特別レポート 

中・東欧諸国のEU加盟の動きと食肉産業について (国際食肉事務局地域会議より)

畜産助成部  石原哲雄 企画情報部  樋口英俊



はじめに


 89年11月のベルリンの壁崩壊以降、中・東欧諸国では、民主化と市場経済への
移行という流れの中で大きな変化を遂げた。

 欧州連合(EU)は、連合協定、東欧支援プログラム(PHARE)などを通して、こ
れらの国に対する支援を続けており、中・東欧諸国もそれぞれの国で改革等を実
行してきたが、今年3月にようやく、加盟候補の第一陣であるポーランド、ハン
ガリー、チェコ、スロベニア、エストニアおよびキプロスの6カ国との交渉が正
式に開始された。

 加盟交渉の目途は、2002年とされているものの、実際には、これらの国で社会
的、経済的に重要な農業部門がネックになるとみられており、交渉は難航すると
の見方が強い。

 こうした中、平成10年 5 月 7 日から91 日の間、ハンガリーのブタペストに
おいて、国際食肉事務局主催による「中・東欧における食肉産業の将来と機会」
と題する会議に参加したので、スピーカーの報告や関連資料を基に主要国の動向
を中心に報告する。


ハンガリー農業大臣が冒頭に挨拶


 各専門家のプレゼンテーションで構成されるセッションに先立ち、ホスト国で
あるハンガリーのFrigyes Nagy農業大臣がまず挨拶の言葉を述べた。この中で、
同大臣は、ハンガリーにおける農業の重要性やEU加盟に関して熱の入ったスピー
チを行った。次に、ハンガリー食肉産業連合会のFerenc Janko会長が歓迎の挨拶
を述べ、続いて演台に立った国際食肉事務局Philio M.Seng会長から、地域会議の
意義、中・東欧で今回会議を行う理由(市場経済への移行等様々な変化のある地
域であること、EU加盟問題を控えていること、経済成長に伴い品質の高い食肉製
品への需要増が見込まれる市場であること)等についてのスピーチが開陳された。


加盟プロセス−事前準備計画と定期的な見直しが主要な柱


 セッションの1番手として、欧州委員会の農業専門家であるAdrian Van Der M
eer氏は、「EU拡大と農業」と題して講演した。以下は、その概要である。

 中・東欧諸国のEU加盟は、各国の政治・経済事情にかかわらず、同一の加盟基準
をすべての申請国に適用する包括的なプロセスに基づくものである。

 このプロセスの中で重要な事項の一つが、事前準備計画(pre-accession strat
egy)と呼ばれる方策で、実際の加盟前に申請国の(加盟基準に関する)水準をEU
にできるだけ近づけることを目的としたものである。具体的には、単一のフレー
ムワークの下で、申請国に対して必要な方策に関する援助を提供する、いわゆる
「加盟パートナーシップ」のほか、PHAREによる補助の額の増加、EUの政策、制度
運用方法等への理解を深めるための各種プログラムへの参加などがある。

 なお、欧州委員会は、アジェンダ2000の中で、補助の対象について生産や流通
の効率化につながる構造対策、動植物検疫システムの向上、土地改良、農業技術
指導、環境対策、農村開発などを提案している。

 加盟プロセスのもう一つの特徴は、加盟基準に照らした申請国の政治・経済に
おける進捗状況について、定期的に見直しを行うことである。欧州委員会は、第
 11 回目のレヴューとして、98年末にその結果を欧州理事会へ報告することとな
っている。この報告は、今回交渉対象から外れた申請国の交渉開始に関する重要
な判断材料の一つにもなる。

会議の概要について

1 日程	平成10年 5 月 7 日〜 9 日
2 場所	ハンガリー国 ブダペスト
3 主催者	国際食肉事務局
	(International Meat Secretariat、IMS)

*IMSについて

(1)設立等

 食肉産業に関連するあらゆる分野の発展に国際的なベースで寄与することを目
的として、74年に設立。本部は、フランスのパリ。会長は、Philip M. Seng氏(米
国食肉輸出連合会会長)。

(2)会員

 各国の畜産関係企業や団体、政府関係機関等。当事業団のほか、米国食肉輸出
連合会(USMEF)、ニュージーランド・ミートボード、英国食肉家畜委員会(MLC)、
アイルランド食糧庁(Bord Bia)などが会員となっている。

(3)世界食肉会議(World Meat Congress)

 IMSの主要な活動の一つで、総会を 2 年に1回開催し、その間に特定地域を対
象とした地域会議を実施している。

4  会議の構成、主なスピーカー等

(1)会議は、次の 3 つの全体セッションから構成され、それぞれについて数名
  の専門家のプレゼンテーションが行われた。

 1  新しいヨーロッパの新しい農業
   (議長:Chris Oberst前IMS会長)

