前から運営されていた2ヶ所も含め、 
ほとんどが5千頭〜数万頭の飼養規模であり、 91年2月時点のALFAの調査では、 
日系フィードロットの全収容能力に占めるシェアは24%となっており、 相当の影
響力を持っていたと考えられる。 

 また、 現在、 日本向けの肥育頭数は、 全体の6割を占めており、 フィードロッ
ト産業から見れば、 日本市場は極めて重要であり、 その動向は豪州のフィードロ
ット飼養頭数の動きにダイレクトに反映される構造となっている。 

 90年以降、 収容能力、 飼養頭数ともに、 95年半ばまでは順調に拡大してきた。 
しかし、 95年9月に飼養頭数の大幅な減少という、 大きな転機を迎えた。 95年12
月は、 表面上は飼養頭数の回復が見られているが、 この期より調査対象の拡大が
行われたため、 それ以前の数値とは連続しない。 むしろ、 施設利用率がそれ以前
より低下し、 また、 その後、 飼養頭数は減少傾向で推移していること、 さらに、 
95年〜96年にかけて、 日本市場での豪州産牛肉の市況低迷が続いてきたことから、 
実際には、 95年9月以降、 ほぼ96年を通じてフィードロット飼養頭数の減少局面
が続いてきたと推測される。 

 このことは、 94年まで急拡大してきたグレインフェッドの対日輸出量が、 95年
は前年比8.3%の減少となり、さらに96年は、 前年比17.3%もの大幅減少となって
いることからも裏付けられる。 

 なお、 飼養頭数は、 96年末以降、 ゆるやかな回復傾向が窺えるが、 これは主に
国内向けのものの増加によってもたらされたものであり、 日本向けの頭数はほぼ
横ばいで推移している。 牛肉の対日輸出量は、 97年に入り、 ほぼ下げ止まってい
るが (1月〜7月まで前年並み)、 グレインフェッドに限れば、 前年比9.1%減少
となっており、 豪州フィードロット産業にとって、 日本市場は依然厳しい状況に
ある。 

 ここで、 日本企業が海外にフィードロット拠点を築くに当たって、 なぜ、 豪州
を選択したかという点を考えてみたい。 
日本企業の選択肢として、 主要な対日牛肉輸出国として、 豪州とともに、 米国も
当然その候補となったはずである。 しかし、 フィードロット先進国でもあるのに、 
米国でフィードロット産業に投資した日本企業はあまり知られていない。 

 これに対する関係者の方々のコメントは様々であり、 一概に言えないが、 個人
的見解を含め、 全てではないが、 豪州進出の要因の主なものを簡単に整理すれば、 
次のようになろう。 なお、 これらの要因は、 その後の豪州、 米国資本によるフィ
ードロット新増設の要因ともなっていると考えられる。 

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豪州フィードロット産業への日本企業進出の基本要因

(日本国内のマーケットで)

@(自由化決定後、しばらくの間)国内の牛肉相場が高値で推移。特に、輸入牛
 肉と直接競合する乳用種の価格も堅調

 →乳用種並みの品質の牛肉は、海外でも十分生産可能。しかも、コストは安い。

A自由化の流れの中で、供給が潤沢になればなるほど、顧客のより高品質な牛肉
 に対するニーズが高まる。

 →顧客ニーズに対応し、自由化後の激しい販売競争に打ち勝つためには、他社
  と一味ちがう商品を。自社ブランドの確立。

(米国との比較で、豪州は)

B土地も安く、設備投資負担が少ない

C素牛が安く、比較的安価な飼料の入手も容易

 →米国より低コストで生産が可能

Dグレインフェッドを活かすチルド牛肉の加工技術が優秀

Eパッカーの規模が適度(=米国ほど巨大ではない)

 →食肉加工部門への投資(パッカーの買収)が比較的容易。買収せずとも加工
  処理の委託が可能。
  良質の製品の生産が可能。
  寡占化されておらず、日本企業の参入が容易。

Fパッカーは、対日牛肉貿易に長い経験を有し、また、日本企業と緊密な関係を
 構築しているものも多い

G豪州の国情が日本企業の投資に好都合

 →対日感情が穏やか。政治面での懸案なし。対日貿易が黒字。
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2 豪州フィードロットの概要


 (1) フィードロットの位置づけ

 これまで述べてきたように、 豪州のフィードロット産業は、 基本的には日本向
けを中心とした 「特別用途」 の牛肉を生産する産業としての意味合いが強い。 

 従って、 近年かなりの発展を遂げているとは言え、 豪州牛肉産業の中で、 フィ
ードロットは一般的なものではなく、 いまだに特殊マイナー部門の域を出ていな
い。 

 表1は、 牛肉産業におけるフィードロットの位置づけを飼養頭数、 と畜頭数と
の関係で見たものである。 

表1 豪州・米国の牛肉産業におけるフィードロットの位置づけ(95年)

