豚コレラ撲滅へ始動(マレーシア)


豚肉は重要な輸出産品

 マレーシアでは、全人口の約60%を占めるマレー系住民の多くがイスラム教を
信仰していることから、豚肉の消費量は多くない。95年の年間1人当たりの豚肉
消費量は約3.8kgと日本の3分の 1 に過ぎず、鶏肉消費量の約31.1kgと比べても、
8分の1に満たない。しかし、同国内の約30%を占める中国系住民のほか、隣接
するシンガポールにおいても大量に豚肉を消費することから、これらを対象とし
た養豚産業が盛んとなっている。同国農業省獣医局によると、豚肉はマレー半島
に位置する西マレーシアで大部分が生産されているが、同地方における生産量は、
97年は前年比3.6%増の25万2千トンとなっており、うち約106万頭(枝肉および
内臓を除く可食部分肉重量ベースで約8万トン)がシンガポール向けに生体で輸
出されており、重要な輸出産品となっている。


政府は豚コレラの撲滅計画を策定

 しかし、同局の調査によると、同国で生産される子豚の多くが豚コレラに感染
して死亡しており、この病気が養豚の生産性を大きく低下させる原因となってい
る。こうしたことから、マレーシア農業省は、輸出産品として重要な豚肉の生産
に多大な損害を及ぼす豚コレラの撲滅計画を策定した。同計画では4種類のワク
チン接種を行うプログラムを含んでおり、これによると子豚に対しては、生後6
〜 7 週目と 9 〜10週目の 2 回、繁殖雌豚と種雄豚には定期的に年 1 回、未経
産豚には8ヵ月齢もしくは初回種付けの直前にワクチン接種を行うとしている。
また、このプログラムでは母豚から子豚への垂直感染の防止に重点を置き、手始
めに40戸の繁殖農家でのワクチン接種を行うとしている。さらに同計画では、感
染豚の強制淘汰や、農家による発病報告の義務づけ、ワクチン接種記録の保存、
豚房の消毒などを行うとしている。併せて、人工授精による伝染を防止するため、
精液の検査を行うことや、同局によるワクチンの効力に関する調査なども行うと
している。


情報収集や農家の指導など多くの問題も

 養豚業界は、この計画による豚コレラ撲滅の成功に期待しているが、同計画に
は個別農家での記録保持や豚コレラ発生の情報収集など、農家への指導と個々の
農家の協力が必要である。しかし、西マレーシアの約1,900戸の養豚農家のうち、
飼養規模が千頭未満の中小規模養豚農家が7割以上を占めるという同国の養豚事
情を考慮すると、まだ多くの問題が残されているとみられる。


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