デンマーク酪農における畜牛データベースの利活用について

社団法人 中央畜産会 事業第一統括部 情報業務主幹 渡部 紀之




1 はじめに

 農畜産業振興事業団は、社団法人中央酪農会議、社団法人家畜改良事業団およ
び社団法人中央畜産会の 3 団体と、畜産情報ネットワーク(以下「LIN」と言う。)
協議会を組織し、平成 8 年度よりインターネットを利用して情報提供を開始して
今日に至っている。

 現在LINには、農林水産省畜産局、家畜改良センター、各都道府県および畜産関
係の中央団体等が順次加わり、平成10年度末には83の団体、関係機関等による一
大情報ネットワークが出来上がっている。

 現状にあっては、各団体はホームページ等の開設を行っている途上にあり、統
一的なネットワーク運営には至らず適時、的確な情報提供になっているとは言い
難いが、近い将来には最新の畜産経営関連情報を含む総合的な畜産関連情報を提
供する体制は出来上がるものと思われる。

 また一方では、畜産経営にとっては外部から伝達されてくる情報のほかに、自
らの生産物等に関連して内部で発生する情報が存在しており、経営規模の拡大や
合理化に伴って家畜等の飼養管理と併せてこれらの内部情報をいかに管理、利用
するか、経営戦略にいかに役立てるかが安定した経営を維持していくためには必
須の条件となってきている。

 したがって、今後のLINの展開は、外部情報の提供のみならず内部情報の処理、
分析を含めた総合的な経営支援についても役立つような仕組みについて検討する
時期に来ているものと思われる。

 このため、LINの事務局メンバーを中心として、経営内部情報をデータベース化
して利活用を行っているデンマークの農業情報システム、特に畜牛データベース
の利活用について調査を行ったので、その概要を報告する。

 なお、紙面の都合等により調査内容のうち、酪農に関する一部についてのみの
報告しかすることができず、特に畜牛データベースを管理運営しているデンマー
ク農業指導センターなどの農民組織、デンマーク農業科学研究所を中心としたイ
ンターネットを利用した農業情報システム(Dina)および養豚関係等については
割愛せざるを得ないので、これらのことについて知りたい読者は、社団法人中央
畜産会発行の「畜産コンサルタント」(平成11年 3 月号以降 4 回連載予定)また
は平成10年度先進的畜産経営・技術実態調査報告書「デンマークにおける農業情
報システム」を参照していただきたい。


2 畜牛データベース(CDB)が作られていった経緯

 デンマークの農業は中世から農業共同体であり、共有地について協同自治が行
われ、1805年には地方農民組合(以下「LFU」という)が誕生している。

 19世紀半ばの農業恐慌、およびドイツ・オーストリアとの戦争に敗れ、耕作適
地をドイツに割譲したことが契機となって、1870年代に麦を中心とした耕作農業
から畜産農業への転換を図る農業革命が起こり、同時に農民の自発的運動として
農民組識設立へと展開していった。

 1882年に最初の酪農協同組合が、1887年にはベーコン加工協同組合が設立され、
その後これがモデルになって他の分野についても続々と協同組合が誕生すること
となり、続いてこれらの全国組織である連合会が組織されるとともに、1893年に
はLFUの全国組織であるデンマーク農民同盟(以下「DFU」と言う。)が誕生し、
支援指導サービスが開始された。

 このような農民の組織化の動向と呼応して情報化の取り組みも開始しており、
1882年には家畜改良(目標:乳脂肪含有量)のための畜牛群登録(herd book)簿
の作成が開始され、1896年には乳量検定協会を設立して、同様の家畜改良を目標
とした乳量検定(milk recording)を世界で始めて導入している。

 その後、1907年には乳量検定による、乳量、乳脂肪量、飼料消費量の記録とあ
わせ農場全体の財務会計の記録を記帳、管理、利用する経営管理システムが導入
されるとともに、これらについての支援指導サービスを行うため、栽培学、農業
経営学および農政学の専門家がアドバイザーとして雇用されている。

 1936年に牛への人工授精が導入され、第二次世界大戦直後の1945年には人工授
精協会(以下「AI−S」と言う。)を設立するとともに、テスト・ステーション方
式による牛の後代検定が開始されている。

 1950年代に入ると、経営者は家畜への給餌計画作成を支援する民間コンサルタ
ントを利用し始めており、作業の合理化、効率化と併せて積極的に専門家を利用
する、外部化という考えが芽生えている。

 1960年代には、LFU、家族農民協会(FFA)(1910年設立、小規模農家の組合)
がこれらのコンサルタント業務を継承して行き、農民組識が積極的に経営の外部
化に対応している。

 農業経営規模拡大に伴って、経営内で発生するデータ処理が増大しだしたこと
から、これらをコンピュータで処理するため、1962年にデンマークと畜場連合
(DS)、デンマーク酪農委員会、DFU、デンマーク家族農民協会および農業評議
会の5団体によって農業電子計算センター(以下「LEC」と言う。)を設立し、コ
ンピュータによる乳検データ処理を開始している。

