◇絵でみる需給動向◇
アイルランドは、ヨーロッパ大陸の北西部に位置する島国で、国土面積 7 万平方キロメートルと北海道とほぼ同面積である。農業総生産額の 85%は畜産物で占められており(EUでは約50%)、畜産は極めて重要 な位置付けにある。牛肉産業は、酪農と並んで同国農業の中核を成してお り、牛肉部門の生産額は農業総生産額の37%とEUの11%に比べて非常 に高い。 土地利用の面を見ても、農用地が国土面積の62%(433万ヘクタール) でそのうち070割が牧草地となっており、これが牛肉および生乳生産の 重要な基盤となっている。なお、同国の農用地の約70%は条件不利地域 としての指定を受けており、EUの56%を上回っている。 人口は355万人(ほぼ静岡県と同じ)と国内市場が小さいことから、 生産された農産物の多くはEU域内外の輸出に向けられる輸出依存型の 産業構造となっており、牛肉については 08 割以上が輸出に向けられてい る。
近年、EUの牛肉消費量は、健康志向や他の食肉との競合激化などから 減少傾向で推移してきたが、96年の牛海綿状脳症(BSE)問題により消 費者の牛肉離れに一層拍車がかかった。さらに、輸出部門を見ると、ガッ ト・ウルグアイラウンド(UR)合意に基づき、年々輸出補助金の削減が 課せられていることから域外輸出も減少傾向にある。 このように、全般的に牛肉需要が低迷したことから、EU全体の牛飼養 頭数は横ばいないしは減少傾向で推移してきた(巻末資料19ページ参 照)。しかし、アイルランドでは他のEU諸国と異なり昨年まで 7 年間 の頭数は一貫して増加しており、98年 6 月時点では780万頭と70年代 初頭以来の高い水準に達している。最近の牛肉産業を取り巻く情勢が厳し い中で、牛飼養頭数が拡大しているのは、草資源をベースとした低コスト 生産が主体であるためEUの中でも価格競争力が強いことや、国土が石灰 岩に覆われたやせた土壌で穀物等の生産に適さないことから経営転換が 困難なためと考えられる。 ◇図:アイルランドの牛飼養頭数の推移◇
アイルランド農業食料省が発表した牛肉需給表によれば、98年のと畜 頭数は、前年比2.3%増の184万 2 千頭となり、生産量も前年比3.0% の58万 6 千トンと見込まれている。輸出量を見ても、ロシアの経済危 機の影響を受けるもののEU域内向けが 2 割近く増加することから 12.7%増の51万 5 千トンに拡大するとみられている。 また、99年においては、と畜頭数および生産量はほぼ横ばいであるが、 輸出量は2.5%増の52万 8 千トンになると予想されている。 アイルランドの牛肉需給表(97〜99年) 注 1 :数値は枝肉ベースで、輸出量は域内および域外の合計 2 :98年は見込値、99年は予測値 3 :カッコ内は前年比
また、アイルランド食品ボードは今後の輸出戦略として、他のEU市場へ の輸出拡大を目指す方針を掲げた。これによれば、重点市場としてイギリ ス、フランス、イタリアおよびオランダを挙げ、品質保証を消費段階でラ ベル表示することにより消費者へ「安全」と「安心」を強くアピールし、 積極的な販売促進を展開することとしている。
元のページに戻る