海外駐在員レポート 

デンマークのオーガニック酪農の経営状況

ブラッセル駐在員事務所  池田 一樹、井田 俊二




はじめに

 デンマーク食糧農水産省の農水産経済研究所が、オーガニック農業の経営状
況調査(1996/97年度)を取りまとめた。オーガニック農業について、国全体
を対象とした経営状況調査は珍しく、同国でも初めての調査である。そこで、
調査のなかからオーガニック酪農の経営状況を取り上げ、関係者へのインタビ
ューも踏まえて、その概要を紹介したい。

 経営状況をみる上では、オーガニック酪農の仕組みを把握することが必要と
なる。そこで、このレポートでは、第 1 章としてオーガニック酪農関連規則の
概況をとりまとめ、第 2 章で経営状況調査の結果を紹介するとともに、収益性
について考察してみた。また、第 3 章として、デンマークのオーガニック牛乳
乳製品市場の現状についても触れてみた。その他、参考として筆者が訪問した
オーガニック酪農家の事例を巻末に掲げた。


第 1 章 デンマークのオーガニック酪農関連規則

 EUでは、オーガニック畜産の統一基準はまだ制定されていない。このため、
加盟国それぞれで、民間の認証団体、あるいは国が基準を定めている。ただし、
昨年12月、統一基準案の大枠が合意されたことから、本年中にもその制定が期
待されている。

 デンマークでは、オーガニック農業の一般規則は、「オーガニック農業生産
に関するデンマーク農産総局規則892号(1994年10月27日付け)」に定め
られている。この規則の下で、オーガニック農業の認証、検査等の管理はデン
マーク食糧農水産省が自ら実施している。以下は、この規則のうち、オーガニ
ック酪農に係る部分の概要である。

Tオーガニック牛乳とは

 オーガニック牛乳とは、オーガニック生産条件の下で30日間以上飼育された
牛から生産された牛乳と定められている。オーガニック生産条件は、飼料に関
する条件、管理に関する条件、動物用医薬品に関する条件に大別することがで
きる。

1 飼料に関する条件

(1)オーガニック飼料の給餌 

 牛はオーガニック飼料で飼養されなければならない。オーガニック飼料とは、
以下のオーガニック耕作の条件に基づいて生産される。

 @地力の維持/強化の条件(施肥等)

 耕地の地力の維持は、マメ科や緑肥作物等の輪作あるいはオーガニック条件に
基づいた生産物(たい厩肥やコンポスト)の施肥によって行われ、化学肥料の使
用は認められていない。ただし、オーガニックたい厩肥の使用が困難な場合には、
特定の肥料の使用が認められている。また、使用可能な土壌改良剤の範囲も定め
られている。  

 A病害虫、疾病および雑草の防除  

 害虫、疾病および雑草は以下により防除することとされている。農薬の使用は
原則として認められていない。

  ア 適正な作物の種類や品種の選択
  イ 適正な輪作計画   
  ウ 除草機の使用   
  エ 天敵の保護(生け垣(牧区間や他の畑との間に灌木草を帯状に植えた
    もの)の保護などによる天敵の保護。天敵の繁殖も選択肢の010つ。)   
  オ 雑草の焼却  

 なお、植物防疫上、緊急事態が生じた場合には、特定の農薬の使用が認められ
ている。

 B転換期間など

 オーガニック耕作の条件に基づいて耕作を開始してから3年目、すなわち、3
回目の農耕季節に生産された作物がオーガニック作物と見なされる。ただし、多
年生作物の場合は4 年目、牧草は 2 年目からとされている。

 これらの作物は、加工せずにオーガニック飼料として表示・販売することがで
きる。ただし、オーガニック耕作の条件に基づいて耕作を開始してから2年目以
降に生産した作物については、転換中飼料として販売することもできる。転換中
飼料は、50%オーガニック飼料と見なされる。

 オーガニック配合飼料を販売する場合は、熱量換算で75%以上をオーガニック
作物で構成しなければならない。また、配合された単品の飼料ごとに、オーガニ
ック作物についてはその旨の表示を行うとともに、配合飼料中に占める割合(熱
量換算)も併せて表示しなければならない。

 一方、これらの流通飼料とは別に、酪農家が自ら生産する自給飼料についての
条件が定められている。自給飼料の場合、オーガニック耕作の条件に基づいて耕
作を開始してから 2 年目、すなわち 2 回目の農耕季節に生産された作物は100
%オーガニック飼料と見なされる。それ以前は50%オーガニック飼料と見なされ
る。したがって、自給飼料を主体とする経営では、オーガニック酪農への転換を
開始してから、最短で2年目にはオーガニック飼料の生産が可能となり、オーガ
ニック牛乳の生産が可能となる。

(2) オーガニック飼料の給餌量など

 オーガニック飼料の給餌を開始し、オーガニック牛乳の生産を行おうとする
時点から 2 年間は、オーガニック飼料の給餌割合は、一日一頭当たり熱量換算
で75%以上であれば良いこととされている。 3 年目以降は、給餌割合は85%
以上となる。

 飼料要求量は泌乳量を基に算出することとされている。飼料に関する条件を
満足していることを明らかに示すため、給餌計画を作成しなければならない。
計画は、通常、春用と冬用の二種類となっているようである。

 飼料の内容は、季節を問わず、常に粗飼料、すなわち、生草、サイレージ、
根菜、茎葉、果実や野菜の副産物、あるいは麦わらを与えなければならない。
肉骨粉や動物性脂肪の給餌は禁じられている。なお、生後 2 ヵ月間は、代用乳
の使用が認められている。

(3)使用が禁止されている添加物など

 飼料には、抗生物質、成長促進剤、その他の薬剤、遺伝子操作を行った植物、
遺伝子操作を行った植物から生産した酵素やアミノ酸、合成アミノ酸、保存料、
着色料、アンモニアを添加してはならないこととされている。
 
(4)その他の条件

 オーガニック農地で生産された種苗を販売する場合は、その旨の表示を行わ
なければならない。また、オーガニック飼料生産は、従来型の生産を行ってい
る農場から明確に区分された耕地、生産施設、貯蔵施設で行うこととされてい
る。

