海外駐在員レポート 

米国・カナダの学校給食事業

デンバー駐在員事務所  本郷秀毅、藤野哲哉



1 はじめに


 米国の連邦政府による学校給食事業は、一昨年、創設50周年を迎えた。この間、
さまざまな制度の見直しはあったものの、財政赤字を抱えて多くの事業が改廃・
縮小を余儀なくされている中で、学校給食事業だけは、戦後ほぼ一貫してその規
模が拡充されてきた。その背景には、自国で生産した食料を、来るべき次代を担
う自国の子供達の健康維持のために提供するという、基本的な政策理念が貫かれ
ているといっていい。

 また、カナダにおいては、米国の場合とは異なり、州政府以下の段階において、
自主的なプログラムにより、学校給食事業が運営・展開されている。

 一方、日本においては、現在、新農業基本法の策定作業を通じて、新たな政策
の基本理念やその骨格が議論されている中、学校給食事業についても、予算の観
点から、引き続きその見直しが議論されている状況にある。

 今月は、世界的にみても農業政策の根幹の一つとして位置付けられているとい
っていい学校給食事業に関して、米国およびカナダにおける制度の歴史的展開、
政策的位置づけ、制度の実態等について、米国の制度を中心にその概要を報告す
る。


2 米国の学校給食事業


(1)学校給食事業の歴史的展開

46年に制度化

 全国学校昼食事業(National School Lunch Program: NSLP)は、学童に栄養
分の豊かな昼食を提供することを目的として、米国内の学校区(学校の運営主体)
に対して、現金による助成または農産物の現物供与を行うものである。本事業は、
今から半世紀以上も前にあたる第2次世界大戦終結直後の46年、当時のトルーマ
ン大統領のサインにより恒久的な事業として法制度化された。

 しかしながら、実際には、本事業の制度化が行われる以前から、学童に対する
給食事業は存在していた。当初の学校給食事業は、主に学童の飢餓対策として導
入されたものであった。例えば、イリノイ州シカゴ市の例では、21年までに全高
校および60の小学校で昼食が提供され、そのコストは、シカゴ教育委員会によっ
て賄われていたとされている。

大恐慌が制度発足の背景

 29年の株式相場の大暴落に端を発する大恐慌は、その後、10年以上もの間継続
した。この期間、農産物の価格が低迷する一方で、飢餓と食糧不足がまん延する
という異常な事態が続いた。こうした中、米国議会は35年、米農務省(USDA)に
対して、余剰農産物の買い入れと、買い入れられた農産物を学校給食事業向けに
配給する権限を付与した。30年代後半には、大恐慌時代に創設された職業推進庁
(Works Progress Administration)が、失業中の女性を雇用し、学校給食の準備
と配給に当たらせた。

 このようにして、学校給食事業は、急速に組織化され、メニューの統一化など
が進んだ。この結果、39年には約 1 万 4
千校で90万人の生徒が学校給食事業に参加し、42年までには学校給食事業が全州
で実施されることとなり、参加生徒数も 6 百万人にまで増加した。

 一方、第2次世界大戦の勃発により、軍隊向けの食糧需要が急増したため、農
産物の余剰は急速に減少し、USDAは、学校への農産物の直接配給を大幅に削減せ
ざるを得ない事態となった。その代わりに、USDAは43年、学校自らが調達した食
料に対する現金の払い戻し助成を開始したが、若者の徴兵もあり、学校給食事業
は急速に縮小していった。

 第2次世界大戦終結後の46年、下院農業委員会から、学校給食事業を単年度ベ
ースの事業から恒久的な制度にすべきとのレポートが提出され、同年、全国学校
昼食法(National School Lunch Act)が制定された。この結果、46/47年度(47
学校年度)における本事業への参加生徒数は、 7 百万人にのぼった。


(2) 学校給食事業の変遷

朝食事業は75年に制度化

 60年代に入り、政治家は低所得層の学童の栄養問題に注目しはじめ、62年、無
料および割引価格で昼食を提供するための基金を創設することが制度化された。
こうして、「66年児童栄養法」(Child Nutrition Act)に基づき、低所得層に対
する初めての主要な基金が創設されるとともに、学校朝食パイロット事業が創設
された。

 パイロット事業として開始された学校朝食事業(School Breakfast Program:
SBP)は、低所得層の学童および長距離通学する学童に対して朝食を提供する事業
として開始され、75年に、恒久的な事業として制度化された。

 また、55年に既に導入されていた児童栄養促進事業である特別牛乳事業(Spec
ial Milk Program: SMP)も、先に挙げた「66年児童栄養法」に基づき、恒久的
な事業として制度化された。

