海外駐在員レポート 

EUの豚肉の需給状況

ブラッセル事務所 池田一樹、 井田俊二



1 はじめに


 EUでは97年、 ドイツ、 オランダ、 スペイン、 イタリアおよびベルギーで豚コ
レラが発生した。 特にオランダでは、 2月の初発以来急速に伝搬し、 これまでに
400件を超える大発生となっている。 このため、 97年のEUの豚肉需給には大
きな影響が生じたところであり、 また、 今後の需給への影響も懸念されるところ
である。 

 そこで、 今回は、 こういった豚肉需給の現状と見通しについて、 11月に行わ
れたEUの豚肉諮問委員会 (業界関係者等で構成する委員会で、 年に数回、 短期的
な需給見通しを検討する。 ) での検討結果を入手したので、 紹介したい。 


2 EU全体の動向


 (1) 生産動向

 97年のと畜頭数は、 豚コレラ発生に伴うオランダでの豚の大量処分により、 
96年の1億9千1百万頭から1億8千9百万頭に減少するものとみられる (▲
1.2%) 。 98年の第1四半期は、 引きつづき減少が見込まれるものの、 第2
四半期以降は増加が見込まれている。 

 枝肉ベースでの生産量をみると、 97年は、 ▲0.6%と見込まれる。 オラン
ダでは、 生産量が▲22.9%となっているが、 その他の加盟国での増産により、 
EU全体としての生産量の減少はわずかと見込まれている。 98年は、 オランダで
の生産は引きつづき減少すると見込まれるものの (▲13%) 、 その他の加盟国
での増産が続くため、 EU全体の生産量は+1. 7%と増加し、 1, 649万8
千トンと見込まれている。 

 豚コレラ発生国における、 防疫措置や市場支持措置により、 97年に市場から
排除される豚の頭数は次のように予測されている。 

  オランダ:10, 581千頭
  スペイン:  557
  ド イ ツ:  104
  ベルギー:  91
  イタリア:   3
  合  計:11, 357 (枝肉換算995千トン) 

 (2) 価格動向

 価格は、 97年5月に天井に達し、 枝肉100kg当たり201.6ECU (27, 
800円) となった(Eクラス) 。 その後は低下し、 10月には161.7ECU(2
2, 300円) となり、 さらに低下が続いている。 価格は、 96年のBSE問題に
よる牛肉から豚肉への需要のシフト、 97年の豚コレラによる市場の逼迫により
高値で推移したが、 これにより消費の減少を招いた。 さらに、 オランダの防疫措
置の緩和により、 豚肉供給量が増加したこともあり、 価格は低下したものとみら
れる。 


3 加盟国の動向


 (1) ドイツ

 97年は、 特に子豚でみられた著しい価格上昇により、 生産が刺激された。 現
時点で、 繁殖雌豚はドイツ全体で+3%、 旧東ドイツでは+8%に達している。 
と畜頭数は前年比+3%となる見込みで、 98年も同程度の増加が予想されてい
る。 なお、 デンマークの子豚の対ドイツ輸出頭数は80万頭となる見込みである
が、 98年は130万頭に増加させたい意向を持っている。 

 97年の価格は、 これまでのところ+5. 2%となった。 95年が+4. 7
%、 96年はBSEの影響もあり+12. 8%と上昇した上での更なる上昇で、 相
場は既に天井に達した。 98年はオランダの生産力の回復が予想されることから、 
第1四半期▲12. 3% (2. 7ドイツマルク (188円) /kg) 、 第2四半
期▲28. 9% (2. 8ドイツマルク (195円) /kg) と下落が予想される。 

 (2) ベルギー

 公式統計が示すところと異なり、 飼養頭数は増加している。 環境問題という制
約要因はあるにしても、 生産はドイツやフランスなどと同様に増加傾向である。 
97年の出荷頭数は+2.6%と見込まれ、 98年はそれを上回る増加が見込ま
れている。消費量は▲2.2%となっている。 価格は、96年が前年比+14.7
%であったが、 さらに97年はこれまでのところ+6. 7%となった。 ただし、 
98年はこのトレンドも終了し、 価格の低下 (▲19.4%) が予想されている。 