2 管理に関する条件

 家畜の行動様式面や生理的な面からの必要性を踏まえた管理がなされなけれ
ばならないとされている。具体的には以下の点に配慮しなければならない。

(1)自然の行動様式が阻害されないこと
(2)年間を通して、常に運動ができること
(3)畜舎は、十分な換気と日照を保つとともに、十分な広さの休息場所を確保
   すること
(4)屋外には、庇蔭舎や庇蔭林を確保すること
(5)必要に応じて、体表の手入れを行うこと
(6)動物福祉面で悪影響をもたらさない飼養密度を維持すること
(7)夏季は、最低150日間は放牧されること。ただし、生後 1 週間は除く。
(8)家畜の固定は短時間に限ること。ただし、 6 ヵ月齢以上の牛については
   つなぎ飼いを行うことができる。

 また、同一農場においては、同一種の家畜から、オーガニック製品と非オー
ガニック製品を同時に生産してはならないこととされている。

3 動物用医薬品に関する条件

 抗生物質等の休薬期間は、使用上定められた期間の 3 倍とされている。また、
家畜には、休薬期間が終了するまで明瞭なマークを施さなければならない。

Uオーガニック酪農の管理

1 転換申請/承認

 オーガニック経営に転換しようとする酪農家は、転換を開始しようとする年
の  03 月31日までに、デンマーク食糧農水産省の農産総局に転換申請を提出
することとされている。同時に、作物の輪作計画、ふん尿の散布計画および農
場の敷地・建物を網羅した地図などからなる転換計画を提出しなければならな
い。転換計画は、あらかじめアドバイサリーセンターの承認を受けてから提出
されている。アドバイサリーセンターは農家の組合組織であり、農業の技術指
導などを行っている。

 農産総局は、提出された申請を検討し、オーガニック酪農に関する規則を満
足すると判断した場合、文書で承認を与えることとされている。

2 経営内容の記録

 オーガニック酪農生産への転換承認を得た酪農家は、作物の構成、耕地の状
況、畜産物の生産状況、生産資材(飼料や肥料など)の使用状況を、毎年 3 月
31日までに、農産総局に報告しなければならない。

3 現地調査等

 農産総局は、酪農家からの報告書に基づいて、飼料給餌計画、動物用医薬品
の使用状況などをチェックする。次いで、現地調査を行い、規則に従った生産
が行われているかどうか検査する。現地調査は、最低年間 1 回、農耕期間中に
実施される。規則に反していることが判明した場合は、警告、オーガニックミ
ルクとしての生乳の出荷の一時的な停止、罰金又は承認の取り消しといった措
置が採られる。なお、オーガニック生産に対する補助金を得ている酪農家は、 4 
年以内に転換を完了しなければならない。


第2章 オーガニック酪農経営状況

Tオーガニック酪農の経営状況調査の概要

 デンマーク農水産統計研究所は、全オーガニック酪農家324戸から82戸をサ
ンプリングして1996/97年度のオーガニック酪農の経営状況を調査した。調
査結果は、オーガニック酪農へ転換中と転換済みの酪農家に区分して取りまと
められているほか、調査対象酪農家全体の平均値としても取りまとめられてい
る。さらに、比較のために従来型の酪農家(以下「一般酪農家」という。表中
も同じ。)の調査結果を掲げている。一般酪農家の調査対象の選定に当たって
は、オーガニック酪農家と適正に比較ができるよう、オーガニック酪農家の調
査対象農家の経営規模別分布と同様の分布になるように行われている。したが
って、オーガニック酪農家と一般酪農家の搾乳牛飼養頭数規模はほぼ等しい。
この結果そのものについては、巻末資料 3 に一括して掲げた。

 ここでは、オーガニック酪農に転換済みの農家の経営状況に注目することと
する。このため、転換済み農家の経営規模階層別調査結果を、階層別に示され
た戸数を用いた戸数ウエイトにより加重平均し、転換済みオーガニック酪農家
の平均値(以下「オ酪農家」という。表中も同じ。)とした。

 調査そのものは、戸数ウエイトを用いて加重平均値を算出しているとされて
いるが、その値は不明である。ただし、調査結果に示された戸数を用いてウエ
イトを算出して加重平均値を試算してみると、ほぼ調査結果の平均値に近似す
る。このため、今回用いたウエイトの信頼性は高いものと考えられる。また、
オ酪農家の搾乳牛飼養頭数が、一般酪農家とほぼ同程度となることから、ここ
で算出したオ酪農家の結果は、一般酪農家との比較に耐えるものであると考え
られる。

 以下、オ酪農家と一般酪農家を比較しながら、オーガニック酪農の経営上の
特徴を取りまとめてみた。

 使用されている用語については、巻末資料 1 に説明を掲げた。また、原著は
デンマーククローネで示されているが、このレポートでは 1 デンマーククロー
ネを20円として、円換算で示した。統計は「1996/97年度」となっているが、
これは農家により会計年度が暦年と一致する場合としない場合があるためであ
る。

1 投入要素(表 1 )

 表 1 には、農地面積、家畜飼養頭数、労働時間など、生産のために投入した
要素、および農業資産が取りまとめられている。

(1) 農地面積 

 農地面積は、オ酪農家で71.6ha/戸であり、一般酪農家の60.6ha/戸を大き
く上回っている。搾乳牛 1 頭当たりで比較しても、オ酪農家が1.14ha/搾乳
牛であり、一般酪農家の0.93ha/搾乳牛を 2 割程度上回っている。また、飼
料生産用に用いられていることが明らかな農地のみに着目しても、オ酪農家で
53.1ha/戸、一般酪農家で39.4ha/戸となっている。これを搾乳牛一頭当たり
で見ると、オ酪農家が0.85ha/搾乳牛であり、一般酪農家の0.64ha/頭を 3 割
程度上回っている。

 オーガニック飼料生産に当たっては、化学肥料や農薬の使用が禁止されてい
る。また、オーガニック酪農では、全飼料の85%以上をオーガニック飼料にし
なければならない。このため、オーガニック酪農の飼料生産には、次のような
特徴が生まれる。これらが、オ酪農家で農地面積が増大している理由である。

 @単収が低下するため、転換前と同量の飼料を確保するためには、農地の拡
  大が必要となる。

 A単収は高いが多量の肥料が必要なビートやトウモロコシなどの作付け面積
  を減らし、他の飼料生産にシフトする。このため、収量面からは、更に広
  い飼料用地が必要となる。

 Bオーガニック飼料価格は、通常の飼料に比べて割高である。したがって、
  購入飼料に依存するとコストが上昇するため、自給率が上昇する。

 このように、オーガニック酪農では、かなり広い飼料生産用地が必要となる
ことから、より土地利用型に傾斜した、粗放的な経営形態をとることとなる。
観点を変えれば、オーガニック酪農はいわゆる「環境に優しい農法」であると
言えよう。

