EUの牛乳・乳製品の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○生乳生産量、ほぼ前年並みで推移


クオータ数量を 1 %程度上回る見込み

 EUの生乳生産は、割当(クオータ)制度(国別に生産枠を設け、割当量を超過
した場合には課徴金を課す制度:適用年度は 4 月〜3 月)により、コントロール
されている。ドイツ市場価格情報センター(ZMP)によると、98/99年度の 4 月
〜2月のEU15カ国生乳生産量(乳業メーカーへの出荷ベース)は、EUの乳製品輸
出の依存度が高いロシアで、98年8 月に経済危機が発生した影響が懸念されたに
もかかわらず、ほぼ前年並みの約 1 億 4 百万トン(暫定値)となった。

 この背景には、チーズ生産が域内消費に支えられ前年に比べわずかながらも増
加したこと、また、バターや脱脂粉乳生産が減少した一方、全粉乳生産が北アフ
リカ諸国向けなど好調な域外向け輸出により増加したことがある。そのため、域
内の乳価が全般的に好ましい水準にあったとみられ、酪農家の生産意欲があまり
減退することがなかったものと思われる。また、乳用経産牛の一頭当たりの乳量
が、前年に引き続き増加傾向(97年の乳量は、前年比2.8%増の5,550kg)にある
ことも挙げられる。

 この結果、クオータベースの98/99年度の生産量は、約 1 億 1 千 3 百万トン
前後となり、前年度と同様に当該年度のクオータ数量(15カ国で約 1 億 1 千 6 
百万トン=調整後)を 1%程度上回るものとみられる(クオータ制度の下で出荷
された生乳は、年度の終了後、乳脂肪率3.7%を基準として生産量の数値調整が
行われることから、実際の生産量と異なる)。なお、暦年ベースによる98年の生
乳生産量も、ほぼ前年並みの約 1 億 1 千 3 百万トン(暫定値)となった。


主要国ではイギリス、デンマークを除く各国がクオータを上回る可能性

 98年4月〜99年1月の主要国の生乳生産量は、昨年、これまでの課徴金の徴収
を怠っているとしてEU委員会に告訴されたイタリアが、前年同期比1.6%増の約8
45万トンとなった以外は、ほぼ前年並みもしくは減少となった。特に、昨年の一
人当たりの牛乳・乳製品消費量の減少が報告されているイギリスは、1.5%減の約
1,177万トンになった。

 一方、イギリス、デンマークを除く主要国は、最終的にクオータ数量を超過し、
課徴金を支払う可能性が高い。EUの生乳生産の 4 割以上を占めるドイツおよびフ
ランスでは、域内・外への乳製品輸出の好調が伝えられている。この他、スペイ
ンやオーストリアがクオータを超過する見込みにある。

EU主要国の生乳生産量(98/99年度)
mi-eu05.gif (3853 バイト)
 資料:ZNP、Agra Europe「コンサルタント情報」
 注 1 :暫定値。15カ国の数値は、98年 4 月〜99年 2 月の累計、各加盟国の数
    値は98年 4 月〜 1 月の累計。
   2 :クオータ数量は、乳業メーカーへの出荷ベース。


今回合意のCAP改革では、総計2.4%の増枠

 クオータ制度は、EU予算の半分を占める共通農業政策(CAP)予算の増加を防
ぐため、84年度から導入され、オーストリア、フィンランド、スウェーデンが新
規加盟した95年度以降は、ほぼクオータ数量が固定されてきた。こうした中で、 
3 月26日のEU首脳会議で最終合意されたCAP改革では、クオータは、2005年度か
ら加盟国へ1.5%の増枠が行われる。ただし、酪農家からクオータ増加の要求が
強く行われていたイタリアやスペイン、その他ギリシャ、アイルランド、イギリ
スの北アイルランド地域については、20年度および2001年度でこれを上回る増枠
が行われる。この結果、総計で2.4%の増枠(全体で約 1 億 2 千万トン(酪農家
の直接販売クオータを含む))が行われることになる。なお、1.5%の増枠は、
バターおよび脱脂粉乳の介入価格15%引き下げなどと併せて3年間で段階的に行
われるとみられる。

 しかし一方で、クオータ制度はその将来の存続について、2003年までに見直す
こととされた。今回のCAP改革協議で、イギリスやデンマークなどは将来的なク
オータ制度の廃止を求めていたことから、今後、これをめぐり激しい議論が行わ
れると予想される。クオータ制度は、EUの酪農政策の根幹部分であるだけに、
その動向が注目される。

元のページに戻る