病原性大腸菌O−157検査強化案に食肉業界が反発(米国)


FSIS、抽出検査の対象拡大を提案

 米農務省(USDA)食品安全検査局(FSIS)は、食肉の安全性監視の観点から、
パッカーおよび食肉販売小売店において牛ひき肉の抽出検査を行っている。その
結果、牛ひき肉がO−157に汚染されていた場合には、これを販売不適格品として、
パッカーに対し自主回収を行うことを求めている。

 FSISは、1月15日、パッカーに対し、食肉の安全性確保のため、O−157に関す
る抽出検査の対象を、従来の牛ひき肉に加えて、牛肉内部に加工処理段階で病原
菌がまん延する可能性のある牛肉製品にも拡大する旨の提案を行った。牛肉製品
のうち、香辛料などを含む溶液が注入されたもの、機械により肉を柔らかくした
もの、整形によりくず肉から製造されるひき肉などが、調理や加工などの方法に
よっては病原菌を死滅させずに、O−157に汚染されていた場合には、これを販売
不適格品として自主回収の対象とするとしている。


FSISの提案に対し、食肉業界は猛反発

 O−157は、牛の腸管内に見いだされるが、適切な温度で調理すれば死滅するこ
とが知られている。このため、官民双方が、適切な調理方法などの知識について、
消費者に対する普及・啓もう活動を実施している。

 97年8月に起きたハドソンフーズ社の冷凍牛肉ハンバーガーパティが原因とみ
られるO−157食中毒事件では、同社製品の自主回収数量は2千5百万ポンド(約
 1 万 1 千トン)に及び、同社は、家きん肉業界トップのタイソンフーズ社に買
収される結果となった。この例を見るまでもなく、一度このような自主回収が行
われれば、パッカーが負担する経費はばく大なものとなり、ひいては、パッカー
自体の存続をも脅かす重大な事態となることから、対象品目が拡大される今回の
提案に対して、パッカー業界は猛反発を示している。

 米国食肉協議会(AMI)は、「O−157に係るひき肉の抽出検査は、病原菌を削
減または根絶する手段とはなり得ず、現行の技術ではこれを根絶する手段もみつ
からない」としており、食肉の安全性確保対策のため、巨額の経費が必要なパッ
カー側とFSIS側とのあつれきは強まっている。


食肉の安全性確保に関するその他の動き

 ところで、食肉安全性確保の新技術として注目されている牛肉への放射線照射
については、97年12月に保健社会福祉省(HHS)食品医薬品局(FDA)が既に認可
し、1年以上経過したが、実行段階におけるUSDAのガイドラインについては、規
則案の発表が 2 月中にも行われると見込まれている。

 なお、食品安全確保対策としては、昨年 1 月に約300の大規模パッカーに対し
て、危害分析重要管理点監視方式(HACCP)が導入されたのに続き、今年1月25日
から、従業員10人以上500人未満で年間売上高250万ドル(約 2 億 9 千万円:1
ドル=114円)以上の約2,800の中小規模パッカーに対しても、HACCPの導入が義務
付けられている。

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