EUの豚肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○豚肉価格は引き続き低下



現在、最安値を更新中

 97年10月以降、EUの豚枝肉卸売価格(15カ国平均の市場参考価格、以下「豚肉
価格」)は、低下傾向をたどっている。98年8月は、前年同月を32.4%と大幅に
下回る(前月を5.6%下回る)116.9ECU(約18,400円: 1ECU=157円)/100kgと
なった(左図参照)。豚肉価格は、97年12月に140.3ECU(同22,000円)と過去838 
年間の最安値を記録して以降、これより安い水準で推移し、現在最安値を更新中
である。

 これを国別に見ると、各国で軒並み大幅な下落傾向となっており、EU最大の豚
肉生産国であるドイツが前年同月を37.2%下回る118.1ECU(約18,500円)/100kg、
第2位の生産国であるスペインが26.9%下回る126.2ECU(同19,800円)、最大の
生体豚輸出国であるオランダが45.5%下回る95.5ECU(同15,000円)などとなって
いる。

◇図:主要国の豚枝肉卸売価格(市場参考価格)◇


域内肉豚供給は未だに増加、輸入需要減

 この原因としては、主要国で繁殖用雌豚頭数が引き続き増加し、肉豚供給が増
加していることが挙げられる。その背景には、域内で96年3月の牛海綿状脳症
(BSE)問題による代替需要や、昨年のオランダなどにおける豚コレラ発生などに
より、昨年高水準にあった豚肉価格に、養豚農家が増頭意欲を刺激されたことが
ある。98年4月現在の飼養頭数調査によると、繁殖用雌豚頭数は、ドイツが前年
に比べ2.5%増の265万 2 千頭、フランスが1.8%増の155万 5 千頭、デンマーク
では4.6%増の123万4千頭となった。

 また、@オランダでも、98年 4 月現在の繁殖用雌豚頭数が96万 7 千頭と豚コ
レラの影響が深刻化する以前の97年同月の水準にほぼ回復したこと、Aデンマー
クなどの主要輸出先である韓国ほか一部のアジア諸国において、通貨急落の影響
から輸入需要が減退していることなどが価格低下に一層の拍車をかけている。


輸出補助金引き上げなども有効な対策とならず

 このような中で、EUの豚肉管理委員会は7月30日、主にEU最大の輸出先である
ロシア(97年は前年比29.1%増の約34万トン)や中・東欧諸国向けの輸出拡大を
狙い、 8 月 3 日から骨付き豚肉に対する輸出補助金単価を引き上げること、ま
た、骨なし豚肉の一部に対する輸出補助金の交付を再開することを決定した。こ
れにより、豚枝肉および骨付き豚部分肉(ともに生鮮・冷蔵、冷凍)の輸出補助
金は20ECU(約3,140円)/100kgから30ECU(同4,710円)、骨付き豚ばら肉(生鮮・
冷蔵、冷凍)は13ECU(同2,040円)から19ECU(同2,980円)に引き上げられた。
また、骨なし豚部分肉および同豚ばら肉(ともに生鮮・冷蔵のみ)にはそれぞれ、
30ECU/100kg、19ECUの輸出補助金が交付されることとなった。

 しかし、今年 5 月末に金融・通貨危機が顕在化したロシアは 8 月15日、すべ
ての輸入品に対する関税を 3 %引き上げた。これは、IMF(国際通貨基金)の融
資条件である同国の歳入不足改善に対応するための措置である。さらに、17日に
はルーブルの実質切り下げを含む緊急金融対策を発表した。この結果、同国では
インフレの発生が懸念され、輸入依存度の高い畜産物にも今後、深刻な影響が出
ることが予想される。

 EU委員会は7月に取りまとめた「養豚生産構造に関する報告書」の中で、今後
域内の豚肉生産がかなり増加することや、現在のところ、市場対策である民間在
庫補助制度や輸出補助金のこれ以上の増額は逆に生産を刺激する危険性を指摘し
ている(詳細は月報トピックス参照)。したがって、今後、短期的にはEUの豚肉
市況が回復する有効な対策や材料はなく、しばらくの間、豚肉価格は低迷が続く
ことが予想される。


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