 注:ABS、AMLC/ALFA、USDAの統計を基に作成。一部推計を含む。

 これからも明らかなように、 豪州のフィードロットでの飼養頭数は、 肉牛飼養
頭数の2%にすぎず、 穀物肥育牛のと畜頭数に占める割合も、 大きく見積もって
も15%に満たないと推定される。 フィードロット産業の 「本家」 である米国では、 
フィードロットでの仕上げが一般的な牛肉の生産パターンとなっており、 と畜さ
れる牛の3分の2が穀物肥育牛となっているのと対比すれば、 豪州における穀物
肥育が一般的な生産でないことがよく理解できる。 

 しかしながら、 前述したように、 フィードロットで飼養されている牛の6割は
日本向けであり、 対日牛肉輸出量の3分の1以上がグレインフェッドとなってお
り、 日豪の牛肉貿易上は極めて重要な産業となっている。 


 (2) フィードロットの分布・立地条件

 豪州には、 現在約760ヶ所のALFA認定フィードロットがあり、これらの認定フィ
ードロットの収容能力・飼養頭数 (97年6月) を、 州別に示したのが表2である 
(なお、認定されていないごく小規模な機会フィードロットを加えたフィードロッ
ト総数は、 1千ヶ所余となると推定される)。 

表2 豪州フィードロットの州別・規模別の収容能力・飼養頭数(97年6月)

 資料:AMLC/ALFA「Feedlot Survey」

 豪州の肉牛産業は、 クインズランド州 (QLD)、 ニューサウスウエールズ州(NSW) 
及びビクトリア州 (VIC) の東部3州で全体の8割の肉用牛を飼養するが、フィー
ドロット収容能力、 飼養頭数もこの3州で9割を占め、 また、 収容能力1万頭以
上の大型フィードロットもこの3州だけに存在する。 

 なお、 サウスオーストラリア州 (SA)、 ウエスタンオーストラリア州(WA) のフ
ィードロットは、 草地条件が悪化し、 国内向けに供給される牛の品質が不安定と
なる時期に 「飼い直し」 のために利用されるのが一般的であり、 飼養頭数は季節
変動が大きいのが特徴である。 また、 輸出向けをメインとしたフィードロットも
極めて限定される。 

 一方、 QLDとNSWでは輸出向けが中心となっており、 この2州には、 収容能力・
飼養頭数の8割以上が集中している (なお、 このような地域的偏りは、 米国でも
同様にあり、 いわゆる主要7州だけで全米の85%前後の飼養頭数を占めている)。 

 このような分布の偏りは、 フィードロット立地にいくつかの条件 (制約) があ
ることに起因するが、 豪州におけるフィードロット立地の基本条件を簡単に整理
すれば、 次のようになろう。 

・素牛、 飼料、 水の供給が容易かつ安定していること

・フィードロットに適した気候であること (雨量が少ない、 真夏・真冬に極端な
 高・低温にならないことなど。 特に、 フィードロット・ペンの泥濘化や排泄物
 による水系汚染の防止などの理由から、雨量は年間750ミリ以下が望ましいとさ
 れている) 

・近くに、 食肉処理施設があること

・近くに、 積み出し港があること、 アクセスがよいこと

 豪州は日本の約20倍の国土があるが、 これらの条件を満たす地域は、 そう多く
はなく、 大まかには、 図3に示したとおり、 1)フィードロット発祥の地でもある
QLD南東部のダーリングダウンズ、 2)NSW北東・ニューイングランド台地、3)NSW南
部のリベリナの3地域であり、 主なフィードロットはほぼこれらの地域に集中し
ている。 
図3


 これらの地域はいずれも、 豪州東部3州にかけて、 東部沿岸から約100〜300km
の内陸部を南北に約3000kmにわたり横たわるグレート・ディバイディング・レイ
ンジと呼ばれる大分水嶺山脈 (米国のロッキー山脈ほど険しくはないが) の西側
に位置し、 年間の平均降雨量は、 ほぼ400〜750ミリの範囲にある (なお、 これら
の地域より内陸に行くに従って雨量が低下するが、 一方、 グレート・ディバイデ
ィング・レインジの東側の沿岸部は、 雨量が多く、 豪州の大都市が存在する人口
密集地帯であるとともに、 畜産分野では、 草地が良好なことから、 酪農が立地す
る)。 

 また、 各地域の特徴をかいつまんで紹介すると、 次のとおりである。 

1) QLDのダーリングダウンズは、 ソルガムを主とする夏作穀物をメインとし、冬
 作穀物である麦類の生産も可能な穀倉地帯である。 また、 背後にQLDのほか、ノ
 ーザンテリトリー (NT)、 NSWという素牛供給地帯を抱えている。 しかし、 かな
 りの高温となること、 また、 その気候条件から、 QLD内陸部、 NTからの素牛は、 
 熱帯品種の血液を含むものが主体となることなどから、 日本向けの長期肥育を
 行うには他の2地域と比較して有利とは言えない。 

2) NSWの北東・ニューイングランド台地は、 穀物は麦が主体、一部ソルガムを生
 産。 また、 トウモロコシの生産が可能な地域もある。 素牛はNSWを中心にQLD、 
 VICからも調達可能。 