(表 1 )投入要素

 注:円貨表記のものは、 1 デンマーククローネ=20円で換算した。

(2) 家畜の飼養状況

 表 1 中の「雄牛」は、ほとんどが010歳以下の肥育用雄子牛である。オ酪農
家ではこの雄牛の飼養頭数が少ない。これは、オーガニック牛肉(子牛)生産
が比較的コスト高のため、これを取りやめ、貴重なオーガニック飼料を酪農に
利用する傾向があるためである。このため、オーガニック酪農の経営形態は、
専業経営に一層傾斜している。

(3) 労働時間

  1 戸当たりの労働時間は、オ酪農家で4 千 4 百時間、一般酪農家で 3 千 8 
百時間となっている。家畜の飼養頭数が若干異なるため、これを家畜単位当た
りで比較すると、オ酪農家が52時間/家畜単位であり、一般酪農家の42時間
/家畜単位を 2 割程度上回っている。オーガニック酪農では、より広い農地を
管理しなければならないこと、農薬を使用しないため、畑作作業に一層手間が
かかること、粗飼料主体の給餌形態となるため、畜舎内での労働時間が増える
ことなどから、一般酪農に比べて労働投入量が増加するためである。

 労働時間の内訳を見ると、オ酪農家の雇用労働時間は、一般酪農家の 2 倍以
上(1 千 9 百時間)となっている。家族労働の投入量には限界があるため、オ
ーガニック酪農では、雇用労働への依存度が高まることを示している。

 こういった、労働力集中型の経営は、オーガニック酪農の特徴の一つであり、
将来的にも変化する可能性は少ない。観点を変えれば、オーガニック酪農は雇
用対策面での効果も有していると言えよう。

(4) 農業資産

 農業資産には、不動産、家畜、器具機材および在庫が、自己、借り入れの区
別無く計上されている。評価方法は巻末資料 1 の用語の説明を参照していただ
きたい。

 オ酪農家の農業資産は 8 千 9 百万円であり、一般酪農家の 8 千万円を大き
く上回っている。家畜単位当たりで比較しても、オ酪農家は106万円/家畜単
位で、一般酪農家の87万円/家畜単位を 2 割以上上回っている。

 オーガニック酪農では、一般酪農に比べ、広い農地を有するほか、オーガニ
ック基準を満たすために畜舎の改築、新築を伴うことが多い。この際、搾乳機
械などの器具機材の更新を伴うこともある。したがって、一般酪農を上回った
投資が行われることとなり、不動産評価額や器具機材の評価額も、一般酪農に
比べて高くなる。また、オーガニック酪農では、飼料自給率が高いため、飼料
在庫も一般酪農に比べて多くなる。このため、在庫評価額も高くなっている。

2 農業収益および農業経営費(表 2 )

 表 2 には、生乳価格、農業収益、農業経営費および農業利益が取りまとめら
れている。

(表 2 )農業収益および農業経営費

 注:円貨表記のものは、 1 デンマーククローネ=20円で換算した。

(1) 生乳価格および泌乳量  

 オ酪農家の搾乳牛 1 頭当たりの泌乳量は、一般酪農家に比べて 8 %程度低
くなっている。オーガニック酪農では、コスト面から購入オーガニック濃厚飼
料の使用量が低下する傾向にあることが、主な原因と考えられる。ただし、肉
骨粉等の動物性たんぱく質や動物性油脂の給与が禁止されているためであると
する意見も聞かれる。

 一方、生乳価格を見ると、オ酪農家は一般酪農家を約13円(+27%)上回っ
ている。オーガニック牛乳は、一般牛乳より高い小売価格で販売しても市場を
確保することができるため、乳価も割高に設定されている。

(2) 農業収益  

 農業収益は、主に農産物の売上高と補助金収入から成っている。 

 両農家の農産物の売上高を比較すると、「生乳」と「その他の牛の生産物」
に大きな差が見られている。

 生乳の売上高は、オ酪農家で 2 千 4 百万円で、一般酪農家の 2 千万円を大
きく上回っている。搾乳牛一頭当たりで比較しても、オ酪農家は39万円/頭で
あり、一般酪農家の33万円/頭を17%上回っている。これは、(1)で述べた
ように、オ酪農家では、搾乳牛一頭当たりの泌乳量は低いものの(▲ 8 %)、
乳価が大幅に高い(+27%)ためである。

 その他の牛の生産物の売上高は、 1 の(2)で述べたように、雄子牛の飼養
頭数の相違から、オ酪農家では一般酪農家に比べて110万円ほど少なくなって
いる。

 なお、ポテトの売り上げがオ酪農家で比較的高いが、これはオ酪農家が多く
存在するユトランド半島の西部がもともと生産地であったためで、単なる偶然
である。

 次に補助金収入を見ると、オ酪農家は350万円で、一般酪農家の240万円を
大きく上回っている。補助金収入の詳細について取りまとめられている表 3 を
見ると、この違いの主因が、オーガニック酪農への補助金(120万円)にある
ことがわかる。補助金の概要は後述することとしたい。

 これらの結果、農業収益合計は、オ酪農家で 3 千 2 百万円となっており、
一般酪農家を430万円上回っている。オ酪農家の搾乳牛一頭当たりの酪農収益
(生乳収入+オーガニック酪農への補助金)を見ると、41万円/頭となり、う
ち 2 万円/頭が補助金収益となっている。オーガニック酪農では、生乳収益が
高く、また、オーガニック農業への補助金が重要な収益源となっていることが
わかる。

(3) 農業経営費

 農業経営費は、農産物の生産のために投入した要素に係る経費として取りま
とめられている。ただし、支払利子、賃借料および資産の購入費は含まれてい
ない。 

 オ酪農家が一般酪農家を上回る主な費目は、種苗費、維持管理費、サービス
費、減価償却費、雇用労働費である。その理由は、種苗費については、農地が
広いこと、および単価の高いオーガニック種苗の購入が挙げられる。維持管理
費については、相違の大半が器具機材の維持管理費の差に基づいている。サー
ビス費については、相違の大半がコントラクター費用(機械の借料)の差に基
づいている。オーガニック酪農では、給餌作業時間が長くなることや、転換に
多大な投資が必要なため、畑作用機械への投資を切りつめていることから、コ
ントラクターサービスへの依存度が一層高まっている。減価償却費については、
主として、畜舎や器具機材の新設や改善の結果、資産価値が高まったためであ
る。雇用労働費が高い理由は、既に述べたように雇用労働時間が多いためであ
る。