 (スピーカー)
  −Adrian Van Der Meer氏
   (欧州委員会農業専門家)

  −Laszlo Vajda氏
   (ハンガリー農業省・欧州統合対策部部長)

  −Gerard Viatte氏
   (OECD農業食糧水産ディレクター) ほか

 2  中・東欧における食肉産業の動向
   (議長:Philip M. Seng IMS会長)

 (スピーカー)
  −Csaba Csaki氏
   (世界銀行上級農業アドバイザー)

  −Alan D. Gordon氏(GIRA社・社長)

  −Mihal Visan氏
   (ルーマニアASIC社・社長)     ほか

 3  豚肉および家きん肉市場の動向
   (議長:Rob TAZELAARオランダ家畜
       食肉鶏卵ボード理事長)

 (スピーカー)
  −Victor Stanislawski氏
   (ポーランドANIMEX社・副会長)

  −Alexander A. Ivashcenko氏
   (ロシアPROVIMI社・社長)     ほか

(2)参加者は、ヨーロッパの国々を中心として、米国、NZ、中国などから約120名。


農産物価格、EUより 4 割から 8 割安


 中・東欧の農業部門は、EUに比べて社会的、経済的により大きな位置を占めて
いる。中・東欧諸国のうちEUに加盟を申請している10カ国*では、労働人口の22
%以上(950万人)が農業に従事しているのに対して、EU(15カ国)では 5 %(82
0万人)に過ぎない。国内総生産(GDP)に占める割合でも、中・東欧諸国が9%
であるのに対して、EUでは2.4%と極めて低い。なお、農業従事者
 1 人当たりの農地面積については、EUの21ヘクタールに対して、中・東欧諸国で
はその 2 分の 1 に満たない 9 ヘクタールとなっている。

 * ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、ラトビア、エストニ
   ア、ブルガリア、リトアニア、チェコ、スロベニアの10カ国

一般指標

資料:外務省ホームページから作成

 欧州委員会の調査に基づく中・東欧諸国の現状・見通しとして、以下の点が挙
げられる。

 −特に作物分野において、生産の回復がみられるものの、全般的には、市場経
 済移行前の水準を下回っている。

 −生産の減少により、ほとんどの国が農産物の純輸入国に転じた。

 −農産物価格は、全般的にEUよりも安い。95年の統計によれば、農家販売価格
 は、EUの水準を 4 割から 8 割下回った。

 −EUとの価格差は、加盟申請国における比較的高いインフレ率、食料需要の回
 復に伴う価格上昇などから、ある程度は縮小する見込み(3月に欧州委員会で
 採択された共通農業政策(CAP)改革案が具現化されれば、支持価格の引下げ等
 による格差縮小も予想される)。

(参考)農業改革の進捗状況(97年央時点)
   (「 1 =中央計画経済〜10=市場経済移行改革の完了」の10段階で評価)

 資料:世界銀行推計


 −ほとんどの申請国では、介入措置などに代表されるEUの CAPに類似したもの
 など、多岐にわたる農業部門安定化の措置を設けている。ただし、どの国も財
 政状況から、補助額には自ずと制限がある。

 −2002年までに10カ国がすべて加盟し、CAPが完全適用された場合、2005年まで
 毎年110億ECU(約1兆  6 千億円)の追加コストが必要となる。当該費用の内
 訳は、直接所得補償制度等(環境維持、早期離職計画等含む)85億ECU、市場支
 持制度25億ECU(ほとんど酪農部門で使用される見込み)。

 −中・東欧諸国がCAPに組み組まれた場合、当該国の農産物市場は、CAPが生産
 刺激的に作用するため、供給過剰に陥るものと予想される。


中・東欧諸国の動向


1 .ハンガリー−農業とEU拡大について



(1)農産物生産、市場経済移行前の 2 〜3 割減の水準

 ハンガリーにおいて農業は、重要な位
置を占めており、農・漁業および食料産業生産額のGDPに占める割合は、約12%と
なっており、輸出においては20%を超えている。また、土地の農地利用率は、全
土地面積の約75%と極めて高い。

 市場経済の基礎となる民営化の進捗状況については、95年末時点で農地の90%、
食品産業の85%が民営化されている。

 農産物の生産は、このところ、特に作物について回復しているものの、全体で
は市場経済移行前の 2 〜 3 割減の水準に止まっている。畜産関係については、
停滞したままであるため、生産の近代化の措置につき、「国家農業計画」におい
て検討をしている。また、EUへの加盟も念頭に農業政策の基本となる「ハンガリ
ー農業法」などの法基盤の整備も行っている。

