遺伝子組み換えを巡る議論の現状(豪州)




遺伝子組み換えにおいて他国に遅れをとる豪州

 豪州における農作物の遺伝子組み換え技術の開発は、連邦政府の研究機関、外
国企業、大学などで、単独あるいは共同で進められており、野外調査段階の組み
換え農作物は69で、野外調査件数としては、OECD加盟国で10番目にランクさ
れている。しかし、これはOECD加盟国における全体件数の1%に過ぎず、同じ農
業大国でも4,500件を超える米国に大きく水を開けられている。

 さらに、商業ベースでの利用が承認されているものは、害虫抵抗性の綿花1種
類(96年承認)および花き2種類(94、96年承認)の計3種類に過ぎない。


豪州でも近年急速に関心が高まる

 しかしながら、米国を中心とした遺伝子組み換え農産物の生産が急速に拡大し、
それらが輸出される状況となった現在、国際市場における競争力の維持という点
から、豪州農業も本技術を広く応用すべきという意見が主流になりつつある。先
頃開催された豪州農業資源経済局(ABARE)主催の農業観測会議の中で、遺伝子組
み換えに関してさまざま観点から議論がなされ、ここに来て関心の高まりがうか
がえる。

 大まかには、遺伝子組み換え技術の研究開発サイド、それを利用する生産サイ
ド、組み換え農産物を原料として使用する食品加工サイドは、本技術は適切に利
用すれば生産効率を飛躍的に高め、また食品のコストを低減させることが可能と
なる画期的なものであり、その応用のメリットは大きいとしている。


消費者の反応が重要

 しかし、遺伝子組み換え農産物の普及が急ピッチで進展し、世界的にみても日
ごろ我々が口にする食品の多くに組み換え農産物が用いられる状況となった現在、
安全性に関する消費者の懸念も大きくなってきている。

 ABAREのスピーカーも、本技術の有用性・必要性は認めながらも、消費者の反応
などの不確定要素があり、これが技術応用の範囲、程度、手法などに大きな影響
力を有すること、消費者不在の性急な応用は逆効果となることなどを訴えている。

 米国の農産物が、流通過程で組み換え品と通常品を識別するのが困難となる一
方で、最近では組み換え品を望まない日本の消費者団体などが豪州を新たな食品
原料の調達先として注目する動きも出ている。米国などと比較して、遺伝子組み
換え技術の開発において対応が遅れていることを逆に大きなメリットにできる可
能性もあるだけに、このABAREの分析、示唆を豪州農業界がどのように受け止める
か注目される。



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