95年、栄養基準を改善

 90年代初期に実施された調査により、学校昼食の栄養バランスに関する欠点(脂
肪摂取の過剰など)が明らかとなったため、94年、USDAは、「健康な生徒のため
の学校給食改善対策」(School Meals Initiative for Healthy Children)と称
される一連の改革を開始した。その一環として、5年に一度改訂される「米国人
のための食事ガイドライン」に基づき、連邦政府からの助成を受けるために学校
給食が満たさなければならない栄養基準を更新するための規則が公布された。

 このような、より栄養バランスのとれた食事を求める活動の支援を受けて、「健
康な米国人のための健康な食事に関する法律」(Healthy Meals for Healthy Am
ericans Act)が議会を通過し、97年度より、すべての学校は上記ガイドラインに
沿った給食を提供することが求められることとなった。さらに、96年5月に議会
を通過した「子供のための健康的な食事に関する法律」(Healthy Meals for Ch
ildren Act)に基づき、食事の選択のメニューを増やすとともに、ガイドライン
に沿った学校給食の提供に関する強制権限が強化された。

 このような改革の一環として、USDAは95年、現物供与農産物改善委員会を創設
し、学校給食事業向けの農産物の買い入れによる国内農産物市場価格の支持とい
う伝統的な政策効果を維持しつつ、給食の栄養分の改善を図る方法を検討した。
同委員会の勧告に基づき、USDAは、現物供与農産物から脂肪、ナトリウムおよび
砂糖分を減らす対策を講じはじめた。この結果、最近は、これまでに比べより低
脂肪の農産物が買い入れられており、結果的に、青果物や野菜の買い入れが増え
ている実態にある。


(3)学校給食事業の目的

学童の栄養改善と農産物価格支持

 米国における学校給食事業は、( 4 )に掲げる @〜Bの事業から成っており、
主要な事業は、先に触れた全国学校昼食事業および学校朝食事業の2つの事業で
ある。また、学校給食事業と全く同一の基準、補助単価で実施されている事業と
して、同Cの夏期休暇食料供給事業のほか、デイ・ケア・センター(保育施設
など)を対象とした「児童および障害者保護事業」がある。

 学校給食事業の目的は 2 つある。

 第1に、学童に対して、栄養のある食事を摂る機会を提供することである。本
事業が創設された当初は、所得水準に関係なく、全生徒に対して栄養のある食事
を提供することが目的であったが、無料および割引価格給食の導入により、次第
に低所得者向けの補助としての性格が強まってきている。(注:日本の学校給食
との違いは、米国の場合、学校給食はあくまで機会の提供であって、日本の給食
のように、同一のメニューを全生徒に提供することはないということである。米
国の生徒は、弁当を家から持参してもよいし、学校の給食のメニューにもいくつ
かの選択肢があるため、生徒が自主的に好きなメニューを選択できる仕組みとな
っている。このような違いが生じる背景は、国民性の違いといってしまえばそれ
までであるが、おそらく、米国が多民族国家であり、したがって、多くの宗教・
食習慣を抱えていることも一因と考えられる。)

 第2に、余剰農産物の提供を通じて、農産物価格および農家の所得を支持する
ことである。USDAによって買い入れられ、学校給食向けに無償供与される農産物
は、年々による多少の変動はあるものの、学校給食に用いられる食材の市場価値
のおおよそ15〜20%程度を占めている。このため、このような農産物のはけ口、
すなわち学校給食は、価格支持プログラムによってカバーされていない野菜、果
物、食肉などの特定の農畜産物にとっては、極めて重要な市場となっている。


(4)個別事業の概要

@全国学校昼食事業

ア.全国の92%の生徒が利用可能

 本事業は、「全国学校昼食法」に基づき、46年に創設された。本事業は、連邦
政府(USDA)の補助により運営されており、全国約 9 万 4 千の公立校、非営利
私立校および地域保育施設が参加している。実数ベースでみると、5歳〜18歳ま
での約 2 千 6 百万人の生徒に対して昼食が提供されていることになる。より具
体的にその利用の実態をみると、公立校の99%で利用可能となっており、非営利
私立校の約半数でも利用可能となっている。全国でみれば、92%の生徒が利用可
能であるが、利用可能な生徒のうち、平均的には58%の生徒が利用している実態
にある。

 なお、USDAが93年に行った調査結果によれば、本事業が利用可能な生徒のうち、
実際に利用しているのは56%とほぼ同数の結果となっており、他の手段により昼
食を摂っている生徒が38%(このうち、弁当を持参が18%と最大)、昼食を摂ら
ない生徒が 7 %という結果となっている。

イ.補助の仕組み

最低でも 1 食当たり約23円の現金補助

 本事業に参加する学校は、補助金およびUSDAからの無償での農産物現物供与を
受けることができる。その代償として、参加校は連邦栄養基準に沿った昼食を提
供しなければならず、また、資格要件に適合する生徒には、無料または割引価格
(40セント以下)の昼食を提供しなければならない。