 1965年には、AI−Sがコンピュータによるデータ処理を開始している。

 その後、1972年に乳検システムが乳量検定協会から全国養牛委員会(NCCH)
に移管するとともに、乳検と人工授精(以下「AI」という)を組み合わせた品種
改良と生産管理のためのシステム開発を行い、牛の各個体単位で濃厚飼料、粗飼
料の給与量を指示する、基本給餌プログラムを完成させている。

 1976年には、この改良版である拡張給餌プログラムを完成させ、授精、妊娠お
よび分娩の記録とともに、 3 年間にわたる飼料需給予測および分娩予測を行える
ようになった。

 以上のような、品種改良、生産管理のための個体識別については、当初は外観
に基づくもの(斑入りの牛は図面を利用)や、焼き印、耳端のノッチング(切込
み)、刺青等が順次利用されていたが、基本的には群単位内での識別であり、家
畜の移動に伴う境界線を越えて利用することはできなかった。したがって、これ
らのシステムの下では、乳量検定協会の番号、協会会員の番号および雌牛の番号
を加えないと完全な識別にはならなかった。

 このような識別方式を、単純化し移動が伴う場合でも識別が可能な方法として、
1982年に全国養牛委員会は、家畜が生まれてから死亡する(と畜される)まで生
涯変わらない固有の番号を所有させるCKRと呼ばれる牛個体登録システムを導入
した。

 1973年にEUに加盟したデンマークは、1984年に始まったEUの生乳生産割当制度
をデンマーク国内で適用するため、割当数量を乳業工場単位、個別農家単位割当
てる方式を採用するとともに、それらを管理する目的から個別に展開してきたそ
れぞれのコンピュータ処理を一元化するために、畜牛データベース(以下「CDB」
と言う。)を完成させている。また、CDBの中に拡張給餌プログラムをさらに発
展させた、飼料給与量を算定するに当たり飼料単位を使用する戦略的給餌システ
ムを導入している。

 翌1985年にはAI−SからAIに関するデータベースを移管し、新たな品種改良シス
テムを導入するとともに、それまで行ってきた乳脂肪含有量に乳たんぱく含有量
を加えた乳質評価プログラムを導入した。

 1993年、デンマーク農業省は、政府としての国内家畜の識別と登録のための中
央家畜登録(以下「CHR」と言う。)システムを導入することを決定し、牛のほ
かに、羊および山羊に個体識別番号が付されることになった。なお、CKRで登録
される個体識別番号およびそれに付加される情報のうち、必要とするデータは政
府のデータベースにも同時に格納されるシステムとなった。

 1997年にEUは、牛海綿状脳症(BSE)の拡大を阻止するため等の防疫上の観点か
ら、牛個体識別および牛肉産地等表示制度の導入を決定し、加盟各国は20年まで
に同システムの導入を行うこととなり、これに伴ってCHRへの登録を義務化した。

【100〜400年前のデンマーク農業を再現した野外博物館(Hjierm)】
●写真●

3 畜牛データベース(CDB)

 CDBは、牛群登録、乳量検定、AIの記録システム、飼料設計システム、個体識
別および乳量割当配分等のシステムが歴史的過程を経て集積されて完成したもの
であり、牛に関するデータベースとしては、デンマーク国内で唯一のものである。

 データベースの中には、農家が飼育している牛に関するデータ、人工授精師か
らのデータ、乳量検定からのデータ、乳質検査のデータ、と畜場からのデータお
よび獣医師からのデータ等のさまざまなデータが入っている。

 驚いたことには、削蹄のデータまで入っている。

 担当者が、「政府の所有する国民に関するデータベースより詳しい」と自慢す
るのもうなずける。

 図− 1 は、CDBを中心とした、その利活用を表した模式図である。

 例えば、酪農における飼養計画の中の繁殖について説明すると、おおよそ次の
ようなものである。

 農家で飼育されている乳牛個々の状態に関するデータは、牛群登録を通じて、
いつ出生し、出生がどのような状態だったか、母牛は何回目の出産だったかを含
めてCDBに格納されている。

 個々の乳牛に関する種付のデータは、AIの記録から、いつ、どの種雄牛の精液
を使用したか、何回種付けしたかが、また、妊娠の確認および健康状態のデータ
は、獣医の記録から同様にCDBに格納されている。

 したがって、これらのデータを農家や指導員が農場総合管理システム(以下
「IFMS」と言う。)の牛モジュール(コンピュータ・プログラム)を使用して取
り出せば、農場で飼育されている全乳牛の種付け、妊娠および出産予定、次の種
付け予定、さらには更新、淘汰予定が一覧表として取り出せる。

