会計検査院が直接所得補償の過剰を指摘 (EU)




牛肉分野では約10億ECUが過剰補償

 EUの会計検査院は、 このほど、 共通農業政策(CAP) の一環として実施されてい
る牛肉分野などの直接所得補償制度が、 一部過剰補償を生じているとの報告書を
とりまとめた。 

 EUでは、92年のCAP改革時に、 各種農産物の介入価格を引き下げる代償として、 
それらの直接所得補償制度を導入または拡充したが、 この報告書では、 牛肉分野
において、 EUの肉牛生産者に92年から96年までの間に交付された補助金のう
ち、 約10億ECU (約1, 300億円) が過剰補償とみなされている。 

 また、 穀物分野においては、 その過剰補償額が95年度 (95年7月から96
年6月) で30億ECU (同3, 900億円) に達しているとされており、 2百万
ECU(同2億6千万円) 以上の補償を受けた農家が少なくとも5件は存在すること
が明らかとなった。 


雄牛特別奨励金は3億9千万ECUを過剰補償

 牛肉分野の直接所得補償制度の中で、 96年の雄牛特別奨励金 (去勢牛を含む) 
は、 1頭当たりの交付額が92年以前に比べて169ECU(約2万2千円)増加(1
0カ月齢と22カ月齢の2回の交付合計額) している一方で、 この間の価格の低
下は145ECU/頭 (同1万9千円) にとどまった。 一方、2回とも交付を受けた
頭数が3百万頭であることから、 その過剰補償額は7千万ECU (同90億円)と算
出されている。 同様の方法により過去の過剰補償分は、 93年が1億4千万 ECU 
(同180億円) 、 94年が1億7百万ECU (同140億円) 、95年が7千万ECU
と算出されており、 これまでの過剰補償総額は3億9千万ECU (同510億円)と
されている。 

 また、 報告書では、 この制度自体の不備な点として、 同奨励金制度において2
2カ月齢でも交付を受けることが可能なことが、 と畜時期の遅延を招き、 と畜体
重の増加、 ひいては牛肉の過剰生産につながっていると指摘している。 これに対
して、 EU委員会は、 すべての雄牛が22カ月齢の交付を受けているわけではない
と反論している。 

 さらに、 報告書では、 繁殖雌牛奨励金制度も同様の過剰補償があると指摘して
いるが、 その過剰補償額は示されていない。 同制度および雄牛特別奨励金につい
ては、 交付上限頭数の設定が過大であるとの指摘もされている。 また、 と畜が秋
から初冬にかけて集中するアイルランド共和国および北アイルランドの肉牛の出
荷を遅らせることにより、 牛肉生産の季節性を緩和して、 牛肉市場の安定化を図
ることが目的とされている季節性是正奨励金制度についても、 と畜体重の増加、 
牛肉過剰生産を招き、 その効果が十分に発揮されていないと指摘している。 


今回の報告が今後のCAP改革に影響か

 EU委員会は、 現在、 価格支持政策から直接所得補償政策へのさらなる移行を目
指しており、目前に迫った次期CAP改革においても、 直接所得補償政策の拡充を打
ち出している。 しかしながら同時に、 今回指摘されたような過剰補償の問題や交
付上限の設定についても議論を続けている。 各国とも厳しい財政事情にある中で、 
EUの年間予算のほぼ半分を占める農業予算の使途については、 ますます国民の理
解が必要となる。 こういった状況の下、 今回の検査院の指摘は、今後のCAP改革議
論に影響を与えるものと考えられる。 



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