鶏肉輸入の解禁を決定 (豪州)




加熱処理鶏肉の輸入を解禁

 豪州政府は、 疾病侵入防止という検疫上の理由から、 これまで、 鶏肉の輸入を
禁止してきたが、 11月7日、 豪州検疫検査局 (AQIS) は、 諸外国からの要請に
応える形で、 加熱処理鶏肉の輸入解禁を決定した。 

 また、 アンダーソン第一次産業大臣およびフィッシャー副首相兼貿易大臣は、 
今回の発表に当たり、 豪州に課せられた ( WTOルールの遵守という) 国際義務を
果たし、 なおかつ疾病のない清浄な状況を保つための厳格な検疫政策とも矛盾せ
ず、 科学的根拠に基づく輸入検疫条件が強化できたことに満足しているとの共同
声明を発表した。 


実質的には輸入禁止的な検疫条件

 しかしながら、 その加熱処理条件は、 かねてより示唆されてきた条件よりも数
段厳しい内容であり、 輸入しても食用ではなく、 ペットフード用にしかならない
という、 実質的に輸入禁止的な検疫条件となっている。 

 AQISは、 この検疫条件が、 諸外国の納得を得難いものであることを承知してお
り、 各国から追加試験の要求があると予想しているが、 追試の結論を得るにはさ
らに1年程度を要するとしている。 

 今回の発表に対し、 輸入解禁を求めてきた、 米国、 EUは、 解禁決定が引き延ば
しにされてきたこと、 その加熱処理条件が厳しすぎることなどについて、 不快感
を示すとともに、 WTO の場での協議も示唆しているが、 一方、 豪州養鶏業界は、 
実質的な輸入禁止措置を確保したと、 これを歓迎している。 


国内養鶏産業保護が目的

 疾病侵入防止という理由での鶏肉輸入禁止措置は、 すでに、 豪州内でもAQISに
より科学的根拠があいまいという評価がなされていたが、 国内自給型の養鶏産業
を保護するために、 輸入解禁の結論は、 数年間にわたり引き延ばされてきた。 最
近では、 輸入解禁を強硬に要請してきたタイ政府の高官が、 豪州の対応の遅さに
しびれをきらし、 解禁が認められない場合、 豪州産食肉・乳製品の輸入をボイコ
ットすることを示唆するなどの動きも見られた。 

 アンダーソン大臣は、 ことあるごとに、 輸出産業としての豪州農業の繁栄のた
めには、 WTO ルールを遵守していく以外に選択の余地はないと発言し、 鶏肉の輸
入解禁問題も、 政治家の干渉を許さず、 科学的根拠に基づいて最終判断を下すと
してきた。 しかし、 実際には、 今回の輸入解禁措置の内容は、 表面的には 「科学
的」 でも、 豪州国内では誰もが、 事実上 「政治的」 に決定されたと理解している。 

 ちなみに、 現政権は、 農村部を大きな支持基盤としているが、 次回選挙で厳し
い戦いが予想される選挙区のいくつかは、 養鶏産業の中心地域と重なっており、 
関係議員の圧力から、 今回の決定には、 首相も大きな影響力を及ぼしたと伝えら
れている。 また、 今回発表された加熱処理条件は、 イギリスでの実験結果に基づ
くものであるが、 昨年AQISが提示した内容より5倍も加熱時間が長く、 輸出国に
とって極めて高いハードルとなるこの条件の採用も、 急遽、 決定されたと伝えら
れている。 

 なお、 鶏肉輸入解禁の発表と同じ日に、 デンマーク産豚肉の輸入解禁も発表さ
れた。 これにより、 デンマーク産豚肉は、 すでに輸入が認められているカナダ産
豚肉と同様の条件での輸入が可能となるが、 国内養豚業界には、 カナダ産以上の
脅威となると考えられる。 

 今回の鶏肉、 豚肉の輸入解禁は、 内容的には全く対照的で、 両業界の政治的影
響力の差をまざまざと見せつけているように思われる。 



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