 このことから群管理、飼料給仕計画等の飼養管理を効率的に行えるとともに、
飼養計画を作成することも可能である。

 また、指導員から指導を受ける場合でも、これらのデータに基づき適切な指導
を受けることが可能であり、獣医の診察を受ける場合も同様である。

 さらに、複雑な問題が発生した場合には、指導員、獣医師および農家が共通の
データによって意見交換を行い、問題解決法を模索するなどその利活用範囲は非
常に大きい。

 CDBには、個々の牛に関するデータ以外にも、さまざまなデータが格納されて
おり、管理が問題になってくる。

 CDBそのもののシステムはDFUおよびデンマーク家族農民協会の指導支援組織
であるデンマーク農業指導センター(以下「DAAC」と言う。)が開発したが、
データベースそのものの所有権は、個々の農家となっている。

  したがって、誰がCDBにアクセスできるかは、農家自身が決定することになっ
ており、どの指導員、どの獣医師という具合に契約により、アクセス権を与え利
用している。

 なお、乳量検定員および人工授精師には、業務の性格上必要部分に限って、自
動的にアクセス権が与えられている。

  また、品質検査会社、乳業工場およびと畜場との間においてもデータのやり取
りが行われているが、これらすべては、農民組織であり農家が所有しているもの
であることから、部分的なアクセス権を与えても問題は生じていないとのことで
あった。
◇図−1:畜牛データベース(Cattle Data Bace)の利活用例◇
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4 畜牛データベース(CDB)へのデータの入力

 図− 2 は、酪農に関するデータの入出力を表したものである。

 農家が所有する家畜登録や異動に関するデータは、農家のコンピュータから直
接LCEのデータベースに入力されるか、あるいは一定の様式に従った台帳へ内容
を記入し、地方農業指導センター(DAACの下部組織、以下「LAAC」と言う。)
に持ち込みタイピングステーション(またはキーボードステーション)の端末機
を利用して、オペレータの手を経て、LECのデータベースに入力される。

 データ入力については、農家の99%は台帳を利用する、いわゆる紙ベースのデ
ータ入力であり、コンピュータから直接入力を行っているのは、わずか 1 %との
ことである。

 ちなみに、コンピュータの農家への普及率は50%以上に達しており、一般家庭
への普及率とそれ程差がないとのことであった。

 なお、普及はされつつも実際の農業分野での利用率は、酪農で10%、養豚で35
〜40%程度であろうとのことであった。

 コンピュータがかなり普及しそれなりに利用はされていても、データ入力は面
倒らしい。

 したがって、農場での効率を上げるためには、対価を払っても入力してくれる
ところがあれば、そこに任せるというのが実態である。

 それと見逃せない点は、データ入力を確実に行わないとデータベースの利用価
値が落ちる点である。

 タイピングステーションでは、専任のタイピストが集まったデータを入力して
いるが、 1 日の仕事の内容は次の通りであった。
 ・タイプ入力が、 2 時間程度
 ・入力内容のチェックが、 2 時間程度
 ・農家等に対する問い合わせと修正が、 3 時間程度

 農家との問い合わせ等に時間が一番多く使われているが、これは、端末機等か
らデータベースにデータを入力すると、データベース内のデータと入力されたデ
ータの照合等が行われ、CKRに登録されていない牛についてのデータであったり、
起こり得ないような妊娠期間での出産だったりと、データベース内容と照合して
初めて誤っていることが分かるためであり、これらについて正しいデータが入力
されるまで、問い合わせや修正を繰り返しているためである。

 このような経過を経て、正しいデータが入力されている。

 以下、CHR(CKR)および乳質検査、乳量検定について具体的な入出力を説明
する。
◇図−2:酪農に関するデータの入出力◇
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【ホルステブロ地方農業指導センター内のタイプリングステーション(CDBの入力
端末機)】
●写真●


(1)中央家畜登録(CHR)

 CHRは、牛個体識別のための登録(CHR)システムを発展させてきたものであ
り、EUの牛個体識別および牛肉の産地等表示制度(以下「牛個体識別制度」と言
う。)導入を機に、デンマークで飼育されている牛の登録および個々の牛への耳
標装着が義務化された。

 なお、牛は生まれてから30日以内に、登録と耳標の装着をしなければならない。

 現在のところ、CKRシステムをそのまま利用していることから、農家番号 5 ケ
タおよび家畜番号 4 ケタの合計 9 ケタのシリーズ番号が用いられている。

 この個体識別番号は、1982年から利用してきたことから20年頃までには使い切
る見込みとなり、1999年 6 月からはそれぞれ1ケタ増やして、農家番号6ケタお
よび家畜番号 5 ケタの11ケタのシリーズ番号を使用することを決めている。

 これによって、今後約200年程度の使用は可能であることから、EUの多くの国
が採用するであろうISOに基づいた12ケタのシリーズ番号の利用は行わないとし
ている。

 もともとEUの牛個体識別制度は、イギリスで発生したBSE伝播の危険性を回避
する目的で、イギリス産の牛がEU各国に持ち込まれても識別が可能な方法として、
制度化されたものである。

 デンマークでは、一見して識別できるように耳標に数値を用いることのほかに、
耳標の色を変えており、デンマーク生まれの牛は黄色、イギリス以外からの輸入
された牛は赤色、イギリスから輸入された牛は青色の耳標が取り付けられている。

