牛海綿状脳症対策を強化 (EU)




● 特定危険部位の使用を全面禁止

 EU委員会は、 7月30日、 牛海綿状脳症 (BSE) など、 伝染性海綿状脳症 (TSE) 
と称される一連の疾病の感染源となる可能性が高い、 牛やめん山羊の一部の臓器
について、 EU全域で、 用途を問わず一切の使用を禁止する措置を決定した。 

 今回、 食用や飼料用などの用途を問わず、 一切の使用が禁止された臓器は、(1)
12カ月齢を超える牛、 めん羊および山羊の頭がい(脳および眼球を含む)、 扁桃お
よびせき髄、 (2)めん山羊のひ臓であり、 これらは、 TSEの感染源となる可能性が
高いため、 特定危険部位と称されている。 


● 監視体制の不備などから今回決定へ

 EU委員会は、昨年3月にBSEとヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病との関連が示
唆されてから、 その防疫措置に万全を期すことを第一として、 特定危険部位の使
用禁止を目指してきた。 その一環として、 94年から導入された、 ほ乳類由来たん
ぱく質の反すう動物用飼料への使用禁止措置をさらに補強する案が考慮された。 
これには、 イギリスでのほ乳類由来たんぱく質の不正使用や飼料工場における反
すう動物用飼料への混入が明らかになったことが影響している。 

 さらに、 防疫対策向上の目的でレンダリング用の加熱処理条件の強化が昨年決
定されたが (本年4月から施行)、 臓器のTSE原因物質汚染度が高い場合は、 完全
な不活性化を保証することが困難なことから、 原料段階で、 危険な臓器を排除す
る必要も指摘されていた。 

 こういった必要性の下で、 EU委員会は、 今回と同様の禁止措置を、 昨年12月
に農相理事会に諮ったが、 過半数の加盟国の反対で否決された。TSEが発生してい
ない国があるなど、 加盟国により発生状況が一様ではないとの主張が、 統一的な
禁止措置の導入反対する第一の理由であったが、 特定危険部位の除去は大きなコ
ストアップを伴うこともその理由の一つであった。 

 その後、 EU委員会が、 全域でTSEに関する調査を行ったところ、発生の有無等に
関する監視体制そのものに不備があつたこと、 反すう動物用飼料に係る禁止措置
が不徹底であったことやレンダリング処理が不備であったことなどが、 数多く指
摘された。 このため、 TSEの防疫体制をめぐる状況認識が変化した。 

 こうした中で、 この禁止措置案が再度提出され、 再び農相理事会で審議された。 
今回の理事会では、 反対国が過半数に1カ国足らず、 否決されなかった。 このよ
うな場合には、 決定権はEU委員会に委ねられることとされており、 今回の禁止決
定に至ったものである。 


● この決定に牛脂 (タロー) 輸出国の米国は反発

 今回の禁止措置により、 特定危険部位は、 と畜場で除去後、 直ちに染色するこ
とが義務付けられる。 次いで、 焼却処分されるか、 あるいは脱色されることなく
処理された後、 埋却などにより処分されなければならない (ただし、 試験研究目
的や、 毛皮生産用の動物の飼料については、 同措置は適用されない)。 

 また、 域外からEUへの特定危険部位の輸入も禁止された。 このため、 食用また
は飼料用の畜産物をEU域内に輸入する場合、 原産国衛生当局が発行した、 特定危
険部位を含んでいない旨の証明が、 今後は必要となる、 また、 医薬品や化粧品の
輸入については、 加盟国の求めに応じて、 これらの製品には特定危険部位が使用
されていないことが、 製造国の衛生当局により証明されなければならない。 

 なお、 この規則は、 来年1月から施行されるが、 今回のEUの決定に対して、 年
間1億ドル(約120億円) 以上に及ぶ牛脂 (タロー) をEUに輸出している米国のレ
ンダリング産業は、 かなり影響を受けることが予想され、 彼らはこの規則が変更
されない限り、 欧州司法裁判所に提訴することを準備するとしている。 また、 米
国政府は、 今回のEUの決定は、 科学的な証明が十分に行われてないとして、 世界
貿易機関(WTO) に提訴することも検討しており、 今後、 これが新たなEU・米国間
の貿易問題に発展することが懸念される。 



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