CAP改革案の内容、途中経過(EU)




直接所得補償制度に係る加盟国の裁量範囲の拡大などを新たに提案

 3月に発表が予定されている共通農業政策(CAP)改革の公式提案の内容が明ら
かになってきた。基本的には昨年7月に発表された非公式改革案「アジェンダ2
000」に沿っているが、直接所得補償制度(各種奨励金制度)の運用に当たっ
ては、加盟国の裁量範囲を拡大すること、また、1農家当たりの補償交付の総額
に制限を設けることなど新たな内容が見られる。


1 介入価格の引き下げ

 牛肉価格は、2000年から2002年7月までに30%、乳製品価格は同年
から2003年までに15%引き下げるとされている(表1)。

 また、2002年には牛肉介入買上げ制度が、主として民間在庫補助制度(取
引業者が、自己の負担で牛肉を一定期間、一定量在庫する場合に、補助金を交付
する制度)に切り替わる。この制度は、市場価格が、新たに設けられる牛肉基本
価格(195ECU/100kg)の103%を下回った場合に発動される。

表1 介入価格

 注1:現行の( )内は介入買上げの発動価格、この価格を下回った場合に介
    入買上げが行われる。
  2:2002/03年の( )内は牛肉基本価格。

2 直接所得補償額の引き上げ

 直接所得補償制度(各種奨励金)については、各国一律に適用する基本単価の
他に、牛肉および酪農分野の財源29億ECU(約4千2百億円)の範囲内で加盟国
が、独自の判断で表2で示した各種奨励金の上限額まで追加交付することができ
るとされた。これは、国により奨励金単価が異なることを認めるもので、従来の
EUを統一した制度運営から大きく転換することとなる。

表2 各種奨励金単価

 

3 乳牛奨励金制度の創設

 また、2003年から乳製品および牛肉の介入価格の引き下げに対応して、酪
農および牛肉の双方の分野の財源から同一の乳牛にそれぞれ奨励金が交付される
(表3)。これは、EUでは全般的に乳牛(乳肉兼用種を含む)の飼養割合が高く、
酪農と牛肉生産が密接な関係にあることが背景にある。

表3 乳牛奨励金


(1)交付対象頭数は、「各国の生乳生産クオータ÷EU平均1頭当たりの泌乳量
  (5,800kg)」で算出されることになっている。

(2)乳製品の介入価格の引き下げに対する所得補償という観点からは、乳量単
  位当たりでの奨励金の支払が適当であり、(1)の考え方は国ごとの平均泌
  乳量の違いが勘案されている。

(3)一方、牛肉の介入価格の引き下げにより影響を受けるのは、肥育に向けら
  れる廃用牛や乳用子牛の個体であり、乳量とは関連しない。したがって、1
  頭当たりの泌乳量が高いスウェーデンやデンマークなどでは牛肉分野の奨励
  金の単価は安く、逆に泌乳量の低いギリシャやポルトガルなどでは同奨励金
  単価が高く設定される。


4 生乳生産クオータ

 2%の増加が示され、うち1%は山岳地帯に、残りの1%は加盟国に割り当て
られる。加盟国割り当て分は、若年生産者への優先的配分が推奨されている。


5 モデュレーション(1農家当たりの直接所得補償交付総額の制限)

 10万ECUまでは全額が交付される。10万〜20万ECUについては80%、2
0万ECU以上については75%を交付するといった累進削減制が示されている。


用語解説

共通農業政策(Common Agricultural Policy:CAP)とは

 93年11月1日に欧州連合条約(マーストリヒト条約)が発効したEU(欧州
連合)は、58年に発足した欧州経済共同体(European Economic Community:EEC、
加盟国は6カ国)がその基盤となっており、現在、加盟国は15カ国に上る。

 設立当時、EECは、経済全体について広域市場を創設し、規模拡大などによる生
産性の向上を実現し、生産の増強を図ることを目的として発足した。しかしなが
ら、農業にあっては、各国がその特殊性や地域間格差が大きいことなどから、保
護主義的色彩の強い農業政策を行なっていた。そのため、各国間の農業政策を調
整する必要性が強く認識され、EEC条約(ローマ条約)に農産物全般をカバーする
CAPの実施が掲げられることとなった。

 CAPは共通市場政策が完成した68年から本格的に実施されており、その目的は
以下の4項目となっている。

1 域内の農業に係る技術開発の促進、生産の合理的発展および生産要素の有効
  活用によるその生産性向上

2 域内の農業従事者の所得増大などによる農村社会の公正な生活水準の確保

3 域内の農産物市場の安定化ならびに農産物の安定的供給の確保

4 域内の消費者への農産物の合理的な供給価格の確保

 こうした目的を実施するために、1)市場の統一(共通価格の設定)、2)域
内優先(輸入課徴金(ガット・ウルグアイラウンド合意後は、関税化)、輸出補
助金の設定など)、3)農業財政の確立(農業指導保証基金(EAGGF−指導部門お
よび保証部門−)を通じた運営)の3原則の下で農産物ごとに市場規則が定めら
れている。

 CAPの改革はこれまで3度行われており、今年4回目の改革案が提示されている。

1 第1次(84年度から86年度:年度は7月から6月)

(1)各種農産物の介入価格の引き下げ、あるいは据え置き。
(2)生乳生産割当制度の導入。

2 第2次(88年度、89年度)

(1)耕種作物を中心とする生産上限枠(スタビライザー制度)の導入。

(2)乳製品、牛肉の介入買上げ制度を申込制から入札制に変更、また、買上げ
   数量に上限枠を設定。生乳生産枠の削減(2年度で9.5%)。

(3)早期離農奨励金制度、環境保全型農業(有機農業、景観維持など)に対す
   る補助、穀物の休耕・転作奨励事業(セット・アサイド)、雄牛特別奨励
   金制度など、生産(拡大)と直接結び付かない所得補償制度、いわゆるデ
   カップリングの導入。

3 第3次(93年度から95年度)

(1)穀物介入価格を29%引き下げ、その収入減に対して直接所得補償。補償
   の条件として、耕作面積の15%の休耕義務(現在では5%に低減)。

(2)牛肉の介入価格の15%引き下げとセーフティーネット介入の発動条件を
   引き下げ。その代償措置として、雄牛特別奨励金制度、繁殖雌牛奨励金制
   度の単価を増額、と畜季節調整奨励金制度(主にアイルランドを対象)、
   初生牛と畜奨励金制度の導入。

(3)バターの介入価格の5%引き下げ。生乳の共同責任課徴金(供給過剰処理
   経費を生産者に課す)の廃止。

(4)環境保全型農業に対する補助、農場での植林などに対する補助、早期離農
   奨励金制度の強化など。



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