 なお、耳標は、脱落等によって一方を喪失しても再発行できるように、両耳へ
の装着が義務付けられている。

 現在、デンマークには青色の耳標をつけたイギリス産の牛が98頭飼育されてお
り、獣医局に登録されているとともに、処分時には報告が義務付けられ、また、
処分には獣医局から検査官が出向き、脳とせき髄についてBSEの検査を行い、病
気の有無にかかわらず焼却処分されるとのことである。

 家畜登録の全体の仕組みは図− 3 の通りとなっており、EUの家畜登録(ANIM
O)にも連動している。

 牛が、EU各国に輸出される場合は、個体識別を利用した輸出証明書(担当者は、
パスポートと呼んでいた)の添付が義務付けられており、白血病、ブルセラ病、
結核病(TB)、牛伝染性鼻気管炎(IBR)および牛ウィルス性下痢症(BVD)フリ
ーの証明も必要なことから、CDBから発行される。

 証明書は、請求の翌日あるいは翌々日までに生産者には郵送で届けられる。

 なお、CHRはEU制度によって義務化されたが、もともとの牛個体識別(CKR)は
登録および乳量検定やAIの記録のために利用されてきたものであり、CKR(また
はCHR)番号を基準としてこれらの記録がデータベース化されている。

 したがって、個々のデータ(レコード)は、記録の単位(乳質、種付け、と畜
成績、獣医診療)でそれぞれにデータベースに格納されていても、CKR番号を用
いることでそれぞれのデータを結合することが可能であり、牛個々の単位で関連
するすべてのデータ、または農家単位でのすべてのデータを引き出したり、それ
らのデータを相互に関連付けて処理加工することで、新たな情報を取り出すこと
も可能である。
◇図−3:家畜登録(個体識別)の仕組み◇
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(2)乳牛の家畜登録(CHR)の入力項目

 乳牛の家畜登録に関しては、台帳形式のCHR記録簿に異動の内容を記入し、LA
ACのタイピングステーションへ異動のあった日から15日以内に提出することにな
っている。

 提出は、郵送、FAX、Eメール、持参のいずれの方法でも受け付けられる。

 内容は「子牛生産と分娩状態記録」および「繁殖と売却等の異動記録」の 2 つ
に分かれており、記録する項目は、

・基本データとして、農場主名、住所、農家番号(CKRの最初の 5 ケタ)
 子牛生産と分娩状態記録には、

・母牛のCKR番号(自家生産牛の場合は、家畜番号( 4 ケタ)のみであるが、他
 からの導入牛の場合は、9ケタのCKR番号)

・異動のあった年月日

・出産した子牛の性別、出産回数、出産の状況(安産、難産、獣医師介護の有無、
 帝王切開)

・生まれた子牛のCKR番号( 4 ケタ)、子牛の出産状態(正常、早産、死産、中
 絶、奇形等)

・子牛の生誕時体重の項目があり、数値あるいは該当項目へマークを記入するこ
 とで、記入の簡略化が図られている。
 双子生産や、受精卵移植の場合でもこの様式で記録が行える。
 繁殖と売却等の異動記録には、

・乳牛のCKR番号(記入方法は、母牛の場合と同じ。)

・異動のあった年月日

・体重、繁殖記録(ドライ、AI、妊娠、発情開始、発情終了等)、種雄牛のCKR
 番号または血統書番号

・導入(年月日)、売却等(年月日)、死亡(年月日)、他用途へ(年月日)、
 輸出(年月日)、価格

・疾病の状態(コード化されている。)

・異動のあった牛のCKR番号(記入方法は、母牛の場合と同じ。)
 の項目があり、記入の方法は上記と同じである。


(3)品質検査等のデータ入力の仕組み

 生乳の品質検査等の仕組みは、図−4の通り行われている。

 乳代用のサンプルは、各農家の貯乳タンクから週 1 回、65ミリリットルのサン
プルが採取される。

 サンプルを採取した容器には、どこから採取したものかを識別するためのバー
コードが印刷されたシールを貼付しているが、一瞥してそれと分かるように貯乳
タンクの横壁160センチメートルの高さにシールのカートリッジを取り付け、そ
こからシールを 1 枚引出して貼付するなどの細かな決りもある。

 農家からのサンプルは、集乳タンクローリーによって乳業工場まで運ばれ、タ
ンクローリーから採取されたサンプルと併せて、ステイン検査会社(有限会社で
あるが農民組織)に移送される。

 タンクローリーには、10〜12軒分の生乳が混合されて乳業工場に運ばれるが、
受乳検査でサンプル中から抗生物質が見つかった場合は、廃棄処分となるほか、
2日間は乳代の支払が行われず(規定では、抗生物質が入っていると疑われる乳
量の 2 倍の金額をペナルティーとするとなっている)、乳業会社から3千クロー
ネ(約6万円:1クローネ=約20円)のペナルティー、および集乳農家グループ
から2千〜5千クローネ(約4万円〜10万円)のペナルティーが科せられるとい
う、厳しい制裁がある。