3) NSW南部のリベリナは、 VICとの州境を流れるマレー川の水を利用した潅漑農
 業地帯であり、 穀物としては、 麦を中心にトウモロコシも生産 (なお、 米作も
 盛んであり、 米に関しては、 豪州唯一と言ってよい産地)。 背後にあるNSW南部、 
 VICといった地域は、 日本向けの高品質牛肉生産に適したアンガス、マレーグレ
 ーなどの英国品種の良質な素牛の産地である。 

 なお、 この10年ほどのフィードロット建設の動きを見ると、 明らかに1)→2)→
3)へと南下してきている。 これは、 フィードロットの急拡大により、 良質素牛の
確保をめぐってし烈な競争が行われたこと、 90年代に入ってからの干ばつにより
飼料供給への懸念が表面化したことなどから、 フィードロットの立地条件が、 良
質素牛・飼料のより安定した生産・供給の確保が可能な地域へと限定されてきた
ためと考えられる。 


 (3) 生産形態

 前述したように、 豪州では、 フィードロットは 「特別な」 肥育形態であり、 グ
レインフェッド牛肉は、 言わば多様な顧客ニーズに対応した 「受注生産品」 であ
り、 生産形態はケースバイケースで、 標準的生産パターンというものがないよう
な状況にある。 

 基本的に、 豪州のフィードロットでは、 

1) 仕向け先 (のニーズ) に応じた仕上げ体重を設定し、 

2) 次いで、 仕向け先の品質ニーズに応じた肥育期間を設定し、 

3) さらに、 導入する品種を選定し、 品種、 肥育期間 (及び給与飼料) 等を考慮
 して、 肥育期の1日当たり増体量 (DG) を設定し、 

4) 最終的に、 素牛の導入体重を、 仕上げ体重から肥育期間の増体量 (肥育期間
 ×DG) を差し引いて設定し、 

これらの設定条件の上で、 肥育が行われると考えるほうが正解である。 

 米国では、 国内消費向け、 輸出向けを問わず、 牛肉は、 フィードロットで体重
300〜400kgの素牛を3〜5か月程度肥育して、 450〜550kgで出荷するという標準 
(=最も合理的で、 生産効率の高い)生産パターンが確立されているのと対照的で
ある。 

 大まかに言えば、 豪州国内向けは、 肥育日数70日 (小売向け)〜100日 (レスト
ラン向け) で出荷体重400kg前後。 日本向けは(日本の牛枝肉の流通体重にほぼ見
合う) 出荷体重650〜700kgを目処として、 100〜120日程度の短期肥育から、300日
を超える長期肥育まで行われているが、 これらをいくつかのパターンに類型化す
れば、 ほぼ表3のようになろう。 

表3 豪州フィードロットにおける生産パターン(類型)


 さて、 このように類型化した生産形態が、 どの程度の割合で展開されているの
かを見たのが、 表4である。 

表4 豪州フィードロットにおける肥育期間別の生産割合(97年6月)

 資料:AMLC/ALFA「Feedlot Survey」

 豪州全体では、 100日未満の肥育が42%と最も割合が高いが、 これは、国内向け
の仕向け割合 (39.6%) とほぼ一致している。 次いで、 180日以上の24%、 130〜
180日の19%、 100〜130日の15%となっている。 

 さらに詳細にみれば、 州別では、 QLD、 NSWの主要州は、 国内向けと目される10
0日未満の割合が全体平均より低く、 輸出向けと考えられる100日以上の肥育の割
合が高い。 特に、 NSWは180日以上の割合が50%と断然高いことが注目される。 こ
れは、 先に述べたように、 NSWはQLDと比較して、 日本向けのより高品質な牛肉の
生産に有利な条件にあることを反映していると考えられる。 

 また、 規模別では、 1000頭未満の小規模フィードロットでは、130日以上の肥育
はほとんど行われておらず、 規模が大きくなるほど、 より長い肥育の割合が高ま
っている点が注目される。 これは、 大規模 (=企業的) フィードロットほど、 輸
出向けに重点をおいて運営されていることを意味していよう。 

 なお、 近年、 国内向けの仕向け割合が高まっているが、 これは、「霜降り」 牛肉
というよりも、 大手スーパー等からの定時・定量・定質の牛肉供給というニーズ
に支えられたものである。 実際、 レストランでは 「グレインフェッド」 の表示を
時に見かけるものの、 スーパー等の小売店では 「グレインフェッド」 の表示は行
われていない (筆者の知る限りでは、 シドニーでも、 小売店で 「グレインフェッ
ド」 と表示しているのは、 日本人が多く住む地域にある肉屋さんくらいである。 
なお、 余談ではあるが、 豪州人のグラスフェッドに対比したグレインフェッド牛
肉のイメージは、 日本人の 「天然魚」 に対する 「養殖魚」 の感覚に近いように感
じられ、「グレインフェッド」 を表示したら敬遠する消費者も少なくないように思
われる)。 