  1 人 1 食当たりの基本的な補助金単価は次のとおりである( 1 ドル=130円
で換算)。

・普通の生徒  :   18セント(約23円)
・割引価格の生徒:1 ドル49セント(約194円)
・無料の生徒  :1 ドル89セント(約246円)

 昼食の価格は、学校区ごとに独自に定めてよいこととなっている。参考までに、
コロラド州チェリー・クリーク学校区の例を挙げれば、現在、1 食当たり1ドル
10セントとなっている。このことから、USDAからの補助金は、食材の調達費ばか
りでなく、学校給食の運営費に対しても支払われていることがわかる(注:日本
の場合と異なり、学校給食は各学校区による自主運営となっているためであろう)。

 また、アラスカ州およびハワイ州の場合、これよりも補助単価がやや高くなり、
さらに、無料または割引価格昼食の資格要件に適合する生徒の割合が60%以上い
る学校の場合、 3 段階それぞれの補助金単価がやや高くなっている。

 なお、これらの補助金単価は、法に基づき、毎年 7 月 1 日に見直されること
になっており、98年度の単価は、96年 5 月から97年 5 月までの全都市消費者の
外食の消費者物価指数の上昇率を反映して、2.83%引き上げられた。

表 1 学校給食事業参加校における昼食および朝食の調達方法別割合

 資料:USDA「The School Nutrition Dietary Assessment Study(93年10月)」
  注:アラカルトとは、学校給食事業以外のメニューで、お金を支払えば自由
    に購入できる果物、ヨーグルト、牛乳、ジュース、クッキー、アイスク
    リーム、ピーナッツなどの軽飲食物である。

表 2 1 人 1 食当たり昼食補助金単価

 資料:USDA「National School Lunch and School Breakfast Programs」
 注 1 :アラスカ州およびハワイ州を除く48州の単価である。
   2 :「F/R60 %未満」とは、無料(Free)または割引価格
   (Reduced Price)が適用される生徒の割合が60%未満であることを示す。

57%の生徒が割増補助対象

 次に、上記のような無料または割引価格の昼食が適用される生徒の家庭の所得
要件をみてみよう(表 3 参照)。

 端的に規則だけを説明すれば、ある生徒の家庭の家計所得が、連邦貧困ガイド
ラインの130%未満の場合、無料の昼食が適用され、また、同ガイドラインの130
%以上185%以下の場合、割引価格の昼食が適用されることとなっている。
 理解の促進を図るため、以下、 4 人家族の家庭の場合を例にとって説明する。

 97年度の連邦貧困ガイドラインが16,050ドル(約209万円)であるから、家計所
得が20,865ドル(約271万円)未満の場合、昼食は無料となる。また、家計所得が
29,693ドル(約386万円)以下の場合は割引価格となる。USDAが97年 5 月に行っ
た調査結果によれば、2,540万人の事業参加生徒のうち1,460万人、すなわち57%
の生徒が無料または割引価格の昼食を摂っていた。参考までに、コロラド州デン
バー市の例を挙げれば、68%の生徒に対し無料または割引価格の昼食が適用され
ている。このことは、いわゆる貧困層とみられている少数民族(マイノリティ)
だけが受益者となっているわけではなく、過半の生徒が無料または格安の昼食を
享受していることを意味し、本事業の手厚さがうかがい知れる。

 なお、アラスカ州およびハワイ州の場合、連邦貧困ガイドラインがこれよりも
やや高くなっている。

現物供与を含めると最低でも約43円の補助

 以上の補助金に加え、本事業に参加する学校は、法に基づき、無償で農産物の
現物供与を受けることができることとなっている。現物供与によって提供される
農産物の価値は、1食当たり15セント(約20円)である。したがって、普通の生
徒の場合でも、本事業に基づく補助金の合計額は、1食当たり33セント(約43円)
になる。さらに、農産物に余剰が生じた場合は、ボーナスとしての農産物の現物
供与が加えられる。

表 3 無料・割引価格給食対象家庭の所得要件

 資料:USDA「National School Lunch and School Breakfast Programs」
 注 1:アラスカ州およびハワイ州を除く48州の所得要件である。
   2:これらの所得要件は、法に基づき毎年 7 月 1 日に見直されることと
    なっており、98年度は2.88%引き上げられた。

