特別寄稿 

『中国農業発展報告』にみる中国の畜産業 −1997年中国農業発展報告をベースに−

劉 志仁、劉 光明



 1996年における中国農業と農村経済は、全面的に発展の傾向を維持し、主
要農産物が豊作となった結果、農民収入は高い伸びを示した。また、農業と農村
経済の全面的な発展は、国民経済の持続的な高度成長と健全な発展およびインフ
レーションの抑制に重要な貢献をしただけでなく、「第九次五ヶ年計画」(19
96〜2000年)期の農業と農村経済発展の目標と任務の達成のために良き基
礎を築いた。中国の農業白書に当たる「1997年中国農業発展報告」は199
6年の農業生産状況と農村経済運営を以上のように高く評価している。農業生産
が順調に伸びている中で、畜産業が引き続き安定成長を維持しており、肉類総生
産量は前年比12.5%増の5,915万トンに達した。この増産幅は主要農産
物の中で最高となった(注1)。

(注1)文章の中で使われたデータは、特別な説明がない限り、「1997年中
    国農業発展報告」による。


1 白書における畜産業の位置づけ


 経済成長に伴う農産物需要の増加を背景に、食糧買付価格の引上げを始めとす
る政府の農業重視政策と比較的に安定した気象条件の下で、1996年の食糧生
産量が前年に引き続き、史上最高記録を更新し、初めて5億トンを超え、50,4
54万トンに達した。野菜、果物の生産量も順調に伸び、郷鎮企業の安定成長が
続いた。良好な農村経済の進行が農民所得の高い伸びをもたらし、物価上昇の影
響を除いて、96年の農民一人当り年間純収入が前年より実質9%伸び、1,9
26元に達した。これは、1979年に始まる農村改革以来、2番目に高い伸び
率となっている。

 このような農業と農村経済の順調な発展には、畜産業が大きく貢献している。
畜産業の高い成長率が、農業全体の発展、農業生産構造の改善に大きく寄与して
いる。1996年の農林牧漁業の総生産額は2兆3千4百億元で、前年より9.4
%増加した。そのうち、畜産業の総生産額は11.4%増加し、漁業の14.0
%より低いものの、耕種農業の7.8%、林業の5.7%よりは高い。農林牧漁
業の中で、畜産業と漁業の発展速度が農業、林業の発展速度より早く、相対的に
その比重が上がり、農業と林業の比重は低下した。しかも、漁業より畜産業の比
重がはるかに大きいので、農業生産構造の改善に対する寄与の度合も大きいとい
える。(図1を参照)

◇図1:農林牧漁業総生産額構成の変動◇

 耕種農業が農業全体の中に占めるウエートが依然として高い中国では、政府が
畜産業の振興を奨励し、農業生産構造の改善に努めている。1996年の畜産業
の発展は急速であり、農業生産構造の継続的な調整に貢献したことを「1997
年中国農業発展報告」は評価している。


2 96年の畜産業の動向


 中国農業においては、畜産業は比較的に早く自由化された分野であり、生産と
流通がほとんど市場調整に任されている。政府は主に「生鮮食料品確保プロジェ
クト」(中国語は「菜籃子工程」)を通じて、生産の奨励をしている。しかも、「生
鮮食料品確保プロジェクト」は中央と地方政府の両方で監督するが、直接責任を
もつのは市レベルの政府である。したがって、中央政府が出す白書である『19
97年中国農業発展報告』は、畜産業に関してそれほど多くの内容は盛り込まれ
ておらず、1996年の生産実績を記述し、畜産品の量と質がともに向上したこ
とを強調するにとどまった。前述のように、主要畜産品である肉類の総生産量が
5,915万トンに達し、前年より増加率が低下したものの、引き続き成長して
いる(図2を参照)。しかも、量の増加とともに、質の改善も見られる。中国で
は、飼料用穀物の消費増加を抑えるために、政府が穀物節約型畜産を振興させる
方針を打出し、草食家畜の増加を奨励してきた。1996年は、肉類の構成に引
き続き改善が見られ、牛、羊の肉の増加率が高くなっている。すなわち、肉類の
中に占める豚肉の比重が68.3%に下がり、前年より1.1ポイント、90年
よりほぼ10ポイント低下した(図3を参照)。

◇図2:1980年〜1996年の肉類総生◇

◇図3:肉類生産構造◇

 また、卵類の生産量は1,954万トンに達し、前年より16.5%増加した。
乳類の生産量も順調に伸び、うち牛乳の生産量は629万トンに達し、前年より
9.2%増加した。

◇図4:乳類生産量の推移◇


3 1997年の状況


 1997年の畜産業は引き続き成長しているが、増加率が前年より低くなる見
通しである。1998年1月に発表された速報では、全国の肉類、卵類、乳類の
生産量がそれぞれ6,200万トン、2,100万トン、810万トンになる見
込みである(注2)。肉類と卵類の増加率がそれぞれ4.8%、7.5%で、い
ずれも前年より大幅に下がっている。これは1996年末の家畜飼養頭数からも
読み取れる。1996年末の全国大家畜の飼養頭数は1.7億頭に達したが、前
年より5%の増加にとどまった。このうち、牛は1.40億頭、5.9%増であ
った。一方、羊は3.03億頭、9.6%増、豚が4.57億頭で3.6%増で
あった。畜産業の発展が鈍化してきた原因は、需要増加の減速と1996年まで
の穀物価格の上昇によるコスト増である。1997年の一人当たり畜産物生産量
は肉類が50.2キロ、卵類は17キロ、乳類は6.6キロで、乳類を除いて肉
類と卵類はいずれも世界平均水準に達している(注3)。しかし、1997年に
は穀物の価格が低迷し、豚肉の価格が安定していたため、養豚業の収益性が比較
的良好であり、農家収入増加に大きく寄与したと見られている。

(注2、3)「生鮮食料品確保プロジェクト」10年の回顧と展望、農業部部長
      劉江、『農民日報』(98年1月15日)

筆者紹介

 劉 志仁  中国農村経済研究中心 学術委員会副主任・高級研究員
 劉 光明  中国農村経済研究中心 国際合作処研究員補佐



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