EUの牛乳・乳製品の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○上半期のチーズ生産はわずかに増加


前年同期比0.9%増

 ドイツ市場価格情報センター(ZMP)によると、98年上半期のEU15カ国のチーズ
生産量(ヤギ、水牛の乳から作られたものを除く)は、各国によってそれぞれ増
減があるものの、全体では前年同期比0.9%増の296万3千トン(暫定値)とわず
かな増加にとどまった。

 これは、域内消費が家庭向けを中心に引き続き好調を維持する一方、上半期の
生乳生産量が若干減少した中、ガット・ウルグアイラウンド(UR合意)に基づく
補助金付きチーズ輸出の補助金額および対象数量の削減約束の実施により、ロシ
アを含む旧ソ連諸国や中・東欧諸国などへの域外向け輸出が伸び悩んでいること
などが影響している。

EU主要国のチーズ生産量

資料:ZMP
 注:各国は 1 月から 4 月までの生産量、EU15カ国は上半期の生産量


今年も生産が順調なドイツ

 主要国の生産量を見ると、96年、97年とEU最大のチーズ生産国であったドイツ
が前年同期比3.0%増の54万 1 千トンとなり、今年も順調に生産を伸ばしている。
また、かつて、最大の生産国であったフランスも、1.8%増の51万 2 千トンとな
った。両国でEUのチーズ生産量の過半を占め、依然として国内のチーズ消費が順
調と考えられる。両国の輸出業者は、今後、消費の着実な増加が見込まれるスペ
インやギリシャなどの南欧諸国に進出しているとも伝えられている。

 これに対して、オランダでは価格の高水準が続くバター生産にシフトしている
こと、イギリスでは生乳生産量自体が減少傾向にあることが、チーズ生産の減少
要因の一つと考えられる。また、域外向け輸出の依存度が主要国の中で最も高い
デンマークは、UR合意に基づく輸出補助金の削減約束の実施の影響を受けている
とみられる。


域内・外の状況から今年も生産の伸びは鈍化の見込み

 EUのチーズ生産は、近年、生乳生産量が割当制度に基づきほぼ横ばいの中で、
主に生産の約9割を占める域内消費の好調に支えられて着実に増加してきた。し
かし、昨年からその伸びにも陰りが見え始めてきていることが報告されている。

 EUの域外向けチーズ輸出は、今後、UR合意に基づくチーズ輸出補助金の削減約
束(98年度は数量ベースで36万 3 千トン、金額ベースで4億4千3百万ECU(約
695億円: 1 ECU=157円))の実施の影響により、さらに減少することが予想さ
れる。また、95年度から実施されているUR合意による最低輸入量(ミニマム・ア
クセス)約束に基づき、域外からのチーズ輸入が毎年増加している。

 さらに、今年5月末に金融・通貨危機が顕在化したEU最大の輸出先であるロシ
ア(96年の輸出量は域外向け輸出の約2割を占める約 9 万 7 千トン)では 8 月
15日、すべての輸入品に対する関税を 3 %引き上げた。これは、IMF(国際通貨
基金)の融資条件である同国の歳入不足改善に対応するための措置である。同17
日にはルーブルの実質切り下げを含む緊急金融対策を発表した。この結果、同国
ではインフレの発生が懸念され、輸入依存度の高い畜産物にも今後、深刻な影響
が出ることが予想される。このような状況から、これまで着実に伸びていたEUの
チーズ生産量は、今年も昨年に引き続きその伸びはあまり期待できないとみられ
る。


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