ウ. 補助金総額

昼食事業は約 6 千 8 百億円

 本制度が創設された直後の47年、補助金総額は7千万ドル(約91億円)であっ
た。それが、97年度には52億ドル(約 6
千8百億円)と、50年間で約74倍にまでほぼ一貫して拡大している。ここで留意
すべきは、USDAの予算が94年度以降削減傾向にある中で、依然として拡大傾向に
あることである。しかも、対象生徒数は、80年に既に 2 千 7 百万人に達してお
り、その後ほぼ横ばいで推移している中での拡大であることに留意が必要である。
なお、98年度の予算は42億ドルに削減されているが、これには前年度からの積み
残しが使えることになっている。

表 4 全国学校昼食事業の予算額および対象生徒数の推移

 資料:USDA「National School Lunch and School Breakfast Programs」

エ. 食材の調達

約17%が現物供与

 USDAによって現物供与される農産物は、学校給食の食材総額の17%を占めると
されている。USDAが農産物を購入するに当たっては、農産物の市場条件を見極め、
先に触れた第2の目的である農産物価格支持に配慮しつつ行われる。本年度の例
でいえば、低迷する農産物の価格を支持するためであるというプレスリリースま
で行い、牛肉および豚肉の買い入れが行われている。

 一方、残りの83%の食材は、学校区で独自に調達することになる。参考までに、
コロラド州チェリー・クリーク学校区の例によれば、衛生検査の必要性もあって、
国防総省の検査官によって食材の共同購入が行われている。青果物は、毎朝4時
頃に開かれる市場を通して、また、それ以外の食材は、主にベンダーといわれる
食材調達専門会社を通して調達されている。

 ところで、USDAの説明が正しいとすれば、食材そのもののコストに占める補助
の割合は、普通の生徒に対する場合でも、37%にも相当することになる(15セン
ト相当の現物が17%+18セントの補助金が20%=37%)。

オ.献立のガイドライン

牛乳はほぼ必須

 学校給食は、連邦栄養基準を満たさなければならないが、どのような食事を提
供するか、また、どのようにして準備するかは各学校に任されている。現在、先
に触れた「米国人のための食事ガイドライン」に基づき、脂肪から摂取されるカ
ロリーは30%以下とすること、飽和脂肪から摂取されるカロリーは10%以下とす
ることなどが勧告されている。また、たんぱく質、ビタミンA、ビタミンC、鉄分、
カルシウムおよびカロリーについては、1日の推奨摂取量の3分の1を供給する
よう基準が設定されている。なお、これらの基準は、1週間のメニュー・サイク
ルで計測されることになっている。

 また、献立の基本的な組み合わせは、以下の4つのカテゴリーの組み合わせか
らなっている。すなわち、 A 肉または肉の代替品(チーズ、卵など)、 @ 野
菜/果物、 B パンまたはパンの代替品(パスタ、シリアルなど)、 C 牛乳な
どである。

 米国人の牛乳乳製品の 1 人当たり摂取量をみると、牛乳は日本人の2.6倍、チ
ーズに至っては約10倍も消費しているにもかかわらず、カルシウムの摂取が不足
しているとされているため、牛乳はほぼ必須のメニューとなっている(注:米国
人がこれほど牛乳乳製品を摂取しているにもかかわらずカルシウム不足とされて
いるのは、炭酸飲料の摂り過ぎによるものと思われる。)

カ.栄養教育・訓練プログラム

 USDAの学校給食事業の中には、学校の調理職員に対して、健康によい食事を作
るための技術的訓練や支援を提供することに加え、生徒に対して、食事と健康の
関係を理解させるための栄養学教育を提供することが含まれている。

 このため、USDAは、学校給食事業等(全国学校昼食事業、学校朝食事業、児童
および障害者保護事業)における栄養学教育を支援するため、「栄養学教育訓練
事業」(Nutrition Education and Training (NET) Program)を実施運営して
いる。なお、98年度における本事業の予算額は、375万ドル(約 4 億 9 千万円)
である。

A学校朝食事業

ア. 参加生徒数は昼食事業の 1 / 4 

 本事業は、「66年児童栄養法」の下で、2年間のパイロット事業として開始さ
れ、75年に恒久的な制度として確立された。本事業も昼食事業と同様、連邦政府
(USDA)の補助により運営されており、昼食事業の約 7 割に当たる全国約 6 万
8千の公立校、非営利私立校および地域保育施設が参加している。参加生徒数は、
昼食事業の約4分の1に当たる7百万人となっている。利用可能な生徒のうち、
朝食を実際に摂っているのは約5分の1の生徒であり、利用率は昼食事業の約3
分の1となっている。

イ. 補助の仕組み

最低でも 1 食当たり約26円の補助

 補助の仕組みは、基本的に昼食事業の場合と同様である。本事業に参加する学
校は、参加の代償として、連邦栄養基準に沿った朝食を提供しなければならず、
また、資格要件に適合する子供達には、無料または割引価格(昼食の40セント以
下に対して、朝食は30セント以下)の朝食を提供しなければならない。