 なお、タンクローリーのサンプル検査は、毎日行われる。

 乳代用の検査は、 4 種類のバクテリアをバクトスキャン(BactoScan)、およ
び乳脂肪、乳たんぱく、体細胞数、尿素および氷点についてはコンビホス(Com
biFoss)という 1 つの自動分析器を使用して行われ、分析結果は通信回線を使っ
て自動的にLECのCDBに送られる。

 したがって、品質検査結果表と乳代計算書はLECから発行される。

 乳量検定用のサンプルは、乳量検定員によって搾乳牛1頭1頭から1乳期(30
5日間)当たり11回のサンプリングを行っており、1回当たり28ミリリットル(朝、
夕14ミリリットルずつ)のサンプルを行っている。なお、移送には保冷剤入りの
サンプル容器10個(10頭分)を1カートリッジに入れ、 5 カートリッジを 1 コン
テナ(小型の箱)に入れて、ステイン社に搬送している。

 乳量検定員は、1頭ごとの乳量および必要事項を様式に従って記入するととも
に、記入の順番にサンプルをカートリッジに納め、カートリッジには検定員の番
号および農家番号を記入したシールを貼付している。

 カートリッジ詰めおよびコンテナ詰めには、詰め方のルールが決められており、
例えば28頭の搾乳牛からのサンプルは、カートリッジ 3 本を使い、サンプル容器
を順に詰めて行き最後に 2 個の空容器を入れて、必ず1農家当たりではカートリ
ッジ単位で容器詰めを行っている。

 シールは、最初のカートリッジの左端に 1 枚貼付するだけである。

 次の農家でも同様にサンプル容器をカートリッジ単位でサンプルを詰めて行く
が、カートリッジを 5 本使用した場合は、コンテナ単位で詰めて行くと、2本は
次のコンテナに詰められることとなる。

 この場合、シールは最初の 1 本目と次のコンテナに詰められた 1 本目に番号と
ともに、カートリッジが連続していることを表わすために、(A)、(B)と区分
記号を入れる。

 ステイン社では、このサンプルを連続式の自動分析器にかけて、乳脂肪、乳た
んぱく、体細胞数、尿素の一部および農家希望項目の分析等を行ってゆくので、
この方法でも間違いなく整理して分析結果を出せ、結果のデータは乳代用の結果
と同様に、通信回線を使って自動的にLECのCDBに転送される。

 一方、検定員からの乳量検定記録表は、全国15ヵ所にあるLAACのタイピング
ステーションに持ち込まれ、容器詰めの順番に乳量検定用のデータがCDBに入力
される。

  2 つの方法で入力されたデータは、CDBの中で 1 頭ごとの情報として整理され、
農家単位で集計されて検査結果報告書が作成される。

【ステイン検査会社の自動品質分析機】
●写真●

◇図−4:生乳の品質生産検査システム(乳代支払い用、乳量検定用)◇

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5 畜牛データベースから出力される分析結果

 IFMSを利用して処理加工、分析等を行い、生産管理や指導用の情報データを出
力し、利用することができるが、先の説明のように農家段階でのコンピュータ利
用がそれほど普及していないこともあり、大半の農家は次の方法により情報デー
タを入手している。

 情報データが必要な場合は、LAACの担当指導員やタイピングステーションで
申込むか電話によっても受け付けてもらえる。

 情報データは、毎週、検査ごとおよび毎月定期的に、あるいは必要に応じて不
定期にLECから郵送により入手できるほか、ファックスでも入手することが可能
である。

 なお、ファックスによるサービスを利用できる者は、農家と獣医師に限られて
いる。

 また、以上のような紙ベースの方法以外にも、LECと直接コンピュータ通信を
行える環境にある者(農家、LAACおよびDAAC等)は、当然のことながらコンピ
ュータを利用して入手することは可能である。

 出力は、すべてIFMSのモジュールを利用して行われており、主なものは次の通
りである。

○生乳年度における生産リスト

 生乳年度は、10月 1 日に開始し翌年の9月30日に終了する。

 このリストの目的は、農場内の年度内における生乳生産量、子牛生産に関する
実績と周辺地域の平均値とを比較することによって、経営内容の善し悪しを検討
するためである。

 出力内容は、

・農場内の経産牛の品種別構成

・平均生産量として、生乳量(kg)、乳脂肪含有量(%、kg)、乳たんぱく含有
 量(%、kg)および各項目についての地域平均値

・子牛生産に関して、初妊、それ以外に分けて、出産頭数、死亡/死産頭数、出
 産の状態、誕生子牛の状態および各項目についての地域平均値

・農場評価として、平均出産間隔(日数)、 1年 1 頭当たりの出産頭数、初妊牛
 出産月齢、雌牛の平均月齢、死亡/死産割合および各項目についての地域平均
 値

 また、個々の搾乳牛の成績として、CKR号、育種指数(Y,Sインデックス)、子
牛生産年月日、経産回数、出産間隔(月数、日数)、生乳量(kg)、乳脂肪量
(kg)、乳たんぱく量(kg)が一覧表として印刷される。