3 最近の動き・課題


 わが国の牛肉自由化決定以降、 順調に発展してきた豪州のフィードロット産業
も、 95年半ば以降、 飼養頭数の減少、 さらには、 いつかの大型フィードロットの
閉鎖などの異常事態が発生している。 

 このような 「異変」 の要因は、 端的には、 干ばつによる飼料高、 豪ドル高によ
る競争力の低下、 米国の生産拡大を背景とした対日輸出攻勢による日本市場での
競争激化であるが、 それ以前の問題として、 フィードロットの経営環境が基本的
に大きく変化 (悪化) していることを忘れてはならない。 

 まず、 前に整理した日本企業の豪州進出の基本要因を、 豪州におけるフィード
ロット経営の前提条件と読み替えて、 現在かなり様相を異にするいくつかの点に
ついて触れてみたい。 


 (1) フィードロットの経営環境の変化

1) 国内牛肉価格

 日本国内で、 特に輸入グレインフェッドと直接競合する乳用種牛肉の価格を、 
東京市場の乳おす 「B−2」 枝肉でみれば、 89年度の1,224円/kgをピークに、 そ
の後急落し、 95年度には613円とピーク時のほぼ半値となっている (図4)。 96年
半ば以降、 若干の相場回復は見られるものの、かつての1,000円を超えるような相
場はもはや望み得ないことは日本の畜産関係者の共通した認識であろう。 

◇図4:国内牛肉価格の推移◇

 豪州産グレインフェッド牛肉の価格に関する統計は、 93年度以降のものしかな
く、 はっきりとした傾向はつかめないが、 94年度に急落 (917円→696円) してい
る。 また、 「兄弟分」 ともいえる豪州産グラス (チルドフルセット) の価格は、80
年当時1,619円であったものが、 現在ではその3分の1にまで下落している。さら
に、 グラスとグレインの価格差が縮小する傾向も見られ、 これらのことから、 豪
州産グレインの価格は、 競合相手の国産乳おすよりも低落度合いが大きいと推察
され、 グレインフェッドは日本で 「高く売れる」 との前提は、 既に成り立たなく
なっている。 

 また、 米国産も含め日本市場で輸入チルド・グレインフェッドが溢れる状況の
中で、 元来、 簡便な肥育仕上げ方として考案されたショートフェッドではグラス
フェッドと明確な 「差別化」 を図ることが困難になってきているとも考えられる。 

2) 豪州での生産コスト

 フィードロットの牛肉生産コストの2大要因は、 素牛と飼料であるが、 素牛は
フィードロットの拡大に伴い需要が高まっているが、 価格は総じて安定的に推移
しているとみられる (巻末資料参照)。 
しかし、 フィードロットで使用される主な飼料穀物である、 大麦、 小麦、 ソルガ
ム、 トウモロコシの飼料価格は、 図5に示したように、 この10年ほぼ一貫して上
昇している。 特に、 94〜96年にかけては暴騰といえるような状況になった。 

◇図5:豪州における飼料穀物価格の推移◇

 大麦については、 94/95年のシーズンの未曾有の干ばつによる大凶作という要
因もあるが、 95/96年はほぼ平年作に回復しながらも、 価格は高値に張り付いた
ままで推移している。 

 大麦、 小麦に関しては、 豪州は、 毎年、 生産量の7〜8割を輸出することから、 
国内の飼料向けの価格は、 基本的には作柄の豊凶ではなく、 国際市況を反映した
輸出価格がベースとなる。 図6−1に飼料用大麦の価格の推移を、 米国の輸出価
格と対比して示したが、 93/94年までは、 ほぼ同様の値動きを示し、 価格は、 米
国の輸出価格より5〜25%安い水準で推移してきた。 しかし、 94/95年は、 国際
相場とは連動せずに暴騰している。 これは、 豪州国内でフィードロットに限らず、 
飼料穀物の需要が高まる中で、 干ばつにより生産減から国内需給がタイトとなっ
たものの、 豪州政府は、 検疫上の理由から、 穀物輸入に厳しい制限を課している
ため、 必要量の輸入ができず、 深刻な飼料不足となったためである。 

◇図6−1:飼料用大麦価格の推移(米・豪比較)◇

 豪州フィードロットが米国より優位に立つ要因の1つとしてきた、 飼料が米国
より安いという根拠は、 豪州でフィードロット用飼料の中心となる大麦、 ソルガ
ムを念頭に置いて言われてきたはずである。 

 図6には、 これらの価格を米国フィードロットの中心飼料であるトウモロコシ
の輸出価格と対比させているが、 大麦については、 その栄養価がトウモロコシよ
りも高いことも考慮すれば、 今も干ばつと言う異常事態がなければ 「安い」 と言
えるが、 ソルガムには言えなくなっている (ただし、 図は示してないが、 ソルガ
ムの価格は、 86/87年以前は米国の輸出価格とほぼ同じ水準で推移している)。 

