新単一通貨「ユーロ」導入と共通農業政策(EU)


米国にほぼ匹敵する「巨大経済圏」が誕生

 EU15カ国のうち、ドイツやフランスなど11カ国は、68年の関税同盟、92
年の市場統合を経て、99年 1 月 1 日から通貨統合(新単一通貨「ユーロ」
(Euro)の導入)を開始した。これにより、11カ国合計で人口約 3 億人、国
内総生産(GDP)約 6 兆ドル(約710兆円: 1 ドル=119円)とほぼ米国に
匹敵する巨大経済圏が成立することになった。ユーロはまず金融取引や企業間
決済で使用が開始された。2002年 1 月からは紙幣・硬貨の流通が始まり、同
年 7 月には各国通貨との切り替えが完了する。また、欧州中央銀行(ECB:本
部フランクフルト)が、各国中央銀行から権限の委譲を受け、ユーロの通貨・
金融政策を取り仕切ることになる。


ユーロ導入に伴い「グリーンレート」は廃止

 EU農相理事会はこれに先駆けて98年12月16日、ユーロ導入に伴う新農業
通貨制度案に合意した。これにより、 1 月 10日から共通農業政策(CAP)に
基づく補助金単価や介入価格なども、79年から用いられてきた欧州通貨単位
「ECU」ではなく、新単一通貨「ユーロ」に設定された。この際、ECUからユ
ーロへは 10 対 1 で変換される。例えば、バターの介入価格328.2ECU(約 4 
万 6 千円: 10 ECU=141円(98年12月の平均レート))/100kgは、328.2
ユーロ/100kgとなった。また、これらECU建ての補助金などを各国通貨に交
換するために用いられてきたCAP独特の農業交換レート(グリーンレート)
(注)が廃止された。

 通貨統合参加国では、既に通貨はユーロに一本化された。しかし、上記で述
べたようにユーロ紙幣・硬貨が流通し始める2002年までは、各国の紙幣・硬貨
が流通する。このため、EUは12月31日の蔵相理事会でこれら通貨の対ユー
ロ交換レートを、同日のECU相場に基づいて以下のとおりり固定した。CAP
の補助金にも、グリーンレートに代わってこのレートが用いられることとなる。

ユーロ導入国の対ユーロ交換レート


 一方、通貨統合に参加していないイギリス、デンマーク、スウェーデン、ギ
リシャの 4 カ国に対する補助金等については、ECBが決定した為替レートが
用いられる。レートの採用期日は、CAPの個別制度により異なっており、市場
介入制度や輸出補助金等にはその制度の適用を受けた日、家畜の頭数単位で支
払われる奨励金には当該年の 1 月 1 日の為替レート(本年は 1 月 4 日)が
用いられる。


グリーンレート廃止に伴う所得補償を実施

 グリーンレートは、ECUの為替相場の変動に連動して複雑なルールで設定さ
れてきた。これが廃止されることにより、仕組み自体の複雑さや、変動相場制
のため生産者などの自国通貨での補助金手取り額が年度内でも変化することな
ど、これまで議論の絶えなかったさまざまな問題も解消する。

 しかし、CAPに係る補助金を各国通貨に交換する際に、新たに用いられる交
換レートは、グリーンレートとの継続性がなく、異なっている。したがって、
グリーンレートよりもレートを切り上げられた加盟国では、自国通貨建ての補
助金額等が減少する。このため、生産者などの所得を補償する仕組みが導入さ
れた。

 介入買い上げなどの市場制度では、一定のルールに照らして、切り上げ幅が
相当大きいと判断される場合に補償が行われる。ただし、切り上げ幅の算定値
が2.6%よりも少ない場合には除外されることもあり、本年は該当しないとみら
れている。一方、家畜の頭数当たりで支払われる奨励金などについては、98年
に比べて切り上げられた場合に 3 年間継続して補償が行われる。補償総額は国
単位で算定され、 2 年目から 3 分の 1 ずつ削減される。EUの補助率は初年
度100%、次年度からは50%である。

 また、通貨統合に参加していない国については、2002年 1 月 1 日以前に年
間の対ユーロ平均交換レートが相当大きく切り上げられたと判断される場合に
は、今年から通貨統合参加国に採られる補償措置とほぼ同様の措置が採られる。
今後、通貨統合の成否は、EU予算の約 6 割を占めるCAPに大きく影響する
だけにユーロの真価が注目される。

(注) CAPに基づく農産物の介入価格、補助 金の表示単位としては、98年
まで「ECU」が採用されていた。ECUは現実に存在する通貨ではなかったので、
各加盟国でCAPに基づく農産物の価格支持を行うためには、介入価格などをそ
れぞれの国の通貨に換算して実施する必要があった。この時に使用された換算
レートがいわゆる「グリーンレート」である。


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