EU首脳会議、共通農業政策改革案に合意(EU)


内容は一部修正

 EUの実質的な最高意志決定機関であるEU首脳会議は 3 月26日、共通農業政策
(CAP)の改革に合意した。これで97年から始まった改革の検討に終止符が打た
れた。11日にEU農相理事会でようやく合意された改革案に比べて予算規模が圧縮
されたため、改革内容は一部修正されている。


予算が議論の焦点、年平均予算405億ユーロに凍結

 EU委員会は97年 7 月、「アジェンダ2000」と名付けられた政策パッケージを発
表し、財政改革、構造政策改革などと並んでCAP改革を提案した。以来、98年3月
のCAP改革案の正式提案を経て、約2年にわたる検討、調整がようやく決着した。
この間、地域に密着したヨーロッパ型農業の維持強化や国際競争力の強化に向け
て、多くの政策論議が交わされてきたが、 2 月から大詰めを迎えた合意に向けて
の調整作業では、予算をめぐる議論に焦点が移った。

 緊縮財政の実現を目指すEU蔵相理事会が、向こう 7 年間で、EU予算の5割を占
めるCAP予算を現状の実質405億ユーロ(約 5 兆 3 千億円:1ユーロ=132円)/
年(総額は、2,835億ユーロ:約37兆4千億円)に凍結する案を打ち出した。加盟
国首脳もこの案に傾く中で、農相理事会では、これをわずかに上回る実質2,898億
ユーロ(約38兆 3 千億円)で改革案に合意した(本誌「99年 4 月号」トピックス
参照)。

 首脳会議では凍結案が採択され、年度によって予算額に変化はあるものの、7年
間の年間平均実質予算額は405億ユーロに凍結され、予算枠を実現するため、農相
理事会案そのものに修正が加えられた。直接所得補償支払いの段階的引き下げな
ども検討されたが、採択されなかった。


酪農分野:改革開始時期が2005年度に延期、牛肉分野:緊急買い上げの裁量余地に広がり

 酪農分野では、改革の開始時期が2005年度に延期された。ただし、イタリアや
スペインなどへの生乳生産割当(クオータ)の特別増枠は、農相理事会案通り20
年度から実施される。改革開始の時期をめぐっては、EU委員会は20年度を提案し
ていたが、農相理事会案では歳出削減を理由に2003年度からとされていた。なお、
バターおよび脱脂粉乳の介入価格引き下げなどは2005年度から段階的に実施され
るものとみられている。

 牛肉分野では、現行の介入買い上げ制度を廃止し、民間在庫補助制度を導入し
た後(2002年 7 月)も、市場が緩和する恐れのある場合には、緊急介入買い上げ
を行うことができることとされた。域内の市場価格が発動(トリガー)価格1,560
ユーロ(約20万 6 千円)/トンを下回った場合に緊急買い上げを実施するという
農相理事会案が存続するか否かは示されていないが、いずれにしても、トリガー
価格を示すことなく介入買い上げの余地を残したことにより、買い上げ措置の運
用に当たっての裁量余地が広がった形である。


成果は今後のEU農業の展開やWTO次期交渉で明らかに

 このほか、EU委員会に対して、歳出額が年間平均予算額を超えないようさらに
歳出削減を実施し、2002年には歳出状況を農相理事会に報告するとともに、必要
に応じて改革案の提出を求めている。
合意内容を踏まえた改革案の法制化は既に始まっており、 5 月には成立するとの
見方が有力である。

 酪農分野の改革開始時期の繰り延べ、牛肉介入価格の引き下げ幅の圧縮など、
最終合意案はEU委員会の当初案から、かなり離れたものとなった。これを後退と
見るかどうかは、今後のEU農業そのものの展開、あるいは世界貿易機関(WTO)
次期交渉などを通じて明らかになろう。

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