 次にハンガリーの食肉消費において最大の数量を有する豚肉についてみてみる
と、生産量は、95年に40万トンまで減少したものの、翌年には再び増加に転じ49
万トンにまで回復した。貿易については、中・東欧諸国の多くが純輸入国に転じ
る中、依然として輸出国としてのポジションを保っており、97年の輸出量は、前
年比17%減の 8 万 5 千トンと見込まれている。

 なお、1人当たりの消費量は、減少傾向で推移しているものの、97年は41kgで
前年より 4 %の増加となった。

(2)EU加盟にむけて−専門家による作業グループを結成

 ハンガリーは、94年 4 月 1 日にEUへの加盟を申請した。農業分野での対応の
一つとして、ハンガリー農業省は、96年7月以降、穀物、食肉などの品目別、ま
たは、家畜衛生、構造政策などの機能別による16の専門家作業グループを結成。
農業省の専門家をチーフに、民間、農業団体等出身のメンバーが、それぞれの所
管の加盟準備に係る作業を行っている。具体的には、国内法律条項の調整、農業
生産者指導計画、各種制度改革などについての実行プラン策定がある。

 なお、欧州委員会からハンガリーに対する具体的な要望事項としては、動植物
検疫の強化、CAPの実行を可能とする行政システムの構築、食品業界の競争力改善
などが挙げられている。

ハンガリーの豚肉需給の推移

 資料:USDA/FAS「Livestock and Poultry : World Markets and Trade」
 注1:枝肉換算数量
 注2:97年は暫定値

EUの中・東欧拡大の経緯

・89年	11月	ベルリンの壁崩壊

 これ以降、中・東欧諸国の民主化が急速に進展

・91年	12月	EU、ポーランド、チェコスロバキア(当時)およびハンガリー
       と正式加盟への第 1歩と位置づけられる連合協定(欧州協定)を
       締結

 経済関係では、貿易の自由化が図られることとなり、中・東欧諸国に有利なよ
うに関税の引下げ、数量規制の緩和を取り決めた。EUは、中・東欧諸国に対して、
経済格差の大きさ等を考慮して、経済状況、税制、関税制度、統計システム、会
計制度などの改善を求めた。

 なお、92年12月には、ルーマニア、ブルガリアと締結。

・92年	2月	マーストリヒト条約調印

 新規加盟への手続き、批准に関する修正条項を追加

・93年	6月	コペンハーゲンにてEU首脳会議開催

 中・東欧諸国のEU加盟要件が定められ、それらの国が当該要件を満たすことが
可能になった段階で、速やかに加盟を承認することを宣言。要件には、民主主義
と法治体制の確立、人権保護、市場経済化、EUの政策目標の遵守などが含まれる。

・94年	4月	ハンガリー、EUへの加盟を申請

 これを皮切りに、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、ラトビア、エストニ
ア、ブルガリア、リトアニア、チェコ、スロベニア、キプロスが加盟を申請

・94年12月	エッセンにてEU首脳会議開催

 加盟が想定される国への支援策を強化することで合意し、EUの支援策のガイド
ラインをとりまとめた。

・95年5月	EU委員会、具体的な施策、措置を明示した「中・東欧連合諸国
        のEU内部市場への統合準備白書」を発表

・95年12月	マドリッドにてEU首脳会議開催

 97年後半を目途にEU委員会が、コペンハーゲン会議で示された要件に関する加
盟申請国の政治・経済改革の進展状況について報告書を作成し、これに基づき加
盟国の適格性を判断し、当該国との交渉準備を進めることで合意

・97年	6月	アムステルダムにてEU首脳会議開催

 マドリッド会議での合意に基づき実施された加盟申請国への調査結果に基づき、
2002年の実現を目指して、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロベニア、エス
トニアおよびキプロスの 6 カ国を加盟候補とすることに決定

・97年12月	ルクセンブルクにてEU首脳会議開催

 6カ国の加盟候補国との交渉を98年 3 月から開始することを決定

・98年	3月	加盟候補国との間で交渉開始


2 .ポーランド−豚肉と家きん肉について



(1)豚肉

@生産

 ポーランドの豚飼養頭数は、収益性の悪化から96年は減少したものの、97年は
わずかに持ち直し、第 2 四半期末時点では、前年を10万頭上回る1,810万頭とな
った。総飼養頭数のうち、民間部門に属するものは1,750万頭で、シェアは90年の
77%から97%へと増加した。

