豚肉供給拡大と鮮肉需要の高まり (中国)




● 供給拡大下での需給均衡を達成

 このところ、 豚肉の市場価格が堅調な動きを示している。 豚肉はかつて食肉供
給の4分の3を占め、 需要の成熟度が高いとみられていたが、 それでも20%を超
える経済の急成長に刺激されて、 94年からは生産が二ケタ台の急増を示した。 そ
の後、 供給過剰傾向が表面化した95年末以降の調整局面では、 価格低迷が続き調
整保管が実施されるほどであった。 しかし、 それも現在では、 既に低落する前の
水準以上に回復している。 

 これは、 現在でも年率10%弱の好調な経済成長が続き、 需要が引き続き好調で
あることに加えて、 生産の伸び率が、 一時よりは鈍化 (95年:13.8%増→96年:
10.3%増) してきたことによるものと考えられる。 

 したがって、 現在の豚肉の市場環境を概括すると、 全体としては、「潤沢な供給
の下で需給バランスが保たれ、 安定的な成長期に入っている」 ということができ
よう。 

〈豚肉生産量の推移〉

 (注)資料:中国統計年鑑


● 消費地では生鮮肉への需要が拡大

 そうした中、 昨今、 沿海部の大消費地においては、 冷却処理を行わない生鮮も
の豚肉 (鮮肉) への需要が高まってきたと言われる。 これは、 一見すると流通の
近代化とは相容れないように見えるが、 アジアの食と流通の伝統に照らせば、 一
概にそうとは言えないものがある。 今日でも、 東南アジアでは、 小売り市場にお
いて常温の肉類を対面販売する 「ウエットマーケット」 が広く普及している。 中
国で鮮肉需要が拡大している背景は、 近年、 量的には供給が潤沢になった (一人
当たり供給量:約34kg) ことから、 鮮肉やその調理方法等長年培われた伝統的食
文化への嗜好が、 頭をもたげてきたものと解釈される。 この鮮肉の需要拡大傾向
が一過性でないことは、 沿海部最大都市の上海の卸売市場の指標の一つとして、 
鮮肉の価格が継続的に挙げられていることからも明らかであろう。 また、 その価
格は、 冷蔵肉と比べてそん色のないものとなっている。 

 なお、 米国輸出連合会のアジア太平洋地区担当副会長であるハガード氏は、 最
近食肉関係誌紙上で、 上海市に供給する最大手食肉企業の販売量の4割が現在で
は鮮肉になっており、 鮮肉のシェアは今後さらに高まる可能性があると指摘して
いる。 

〈上海肉類商品卸売市場の豚肉価格〉

 (注)1資料:肉禽蛋信息 2いずれも各月中旬のある週の価格


● 全国的な生産分布に影響を及ぼすか

 需要面で鮮肉が一定の地位を占めることになると、 鮮度・品質維持の面で、 大
消費地及びその周辺地域が有利になることから、 この地域での豚肉生産が活気づ
くことが考えられる。 中国では、 副食物 (主食物以外の食料) の供給は、 原則、 
地方政府の請負い方式 (通称:菜籠子制度) となったことから、 近年では大都市
や周辺地域でも豚肉の生産振興が行われてきた。 その結果、 商工業が急成長する
3直轄市及び周辺省や広東省など沿海部の大都市・省でも、 その生産の増加率は、 
平均的には全体の伸び率に近い実績を示している。 

 そうした中、 鮮肉の需要拡大により、 消費地及び周辺地域で今まで以上に生産
が刺激されるとなれば、 今後、 全国的な豚肉の生産分布が変化する可能性も考え
られる。 一方、 そうした状況下で、 主に沿海部大都市の冷凍肉市場を目指してき
た内陸部、 東北部の主産地は、 そうした都市部での鮮肉消費拡大分を埋め合せる
見地から、 豚肉加工品も含めて、 今後の製造・販売戦略を練り直すことが必要に
なろう。 



元のページに戻る