 一方、オ酪農家の肥料費、化学薬品費、飼料費は一般酪農家を下回っている。
これは、オーガニック酪農では化学肥料や農薬の使用が禁止されているためで
ある。飼料費については、オーガニック酪農では自給率が高く、購入飼料が比
較的少ないためである。ただし、オーガニック濃厚飼料の一部はどうしても購
入せざるを得ない。購入量は比較的少ないと考えられるが、単価は高い。した
がって、飼料費は、一般酪農家を下回ってはいるものの、相当の額に上ってい
る。

 以上を総合した、農業経営費合計は、オ酪農家が 2 千 3 百万円となってお
り、一般酪農家を 4 百万円上回っている。オーガニック酪農では、経営費が増
嵩することがわかる。

(4) 農業利益

 農業利益は、農業収益から農業経営費を差し引いたものである。オ酪農家で
896万円であり、一般酪農家の853万円を上回っている。ただし、オ酪農家は
農業経営費も高いため、両農家の農業利益の差は、農業収益の差の400万円か
ら、約10分の 1 の40万円に縮小している。もしオーガニック農業への補助金
がなければ、両者の農業収益の立場は逆転することとなる。    

3 補助金(表 3 )

 補助金は、オーガニック酪農の重要な収入源である。ここでは、補助金収入
に関する取りまとめ表(表 3 )に掲げられた補助金について、その制度を取り
まとめてみた。

(1) 耕種作物への補助金

 EUの直接所得補償制度に基づく補助金である。単価(1996/97年度)は次
のとおりである。

 @穀物(飼料用を含む)
  54.34ECU(約7千7百円:1ECU=141円)/トン

 Aたんぱく源作物(エンドウを含む)
  78.49ECU(約 1 万 1 千円)/トン

 B休耕
  68.83ECU(約9千7百円)/トン

(表 3 )補助金

 注: 1 デンマーククローネ=20円で換算した。

(2) 畜産への補助金

 (1)同様、EUの直接所得補償制度に基づく補助金である。単価(1996/97
年度)などは次のとおりである。

 @子牛の早期とうた奨励金:牛海綿状脳症(BSE)問題再燃に伴い、牛肉市
場の安定化を目的として1996年12月に導入された。と畜用の子牛を、加盟国
ごとに定めた肉用子牛のと畜平均体重の85%以下で出荷する場合に交付される。
単価は65ECU(約 7 千 2 百円)/頭(96年12月〜97年1月)、60ECU(約
8千5百円)/頭(97年020月〜)。その後数回変更され、現在は基本単価45ECU
(約6千3百円)/頭+30ECU(約4千2百円)/頭(枝肉重量110kg未満)
又 は20ECU(約2千8百円)/頭(枝肉重量110以上120kg未満)となっ
ている。

 A繁殖雌牛奨励金:肉牛生産者の所得対策を目的として、1980年に導入され
た。肉用種又は肉用種との交雑種の牛で、牛肉生産用の子牛の生産に用いられ
る牛(「繁殖雌牛」。繁殖雌牛候補牛で妊娠中の牛を含む。)に対して交付さ
れる。単価は144.9ECU(約2万円)/頭。

(3) オーガニック農業への補助

 オ酪農家の補助金収入のうち、最も大きな割合を占めているのがオーガニッ
ク酪農への補助金である(34%)。この補助金は、1988年から交付されている。
現在はEU規則(2078/92および746/96)に基づいて交付されており、デン
マークの場合のEUの補助率は50%である。

 オーガニック農業への転換を開始した農家には、酪農、養豚などの作目にか
かわらず、850デンマーククローネ(1万7千円)/ha/年の補助金が交付さ
れる。 5 年間オーガニック農業維持することが条件となり、5 年ごとに更新さ
れる。 5年未満でオーガニック農業を取りやめた場合は、補助金を返還しなけ
ればならない。

 この850デンマーククローネ/haの補助金に加えて、次のような補助が行わ
れている。

@環境保全地域内のオーガニック酪農への補助

 地下水、河川又は沿岸地域の保全等を目的として地方が定めた環境保全地域
内では、窒素の散布量を一定以下に制限することを条件として、補助が行われ
ている。補助単価は500デンマーククローネ(1円)/ha/年である。なお、こ
の補助制度の対象は環境保全地域内のオーガニック酪農に限定されている。従
来型の農家に対する環境面での補助制度は別途設定されている。

(参考)

A耕種農家

 耕種農家に対しては、オーガニック農業への転換だけでなく、オーガニック
飼料の増産のインセンティブとして、転換期間中(2年間)は2,000デンマーク
クローネ( 4 万円)/ha/年、転換後の一年間(3年目)は1,200デンマーク
クローネ(2 万 4千円)/ha/年の補助金が交付されている。交付に当たって
は、生乳生産クオータを有していないことおよびEUの直接所得補償制度の対象
作物の作付面積が耕地面積の 5 割以上であることが条件とされている。 

B養豚農家

 養豚農家に対しては、オーガニック養豚に転換後の3年間(転換を開始して
から 3 、 4 、 5 年目)は2,000デンマーククローネ(4万円)/ha/年の補
助金が交付されている。交付に当たっては、耕種農家と同様の条件が求められ
るほか、飼養密度制限(0.5〜0.7家畜単位/ha)および農地の5割以上をオー
ガニック農地とすることが求められる。

 オーガニック農業全体への補助金の交付状況は表 4 のとおりである。

(表 4 )オーガニック農業への補助金の交付状況

 注:デンマークの総農地面積は2,715千ha、総農家戸数は62千戸

4 経常利益、家計消費および当期利益(表 5 )

 表 5 には、経常利益、家計消費および当期利益が取りまとめられている。

 経常利益は、農業利益に農外収入を加え、純支払利子を差し引いたものであ
る。この際、純支払利子には、賃借料が含まれている。

 農業利益に農外収入を加えた利益合計は、オ酪農家で 1 千 3 百万円で、一
般酪農家を 2 百万円上回っている。

 しかし、経常利益で見ると、一般酪農家との差は30万円に縮小している。こ
れは、オ酪農家では、投資額が多いために負債額も多く、したがって純支払利
子額が一般酪農家を大幅に上回っているためである。

 なお、表中の「住居の賃借価値」は、住居を借りた場合の推定費用であり、
住居の推定賃借価額から維持費(保険料など)を差し引いて算定している。住
居の推定賃借価額は、「家計消費」にも計上されていることから、当期利益を
算出する際には相殺されている。