 (3) デンマーク

 97年は、 と畜頭数が大幅に増加し、 2千1百万頭に迫る勢いである (前年比
+3%) 。 98年も同様の傾向が見込まれ、 第1四半期+1.7%、 第2四半期
+1. 9%と予測されている。 97年の価格は、 これまでのところ+4. 6%
上昇したが、 98年は第1四半期▲3. 6% (9. 9クローネ (182円) /
kg) 、 第2四半期▲24. 4% (9. 7クローネ (179円) /kg) と下落が
予想されている。 97年の輸出は、 過去最高の販売高を記録するものと見込まれ
ている (前年比+9. 5%) 。 輸出量では域外輸出が45万トン (+12%) 、 
うち日本向けが16万トン (+16%) 、 域内輸出も87万5千トン (+8.2
%) 、 うち30万トンがドイツ (ほとんど生体輸出) 、 24万トンがイギリス向
けと予想されている。 

 (4) スペイン

 97年の飼養頭数は増加傾向にあり、 特に繁殖豚では+5.4%と予測されて
いる。 このため、 98年の出荷頭数は第1四半期で+3%、 第2四半期5.75
%と予測されている。 価格は上昇しているものの (+3.4%) 、 消費量は維持
されている。 98年は価格の下落が予想され、 第1四半期▲7%、 第2四半期▲
29%とみられている。 

 (5) フランス

 97年の出荷頭数は、 これまでのところ+2. 7%増加しており、 98年は、 
第1四半期+1. 5%、 第2四半期+1. 7%の増加が予想されている。 

 今後の価格動向は、 オランダの市場への復帰の状況如何であるが、 生産の増加
に拍車がかかっていることや、 オランダの豚コレラの監視地域がいくつか解除さ
れたことなどから、 97年11月上旬には低下した。 98年は、 価格低下が一層
進むものとみられる。 

 (6) オランダ

 防疫措置および市場支持のための介入買い上げ/処分措置により、 これまでの
出荷頭数は31%減少した (第2四半期▲45%、 第3四半期▲46%) 。 監視
地域に導入された繁殖禁止措置の結果、 98年の第1四半期までは豚の生産は前
年を下回って推移するものと見込まれる。 第2四半期以降は増加が見込まれるが、 
年間を通じた出荷頭数は、 95年の2千4百万頭に比べて大幅に低下し、 16〜
17百万頭程度にとどまるものと見込まれる。 国内でのと畜頭数は堅調に推移す
るものと思われるが、 生体輸出は依然として壊滅的状態となるものと思われる。 

 97年の消費量は、 価格上昇などから、 これまでのところ4%の減少となった。 

 また、 価格は、 98年の第2四半期から低下するものと思われる。 

 (7) イギリス

 97年の繁殖豚頭数は大幅に増加した (+6.5%) が、 98年も同様の傾向
と見込まれる。 97年の枝肉生産量は9%を越え、 98年も第1四半期+6.3
%、 第2四半期+5. 0%、 第3四半期+6. 0%と見込まれている。 97年
の価格はこれまでのところ▲15.4%となった。 98年の第1四半期にはやや
持ち直し+3.3% (1.1ポンド (240円) /kg) と予想されているが、 そ
の後は再び低下傾向に転じ、 第2四半期は▲21.3% (1ポンド (218円) 
/kg) と予測されている。 輸出はポンド高で低調であり、 今後数ヵ月間は改善の
見込みはない。 