 なお、 図6−2、 6−3にそれぞれ、 ソルガム、 トウモロコシの価格を図6−
1と同様に米国の輸出価格と対比させる形で示した。 94/95年の状況は大麦と同
様であるが、 双方とも米国より高く、 トウモロコシは国際相場とは連動せずに一
貫して上昇している点が注目される。 

◇図6−2:ソルガム価格の推移(米・豪比較)◇

◇図6−3:トウモロコシ価格の推移(米・豪比較)◇

 ソルガムは、 生産量の10〜35%程度は輸出されており、 国内価格の動きは国際
相場の動きとほぼ連動しているが、 87/88年以降は、 つねに米国の輸出価格を上
回っている。 前述のように、 輸入による需給調整がないことから、 これは、 国内
の飼料需要の高まりに起因していると考えるのが妥当であろう。 

 トウモロコシに関しては、 豪州全体として見れば作付け適地とは言えず、 作付
け可能な地域も極めて限定され、 年間の生産量は30万トンになるやならずであり、 
最大の産地である米国と比べものにはならない。 輸出は極くわずかであり、 最大
用途である飼料向けも20万トン弱で飼料としてはマイナーであり、 フィードロッ
ト用飼料としての主役を大麦、 ソルガムに譲る要因の1つとなっているが、 価格
上昇の動きは、 ソルガムと同様、 国内の飼料需要の高まりに起因していると考え
られる。 

 図7に示した主な飼料用穀物の飼料仕向け量と生産量に対する仕向け割合をみ
てもわかるように、 飼料穀物の価格の上昇は、 基本的には需要の高まりを反映し
ているが、 大麦は作付け面積、 生産量ともに大きく、 供給余力があるが、 その一
方、 ソルガム、 トウモロコシは供給余力に乏しいことが価格水準、 価格の推移の
違いとなって現れていると考えられる。(なお、 小麦は基本的に食用向け生産であ
り、 収穫時の悪天候等により品質が低下したものが、 飼料として利用されるため、 
年毎の飼料仕向け量の変動が大きく、 飼料用としての安定供給が保証されたもの
ではない)。 

◇図7:主な飼料用穀物の飼料仕向け量の推移◇

 さて、 畜産の各分野別の飼料穀物需要については、 ある調査によれば、 94年時
点で、 フィードロットは150万トン (28%)、 養鶏は142万トン (26%)、 養豚は13
6万トン (24%)、 酪農は118万トン (22%) と推計されている。 

 フィードロットでの穀物需要は、 90年の時点で、 ALFAは年間77万トンと推定し
ているが、 飼養頭数の推移を見ても、 その後急速に拡大してきたのは、 明らかで
ある。 また、 健康志向の高まりに伴い、 鶏肉、 豚肉の消費は増加傾向にあるが、 
これらの食肉をほぼ100%自給している豪州では、鶏肉生産量は88年の39万6千ト
ンから95年には49万7千トンと約26%増加し、 豚肉生産量も同期間に30万1千ト
ンから35万2千トンへと約17%拡大している。 さらに、 酪農産業も90年代に入り、 
国際市況が好調なことから生乳生産は増産基調で推移している。 豪州酪農は、 肉
用牛産業同様、 草地への飼料基盤の依存度が高いものの、 この5年間の生産量の
伸びが36%であるのに対し、 同期間の搾乳牛頭数の伸びが17%に止まっているこ
とは、 生産拡大は、 かなりの程度が泌乳能力の向上のみならず飼料穀物給与量の
増加によってもたらされたものであると窺われる。 

 このように、 飼料穀物需要は、 これまで、 フィードロットのみならず、 畜産の
全分野でかなりの勢いで高まってきたと考えられる。 

 今後、 フィードロットは別としても、 養鶏、 養豚部門での飼料需要は安定的に
増加すると見通され、 さらに、 最近の酪農国際情勢を見れば、 酪農部門は飛躍的
に飼料穀物需要を拡大すると予想される。 別の調査では、 2000年までに、 酪農は
需要量を200万トンとし、 畜産全体での飼料穀物需要量は860万トンに達すると予
測している。 

 このような畜産全般の情勢からは、 豪州における飼料穀物の需要が今後ますま
す高まるのは確実と見られるが、 一方、 フィードロット及び酪農における主要飼
料穀物である大麦は、 中期的には、 価格的に有利な麦芽原料用の生産が伸び、 飼
料用の生産は減少すると予想されており、 「飼料コストは安い」という優位性は徐
々に薄れていくものと考えられる。 

3) 米・豪パッカーの対応等

 わが国の牛肉自由化決定後の、 輸出先国パッカーの対応の変化で、 最も顕著な
点は、 米国のパッカーが、 日本市場を 「お得意様」 として、 きめ細やかなビジネ
ス対応をするようになったこと、 チルド牛肉の生産から、 輸送・輸出も含めた技
術・対応を飛躍的に向上させてきていることではないかと思われる。 