(表 5 )経常利益、家計消費、当期貯蓄

 注: 1 デンマーククローネ=20円で換算した。

5 投資額と資金調達(表 6 )

 表 6 は、会計年度中に行った投資額と、投資資金の調達源泉が取りまとめら
れている。

(表 6 )投資、資金調達

 注: 1 デンマーククローネ=20円で換算した。

 この表を見る上では、特に以下の点に注意する必要がある。

 @投資額全般については、資産の売買のネット額や資産の修繕・改造費だけ
でなく、減価償却費が含まれている。すなわち、表 2 の農業経営費に計上され
た減価償却費が、農業資産への投資額として計上されている。

 A「その他の農業資産」は、土地・建物の売買、生乳生産クオータの売買、
賃借料などのネット額が計上されている。

 B「その他の資産への投資額」には、住居や自家用車などへの投資のほか、
金融資産への投資、すなわち証券類、貯金、手持ち現金などが含まれている。
金融資産への投資は、証券の購入、預貯金の積み立てなどからこれらの取り崩
しを差し引いたネットの額で計上される。したがって、投資の項目で既に資金
調達が部分的にカバーされているとも見ることができる。なお、デンマーク農
水産経済研究所が別途公表している農業経営状況調査によると、1996/97年度
の期末時点での酪農家の流動資産額は、平均(搾乳牛飼養頭数49頭)で、銀行
預金12万 2 千デンマーククローネ(約240万円)、証券類 9 万090千デン
マーククローネ(約200万円)、手持ち現金 1 万 8 千デンマーククローネ(約
40万円)、売掛金(農産物以外も含む)10万 4 千デンマーククローネ(約210
万円)、合計34万 2 千デンマーククローネ(約680万円)となっている。

 投資額についての調査結果を見てみたい。まず、農業資産への投資額を見る
と、オ酪農家で 1 千万円であり、一般酪農家の 5 百万円のほぼ 2 倍となって
いる。これには次の理由が挙げられる。

 @オーガニック酪農基準を満足するため、畜舎の増改築やそれに伴う新しい
設備の導入が行われたこと。 

 Aしたがって、資産価値が高く、減価償却費が高いこと。

 B農地拡大、特に借入地の拡大と生乳生産クオータの取得が一般農家よりも
進んでいること。

 Bからは、オ酪農家の生産拡大意欲が一般酪農家を上回っていることも示唆
される。転換済み農家においても農地の拡大が行われているようである。

 その他の資産への投資額について見ると、オ酪農家ではマイナスとなってい
る。これは、金融資産の取り崩しが行われているためとみられる。

 次に資金調達についての調査結果を見てみたい。資金調達は内部調達と外部
調達に分類されている。内部調達は、大半が減価償却費で占められている。こ
こでの減価償却費には、表 2 の農業経営費に計上された減価償却費に自家用車
などの減価償却費を加算したものであり、もちろん投資の項に計上された減価
償却額とバランスしている。外部調達は、抵当金融機関を主とする金融機関か
らの借入金である。オ酪農家では670万円であり、一般酪農家の280万円を大
幅に上回っている。また、外部調達額が正の値になっていることから、両農家
とも金融機関からの借入額が返済額を上回っているものとみられる。

 オーガニック酪農経営では、投資額が大きいため、自己金融資産を取り崩す
ほかに、外部からも相当の借り入れが行われていることがわかる。

6 資産および負債(表 7 )

 表 7 には、期首から期末にかけての資産額および負債額の推移と負債の内訳
が取りまとめられている。

(表 7 )資産と負債等(貸借対照表)

 注: 1 デンマーククローネ=20円で換算した。

 資産額について見ると、両農家とも期首から期末にかけて増加している。

 負債額は、両農家とも相当大きい。特にオ酪農家の負債額は、より大きな投
資の必要性を背景として、一般酪農家を 10千 4 百万円上回る 7 千 8 百万円
となっている。資本に対する負債の割合は、両農家ともかなり高く 7 割前後と
なっているが、特にオ酪農家では、一般酪農家を5%上回る71%に達している。
負債の内訳を見ると、抵当金融機関からの借り入れが圧倒的に多く、両農家と
も 4 分の3を占めている。

7 デンマークの農業金融について

 このように、デンマークの酪農家は、相当の借金体質であると言える。ここ
では本論から脱線するが、借金体質の裏にあるデンマークの農業金融について
その概要を取りまとめてみた。

 一般的に、デンマークの農家は、資産に対する負債の割合がヨーロッパでも
群を抜いて高い(表 8 )。1994年のデンマーク全体の農業資産総計は2,100
億デンマーククローネ( 4 兆 2 千億円)であるが、この 6 割に相当する1,240
億デンマーククローネ( 2 兆 4 千 8 百億円)が負債となっている。

 こういった借金体質の背景には、比較的借金し易いデンマークの金融制度が
挙げられる。

(表 8 )EUの酪農家 1 戸当たりの資産と負債

 1993年、EU調べ

(表 9 )デンマークの農業金融の概要
s

 デンマークの農家への貸し付けは、「050段階制」といわれる(表 9 )。抵
当金融機関は、長期貸付を行っており、農業者以外も対象としている。預金業
務は行っておらず、農家への貸し付けに際しては、貸付額に相当する額面の債
権を発行して資金を調達する。貸付高を越える債券の発行は認められていない。
債権の利回りは証券市場の利回りに応じてその都度設定される。農業者への貸
し付けに当たっては、この利回りに金融機関のマージンを上乗せした利子が課
せられることとなる。ただし、債権は発行時点の市場状況により、額面による
平価発行、額面より低い金額での割引発行、額面より高い金額での打歩発行の
いづれかの形で発行されるため、債権の実質金利はこれらの発行形態を踏まえ
て考える必要がある。デンマークでは古くは割引発行が主体であったが、最近
では打歩発行が主体となってきている。つまり、利子を考えなければ、100の
額面の債権を発行することにより、100以上の資本を得られることとなる。更
に、金利が下降傾向にあることもあって、現在では借り手市場となっている。
このように、農家から見れば、資金調達コストは、債券市場の利回りに応じて
変動することとなる。このため、デンマークの農家は債券市場への注目度が高
いようである。抵当金融機関には「Realkredit Danmark」、「Unikredit」、
「Dansk Landbrugs Realkredit」などがあり、自由競争をしている。