○生産割当管理リスト

 このリストの目的は、生乳生産量の推移をモニターすることと、生乳生産割当
量と対比することで、出荷量を調整するためのものである。

 出力される内容は

・ 1 給餌日数当たりの熱量換算乳量(以下「EKM乳量」と言う。)(kg)の月別
 前年対比グラフ

・月別の乳脂肪率、乳たんぱく率およびたんぱく脂肪比率

・月別の生乳出荷割合、子牛生産数、導入頭数、処分頭数

・生産目標としての割当乳量

・搾乳牛区分(初産牛、その他牛)別、搾乳日数( 0 から20週、21週以上)区分
 別の搾乳牛頭数および生乳生産量(kg)、乳脂肪(%、kg)、乳たんぱく(%、
 kg)およびEKM乳量の目標値と実績値

・過去12カ月の総生乳生産量(kg)、乳脂肪(%、kg)、乳たんぱく(%、kg)と
 割当量達成率
 が一覧表として印刷される。

○体細胞数管理リスト

 出荷生乳の乳質保持や乳房炎の予防にとって、生乳中の体細胞数の変化を調べ
ることは非常に重要なこととなっている。

 したがって、乳牛個体別および農場全体の体細胞数の変化を調べることで、問
題のある乳牛を放置しておくことなく、また、体細胞数を改善するために利用す
るリスト(図− 5 )である。

 出力内容は、

・検査年月日別の貯乳タンクの体細胞数

・搾乳牛ごとの、過去 6 カ月間の指数化した体細胞数の推移、最終検査日におけ
 る体細胞数、経産回数、搾乳日数、EKM乳量(kg)等

・基準となる体細胞数との比較による、乳房炎の可能性の判定

・体細胞が増加した乳牛の割合および乳房炎の可能性に関するグラフ表示が一覧
 表として印刷される。

○生産管理目標リスト

 生産性の改善を行うためには、主要項目について目標値を設定し結果と対比す
ることで、改善努力を評価することを目的としている。

 目標値は、全国平均の10%改善を基準として、農家が個々に設定を行う。

 出力内容は、

・CKR番号

・生乳生産については、飼料配合システム(FTD)として報告される生産水準の
 標準泌乳曲線に合わせた、1日当たりEKM乳量(kg)、乳脂肪率、乳たんぱく
 率

・食肉生産に関しては、生産区分と1日当たりの増体量

・繁殖に関しては、年間分娩回数、初妊開始月齢、AI開始月齢、受胎率

・保健衛生に関しては、経産牛、体細胞数、出産状態、乳房障害、消化器系・循
 環器系疾病、四肢障害、処分理由および未経産牛、育成牛、乳雄牛については
 上記の該当項目
 について、基準値、目標値、結果が一覧表として印刷される。

○個体別の飼養管理、飼料給餌計画リスト

 生産管理の中で、個々の乳牛の生乳生産量評価、妊娠状態およびそれに合わせ
た飼料必要量を給餌することは、経営にとっても重要項目である。

 出力内容は、各乳牛ごとに

・CKR番号、産数、直近出産年月日、次回出産予定年月日、妊娠判定結果、直近
 検査時点の乳量(kg)、乳脂肪率、乳たんぱく率

・生乳生産割当量および20週平均乳量(kg)および乳脂肪、乳たんぱくの合計量

・必要飼料単位(FEs)(g)

 および、処分予定牛については、その旨のコメントが、出力時点で出産まで56
日以下となっている場合は飼料単位を維持水準で、また出産予定が 8 週以内とな
った乳牛には星印が付されて、一覧表として印刷される。
◇図−5:体細胞数管理リスト◇

