タイの近代的な豚のと畜場、運営者が決まらず未稼働


近代的な豚のと畜場の運営は、民間の手で

 タイ畜産局は、約1年前、バンコクの東に隣接するチャチュンサオ県の国有地
に4億8千万バーツ(約16億3千万円:1バーツ=約3.4円)を費やし、衛生的かつ
近代的な設備を有する豚のと畜場を完成させた。同局は、このと畜場で肉豚を処
理することにより、国内の消費者には衛生的で安心な豚肉の供給を、海外には衛
生水準の高い豚肉の輸出を増加させ、養豚産業の健全化を図るとしており、その
業務の運営に当たっては、効率的な経営を行うため、複数の民間業者の中から運
営する業者を1者選定して、その手に委ねる方針としていた。また、財政当局は、
と畜場の建設に多額の費用を要したため、施設使用料が高額になるのもやむを得
ないとして、その料金を公表していた。

 これによると、入札により選定された者は、3年間を施設使用期間とし、同期
間の土地賃借料として2千90万バーツ(約7千1百万円)、建物使用料として月額
3万4千バーツ(約11万6千円)、機械・器具使用料として月額1万バーツ(約3万
4千円)を支払うものとされており、月額平均の施設使用料は約62万バーツ(約
211万円)にもなる。また、それ以後の施設使用料についても、見直しされるこ
とになっている。

 業界では、当初、と畜場の運営を10余りの豚肉輸出業者などが約1億バーツ
(約3億4千万円)を出資して設立した法人により行うこととしており、業界大手
のチャロン・ポカパンも、と畜場の公平な利用を図る観点から、1企業のみで運
営するのではなく多数の豚肉輸出業者および大小の農家など、複数の者により設
立される企業で業務が運営されるべきとしていた。


養豚業界は、施設使用料の引き下げを要求

 高額な施設使用料に加え、と畜場の運営に当たってのさらなる大きな問題は、
と畜処理能力が1日当たり1,600頭であるのに対し、実際の1日当たりのと畜見込み
頭数は約800頭と、能力に対して5割の低稼働率になるとみられていることである。
また、と畜場を運営する企業は、1頭当たり約4,800バーツ(約1万6千円)の豚肉
代金を生産者に支払うため、1ヵ月当たり1億バーツを超える資金を準備する必要
がある。そして、最も大きな問題とされているのは、同企業が仕入れた豚肉が、
非合法とされると畜場で処理された安価な豚肉と、市場で競争しなければならな
いことが挙げられる。

 業界では、昨年、タイの生体豚価格がマレーシア産より高騰し、満足がいく輸
出ができなかったこと、国境近くで病気が多発して肉豚の生産率が低下したこと
などにより、養豚産業の経営状況は芳しくなく、業界の体力が弱まっていること
から、是が非でも複数企業による運営にするとともに、施設使用料についても大
幅な引き下げを政府に強く求め続けている。


衛生水準の高い豚肉確保で求められると畜場の早期稼働

 昨年、タイ政府は、香港に輸出したタイ産豚肉にベータ・アゴニスト(交感神
経作動薬の一種。通常、ぜんそくなどの処方薬として使われるが、心臓病の患者
には影響を及ぼすとされる。)の残留が認められたとして、香港政府から輸入禁
止の措置を受けたことから、生産農家および加工処理場を登録制にするなどし、
衛生・品質基準を満たす努力を重ねてきた。また、マレーシアではニパ・ウイル
スなどで養豚産業が壊滅的な打撃を被ったことにより、近隣諸国では衛生水準の
高い豚肉の需要が高まっている。このためにも、完成した豚と畜場の早期稼働が
求められている。

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