混迷を深める米国・EU間のホルモン牛肉紛争(米国)


80年代後半から続く米国・EU間のホルモン牛肉紛争

 EUが家畜に対する合成ホルモンの使用を禁止し、ホルモンの投与された家畜お
よびその食肉の輸入を禁止するとの指令が発効されたのは、89年 1 月にまでさか
のぼる。

 この指令発効までの間、米国は、ガットにおける紛争処理手続きを含め、 2 国
間、多国間による紛争の解決を目指した。また、EUの指令等に対して、87年12月、
特定品目の関税引き上げによる制裁措置を発表したものの、交渉による解決を図
るとして、この発表は即座に取り下げられた。しかし、89年 1 月、EUが実際に米
国産牛肉の輸入禁止措置を講じるに及んで、米通商代表部(USTR)は関税引き上
げ措置を発効させることとなった。


WTO紛争処理機関、EUの措置を協定違反と裁定

 95年 1 月、世界貿易機関(WTO)協定および衛生植物検疫措置の適用に関する
協定(SPS協定)の発効後、米国はEUのホルモン投与牛肉の輸入禁止措置に対し
て、公式にWTO紛争処理手続きを開始し、その後カナダがこれに参加した。これ
を受けて、96年 5 月、EUの措置がWTO協定に適合しているかどうかを検討するた
め、WTO紛争処理小委員会(パネル)が設置された。

 97年 8 月、WTOパネルは、EUの措置は科学的根拠に基づかず、SPS協定に反す
るとの裁定を下しており、さらに、98年1月、上級委員会もほぼ同様の裁定を下
した。

 その後、EUはWTO紛争処理機関による勧告および裁定の実施に4年間の猶予を
要請した。しかし、WTO仲裁パネルは、この期間を15カ月で十分であるとして、
99年 5 月13日をWTO裁定の実施期限とする仲裁判断を下している。
 
 こうした中でEUは、今年 3 月に開催されたWTO紛争処理機関の会議において、
現在17に及ぶ追加リスクアセスメントを実施中であり、結果がすべて出そろうの
はWTO裁定の実施期限に間に合わないことを示唆した。


USTR、全81品目の対EU制裁候補リストを公表

 このような経緯を踏まえ、米通商代表部(USTR)は 3 月22日、EUが 5 月13日
の実施期限までにWTO裁定に従わない場合、その制裁措置として100%関税を課す
とし、その対象となる候補品目のリストを公表した。候補品目は81品目に及び、
牛肉、豚肉、家きん肉およびそれらの調製品、ロックフォール・チーズ、トマト
などの食品関係のほかオートバイなども含まれている。最終的な対象品目は、こ
れらの候補品目の中から絞り込まれる。

 このようなUSTRの発表を受けて、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は引き
続き、米政権に対して、WTOの信頼性が損なわれぬようWTOを支持させたいと表
明した。また、USTRの公表した候補品目の輸入総額は 9 億ドル(約1,089億円:
 1 ドル=121円で換算)相当とされているが、NCBAは、少なくとも損失額に相
当する 5 億ドル(約605億円)相当の品目に対して、関税引き上げによる制裁措
置が必要であるとしている。

 米・EU間の貿易紛争は、バナナ紛争に関する制裁措置の発動に加え、ベルギ
ーおよびイタリア産のステンレスに対するアンチダンピング関税の発表もあり、
ますますエスカレートしつつある。

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