  1 人 1 食当たりの基本的な補助金単価は次のとおりであり、コストの差を反
映して昼食の場合よりも低くなっている。

・普通の生徒  :   20.0セント(約26円)
・割引価格の生徒:   74.5セント(約97円)
・無料の生徒  :1ドル 4.5セント(約136円)

86%の生徒が割増補助対象

 アラスカ州およびハワイ州の場合、これよりも補助単価がやや高くなり、また、
無料または割引価格朝食の資格要件に適合する生徒の割合が一定割合(40%)以
上いる学校の場合、通常の20%増しの補助金が支給される。この割り増し補助金
が適用されている学校の割合は、70%以上にものぼる。また、生徒数の割合でみ
れば、昼食事業の場合、57%が無料または割引価格の給食が適用されていたのに
対し、朝食の場合はその割合が86%と、そのほとんどが適用を受けている。この
ため、多くの地域で、学校朝食事業は低所得層の生徒のための事業とみられてい
る。

 なお、補助金単価の見直し方法および無料または割引価格の朝食の資格要件は、
昼食事業の場合と同様である。

表 5 1 人 1 食当たり朝食補助金単価

 資料:USDA「National School Lunch and School Breakfast Programs」
 注 1 :アラスカ州およびハワイ州を除く48州の単価である。
   2 :非貧困とは、表 2 の注 2 の説明にいう「F/R40%未満」に相当する。

ウ. 補助金総額

朝食事業は約 1 千 7 百億円

 本制度が創設されて間もない70年、補助金総額は1,080万ドル(約14億円)であ
った。それが、98年度には13億ドル(約1千 7 百億円)と、約30年間で約120倍
にまで一貫して拡大しており、90年からの 8 年間だけを取ってみても、 2 倍以
上に拡大している。なお、参加生徒数も拡大の一途をたどっている。

表 6 学校朝食事業の予算額および対象生徒数の推移

 資料:USDA「National School Lunch and School Breakfast Programs」

B特別牛乳事業

ア.朝食事業・昼食事業不参加校を対象 

 本事業は、飲用牛乳の消費拡大を目的として55年に開始され、「66年児童栄養
法」に基づき、70年に恒久的な制度として確立された。その後、73年に、低所得
層の生徒を対象に無料の牛乳が提供されるようになり、さらに、81年、他の学校
給食事業との重複を避けるため、本事業は前記2事業に参加していない学校など
に制限された。本事業も前記2事業と同様、連邦政府(USDA)の補助により運営
されている。

 学校として前記2事業に参加していても、付属する幼稚園の児童が事業の対象
となっていない場合、このような幼稚園の児童は特別牛乳事業に参加することが
できることとなっている。このため、本事業に参加している学校および児童保育
センターの数は約 8 千 5 百校と、前記 2
事業の10分の1程度に過ぎず、参加児童のほとんどが幼稚園児となっている。な
お、このほか、 1 千 4 百の夏期キャンプ場も本事業に参加している。

 また、本事業により供給される牛乳の量は、他の2事業への参加校の増加を反
映して年々減少してきている。具体的には、69年には約30億パイント(142万kl)
の供給量であったものが、80年には約18億パイント(85万kl)、90年には約1億
 8 千万パイント(8.5万kl)、そして97年には 1 億 4 千万パイント(6.6万kl)
が供給されている。

イ. 補助の仕組み

牛乳補助金単価は約16円

 補助の仕組みは、基本的には前記 2 事業と類似している。前記 2 事業の無料
の資格要件に適合する子供達には、牛乳を無料で提供しなければならず、それ以
外の子供には、定額の補助金が交付される。牛乳パック1個(ハーフ・パイント
:237ml)当たりの補助金単価は次のとおりである。

・普通の生徒:12.5セント(約16円)
・低価格の生徒:12.5セント(約16円)
・無料の生徒:牛乳の調達コスト

 参考までに、98年度の単価は、96年 5月から97年5月までの飲用向け生乳の生
産者価格指数の上昇率を反映して、1.19%引き上げられた。なお、無料の生徒に
対する補助金単価は、地域ごとに牛乳の調達コストが異なるので公表されていな
い。参考までに、コロラド州チェリー・クリーク学校区の場合、牛乳パック1個
当たりの調達コストは、乳脂肪率0.5%の牛乳で18セント(約23円)、乳脂肪率 1 
%のチョコレートミルクで18.4セント(約24円)とのことである。言い換えれば、
普通の生徒に対する補助率は、3分の2以上に相当することになる(注:脂肪摂
取量に関する制限があるため、このような低脂肪の牛乳しか提供していないとの
こと)。