 旧畜産振興事業団の一元輸入体制の下で、 米国パッカーはどちらかというと、 
日本市場を余剰部位の輸出市場と考えていた感があり、 その対応も豪州パッカー
と比較すれば、 きめ細やかであったとは言えない。 自由化決定後、 輸入量の拡大、 
エンドユーザーの顔の見える形での取り引きの展開により、 米国パッカーの対応
も顧客ニーズに応える柔軟なものとなってきたと言われている。 自由な商取引と
なれば、 いかに的確に顧客ニーズに応えられるかがビジネスの成功の鍵を握るの
は明らかであり、 米国パッカーの対応も、 予測可能な当たり前と言えば当たり前
のことであったが、 しかし、 急速にチルド技術の改善を図ってきた点は、 おそら
く、 大方の日・豪の食肉関係者が予想しなかった、  「読み違え」 であろう。 

 米国パッカーのチルド技術の改善状況を、 米国産チルド牛肉の輸入量の推移で
見ると、 88年度には約1万2千トン、 米国からの輸入量の10%に過ぎなかったも
のが、96年度には12万2千トンと10倍となり、そのシェアも41%となっている (図
8)。 豪州も、 同じ期間にチルド輸出を6万7千トン(47%) から17万9千トン(6
5%) へと量的にも、 シェア的にも拡大しているものの、米国に比べればそのペー
スは緩慢である。 

◇図8:牛肉輸入量の推移◇

 また、 食肉通信社が食肉関係企業等を対象に実施した 「輸入ブランド選好度調
査」 の結果によれば、 89年7月の調査では、 食肉関係企業等が評価するチルドビ
ーフのベストブランド12社のうち、 豪州パッカーは10社を占め、 米国パッカーは
ごく下位に2社がランクされるにすぎなかったものが、 93年4月の調査では上位
15社に、 7社の米国パッカー (残りは豪州パッカー) がランクされ、 しかも、 第
1位、 第2位、 第4位を米国の3大パッカーが占めていることは大きな驚きであ
る。 

 牛肉輸入自由化前、 日本市場では、 大まかには、 米国産=フローズン・グレイ
ンフェッド、 豪州産=チルド・グラスフェッドという 「棲み分け」 構図で両国の
競争力の均衡が図られてきた。 

 豪州におけるフィードロット産業の拡大は、 最も基本的な顧客ニーズである、 
「より高品質のものを (=グラスよりグレイン、 フローズンよりチルド)」 という
命題に対して、 チルド技術を活かしつつ、 米国産並み或いはそれ以上の品質のグ
レインフェッド牛肉を日本に供給し、 米国との競争に打ち勝つための戦略とも解
釈できるが、 一方の米国はチルド技術の改善でこれに対抗し、 現在は、 両者同じ
土俵での激しい競争となっている。 

 同じ土俵での戦いとなれば、 豪州の牛肉産業の宿命とも言える輸出依存度の高
さと日本向け生産の特殊性 (わが国が輸入している豪州産牛肉は、 グレインフェ
ッドに限らず、 特別に 「日本向けに大きくした」 牛から生産され、 豪州国内に需
要がなく、 日本サイドのユーザーに、 「丸ごと」 買ってもらう必要がある。 一方、 
米国産牛肉は、 米国内で一般的に生産されたもので、 日本人が好む部位 (時には、 
米国で需要が弱い部位) を 「意識的に選び出して」 輸出されているというのが実
態で、リスクヘッジができている。) が改めて大きな障害となって立ちはだかると
ともに、 コスト競争という側面から、 豪州パッカーの低労働生産性等に起因する
割高な加工コストも無視できなくなってきている。 


(2) 最近の動きと今後の課題

 これまで述べたように、 豪州フィードロット産業がその拡大の前提条件として
きた、 「日本で高く売れる。 エサは安い。 米国産との競争は(特に鮮度面の優位性
から) そう激しくならない。」 は全て過去の話となり、 この数年来、 大まかには、 
「日本では買いたたかれる。 飼料コストはそう安くない。米国産とは真っ向から衝
突 (さらに付け加えれば、 単品対応可能な米国に対し、 フルセット対応というハ
ンディから、 少々米国産より安くても、 なかなか買ってもらえない)。」 という状
況であり、 おそらく、 これは将来的にも変わらないと考えるのが妥当であろう。 

 もちろん、 現在、 豪州でフィードロットを運営している各企業ともに、 この厳
しい現実を素直に受け止めているであろうが、 この厳しい現実が、 94年末の日本
における豪州産牛肉の農薬残留問題の発生による 「豪州産牛肉離れ」、その後の米
国の生産拡大に伴う対日輸出攻勢、 豪ドル高、 干ばつによる飼料価格の急騰で増
幅され、 さらに96年になり、 英国の 「牛海綿状脳症」 騒動、 日本での病原性大腸
菌 「O−157」 食中毒による牛肉消費の低迷が拍車をかけ、 豪州のフィードロット
産業を最悪の状況に陥れた。 