 農業抵当銀行(Agricultural Mortgage Bank,“DLR”)は、農業者へ貸し付
けの必要性の増大により1960年に設立された。農業者のみを対象として長期貸
付を行っている。市中銀行や国立銀行が出資者であり、株式の発行がないため
配当も行っていない。経営陣はこれらの銀行のほかにデンマーク農民連合やデ
ンマーク家族経営農民連合も加わっている。貸し付けの仕組みは抵当金融機関
と同じである。1997年 80月時点では、発行債権の利回りは約 8 %で、農家
への貸し付けに当たって上乗せするマージンは0.75%となっている。農業抵当
銀行は、1985年からは、一部の制度資金の貸付業務も行っている。この制度資
金は、40歳以下で農業へ新規参入を希望する者への就農援助を目的とした融資
である。貸付限度は75万デンマーククローネ( 1 千 5 百万円)、元利は貸付
後 4 年間は国が100%負担する。国の負担は 5 年目は80%、 60年目が60%、 
7 年目は40%に低下し、 8 年目以降は行っていない。この貸付高は国が保証
している。この他、抵当金融機関からの貸付高の借り換え業務も行っている。
この借り換え高についても国が保証している。

 一方、短期貸付は一般銀行や個人間の融資で賄われている。

 貸付枠は、購入等の投資の対象となる農業者の資産(抵当)に応じて、金融
機関の種類ごとに一定の割合が定められている。この際、抵当権の対象には土
地、建物のほか、家畜、器械、器具なども含まれ、その時々の販売価格として
査定される。

 抵当金融機関の貸付枠は、資産の 0 〜45%の範囲とされている。農業者から
見れば、資産の 0 〜45%を担保に、借金ができることとなる。更に、抵当に対
して先取特権が与えられていることから、抵当金融機関側から見ても貸し出し
に当たっての安全性が高い。農業抵当銀行の貸付枠は、 0 〜70%の範囲とされ
ている。ただし、金利は抵当金融機関の方が若干低いため、まず資産の45%ま
では抵当金融機関から借り、45〜70%までは農業抵当銀行から借りる実態にあ
る。就農者向けの制度資金枠は、資産の15%であるが、この融資と他のすべて
の融資の合計が資産の95%を上回ってはならないこととされている。例えば、
新規就農者が制度融資を利用し、就農資金を最大限貸し付けにより賄おうとす
れば、抵当金融機関から45%、農業抵当銀行から25%、その他銀行等から10%、
制度資金15%、合計して資産の95%の貸し付けを受けられる可能性がある。

 長期貸付を受ける際は、貸付額に相当する資産に抵当権が設定される(大半
の短期貸付の場合も同じ)。貸付条件を履行できない場合、金融機関は、裁判
所の手続きに従って、この抵当物件を競売に付すこととなる。競売では、通常
当該農家の一連の債権者、すなわち金融機関のいずれかが落札している。ただ
し、金融機関は農家を保有することが禁じられているため、落札した抵当物件
を売却することとなる。抵当権の設定価格よりも低い価格で売却されている。

 こういった金融制度により、 2 つの問題点が生じている。 1 つは、このシ
ステムにより離農しなければならなくなるという社会的な問題である。1979年
から1995年までに、貸付条件不履行により競売に付された農家数は約 1 万戸
に上っている。

 今 1 つは、抵当金融機関が、抵当物件の処理で売却損を被っていることであ
る。1980年代の初めまでは、農業分野は、その資産価値が上昇を続けていた。
したがって、金融機関は、貸し付けに当たって十分な保証が得られることから、
農家が望むだけの貸し付けを当然のことのように行ってきた。しかし、現在、
この状況も変わってきている。金融機関は、貸し付けに当たり、担保価値のみ
を考慮するのではなく、投資に関するフィージビリティースタディーに依存す
るようになっている。こういった金融機関からの要請に応える意味からも、デ
ンマークの専業農家ではすべて簿記が行われている。

 デンマークでは、所得税率が高い。ただし、金利は、所得から控除されてい
る。一方、土地、農業用建物などの農業資産の価値は安定している。EUへの統
合後数年は、不動産の価値が大幅に高まり、投資の対象とさえなった。このた
め、農家は、利益のみならず、借金をしても資産を増やし、税金の支払いを免
れる傾向があると言われる。デンマークの農家の借金体質は、こういった傾向
と、上述したような金融制度により比較的潤沢に貸し付けが受けられることが
相まって生まれているものと考えられる。もちろん、安定した資産価値は、抵
当金融機関が多額の貸し付けを行うことができている大きな理由でもある。

 8 労働所得および利益率

 表10は、オーガニック酪農と一般酪農の効率性を、労働所得と利益率といっ
た概念を使用して比較している。労働所得は、農業利益と雇用労働賃金の合計
から推定資本利子を差し引いたもので、これを全労働の対価とみなした概念で
ある。利益率は農業利益から家族労働報酬を差し引いて求めた純利益が、農業
資産中に占める割合を示している。詳しくは巻末資料 1 の用語の説明を参照し
ていただきたい。

(表10)利益率および労働所得

  注: 1 デンマーククローネ=20円で換算した。
  *:労働所得表 1 の労働投入量(時間/戸)
 **:表 1 の農業資産額

 労働所得は総額および時間当たりともにオ酪農家が一般酪農家よりも高い。
ただし、オーガニック酪農への補助金を差し引いて比較してみると、時間当た
りの労働所得は両者ともに90デンマーククローネ(1,800円)/時間となる。
つまり、オーガニック酪農への補助金がない場合は、両農家ともに、労働に対
する対価は同じということになる。

 利益率もオ酪農家のほうが高い。オーガニック酪農への補助金を差し引いて
試算しても、利益率は1.3%であり、やはり一般酪農家を上回っている。したが
って、オーガニック酪農の方が利益率は高いこととなるが、経営全体として見
た場合には、利子支払いなどについても勘案する必要があろう。

Uデンマークのオーガニック酪農の収益性等についての考察

 上記Tの調査結果をもとに、オーガニック酪農の収益性について検討してみ
る。検討に当たっては、調査結果を表11のとおりに取りまとめ直し、主な収益
性の指標を算定した(図 1 〜 4 )。残念ながら、一般酪農家の階層別の結果
が示されていないため、両農法を階層別に比べることができない。そこで、参
考までに、別途調査による一般、中規模、小規模酪農家の経営状況を併せて示
した。調査結果にも利益率の分析が掲げられていたが、ここでは、家族労働報
酬を要素に入れず、いわば、利益そのものが家族労働報酬であると考えて進め
たい。

