酪農・乳業界、制度改革に向け合意の条件を提示(豪州)


改革には大筋で合意

 98年12月、酪農・乳業界の代表で構成される業界のトップ団体である豪州
酪農乳業協議会(ADIC)の総会が開催され、同業界として、連邦の加工原料乳
制度と各州の飲用乳制度をともに撤廃するという方針について、大筋で合意さ
れた。

 まだ業界による具体的な改革案は政府に提示されていないものの、自由貿易
を推進する豪州の立場から、両制度とも長期にわたって維持できるものではな
いことは、業界内でも周知のことであったため、業界としては、生産者などに
対する何らかの補償を得られないまま制度撤廃に至ることを避けるべく、改革
に合意するための前提条件を主導的に提示することになったものとみられる。


7 項目の条件を提示

 今回の合意では、生産者への十分な補償が行われること
などを含む 7 項目が改革の条件として挙げられ、当該補償金の財源は、飲用乳
の流通段階で乳業界から徴収する課徴金で賄う案となっている。しかし、一括
補償を行う場合は多額の資金が必要となるため、連邦政府の債務保証を得て、
再建資金を借入れる案などが具体的に考えられているようだ。

 ADICが提示した合意の条件は以下の通り。

 @生産者が新たな市場環境に移行でき るための十分な再建資金(補償金)
  が準備されること

 A当該資金の生産者への配分方法に、 すべての生産者組合が合意すること

 B制度改革案の原則に、すべての乳業セクターが合意すること

 C各州政府が、飲用乳の価格支持・供給規制の撤廃に合意すること

 D再建資金を借入れる場合、連邦政府は債務保証を行うと同時に、生乳処理
  以降の流通段階で飲用乳から課徴金を徴収し、これをもって一定期間で当
  該借入金を返済するシステムを設けること

 E連邦政府の規制緩和政策の対策資金を酪農乳業界の規制緩和に適用するこ
  と

 F上記諸条件の合意後、連邦政府が業界と十分な協議を行いつつ制度改革の
  法制化を進めること


貿易交渉での立場と規制緩和政策が背景に

 豪州の加工原料乳は、連邦政府による価格補てん制度が実施されているもの
の、同制度は2000年の 6 月末が施行期限とされている。これに対し、加工向
け生乳生産者は、制度継続を望んでいるものの、連邦政府は次期貿易交渉の観
点から継続に難色を示しており、乳業メーカー側も、長期的な輸出競争力の低
下を懸念して否定的な立場を取っている。

 一方、飲用向けの生乳については、各州ごとに生産者乳価の支持制度が実施
されており、加工原料乳のおよそ 2 倍の最低乳価が設定されている。しかし同
制度は、連邦政府の規制緩和政策に基づく見直しの対象とされており、飲用向
け生乳生産者の切実な願いをよそに、規制撤廃を含む改革の圧力にさらされて
いる。

 これら両制度の間には直接関連はないものの、実質的にはこの二元制度によ
って国内の生乳生産全体の収支バランスが保たれていることから、両制度の改
革は切り離して議論することはできない関係にある。
 このため、連邦政府は加工原料乳制度の施行期限延長を、行わないとする一
方で、飲用乳制度の改革は業界全体の合意を得なければならないとしてきた。


制度改革へ向けた今後の展開を注目

 こうした状況の中で、今回の合意は、一定の条件付きながらも、これまで両
制度の存続を強く主張してきた生産者を含む酪農・乳業界の主要団体が、両制
度の撤廃を主導的に受け入れる方向を示唆したことを意味するだけに、その意
義は非常に大きいと言える。

 総会での合意内容の詳細は、明らかにされていないが、関係者からの情報に
よると、再建資金の総額は10〜12憶ドル(750〜900億円: 1 豪ドル=75円)、
生産者への補償は 1 回限りで行われ、総額の約50%は豪州最大の酪農生産州
であるビクトリア州の生産者に振り分けられるとされている。

 今後は、十分な再建資金の確保をめぐる連邦政府との交渉、生産者への補償
金の配分方法をめぐる生産者団体間の討議などが行われることになるが、ADIC
は、99年 4 月頃には 7 項目の条件を踏まえた具体案を政府に提出したいとし
ている。しかしながら、一部の生産者や組合系乳業メーカーは、まだ、補償な
どの条件に不満を表しているとも言われており、業界の意見調整にはなお時間
を要するものとみられる。

(注)豪州酪農乳業協議会(ADIC)は、酪農・乳業の代表者で構成される産業
  界のピークボディ(メンバー46名のうち、23名が酪農セクター代表、20名
  が乳業セクター代表、残りの 3 名は業界内の他セクターの代表)であり、
  政府関係者は全く含まれていない。

   しかし、その組織権限は、連邦法(Dairy Produce Act 1986)において
  規定されており、酪農乳業関連の各種課徴金(酪農庁運営課徴金や販売開
  発促進課徴金など)の徴収額に関する業界の意見を取りまとめて政府に具
  申するほか、これらの課徴金で運営される豪州酪農庁(ADC)や酪農研究開
  発機構(DRDC)の事業を監督し、それらの事業計画の査定を行うことなど
  が定められている。


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