 昨年6月に、 約四半世紀の伝統を有し、 これまで幾多の苦難を乗り越えてきた
キララフィードロット (規模1万3千頭) が閉鎖を発表したことは、 この苦境の
厳しさを象徴しているように思う。 また、この5月には、 NSW州リベリナ地方のレ
イベンスワースフィードロット (規模1万5千頭) が正式オープンから1年足ら
ずで閉鎖を発表した。 同フィードロットは米国バンカーズ・トラスト (銀行) 資
本で、 約6000ヘクタールの潅漑農地で飼料を自給し、 日本向けの長期肥育牛を生
産し、 将来は6万頭まで規模を拡大する計画を発表していた。 さらに、 同社は、 
日本の食肉市場に精通した人材を管理者に起用するなどして、 経営・市場環境の
変化にも万全の対応が可能としてきたが、 このような結果に終ったことは、 状況
変化はより厳しかったことを示しているようである。 この他にも、 過去1〜2年
内に、 いくつかの1万頭以上のフィードロットが閉鎖されたり、 また、 直営から
委託肥育場への運営形態の変更を行うなどしており、 豪州フィードロット産業は
大きな転換期を迎えたと考えられる。 

 牛肉輸入自由化後、 輸入牛肉の急増に伴う牛肉相場の下落から、 日本国内では
特に乳おすの肥育経営が厳しい環境にあるが、 日本市場向けをメインとする豪州
のフィードロット産業も、 基本的には同じ辛酸を舐めている。 むしろ、 ある意味
では日本の生産者以上に厳しい環境にあるとも言えよう。 

 この2年余の苦境は、 日・米の牛肉需給や干ばつという外部要因が主な原因で
はあるが、 詳細に見れば、 これらの外部要因は環境悪化を増幅させる要因であり、 
根本的要因ではない。 このような自らの 「手に負えない」 外部からの悪要因にも
耐えうる基礎体力を養う意味で、 飼料穀物の確保、 加工コストの削減、 格付制度
の確立等、 豪州サイドに解決すべき基本的課題は多い。 

 もちろん、 これらの課題については、 進展のペースに違いはあるものの、 それ
ぞれ解決に向けた努力がなされているおり、 最後に、 その状況について述べたい。 

 加工コストの削減という課題に関しては、 割高なコストの主因となってきた前
近代的な労働制度が、 昨年3月に、 労働党より13年振りに政権を奪回した自由党・
国民党連合政権の労使改革政策の展開により、 徐々にではあるが改善されてきて
いる。 特に、 労働党政権下では極めて実現が困難であった、 個別企業労使協定と
呼ばれる、 弾力的、 効率的な労使間の労働契約が比較的大きな困難もなく締結す
ることが可能となり、 これにより、 労働生産性の改善や処理施設の統廃合等を通
じたコスト削減が実現可能な条件が整いつつある。 

 また、 格付制度に関しては、 昨年末、 国内外の牛肉関係者、 消費者に対して、 
牛肉の 「おいしさ」 を客観的に保証する食味保証制度がスタートし、 この中で、 
的確かつわかり易い格付制度の確立も取り組まれている。 すでに、 5月に格付基
準のガイドラインが公表され、 現在、 試行が進められており、 試行終了後近々、 
全国展開される予定となっている。 

 このような食肉産業界全体としての課題への取り組みはかなりの進展を見せて
いるが、 その一方、 フィードロットの生産コストの大きな (変動) 要因である飼
料の安定供給の確保は、 フィードロット産業の独自の課題であり、 特に94年の厳
しい干ばつによる価格高騰を契機として、 最も重要な課題としてクローズアップ
されてきているが、 穀物セクターとの利害対立もあり、 これまで解決の糸口が見
出せないできた。 しかしながら、 つい最近になり、 ようやく 「光明らしきもの」 
が見えてきている。 

 94年の干ばつによる穀物の大幅減産、 供給不足時に、 一部では飼料穀物の緊急
輸入が行われた。 しかし、 先に述べたように、 穀物が重要な輸出産業となってい
ることから、 連邦政府は、 輸入に際しては厳しい検疫上の条件を課している。 具
体的には、 穀物生産地帯への疾病、 雑草の持ち込みを防止するため、 輸入穀物は、 
入荷港や都市部での加熱処理が求められ、 内陸部には、 未処理の輸入穀物の輸送
は認められていない。 

 多くのフィードロットは敷地内に飼料処理・調整場を有し、 通常は未処理の穀
物を購入し、 自らの施設で独自の処理・配合を行っているため、 現在の検疫条件
では、 フィードロット分野での輸入穀物の利用は極めて限定される。 

 このため、 ALFAは連邦政府に対し、 未処理の輸入穀物の内陸輸送が可能となる
よう、 その検疫条件の見直しを強く求めてきた。 
 
 連邦政府は、 これに対処する形で、 95年4月に穀物輸入・輸送のガイドライン
を策定し、 未処理の輸入穀物の内陸輸送は、 安全性確認のための輸送試験を経て
実現する予定であった。 しかし、 穀物セクターの強硬な抵抗により実施が延び延
びとなっていた輸送試験は、 96年春先の米国での小麦黒穂病の発生、 さらには、 
米国から輸入された中古トラクターに雑草種子の付着が発見されるなどしたため、 
アンダーソン第一次産業大臣が防疫上のリスクが大きいとの懸念を表明したこと
から中止され、 現在まで、 フィードロット業界の望む輸入穀物の未処理での内陸
輸送は実現されていない。 