 まず、最も基本的な収益性の指標である売上高農業利益率(農業利益÷売上
高)について見てみたい(図 1 )。オ酪農家が27.8%であり、一般酪農家を約 
3 %下回っている。売上高農業利益率、すなわち粗利は、一般的に販売したも
のの「付加価値」の大小を表している。オーガニック牛乳は乳価が高く、また、
オーガニック農業への補助金も生乳への付加価値と考えることができる。この
ため、オーガニック牛乳そのものは、一般の牛乳に比べて価値は高い。にもか
かわらず「付加価値」が低い結果となっているのは、販売原価から見た「付加
価値」が低いため、すなわち、経営費が高いためである。経営費が農業利益か
ら見て割高となっているか否かを見るため、主な費目である雇用労働費、維持
管理費、減価償却費が農業収益に占める割合を図 2 に示した。オ酪農家ではこ
れらの費用は、一般酪農家に比べて全て割高となっている。この理由を考えて
みたい。

(表11)酪農家の損益計算書

 注:調査結果のうち、「住宅の賃借価値」、「家計消費」は含んでいない。
  「児童手当」は「年金、手当」と同類として扱った。
   総資本、農業資本からは表 7 の「貸借価値」を除いた。
 *:96/97年度経営状況調査(農水産研究所)による、酪農経営
  (平均搾乳牛頭数103頭)についての調査結果。
   オーガニック酪農家を含んでいるか否かは不明だが、オーガニック
   農家への補助金はほとんど計上されていない。このため、オーガニ
   ック農家への補助金もゼロと見なした。

◇図 1:売上高農業利益率◇

◇図 2 :農業利益に占める主な経営費の割合◇

 まずは、Iでも述べたように、オーガニック酪農では、ルールを満たすため、
これらの費目の絶対額が上昇せざるを得ないことが挙げられる。次に、農法に
はかかわらないが、規模拡大が進むことによっても、これらの費目の絶対額が
上昇することが挙げられる。これらが相まって、オーガニック酪農家の主な経
営費が割高になっているものと考えられる。

 しかしながら、これは、オーガニック酪農全てには当てはまらない。図 2 で、
規模別の結果に注目すると、大規模経営(乳牛70頭以上)では、農業利益に占
める主な経営費の割合が、小規模経営(乳牛70頭未満)に比べて、 2 〜 3 倍
程度となっており、大幅に割高となっていることがわかる。一方、小規模経営
では、一般酪農家に比べても割高とはなっていない。

 このため、小規模経営の売上高農業利益率も、一般酪農家を上回っている。
すなわち、小規模のオーガニック酪農では、一般酪農の平均点を上回った高い
「付加価値」の生乳を生産していると言えよう。また、別途調査による一般の
酪農家の状況と比べても、「付加価値」の高い生乳を生産していると言えそう
である。

 次に、経営としてもうかっているか否か、すなわち、収益性が高いか否かを
見るために、経営費のほかに、農外収益と支払利子を勘案した売上高経常利益
率(経常利益÷売上高)を見てみたい(図3)。オ酪農家が16%であり、一般
酪農家を約 2 %下回っている。これは、オ酪農家では、一般酪農家に比べて設
備投資のための借入金が多く、支払利子が多くなっているためである。

◇図 3 :売上高経常利益率◇

 しかしながら、これも、オーガニック酪農すべてには当てはまらない。経営
規模別に見ると、大規模経営(乳牛70頭以上)の売上高経常利益率は、農業利
益を上回る多額の支払利子のため、一般酪農家を12%も下回る 6 %となって
いる。一方、小規模経営(乳牛70頭未満)では、一般酪農家を約11%も上回
っている。こうしてみると、小規模のオーガニック酪農は、一般酪農よりもも
うかる経営であると言える。また、別途調査による一般の酪農家の状況と比較
しても、小規模経営酪農の収益性はオーガニック酪農の方が高いと言えそうで
ある。なお、それぞれの経営の売上高支払利子率(支払利子÷売上高)を見る
と、売上高経常利益率ほどの大差は生じていない(図 4 )。このことは、大規
模オーガニック酪農で、いかに経営費が割高となっているかを示している。

 以上から、オーガニック酪農は、現行の乳価が確保され、また経営規模をあ
まり拡大しなければ、一般酪農よりも収益性の高い酪農であると言えよう。こ
れに、オーガニック農業への補助金が加わると、さらに収益性は向上する。当
該補助金の有無による経営指標はそれぞれの図に併記してあるので参照された
い。また、小規模経営(70頭未満)では、経常利益や当期利益の絶対額も他に
比べて高い。したがって、現実面でももうかっている経営と言えよう。さらに、
現在の設備を償却してしまえば、収益性は一般酪農をさらに上回ることが予想
される。

 大規模(70頭以上)のオーガニック酪農については、一般酪農と比べて必ず
しも収益性は高くなっていない。ただし、資産は一般酪農家を大幅に上回って
いる。したがって、デンマークでは借金も資産のうちという傾向が非常に強い
ことを考えあわせると、大規模のオーガニック酪農も、現在収益があまり良く
ないとしても、必ずしも悪い経営とはとらえることはできないかも知れない。
また、将来的にみても、雇用労働力の減少は困難かも知れないが、設備を償却
してしまえば収益性は大幅に向上することも予想される。

◇図 4 :売上高支払利子率◇


第 3 章 デンマークのオーガニック牛乳乳製品市場とその背景

1 拡大するデンマークのオーガニック牛乳乳製品市場とその背景

 デンマークのオーガニック牛乳乳製品市場は、ヨーロッパ諸国の中でも成熟
度が高く、また、今後一層拡大することが見込まれている。こういった市場の
発展には、需要、供給および流通のすべての分野で条件が整うことが必要とな
る。そこで、デンマークにおけるこれらの市場条件について見てみたい。

 デンマークは小国で国土も平坦なため、飲料水の大部分を地下水に依存して
いる。また、国土が農業、工業により集約的に利用されているため、環境問題
に対する国民の関心が高く、ヨーロッパでもいち早く環境省が設置されている。
農業分野では、ふん尿、化学肥料、農薬による地下水や海洋の汚染が指摘され
る中で、これらを生み出した農法を疑問視する国民が増加している。また、デ
ンマークに限らないが、農業生産に薬剤その他の化学物質が多用される中で、
食品の安全性に対する消費者からの要求が高まってきている。さらに、畜産物
については、動物愛護といった倫理面についての消費者の要求も高まってきて
いる。こういった国民の関心を背景に、環境汚染を極力排除し、自然に近い環
境で生産された牛乳乳製品、すなわちオーガニック牛乳乳製品に対する需要は
根強いものがあり、供給力に応じて消費は更に増加するものと見込まれている。