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6 酪農家における畜牛データベースの利活用の実態

(1)スナゴー氏

 スナゴー氏の農場は、ホルステブロの街から北方へ車でおおよそ30分程度離れ
た所にある。

 スナゴー氏は46歳、家族は奥さんと子供3人の計 5 人家族である。

 会うことはできなかったが上の子は23歳とのことであったが、家にいた下の子
供は2人とも、年齢は聞かなかったが10歳以下であろうと思われた。

 奥さんが、 2 人とも里子だと説明してくれた。

 デンマークでは、何らかの事情によって親と離れた子供は、施設に預けられる
か里子としてどこかの家庭に預けられることとなるが、里子はごく一般的なこと
らしい。

 日本と異なり、デンマークに限らず欧米では、主婦が農業に従事することはほ
とんどない。

 農家の主婦は、もちろん専業主婦もいるが家計を助けるため外に勤めに出る人
も多いとのこと。

 なお、里子を預かると当局から養育費が支給され、家計にはプラスになるとの
ことであったが、具体的な額は、メモをしていなかったので忘れてしまった。

 スナゴー氏の農場は、もともとは父親が所有していたものを1977年にその半分
を、97年に残りの半分を買い取り、現在はすべてスナゴー氏の所有である。

 なお、畜舎や集乳施設は、97年にすべてを所有したこと、また、有機生産に転
換したことを機に新しくし、フリーストール・パーラーを導入している。

 パーラーは、 8 頭ダブルの16頭が入るヘリンボーン式である。

 EUの生乳生産割当量は、乳脂肪率4.05%換算で70万kgとなっており、経産牛一
頭当たりの年間平均乳量は、乳脂肪3.95%で8,500kgとのことであった。

 また、経産牛は平均的には3〜4産で更新しているが、最長のものは10産とい
う経産牛も飼われている。

 現在の土地面積は165ヘクタール、経産牛100頭、育成牛を含めた総飼養頭数は
250頭であり、労働力は、酪農部門はスナゴー氏と常雇いの使用人1人の計2人で
行っており、畑作については実習生 1 人に任せているとのことであった。

 1994年から有機に転換し、97年 1 月からは全量オーガニックミルク(有機牛乳)
として出荷しているとのことである。

 有機生産のため、畜舎内のフリーストールには麦稈等の敷わらが使用されてお
り、敷わらの交換は年 2 回であるが、毎日 8 〜10キログラム梱包のものを 3 個
追加している。

 粗飼料は、大麦とえんどう豆の混合サイレージや小麦サイレージに濃厚飼料と
してビートペレット、菜種カス、大豆カスを加えたもの、さらに添加物として糖
蜜やミネラル、消石灰を利用し、 1 日1頭当たり19飼料単位を与えている。

 したがって、有機生産であることを考えると、先の平均乳量は驚異的な数値に
思われる。

 なお、デンマークでは、畑作生産と結びついた畜産が行われており、家畜から
出るふん尿はすべて畑地に還元していること、自分の畑地で生産される飼料を使
用していることから、有機生産を行うことは容易とのことであった。

 スナゴー氏の農場管理におけるコンピュータ利用は、1993年にCDBを利用する
ためにIFMSを導入したことから始まっている。

 IFMS導入の最大のメリットは、発情、種付けおよび妊娠についての確認やその
飼養管理が容易に行えることだと言う。

 繁殖管理については、AI−Sを利用しているので、種付けや 5 週目の妊娠確認
はCDBからデータを取り出し、週 1 回の単位でAI台帳、繁殖台帳として一覧表を
印刷し、毎日確認できるよう掲示板に貼り利用している。

 乳量検定については、検定補助員が台帳に記入してLAACのタイピングセンタ
ーからCDBに入力されており、乳質についてはステイン社から直接CDBに入力さ
れている。

 経産牛のすべては乳量検定を行っていることから、個々の乳牛のデータはすべ
て記録が行われている。

 獣医に関しては、診断や投薬について記録台帳に記入を行っているほか、CKR
等についても、異動があるたびに様式に記入してタイピングセンターからの入力
を行っている。

 農場全体の飼養管理に必要なデータについては、月 1 回フロッピーでLAACか
ら供給を受け、IFMSで処理し利用している。

 なお、飼養管理上必要なものは、一覧表を印刷し事務室の壁や畜舎内の掲示板
に張り出してあり、本人はもとより使用人も見ることができ、管理に遺漏のない
ように配慮がされている。
 
また、指導員からの指導を受ける時や相談をする時は、指導に必要な一覧表を
持参してLAACに出向くか、指導員のコンピュータを利用してCDBから必要なデ
ータ等を取り出して指導を受けている。

【スナゴー氏の牛舎内部(左、搾乳牛、右、子牛)】
【スナゴー氏(中央左)と奥さん(左)】
●写真×2●


(2)ニールセン氏

 ニールセン氏の農場は、ホルステブロの北東、車で20分程度離れた所に位置し
ている。

 スナゴー氏の農場調査後、奥さん手作りのケーキ( 2 種類)とコーヒーで歓待
を受けたため、ニールセン氏の農場訪問は予定より 1 時間以上も遅れ辺りは既に
夜のとばりの中、ほとんど真っ暗の状態で外観等は確認できなかった。

 経営内容は、1981年に酪農を開始し、現在は経産牛60頭、更新牛、雄子牛を含
めた全飼養頭数115頭、および畑地面積は90ヘクタールとのことであった。

  1 頭当たりの年間平均乳量は、8,300kg、乳脂肪4.21%、乳たんぱく質は3.43%
であり、ホルスタインとしては乳脂肪率が高いのが特徴である。

 1997年に有機生産に転換を開始し、99年中には畑作物、飼料作物を含めてすべ
て有機生産にできるとのことであった。

 畜舎内は、まだ有機生産の条件は整備されておらず、スタンチョン方式で床は
スノコ状の構造となっており、ふん尿を受ける床下の構造は、幅50センチメート
ル、深さ125センチメートルの非常に深い傾斜溝という特殊な構造となっている。

 深い溝の中でふんと尿は分離し、ふんは厚い上層部を形成し自然発酵し、尿は
下層部に潜り込んで行くとともに、傾斜溝を伝わって畜舎の中央部からスラリー
タンクに集められる。