 ポーランドのレッド・ミート加工部門については、97年末時点で生産量の約88
%が民間部門によるものである。同国では、依然として約500のと畜処理会社、把
握不可能な数の地方と畜場が存在しているものの、約80社の中規模企業、約35社
の大規模企業への集中化が進んでおり、これらの企業では、投資の増加を背景と
した施設の近代化により競争力を高めている。

A消費

 豚肉は、ポーランドの食肉消費の多くを占めており、97年の1人当たり消費量
は、食肉全体の約6割を占める38.5kgであった。前年との比較では、生産の減少
によって小売価格が約 2 割上昇したため、消費量は2.5kgの減少となった。98年
は、生産量と所得の伸びが見込まれることから、1.9〜2.2kgの増加が予測されて
いる。

B貿易

 97年の豚肉輸入量(内臓、動物油脂、加工品を含む。以下同じ)は、前年並み
の5万トン、一方、輸出量は前年を12%上回る20万トンであった。加工品の輸出
先は、ロシア向けが圧倒的に多く、ソーセージおよび缶詰製品におけるシェアは、
それぞれ94%および66%であった。なお、ロシア向け製品については、今後、脂
肪分の多い低品質のものから高品質のブランドものへと変わっていくことも予想
されている。

 EU向け輸出については、連合条約に基づく取極めがあり、ポーランドに認めら
れた特恵割当枠(preferential quota)の数量は、97年 7 月から98年 6 月末ま
での1年間で、約 2 万9,500トンである。この数量は、当該条約に基づき2000年
71月1日までに毎年 4 〜 5 %づつ拡大されることになっている。特恵枠の消化
状況は、アイテムにより異なっており、例えば、生肉については、92年7月以降
衛生問題を理由に輸出がストップしているため、全くの未消化となっている。

 なお、輸入については、生鮮豚肉の 7 割強がEU産である。

(2)家きん肉

@生産

 家きん肉生産については、93年を底にそれ以降前年を上回って推移しており、
97年は、前年比37%増の47万トン(丸どりベース)と推計されている。98年につ
いては、増加傾向が継続するものの伸び幅は縮小して、前年比11%増の52万トン
と予想されている。生産増加の背景には、処理工場における加工ラインの増設や
施設の近代化があるものとみられる。最近の特徴として、少数の大規模企業への
集中化が顕著となっており、これらの企業の年間処理量は、1 万トンを超えてい
る。

A消費

 97年は、豚肉を始めとするレッドミートの価格が高かったことから、食肉消費
が家きん肉へとシフトした。97年上半期の家計消費量は、前年同期比5%増、下
半期については、生産増による価格の低下の影響も加わって、前年同期比1〜20
%増と推計されている。97年の1人当たり消費量は、95〜96年の水準に比べて約
10〜15%増の11〜11.5kgとみられている。
(ポーランドの1人当たり食肉消費量は、豚肉、牛肉、家きん肉の順で推移して
いたが、94年以降牛肉と家きん肉の順位が逆転した。)

B貿易

 97年については、輸出量が前年比26%増の3万2,700トン、輸入量が40%増の61
万2,900トンと推計されており、ネットで3万 2 千トンの輸入超過となっている
(内臓および加工品を含む)。ただし、額ベースでは約 4 千 5 百万米ドルの輸
出超過である。家きん肉の輸出先は9割がEUで、加工品は旧ソ連、特にロシア向
けが多い。

 輸入については、97年に 3 万1,314トンのミニマムアクセスがセットされたが、
輸入もの(レッグが大半を占める)の価格が安いため、ミニマムアクセス外で輸
入しても採算の取れる水準であった。国別では、米国が最大の供給国でシェアは
約 6 割、EU(オランダ、ベルギー、イギリス等)は約 3 割で、ハンガリーが1
割弱と見込まれている。


3 .ルーマニア−食肉産業の現状について



(1)牛肉

 ルーマニアの牛飼養頭数は、急激な市場経済移行の影響から、90年の629万頭か
ら98年 3 月には約半分の338万頭に激減した。総飼養頭数に占める民間部門の割
合は、90年の82%から98年 3 月には93%へと拡大している。

 97年の牛肉生産量は前年比66%減の 2万 2 千トンで、うち民間部門に係るも
のは、1 万 2 千トン(シェア55%)であった。

(2)豚肉

 豚の飼養頭数についても、90年の1,167万頭から98年3月には34%減の770万頭
へと減少した。うち民間部門の割合は、90年の48%から61%へと拡大したものの、
牛と比べると低い水準に止まっている。