 オーガニック農産物の認証制度も、他国と比較した場合特徴的である。デン
マークではオーガニック農産物の認証、検査および監督は、国が一括実施して
いる。認証機関が一つであるため、製品に付されるロゴマークも一種類である
(写真010参照)。このため、消費者にとってみれば、複数の民間認証団体が
それぞれのロゴマークを付して販売する国に比べて、オーガニック農産物の基
準の違いの学習や商品の識別にあたり、混乱を招くことが少ない。また、国が
生産から販売まで一括管理を行うことにより、製品への消費者の信頼性も高ま
っているものと思われる。

 流通面では、大手のスパーマーケットチェーンがオーガニック農産物の販売
を全国的に行っていることが市場拡大に結びついている。例えば、デンマーク
最大のスーパーマーケットチェーンで、同国の食品小売販売高の約 4 割のシェ
アを有するFDBは、オーガニック農産物の販売においても他に抜きん出ている。
このように、全国展開のスーパーマーケットチェーンがオーガニック農産物を
取り扱うことにより、消費者はいつでもどこでもオーガニック農産物に触れる
ことができることとなる。また、オーガニック牛乳についてみれば、小売価格
は従来型の牛乳に比べて 2 〜 3 割程度上回っているに過ぎない(表11)。こ
れは、購入意欲を極端にそぐような価格差ではないと考えられる。

 生産面の最重要課題は、収益性である。前章でみたように、現在のオーガニ
ック酪農市場をめぐる好状況の下では、オーガニック酪農は、経営規模を適正
に選択しさえすれば、収益性および資産面の両面で魅力のある経営であるとい
えよう。さらに、収益性の向上に大きな役割を果たしているオーガニック農業
への補助金は、農法の転換への重要なインセンティブになっているものと思わ
れる。なお、補助金はオーガニック牛乳の小売価格にも反映していると考えら
れ、補助金がなければ乳価引き上げによる小売価格の上昇も想定されるところ
である。
 
(表12)デンマークの牛乳小売価格の例(1,000cc)

 注 1 :98年12月、コペンハーゲン市内スーパーマーケットで調査
   2 : 1 デンマーククローネ=20円


2 デンマークのオーガニック牛乳乳製品市場

 デンマークのオーガニック酪農家は、年々増加している(表13)。1998年 6 
月現在の戸数は430戸となっており、1999年には50%増加し、650戸に達す
ると予想されている。オーガニックミルクの生産量も順調に増加し、1999年に
は1997年に比べて 2 倍以上の29万リットルに達すると見込まれている(転
換中の酪農家の生産量を含む)。

(表13)オーガニック酪農家とその生乳生産量の推移

 注:転換中の酪農家も含む、1999年は食糧農水産省予測

 デンマークの主なオーガニック酪農製品市場を見てみたい。1995年の状況は
表14のとおりである。政府関係者によると、現在では、オーガニック牛乳のマ
ーケットシェアは既に20%を超えているが、それでもまだ需要が供給を上回っ
ていると言われている。食糧農水産省は、供給量さえ確保できれば、マーケッ
トシェアは50%にまで拡大する可能性があるとみている。

(表14)デンマークのオーガニック酪農製品国内市場

 *低脂肪、脱脂乳を含む


おわりに

 デンマークのオーガニック酪農の経営状況調査結果には、同国のオーガニッ
ク酪農の性格がよく現れている。経営形態を見ると、飼料用地の増加による生
産の粗放化、労働時間の増加、泌乳量の低下、これらに伴うコスト増など、生
産の集約化による生産性の向上を目指す従来の酪農とは性格が全く異なること
が浮き彫りとなっている。化学肥料や農薬を使用しないため、環境に優しい農
法とも言える。デンマークのオーガニック酪農の基準が、国際的な基準に沿っ
ていることから見ても、こういった経営形態は、デンマークに限ったものでは
なく、オーガニック酪農の一般的な形態であると言えよう。

 収益性を見ると、比較的小規模な経営では、一般的な酪農に比べて高い。こ
の高い収益性の背景として、他国に例を見ない国の関与を挙げることができる。
デンマークでは、オーガニック牛乳乳製品の基準認証を国が自ら実施している。
ともすれば複雑になりがちな差別化商品の土俵を 1 つにして、商品への信頼性
や認識を高めることで潜在需要の顕在化に多大な貢献をしている。さらに、生
産面では、転換前後を問わず、継続して補助金が交付されている。補助金は、
オーガニック酪農への転換に当たって、大きなインセンティブとなっているだ
けでなく、収益面での貢献度も高い。こういった国のオーガニック酪農振興対
策が市場の拡大に与えている影響は、これまでの市場の発展の歴史から見ても
明らかである。同時に、オーガニック酪農振興対策は、環境対策および酪農対
策としての効果も大きいことを忘れることはできない。環境対策面から見れば、
汚染してしまった環境の治療よりも、汚染させない予防策の方が、効率的であ
る。また、比較的小規模な経営の方が収益性が優れていることといった結果か
らも表れているように、生乳生産量を拡大せずに収益が上がるという点で、酪
農政策上からも意味が深い。

 こうして見ると、デンマークのオーガニック酪農は色々な面でうまく歯車が
かみ合って発展していると言える。今後の行方は注目に値するところであり、
次回の調査結果が注目される。

 最後に、このレポートの作成に当たり、現地調査、情報提供など多大のご協
力を頂いた在デンマーク日本大使館頼田勝見一等書記官をはじめ、次の方々に
厚くお礼申し上げます。


Mr. Lars KOLZE, Danish Directorate for Development, Ministry of Food, 
Agriculture and Fisheries
Ms. Dorte Hauerslev, Danish Directorate for Development, Ministry of Food, 
Agriculture and Fisheries
Ms. Anne G. Lauridsen, Danish Directorate for Development, Ministry of 
Food, Agriculture and Fisheries
Mr. Ole Olsen, Danish Institute of Agricultural and Fisheries Economics, 
Ministry of Food, Agriculture and Fisheries
Mr. Thomas Vang Jorgensen, Danish Agricultural Advisory Center
Mr.N.Halberg, Danish Institute of Agricultural Science, Research Center 
Foulum
Mr. Flemming Wstergaard (酪農家)


元のページに戻る