 また、本事業により提供される牛乳の種類は、フレーバー付きまたはそのまま
の普通牛乳(乳脂肪率3.25%)、低脂肪牛乳、スキムミルクおよび発酵バターミ
ルクであり、米保健社会福祉省食品医薬品局(FDA)によって設定された基準値の
ビタミンAおよびDを含まなければならない(注:米国では、成分無調整牛乳やビ
タミン無添加の牛乳は見当たらない)。

ウ. 補助金総額

 本制度が恒久的な制度として確立された70年度、補助金総額は 1 億 1 百万ド
ル(約130億円)であった。それが、80年度には1億 4 千 5 百万ドル(約189億
円)にまで拡大するが、その後、本事業への参加校数の減少を反映して補助金総
額も減少を続け、98年度現在、約 1 千 8 百万ドル(約24億円)の予算が措置さ
れている。

表 7 特別牛乳事業の予算額の推移

 資料:USDA「National School Lunch and School Breakfast Programs」

C夏期休暇食料供給事業

 本事業は、厳密にいえば、学校給食事業の範ちゅうには入らない。しかしなが
ら、その仕組みや事業の運営主体は、上記の学校給食事業とほとんど同じである
ので、参考までにその概略を報告する。

 本事業は、学校が夏休みの期間、低所得層の家庭の学童に対して、無料で食事
を提供するものである。対象となる要件は、原則として18歳以下の子供で、連邦
貧困ガイドラインの185%以下、すなわち、無料または割引価格の学校給食が適用
になる低所得層の家庭の子供である。

 このような食事を提供する学校や施設などに対して、朝食1食当たり 1 ドル16
セント(約151円)、昼食および夕食1食当たり2ドル8.25セント(約271円)、ス
ナックなどのおやつ1食当たり54.3セント(約71円)の補助金が交付される。こ
のほか、条件により運営費の補助もある。なお、補助金総額は、80年度には約 1 
億 1千万ドル(約140億円)、90年度には約 1億6千万ドル(約210億円)、そし
て98年度には約 2 億 7 千万ドル(約350億円)と、年々増加している。


(5)学校給食事業の実施運営

 学校給食事業の補助金は、毎年度、議会の承認によりUSDAに交付され、USDAは
これを各州政府に配分し、各州政府はこれをさらに州内の各学校区に配分してい
る。USDAでは食品消費者局(FCS)が本事業を所管し、州段階では主に州の教育担
当部局が、管内の学校区との合意に基づき事業を運営している。事業に参加して
いる学校区および独立した学校は、州政府または郡・市町村などの地方政府を通
して、USDAから補助金と農産物の現物供与を受けることになる。

 なお、ユタ州では、州段階でも学校給食に対する補助金を交付している。


(6)農務省予算に占める位置づけ

給食向け補助金総額は約 9 千億円

 連邦政府による学校給食事業に対する補助金は、物価上昇および事業参加生徒
数の増加を反映して増加傾向にある。97年度の学校給食〔上記(4)の@〜B〕
補助金総額は約69億ドル(約9千億円)であり、このうち91%が現金で、残りの
9%が農産物の現物供与によるものである。また、農産物の現物供与額のうち58
%(約3億7千万ドル:約480億円)が、牛肉、豚肉、鶏肉などの畜産物となって
いる。

 余剰農産物のボーナス供与は、80年代に急増した。これは、主に、この期間に
生じた乳製品の過剰在庫によるものであり、これが解消された90年代に入ると、
ボーナス供与は急速に減少している。

表 8 学校給食事業向け補助金の推移

 資料:USDA、FCS
 注 1 :州政府の運営費用は含まない。
   2 :96年度および97年度は暫定値。

学校給食事業予算は農務省予算の約 1 割

 次に、学校給食向け補助金の農務省予算に占める位置付けをみてみよう。年度
による多少の上下はあるにせよ、学校給食向け補助金の農務省の予算全体に占め
る割合は、1割前後となっている。しかしながら、さらに予算の細部に立ち入っ
てみるならば、近年、食料スタンプ事業が拡大傾向にあるため、近年の農務省予
算の約 3 分の 2 は学校給食事業を含む食料援助事業向けとなっていることがわ
かる。

 そこで、貧困層向けの社会福祉事業と目される、食料スタンプ事業などの学校
給食事業以外の食料援助事業を除いた、いわば真水のUSDA農業予算に占める学校
給食事業の割合をみると、近年、その割合が急速に高まっており、90年以降は、
20%前後を占めるまでに至っている。特に、97年度には24%にまで拡大しており、
学校給食事業の農業政策上の重要性がうかがい知れよう。もっとも、学校給食事
業の80%程度は低所得層向けの無料または割引価格の給食向けの助成となってい
ることからすれば、この分析にはやや誇張があるかもしれない。

