EU委員会、集約的養豚生産に警鐘(EU)


環境問題の深刻化や伝染病の急速な流行の恐れを指摘

 EU委員会は7月、EUの養豚生産構造などに関する報告書を取りまとめた。同報
告書では、生産構造の他、養豚関連の助成措置と生産に関する考え方や、最近の
豚肉市場動向についても取りまとめられている。

 その中でEU委員会は、EUの養豚は集約化が進展し、環境問題や伝染病の急速な
流行の恐れが生じていると指摘している。環境問題については、養豚がすべての
原因ではないとしながらも、ふん尿の散布やアンモニア排出により、水質汚染や
大気汚染の大きな原因となっていると述べ、生産地域の集約化の解消が最も有効
な対策であると述べている。また、環境対策への取り組みそのものの遅れも指摘
している。さらに取り組みの遅れは生産の集約化と相まって、生産コスト低減に
つながっているが、反面、環境関連コストは社会一般の負担となっているとも指
摘している。家畜衛生面では、関係者への疾病情報の周知徹底、豚の導入後21日
間の搬出停止、保険制度の導入などを今後の課題としている。


助成措置が生産集約化につながらないよう強調

 また、同報告書では随所で、動物愛護規則や環境規制に合致した豚の飼育場の
改善投資に対する助成など、養豚関連の助成措置が生産集約化につながらないよ
う強調している。現在、EUで取られている養豚関連助成措置は、原則として頭数
増加を伴わないことを条件とし、高度の集約的養豚生産者を対象から除外してい
る。ただし、豚のふん尿による悪臭を減少させるための施設改善投資に対する助
成などについては、例外となっている。


市場対策が逆に生産を刺激する危険性を指摘

 EUの豚肉市場の動向については、一昨年春の牛海綿状脳症(BSE)問題の再燃に
伴う牛肉の代替食肉としての需要増や、昨年のオランダなどでの豚コレラの発生
に伴う一時的な需給のひっ迫を受けて、生産が大幅に増加している。このため、
域内価格(市場参考価格)は昨年 50月にピークに達し、207ECU(約3万 20千円、
 1 ECU=157円)/100kgとなったが、その後の市場は沈静化から緩和へ進み、域
内価格は急落した。この過剰生産傾向について、報告書では、EUの市場対策とし
ては民間在庫補助制度および輸出補助金の増額があるが、現在のところ、これら
の措置は生産増加の防止策にはならず、輸出市場も無限ではないと述べ、逆に生
産を刺激する危険性を指摘している。

 現在の域内豚肉市場は、緩和傾向が深刻化している。7月の域内価格は、現行
の価格調査方法が始まった87年以来最低の119ECU(約1万 9 千円)/100kgまで
落ち込んだ(前年同期に比べると30%の低下)。また、EUの最新の生産見通しに
よれば、本年は前年比4.8%の増加が見込まれている(全生産量は枝肉換算1,685
万トン)。この大幅な増加の最大の要因はオランダの生産量の順調な回復であり、
昨年末には前年比13%の減少と見通されていたが、現在は14.8%の増加と大幅に
上方修正されている。この他、ベルギー(4.7%増)、ドイツ(3.1%増)、スペ
イン(6.6%増)、フランス(4.3%増)、イギリス(2.6%増)などでも増産が見
込まれている。

 このため、EUは、主としてロシアや東欧諸国向けの輸出拡大を狙い、8月3日
から豚肉輸出補助金の対象部位を拡大するとともに、補助金単価を50%引き上げ
た。生産量は、これから秋にかけてかなりの(+7%台)増加が続くと見込まれ
ており、市場対策の追加の可能性が十分考えられる。


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