 現有のスラリータンクは、1,200立方メートル貯蔵することができる。

 スラリータンクには、18万クローネ(約360万円)かかったが、30%は補助金
で賄われている。

 なお、スタンチョンやスノコ床は、有機生産の条件から外れるので、99年中に
は改築が必要とのことであった。

 時間がなかったことから、これ以上の経営状況についての話は聞くことができ
なかった上、家族構成や年齢まで聞き忘れてしまった。

 コンピュータについては、飼養管理や経営管理のすべてに利用している。

 コンピュータ利用に踏み切った動機は、LAACで利用しているのを見て興味がわ
いたため、1991年にIFMSのモジュール一式を購入し、CDBの利用について 3 週間
のトレーニングを受けたとのことである。

 IFMSの中では、飼料設計に興味があるのでCDBから搾乳牛単位の飼料必要量を
取り出し、搾乳牛のタイプ、乳脂肪率、乳たんぱく質から、サイレージ、大麦わ
ら、大麦等の穀物、菜種かすおよびミネラル等の配合割合を計算して、1頭1頭給
餌しているが、穀物等の濃厚飼料については、コンピュータに連動している自動
給餌機を利用している。

 財務会計管理については、経営モジュールを利用してキャッシュフローベース
で、予算管理や収支計算ができるので、農場全体の運営状況を掌握することが可
能とのことであった。

 その他、全経産牛について乳量検定を行っているので、乳量検定を行うたびに
データは台帳に整理して、必要な場合は一覧表に打ち出して利用している。

 なお、LAACの組合員の条件で、AIに関してLAACの育種指導員に対して、およ
びかかりつけの獣医師に対してはCDBからデータを引き出して利用することを認
めている。

 CDB用のデータは、すべて自分で入力してフロッピーに入れてLAACのタイピ
ングステーションに持ち込んでいたが、最近モデムを購入したので通信が可能と
なったことから、これからは、LECに直接データを送信するとのことであった。

 以上のような経営管理を行えることで、ある程度収入を上げることができたこ
とから、農場管理に使用人を雇うことができ、1日平均2時間程度、長いときは
5、6時間コンピュータと向き合うことができると、ニールセン氏は笑って答え
てくれた。


7 おわりに

 デンマークにおける農業情報システムは、その長い歴史の中から必要に応じて
開発、修正および改善が加えられて現在の姿になっているが、現在でも内容の充
実や使い勝手を目指して常に改良が行われている。

 今回の調査で接したこの農業情報システムにかかわる多くの方々から受けた印
象は、システム開発等における思考の基点を常に農業およびそこに携わる人々を
どのようにして支援、指導していくか置いており、プロフェッショナルとは何か
ということに真しに取り組んでいると感じられた。

 この報告書でも説明してきた通り、コンピュータの利用、データの整理、分析
等のシステムについては目新しいものは何も無いが、農業経営を支援して行くた
めに必要と思われる項目はすべて網羅され、生産者および指導者の双方のプロフ
ェッショナルが共通して利用できるものとなっており、また、それぞれ個々の立
場でも利用できるものとなっている。

 このことは、非常に重要なことを意味しており、往々にしてシステムを作って
行く場合は、組織の都合や目新しさ等を求めて独善に陥り易いが、このことをい
かに排除し生産者の立場に立って開発してきたかを物語っている。

 顧みて、日本の畜産にはこのようなデータベースがないかというと、家畜登録、
乳量検定、生乳および子牛の不足払い制度、経営診断システム、人工授精、家畜
共済、食肉格付け等はそれぞれに機能しており、既に相当な部分はコンピュータ
を利用してデータベース化が行われ整理分析されている。

 問題は、それぞれそこに係わっている者の意識が、何に重点を置いてシステム
を構築し、誰が利用するように作ったかということではないだろうか。

 この結果、国際化が進展する中で、競争力を増すため効率化、合理化を強いら
れ、畜産業を営む生産者の数が大きく減少してきている中で、1人の生産者に多
数の者が色々なことを言う仕組みだけが残ってしまっているのではないだろうか。

 個々の生産者にとって経営は1つであり、それに関する情報も発信源は 1 つで
ある。

 その情報が整理分析され、生産者に戻される場合も 1 つの体系として戻らなけ
れば、個々の情報は寸断され、断片情報の集まりでしかない。

 断片情報をいくら集めても、本来の経営の姿に戻す事は不可能なことであり、
場合によっては方向性を危うくする恐れさえある。

 歴史的背景も異なる上、生産体系やその周辺環境もまったく異なり、置かれて
いる状況も異なっていることから、今回の調査内容をそのまま現状の日本に当て
はめることは困難ではあるが、現有の情報システムやデータベースを体系付けて
まとめて行くことは可能であり、関係者が協力し連携を図って行けば、日本とし
ての畜産に関する総合的なデータベースを構築することは困難なことではないと
思われる。 

 そのためには、このデンマーク農業情報システムを参考とすべき点は多い。

【コペンハーゲンの街中でみつけたチーズ専門店】
●写真●

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