4 結 論


 97年の一連の豚コレラの発生により、 関連する豚の処分は、 1千1百万頭を
上回り、 枝肉換算で100万トンに達する豚肉が市場から排除されるものと見込
まれる。 EUの96年の枝肉生産量は1千6百万トンであるから、 これは約6%に
相当する。 オランダだけに限っても処分頭数は1千万頭を越え、 枝肉換算で90
万トンを上回るものと見込まれる。 
 
しかしながら、 多くの加盟国で生産量が増加しているため、 97年のEU全体の
枝肉生産量は、 最終的には▲0. 6%にとどまる見込みである。 

 各国の増産傾向は今後も続くものと予測されている。 一方、 既にドイツやベル
ギーの発生は終息しており、 また、 オランダでも終息の気配が見えている。 この
ため、 98年は、 豚肉供給量は増加し、 BSE 問題や豚コレラ問題により、 好調に
推移した豚肉市場は、 反転して緩和に向かうものと見込まれる。 

表1  1998年の豚出荷見込み


表2  豚肉国内生産量見込み


表3  豚枝肉価格の実績と見込み



(参考) EUの豚コレラ防疫


1 EUの豚コレラ防疫の概略

 EUの豚コレラ防疫は、 原則としてワクチン使用が禁止されており、 以下に掲げ
るように殺処分と移動制限によって実施されている。 

 (1) 発生農場での防疫

 豚コレラが確認された農場では、 直ちに全飼養豚を殺処分し、 と体は病原体が
散逸しないような方法で処分する。 農場は清掃/消毒を行い、 その後30日間は
豚の導入を禁止する。 

 なお、 豚コレラの推定侵入時期から、 上記の措置が採られるまでの間に出荷さ
れた豚肉は、 可能な限り追跡し、 処分する。 

 (2) 防疫地域 (protection zone) と監視地域 (surveillance zone) の設置、 
      運用

 豚コレラの発生を確認した場合は、 発生農場を中心として、 最小でも半径10
kmの監視地域および監視地域の内側に半径3kmの防疫地域を設ける。 

ア:防疫地域での防疫

 (ア) 豚は当局の許可がない限り移動禁止

 (イ) 発生農場の消毒が完了してから21日以降であれば、 豚は、 健康確認等の
      防疫措置を受けた上、 当局の指定食肉処理場 (できるだけ同一地域内に立
      地) に出荷できる。 ただし、 肉は加熱処理が必要。 

 (ウ) 発生農場の消毒後最短でも30日以降に全ての農場で臨床検査や抗体検査
      を実施して陰性が確認された場合、 地域を解除できる。 

イ:監視地域での防疫

 (ア) 豚は当局の許可がない限り移動禁止

 (イ) 発生農場の消毒が完了してから7日以降であれば、 豚は、 健康確認等の防
      疫措置を受けた上、 当局の指定食肉処理場 (できるだけ同一地域内に立地) 
      に出荷できる。 ただし、 肉は加熱処理が必要。 

 (ウ) 発生農場の消毒後最短でも15日以降に全ての農場で臨床検査、 抽出した
      農場での抗体検査を実施して陰性が確認された場合、 地域を解除できる。 

2 市場支持措置としての介入買い上げ

 移動制限 (今般の発生では、 上記以外に、 オランダの広い範囲で生体豚の輸出
禁止措置が講じられた) は、 養豚経営や市場に混乱を来すこととなる。 さらに、 
農場での豚の体重増加は、 飼育環境から見て動物愛護上も問題となる。 このため、 
EUでは、 規則を定めて、 防疫地域や監視地域の生体豚に限って発生国による介入
買い上げが実施された。 この措置により買い上げられた豚は食肉市場から排除さ
れる (ただし、 加熱処理した後、 豚の飼料、 油脂等に加工することは可能) 。 

 市場支持措置による介入買い上げ上限頭数

○オランダ:8, 995千頭
○ド イ ツ: 151千頭 (既に廃止) 
○スペイン: 518千頭
○ベルギー: 178千頭 (既に廃止) 

◇図:  97年のオランダにおける豚コレラの発生状況◇



元のページに戻る