 97年の豚肉生産量は、前年比47%減の21万トンで、うち民間部門に係るものは
14%と、民営化の進展が芳しくないことを示している。

 97年の貿易状況については、輸入が472トンで、主要相手国は、ハンガリー、オ
ーストリアおよびチェコ等である。一方、輸出については、5万7,206トンで主な
仕向け先は、ブルガリア、ロシア、モルドバとなっている。

(3)食肉産業が直面する課題

 同国の食肉産業が直面する問題点として、まず消費者の購買力の低下が挙げら
れる。同国では、食肉の生産が落ち込んでいるにもかかわらず、比較的食肉価格
は安定している。これは経済状況を反映した消費者の購買力の低下で需要も減退
しているためで、こうした状況の改善には、さらに時間がかかるとみられている。
他には、高率の税金や高金利(70〜80%)による投資意欲の削減、法律の頻繁な
改正による混乱の継続、的確な農業・食料政策の欠如等が挙げられている。


4 .ブルガリア−豚肉と家きん肉について



(1)豚肉

 ブルガリアの豚飼養頭数は、90年の420万頭をピークとして、ほぼ前年を下回っ
て推移し、97年にはその約 4 割にも満たない163万頭まで減少した。このうち、
民間部門に属するのは、124万頭で全体の76%を占めている。

 飼養戸数は44万 2 千 2 百戸で、家畜飼養農家全体の38%を占めている。平均
飼養頭数は、4頭弱と極めて少ない。

 豚肉生産量についても、減少して推移しており、90年の30万トンから96年には
 6 万2,840トンにまで激減した。豚肉は、同国の食肉生産のうち最大であり、96
年には全体の49%を占めている。

 ブルガリアの伝統的な輸出先は、旧ソ連、ギリシャ、イタリアおよびドイツな
どで、品目としては、旧ソ連向けが冷凍枝肉やサラミ、ギリシャおよびイタリア
向けがピストラタイプ(半丸からバラ部分を除去したもの)、ドイツ向けが部分
肉となっていた。97年については、EU向けの輸出が衛生問題で実質的にストップ
したことなどから、輸出量は、前年比26%減の 7 千824トンとなった。なお、同
国の豚肉輸入は、わずかな数量の加工用(デンマーク、カナダ産のトリミング等)
豚肉のみである。

(2)家きん肉

 家きんの飼養羽数についても、減少傾向で推移しており、96年は90年の半分に
満たない1,861万羽であった。うち民間部門のシェアは75%で、90年の38%の約2
倍となった。家きんの種類別では、採卵鶏が75%、食鶏が15%、七面鳥とガチョ
ウが 3 %、アヒルが 5 %となっている。

 家きん肉の生産は、90年から91年にかけて 3 分の 1 近くにまで減少したが、
それ以降ほぼ 4 万トン台後半で推移している。96年については、前年比 3 %減
の141万7,323トンであった。

 主な輸出品目は、冷凍チキンであり、これを旧ソ連や中東などの市場に輸出し
ている。96年の輸出量は、前年比 3 割増の 9 千257トンであった。


最後に


 中・東欧諸国の間でその経済力等にかなりの差異が生じてきていることは、明
らかである。食肉部門については、飼養頭数、生産量の減少が概ね一致したトレ
ンドとなっているが、生産、加工部門の規模拡大、近代化などの進展状況では、
各国間で大きな開きが生じている。これは、当然、旧体制崩壊後の各国の取り組
みなどの違いが大きいと思われるが、それ以前(旧社会主義時代)の経済運営方
法の違いを指摘することもできよう。例えば、EU加盟交渉の第一陣に選ばれてい
るハンガリーでは、社会主義体制時代において、一定の枠内ながらも、商業銀行
制度の創設、税制改革、外国人投資法の制定、価格および貿易自由化などの政策
を打ち出していた。これは、結果的に体制崩壊後の市場経済移行への滑走期間と
なったといえる。

 次に、中・東欧の動向を見ていくうちに、社会の構造変化に対する農村の緩衝
的役割の大きさについても考えさせられた。旧社会主義諸国では、市場経済化に
伴い、失業等の憂き目に遭った都市住民の多くを農村が受容しているといわれて
いる。農村のこうした機能が失われた場合、都市の治安その他の社会問題が大き
なイッシュウになり、また、社会的コストの増大をきたすことも、想像に難くな
い。一方で、こうした農村の機能は、一時的との指摘もあり、この先いかに農村
の活性化を図っていくかということも重要な課題となっていくだろう。

 中・東欧諸国のEU加盟については、今後本格的に交渉が進められていくことに
なるが、その決着には様々な問題が絡み、紆余曲折も予想されている。これから
の動向に注目したい。


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