 なお、USDAが92年に行った調査によれば、学校給食事業を含めた食料援助事業
全体の効果は、連邦政府の支出 1 ドルに対して、生産者の所得は 6 セント増加
したと推定している。また、これらの事業がなかった場合、牛肉価格は0.7%、豚
肉価格は1.0%、鶏肉価格は0.8%、バター価格は3.9%、チーズ価格は3.5%、脱
脂粉乳価格は1.4%、それぞれ低下していたであろうとしている。


(7)関連機関の役割

学校給食事業は予算の聖域

 これまでみてきたように、農業予算が削減傾向にある中で、学校給食事業は今
なお拡大傾向にあり、いわば予算の聖域となっているといっていい。それでは、
なぜ、学校給食事業がこれほどまでに支持されているのであろうか。端的に言え
ば、それは、学校給食に関係する利害関係者が多いからにほかならない。

 第1に、農業生産者である。とりわけ、酪農家を筆頭に、畜産関係者の支持は
根強い。これに対し、直接的なメリットのみえにくい穀物生産者などの関心はや
や薄い。農業生産者の関心は、価格支持効果のある余剰農産物の買い上げを行う
農産物の現物供与事業にあり、このような観点から、学校給食事業の支持に重要
な役割を果たしている。

 第2に、学校関係者である。とりわけ、学校給食の管理者によって組織された
米国学校給食サービス協会は、学校給食事業の支持母体としては、州政府および
連邦政府に影響を及ぼし得る最も強力な全国組織となっている。

 第3に、低所得者を養護する活動家である。これまでも説明してきたように、
学校給食事業は低所得層への社会福祉事業的な意味合いが強いためである。しか
しながら、資金力が乏しく、組織としてのまとまりも弱いため、議会などへの影
響力は限られている。

 第4に、食品加工および配送業者などである。米国の学校給食では、ピザやハ
ンバーガーなどのファストフードもメニューの中に加えられているため、このよ
うな食品産業の影響力は次第に大きくなってきている。

 第5に、州政府である。州政府は、学校給食事業を重要な資金源として、また、
自州の農家の支援策としても支持している。

表 9 食料援助事業費および農務省予算

 資料:Office of Budget and Program Analysis, USDA
  注:USDAより得られた最新のデータであり、96年度以降のデータは表8とは
    一致しない。内訳が公表されないため、それぞれ別々のデータを用いた。


3 カナダの学校給食事業


(1)概要

 カナダにおいては、米国のような連邦政府による包括的な学校給食事業は存在
しない。その代わりに、州または州内の市町村段階の政府が独自で、あるいは個
々の学校自らが、それぞれ独自の学校給食事業を実施している。2つの公的言語
を有するカナダにおいては、教育に関する事業は、州の裁量に任されていること
が一因と考えられる。

 州が学校給食事業に一定の助成を行っているのは、主要10州のうち、ブリティ
ッシュ・コロンビア州、オンタリオ州、ケベック州、ニュー・ブランズウィック
州およびニュー・ファンドランド州の 5
州である。また、例えばアルバータ州のように、州段階での学校給食支援事業は
なくとも、エドモントン市が独自で学校給食事業を実施しているような例もある。
このため、カナダの学校給食事業については、代表的な例を紹介するだけにとど
めたい。


(2)各州における事例

@ブリティッシュ・コロンビア州
  バンクーバー市
 州政府が 3 分の 2 補助

 バンクーバー市で学校昼食事業が開始されたのは、今から10年前の88年の9月
のことである。当初は、他の大きなプロジェクトの一環として、都心にある5つ
の小学校で事業が開始された。翌89年、ブリティッシュ・コロンビア州は、学校
昼食事業に対して資金援助を開始した。現在、133校のうち、26の小学校および3
つの高校で事業が実施されている。

 事業に参加している学校の生徒は、誰でも利用が可能であるが、利用可能な小
学生のうち、実際に利用しているのは82%である。学校給食を利用しない生徒は、
弁当を持参するか、家に帰って昼食を摂るか、あるいは昼食を摂らなくてもよい。
学校給食のコストの 3 分の 2 は州が負担し、残りの 3 分の 1 を父兄が負担す
る仕組みとなっている。

 また、8つの小学校では、朝食事業も実施されている。ただし、朝食事業に対
しては、州政府からの助成はない。したがって、朝食事業は、学校と民間企業と
の連携、地域からの寄付、基金または父兄の支援によって運営されている。

Aブリティッシュ・コロンビア州
  ビクトリア市
 牛乳は週 3 日供給

 ビクトリア市では、管内の52校のうち、36%に当たる19校が学校昼食事業に参
加しており、州政府からの助成を受けている。父兄負担は、寄付金として集めら
れるため、必ずしも必要な額が集まるわけではない。昨年度の例でいえば、父兄
からの寄付金の額は、全体のコストの約 5 分の 1 であったため、州政府からの
追加補助があった。