 しかしながら、 飼料穀物の輸入に関しては、 ここにきて進展が見られる。 昨年
のアンダーソン大臣の 「懸念」 は、 的確なリスク評価を行うだけの情報がないこ
とも要因の1つとなっていた。 このため、 大臣は、 連邦第一次産業省資源科学局
に穀物輸入に伴う検疫リスクの評価を指示していたが、 その報告書が7月に公表
された。 それによれば、 豪州検疫検査局 (AQIS) の穀物検疫政策が、 多分に政治
的要因による国内穀物産業保護の側面が強く、 検疫条件が厳しく、 また、 その一
部に科学的根拠があいまいな点があることなどが指摘されており、 AQISに対し、 
それらの見直しを勧告している。 

 アンダーソン大臣は、 このレポートが、  「飼料穀物の安定供給の確保という課
題に、 関係産業界が前向きにどのように対処していくかを考える第一歩を与える」 
ものとコメントしている。 さらに、 8月に大臣は検疫問題に関する包括的レポー
ト (注:昨年10月に大臣に提出された、 AQIS機能及び検疫制度見直しに関する勧
告レポートに対する、 政府の対応方針を示したもの) を公表したが、 その中で科
学的根拠に基づく、 透明性のある検疫条件の設定・見直しの行政手続きが盛り込
まれている。 

 これら一連の政府レポートにより、 飼料穀物の輸入に関しても、 一定の条件を
満たせば、 未処理での国内流通も可能となる道筋が示されたと考えられ、 フィー
ドロット産業にとっては、 昨年一旦は御破算となった最重要課題の解決に向けて、 
ようやく 「第一歩」 が踏み出されたと言える。 


おわりに


 これまで、 豪州の牛肉産業は、 グラスフェッド牛肉をもって新興輸出市場開拓
のパイオニアとしての役割は果たすものの、 一旦市場が成熟期に入ると、 低質安
価な商品のシェアは、 より安く輸出できる国に奪われ、 また、 高品質な商品のシ
ェアは米国に奪われるということを繰り返しているように思われる。 

 豪州にとって第3位の輸出市場である韓国でも、 現在、 グレインフェッドは米
国、 グラスフェッドはニュージーランドにそのシェアを奪われているが、 これが
豪州の牛肉産業を象徴していよう。 

 いつの時代でも、 また、 世界中どこでも、 安い牛肉に対する需要は根強いが、 
豪州より安い牛肉の供給国を探そうとすればいくらでもある中で、 豪州牛肉産業
の生き残りの道は、 新規市場開拓への弛まぬ努力とともに、 顧客が本当に望んで
いる品質の牛肉を供給するという意味での高品質化路線ということになろう。 

 新規市場の開拓は、 当面は、 地理的にも近く、 また、 経済発展とともに牛肉消
費が拡大しているアジア地域となろうが、 いずれ、 この市場でも高品質化は避け
て通れないであろう。 

 牛肉に対する需要は、 「牛肉であれば何でもよい」 から 「より高品質、安全で安
定した品質でおいしい」 ものへ移行していくことは、 豪州国内をみても、 また、 
現在でも東南アジア諸国に 「フィードロット向け」 の素牛を輸出していることか
らも明らかであろう。 

 東南アジア諸国への素牛輸出は、 96年には60万頭以上に達し、 しかも頭数はま
だ急増を続け、 近い将来、 年間100万頭も現実味を帯びたものとなっている。これ
らの国の素牛輸入急増の背景には、 国内産業振興という政策があり、 その政策の
変更が前提条件とはなるが、 もし、 将来的に、 この大部分を豪州国内のフィード
ロットで仕上げ、 牛肉として輸出できれば、 フィードロット産業のみならず、 豪
州の牛肉産業全体にも大きな利益がもたらされる。 

 このようなことからも、 豪州フィードロット産業は、 様々な課題を克服し、「な
くてはならぬもの」 としてあり続けなけばならない。 それができなければ世界一
の牛肉輸出国の座を明け渡すことにもなりかねない。 

 わが国にとっても、 豪州からのグレインフェッド牛肉の輸入量は、 ひところよ
り減っているとは言え、 年間10万トンと需要量の10%余を占めている。 仮に、 豪
州のフィードロットからの、 供給が途絶えても、 量的には、 米国から調達可能と
も考えられるが、 台湾における口蹄疫発生後の豚肉価格の動向をみても、 その場
合の価格は予測が困難である。 わが国に、「安くて、 安全なおいしい」 牛肉を供給
する担い手でもある豪州フィードロット産業の今後に注目したい。

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