ホルモン使用牛肉輸入禁止問題で調停委員が報告(WTO)


EUは来年5月までに裁定を履行すべきと報告

 世界貿易機関(WTO)が指名した調停委員は5月29日、EUと米国および
カナダなどとの間で問題になっている成長ホルモン使用牛肉の輸入禁止問題につ
いて報告を行った。これによると、EUは、今年2月13日にWTO紛争処理委
員会で承認された、EUの成長ホルモン使用牛肉に対する輸入禁止措置が、WT
Oの定める衛生植物検疫措置に関する協定(SPS協定)に違反するとした裁定
を、遅くとも99年5月13日までに履行すべきであると報告された。

 WTO裁定は、97年8月に行われた紛争処理小委員会(パネル)裁定を不服
とするEUが上級委員会に上訴し、98年1月の上級委員会裁定に基づき、2月
に承認された。上級委員会の裁定は、このEUの措置がSPS協定に違反してい
るとした一方で、その理由として適正な危険性の評価手続きが欠如しており、科
学的な根拠に基づく危険性の評価を実施することが必要であるとしていた。


裁定の履行期限が明記されていないことなどが調停委員の指名理由

 WTOが調停委員を指名した理由は、WTO規則に裁定の履行期限が明記され
ていないことや(慣例的に裁定後15カ月)、この裁定をめぐるEUと米国など
との間でその解釈に相違があったことが挙げられる。このため、今回の報告では
履行期限が定められた。

 EUは当初、裁定の履行期限について、ホルモン使用牛肉の危険性評価にかか
る期間に2年間、さらにEUにおける規則の変更に15カ月を要すると主張して
いた。一方、WTO裁定の早期実施を求める米国などは、10カ月後の実施を主
張していた。


EUは厳しい選択を迫られる

 EU委員会は、この報告に対し、WTOが提示した新たな期限を尊重する見解
を表明した。しかしながら、この結果、EUは99年5月までにホルモン使用牛
肉に対する輸入禁止措置を正当化できる信頼性の高い科学的な危険性の評価を提
示するか、それが不可能な場合には、WTO裁定に従ってこの措置を解除するか、
あるいはその代償措置を取るかの選択を行うこととなった。

 同委員会では、現在、14の研究機関に対して8のプロジェクトを委託し、ホ
ルモン使用牛肉の危険性評価について研究を実施している。その研究期間は12
カ月から18カ月とされており、今年のはじめから来年初めには、客観的かつ信
頼性のある成果がみられるものと期待されている。しかしながら、一方で、その
研究成果に悲観的な見方もあり、EUにとっては来年5月までに厳しい選択が迫
られるものとみられている。

  EU・米国間などのホルモン使用牛肉に対する輸入禁止問題は、EUが89年
に成長ホルモンを使用した牛肉が、ヒトの健康に悪影響を及ぼす可能性があると
してその輸入を禁止したことから始まった。これに対して、米国などは報復措置
を行い、96年1月にWTOに提訴するなど長年の貿易問題となっている。


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