◇絵でみる需給動向◇
EU委員会は5月27日、イギリス北アイルランド産の牛肉、牛肉加工品など の輸出解禁日を6月1日に決定した。同国からの牛肉などの輸出は、96年3月 の牛海綿状脳症(BSE)問題の発生以来、全面的に禁止されていたが、これに より、2年2ヵ月ぶりに同国からの輸出が可能となった。なお、イギリス本土か らの禁輸措置は、現在も継続中である。
このように、輸出解禁の対象地域を北アイルランドに限定したのは、同地域が 独自にコンピュータによる牛の個体管理システムを導入していることが挙げられ る。4月に行われたEUの獣医担当官による同地域の現地調査でも、個体管理シ ステムに関する問題点は指摘されず、同システムの信頼性が評価された。 なお、輸出が可能となる牛肉は、「輸出用牛群許可計画(Export Certified H erd Scheme)」に基づき、いくつかの条件をクリアした牛が対象とされ、さらに、 と畜および加工段階でも、生産由来を農場までさかのぼることが可能な表示を付 すことなどが条件となっている。
イギリスの牛肉産業は、2年2ヵ月にわたる牛肉などの禁輸措置に加え、イギ リスの通貨ポンドが他のEU諸国の通貨に対して強含みで推移したことから、隣 国アイルランド産牛肉を中心に輸入が急増し、厳しい状況が続いていた。同国の 成牛価格(市場参考価格)は、昨年夏に回復傾向にあったが、10月以降再び下 落傾向を強め、本年4月には116ECU(1万7千円)/100kgに低下し た。これは、EU全体の成牛価格が、97年9月以降、135〜137ECU(1 9,800〜20,100円)/100kgと安定的に推移している状況と異にし ている。 また、牛肉の介入在庫量をみても、EU全体では97年11月をピークに減少 に転じた(左図参照)が、イギリス国内の在庫量は、価格低迷に伴なう介入買い 入れが続行していることから、その後も増大しており、本年2月末時点ではEU 全体の2割を占めるに至り、フランスを追い抜き、ドイツに次いで2番目の在庫 量を抱える事態となった。 ◇図:EUおよびイギリスの成牛価格(市場参考価格)◇
今回、牛肉輸出が解禁となった北アイルランドは、牛飼養農家戸数が約2万5 千戸、牛飼養頭数が約153万頭で、イギリス全体のそれぞれ18%、13%の シェアを占めている。同地域は、人口が少ないことから生産された牛肉の過半を 輸出に向けており、同地域の牛肉産業は輸出に依存する構造となっている。よっ て、今回の輸出解禁は、価格低迷に苦しむ肉牛生産者にとって朗報といえる。 しかし、同地域の牛群は、BSE防疫強化策として実施された30ヵ月齢以上 の牛の淘汰事業(Over Thirty Month Scheme)や牛肉過剰対策として実施された 子牛のと畜奨励事業(Calf Processing Premium)などにより縮小を余儀なくされ ている。さらに、2年2ヵ月にわたる禁輸措置の間に、ポンド高が強まりEUの 通貨単位であるエキューに対して24%も上昇したこと、海外市場が輸入先を他 の輸出国に切り換えたこと、さらに、イギリス産牛肉に対する悪しきイメージが 完全に払拭しきれていないことから、今後、同地域が輸出市場を奪回するには、 長い時間と困難を伴なうものと予想される。 北アイルランドからの牛肉などの輸出が再開された現在、次のステップとなる イギリス本土からの輸出解禁をめぐる今後の動きが注目される。
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