◇絵でみる需給動向◇
96年10月から一貫して上昇を続けたEUのバター価格(指標価格の一つであるオ ランダのブランドバター取引価格、以下「バター価格」)は、97年12月、98年1 月と過去 5 年間のピーク(780ギルダー(約4万7千円:1ギルダー=60円)/ 100kg)に達し、その後も近年にない高値圏で推移したものの、98年11月以降急落 している。99年1月のバター価格は、前年同月を9.6%下回る705ギルダー(約4 万 2 千円)/100kgとなった。3カ月間で7.8%値下がりしたことになる。 ◇図:域内バター価格の推移◇
これは、EUバターの最大の輸出先であるロシア(97年の輸出量はEUの域外向け 輸出の約5割を占める 8 万トン)で98年 8 月に通貨急落による経済危機が発生 したことなどにより、域外向け輸出が大幅に減少していることが主因である。98 年 1 月から10月までのバターの域外向け輸出量は、前年同期比34%減の9万8千 トンとなった。 また、バター生産量が 8 月以降前年に比べ増加していること( 8 月から11月 までの生産量は前年同期比1.0%増の約51万 8 千トン)も価格急落に影響を及ぼ している。この背景には、やはりロシアの経済危機などによりチーズの域外向け 輸出が減少しているため(97年のロシア向け輸出量は域外向け輸出の約4割を占 める19万 5 千トン)、これまでチーズ生産(生乳の仕向け量の3分の 1 以上を 占める)に仕向けられていた生乳の一部が、バターなどに仕向けられていること がある。さらに、EUが、夏期の過剰と冬期の不足を調整する目的で行っているバ ターの民間在庫補助制度に基づく在庫からの放出(98年 7 月末の約14万 3 千ト ンから99年1月末は約 4 万 3 千トン)などもバター価格の下落に一層の拍車を かけている。
アイルランドやスペインでは、バター価格の急落を受けて既に介入買い入れが 行われており、また、イギリスでも行われる模様である。このため、99年1月末 で約3千トンの介入在庫量は今後、増加することが予想される。さらに、EU委員 会の予測によれば、EUのバター消費量も減少することが見込まれている(99年の 消費量は前年比0.7%減の173万トン)。現在のところ、EUのバター需給の重要な カギを握るロシア向け輸出は、同国の経済状況から早急に回復するとは考えにく い。さらに、EUのバター生産が季節的に増産に向かうことを考慮すると、EUのバ ター価格は今後一段と下落する可能性もある。
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