◇絵でみる需給動向◇
96年3月にイギリス政府が牛海綿状脳症(BSE)とヒトのクロイツフェルト・ ヤコブ病との関連性を示唆する発表を行なったことに端を発したBSE問題は、その 後、2年が経過した。この問題は、消費者の牛肉に対する信頼を大きく失墜させ るなど、イギリス国内だけでなく、世界の牛肉需給にも少なからぬ影響を及ぼし てきた。 イギリスでは、BSE防疫強化策として、感染確率が高いとされる30カ月齢以上 の牛の淘汰(Over Thirty Month Scheme)や、牛肉消費の減退から過剰対策とし て実施された子牛のと畜奨励事業(Calf Processing Premium)などにより牛群縮 小を余儀なくされた。これにより、97年の牛肉生産量は、BSE問題の発生する前 の95年と比べ、7割の水準に落ち込むとみられており、98年には、これをさ らに下回ると予想されている。 イギリスの牛肉需給見通し 資料:イギリス食肉家畜委員会(MLC) (注)1 数値は枝肉ベース 2 牛肉調整品は除く 3 カッコ内は対前年比
さらに、イギリスの通貨ポンドが他のEU諸国の通貨に対して強含みで推移した ことから、アイルランド産牛肉を中心に輸入が急増したことも同国の牛肉産業を 窮地に追い込んでいる一因とされている。96年夏からポンド高の傾向は強まり、 EUの通貨単位であるエキューに対して、ここ2年間で27%も上昇した。このよ うに、為替が輸入牛肉に有利に作用したことから、97年の輸入量は20万トン を突破し、前年比14.4%増の21万4千トンに達すると見られている。 最近のイギリスの牛肉輸出入量をみると、95年は、輸出が輸入を上回ってい たが、96年3月より牛肉の禁輸措置が講じられたことから、それ以降、輸入国 に転じた。これにより、同国の牛肉自給率は、95年には108.8%であった のが、97年には82.5%に、さらに98年には78.1%に低下するとみら れている。 一方、イギリスの肉牛価格は、97年5月には過去16年間で最低の水準にま で低落した。昨年夏にかけては価格回復の兆しが見られたが、秋から冬にかけて、 隣国アイルランドでは季節的にと畜頭数が増加することから輸入圧力が強まり、 再び肉牛価格は低落傾向を強めた。
イギリス政府は、3千5百万ポンド(約76億円)を投じて、コンピュータに よる牛の個体識別/追跡システムにより、牛の出生、移動、死亡などに関する詳 細な記録を一元的に管理する体制を構築することとしている。これにより、コン ピュータによるデータベース化が遅れていたイギリス本土(北アイルランドでは、 このデータベース化がほぼ完備されていることから、輸出用牛群許可計画(Expo rt Certified Herd Scheme)が、3月16日の農相理事会において条件付きなが ら採択され、輸出解禁に向けて動きだした。)でも、牛の個体識別/追跡システ ムの確立に向けて進展が図られるものと期待されている。
元のページに戻る