 日本の場合と同様、学校給食は単一メニュー方式となっている。週に3日は牛
乳が供給され、残りの週 2 日はジュースが供給される。

 ビクトリア市の場合、トーストと牛乳による朝食事業が10校で実施されている。
資金は、企業からの支援や社会公平基金(Social Equity Envelope)から調達さ
れており、生徒は無料で利用できる。

Bケベック州モントリオール市
 牛乳・昼食・軽食の 3 事業を実施

 91年以降、ケベック州は、モントリオール市で実施されている学校給食事業に
対して助成を行っている。助成対象となる学校給食事業は、牛乳事業(Milk Pro
gram)、割引価格昼食事業(Reduced Price School Lunch Program)および軽食
事業(Snack Program)である。事業への参加および助成水準を決定するため、地
域住民の所得水準により、学校を下位20%の助成の必要な学校と上位80%の助成
の必要のない学校に分けている。この下位20%の学校は、割引価格昼食事業に参
加することができる。

 上記事業により割引価格の昼食を享受するためには、参加希望家庭は学校に登
録し、かつ、一定の所得水準の基準に適合していなければならない。この基準に
適合する生徒は、50カナダ・セント(約45円:1カナダ・ドル=90円で換算)で
昼食を摂ることができる。この基準に適合しない生徒は、小学生の場合2ドル50
セント(約225円)、中学生の場合2ドル75セント(約250円)支払わなければな
らない。

 ケベック州のもう一つの助成事業である牛乳事業は、上記の下位20%の小学校
に対しては毎日無料で牛乳を供給し、また、上位80%の小学校に対しては週に3
〜 4 回、無料で牛乳を供給するという事業である。

 上記の下位20%の小学校は、午前中に供給される軽食事業にも参加することが
できる。この事業では、約 1 万 7 千人の生徒に対して、午前中の中頃、週のう
ち2回は果物、2回はチーズおよびクラッカー、1回はヨーグルトが無料で提供
される。

 なお、モントリオール市以外の地域では、牛乳事業および軽食事業に対する助
成のみが実施されている。

Cアルバータ州エドモントン市
 エドモントン市が助成

 アルバータ州においては、州政府の助成による学校給食事業は存在せず、昼食
の取り扱いについては、個々の学校または地域組織に任されている。

 92年、エドモントン市の低所得層が多く住む地域の父兄が集まり、学校給食行
動委員会が組織された。この結果、非営利団体として、エドモントン学校給食計
画(Edmonton School Lunch Program)が設立された。対象となる学校は、家賃の
コストおよび片親家族の数に重点を置いて選定され、個々の家計所得は考慮に入
れられない。

 現在、合計146あるエドモントンの公立校のうち4校と私立校4校の合計8校が
その対象となっており、約1,300人の生徒が給食事業に参加している。対象となる
学校の生徒は誰でも給食事業に参加することができ、結果的に、90〜100%の参加
率となっている。昼食のコスト負担が可能な父兄は、 1 食当たり 1 ドルを支払
うことになっている。運営コストは、父兄、エドモントン市、慈善団体などが負
担している。


4 おわりに


 以上のとおり、一口に学校給食事業といっても、米国とカナダのそれは、規模
から内容に至るまでそのほとんどが大幅に異なっている。とりわけ、カナダの学
校給食事業は、個々の事業の実施主体・内容等が千差万別であるため、今後とも、
米国のように連邦レベルで統一的に実施されるようになるとは考え難い。

 しかしながら、いずれの国においても、学校給食事業への参加校数・参加生徒
数は着実に増加傾向にあり、事業規模も引き続き拡大していくものと思われる。
また、カナダの事業については一つ一つ確認することはできなかったが、いずれ
にしても、学校給食事業においては、国産品を供給することが政策の基本となっ
ていることを改めて強調したい。

 ひるがえって、日本の実態をみれば、予算は削減方向にあり、米や飲用牛乳な
どの基本的な食料については国産品の供給が基本となっているものの、それ以外
の原材料物資については必ずしもそうとはなっていない。

 世界貿易機関(WTO)協定の下で、このような事業は緑の政策、すなわち削減の
必要のないプログラムに位置づけられている。しかしながら、米国のそれをみれ
ば明らかなように、農産物の価格支持効果があることは歴然としており、まさに
このことを目的として、今年も牛肉および豚肉の買い上げ措置が講じられたとこ
ろである。

 したがって、諸外国におけるこのような政策の動向を、今後とも注意深く見守
っていく必要があろう。


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