FDA、 食肉への放射線照射を認可 (米国)




契機となった冷凍牛肉パティ回収事件

 97年の8月、 病原性大腸菌 O−157による汚染により、 ハドソンフーズ社
の生産した2千5百万ポンド (約1万1千トン) もの冷凍牛肉ハンバーガー・パ
ティが自主回収され、 各方面に波紋を呼んだことは記憶に新しい。 米国では、 こ
の事件を契機として、 病原性微生物の食肉汚染に対する最も有効な防止対策の一
つとされる放射線照射について、 その認可の是非に関する論議が高まっていた。 

 こうした中、 食品衛生処理関連企業のアイソメディクス社 (ニュージャージー
州) から提出されていた、 食肉に対する放射線の照射についての認可要請に対し
て、 米保健社会福祉省食品医薬品局(FDA)は3年越しに検討を続けてきたが、12
月2日、 病原性微生物の抑制を目的として、 食肉に対する放射線を照射すること
を認可すると発表した。 今回の認可が適用されるのは、 生鮮および冷凍の赤肉と
されており、 牛肉、 羊肉、 豚肉などが対象となる。 

 FDAは、今回の認可が、 様々な食肉製品に対する放射線照射の効果に関する世界
中の研究結果の徹底的な科学的検討に基づくものであるとし、 放射線照射は食肉
の表面および内部の病原性微生物を減少させる上で有効であり、 栄養的な品質に
も悪影響を与えないと結論づけている。 


放射線照射の利用は僅か

 放射線の照射については、 豚肉が86年に旋毛虫の不活化を目的として、 また
鶏肉が92年にサルモネラ等の病原菌の抑制を目的として、 それぞれ既に認可さ
れている。 また、 畜産物以外でも、 野菜、 果実および穀物に対して、 害虫の抑制
などを目的として既に認可がなされている。 

 しかしながら、 畜産物に関する利用実態をみると、 豚肉についてはまったく利
用されておらず、 鶏肉についても、 93年から一部の食品会社が特定の市場向け
に利用を開始しているに過ぎない。 なお、 放射線照射食品は、 ラベルに照射した
旨を表示するとともに、 指定されたロゴマークを添付することが義務付けられて
いる。 


放射線照射の普及には時間が必要

 今後、 食肉への放射線照射が実際に利用できるようになるためには、 米農務省
食品安全検査局 (FSIS) の認可に加え、 同局による工場内での放射線の利用方法
に関するガイドラインが作成・公表されることが必要となる。 

 今回の FDAによる放射線照射の認可に対し、 食肉関連業界は、 より安全な食肉
の供給を可能にするものであるとして、 歓迎の意を表明している。 しかしながら、 
コストの増加に加え、 消費者による否定的なイメージもあり、 放射線照射が広く
活用されるまでには、 まだ時間がかかりそうである。 



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