連邦政府が酪農改革案を発表(豪州)


総額18億豪ドルの生産者補償

 豪州連邦政府は、9月28日、総額18億豪ドル(約1,278億円:1豪ドル=71円)
の生産者補償措置を柱とする酪農改革案を発表した。

 現在、豪州では、加工原料乳の価格補てん制度、飲用向け生乳の価格支持制度
が、それぞれ連邦政府および各州政府によって実施されているが、連邦政府によ
る加工原料乳制度については、来年6月末で廃止されることが既に決定している。

 このため、業界の代表団体である豪州酪農乳業協議会(ADIC)は、加工原料
乳制度に併せ各州の飲用乳制度も廃止し、すべての生乳取引を完全に自由化する
一方で、必然的な乳価の低下によって生産者が被る所得の減少を一括補償すると
いう包括的な酪農改革案を連邦政府に対し提示していた。


課徴金を財源に酪農廃業者も補償対象

 今回の発表は、ADICの提案に応えるもので、酪農生産者への補償金を柱に、
業界側が提示していた補償額(総額12億5千万豪ドル(888億円))を上回る内容
となっている。酪農生産者への補償額は、98/99年度の生産実績に、飲用向け1
リットル当たり46.23セント(33円)、加工向け同8.96セント(6円)を乗じて算
出されており、酪農廃業者に対しては、1戸当たり最高4万5千ドル(約320万円)
が別途支給されることが新たに盛り込まれた。補償金は非課税の対象とはならな
かったものの、ADIC案の一括払いから8年間の分割払いに変更されたことから、
生産者の税負担が軽減された(借入れの形で一括払いにすることも可能とされて
いる)。

 また、これらの補償金の財源は、小売段階で牛乳販売に賦課される課徴金(11
セント/リットル)によって賄われることになっている。


改革推進に待ったがかかったVIC州

 今回の発表で、酪農改革は大きく前進したものの、先行き不透明な部分も多い。
9月に実施されたビクトリア(VIC)州の総選挙では、優勢とされた与党(連邦政
府と同じく自由・国民両党の連立)が惨敗を喫し、近々実施される補欠選挙の結
果いかんでは政権交代も有り得るという極めて不安定な政治情勢になった。

 同州政府は、これまで酪農改革を積極的に推進してきたが、今回の選挙で酪農
地帯などの地方区で大量の議席を失うこととなった。労働党を中心とする野党は、
この結果を経済優先・地方切捨て政策への批判のあかしと受け止めており、酪農
改革についても見直しを行うべきと主張している。事実、一部の生産者の間には、
酪農改革の犠牲にされることへの不安と反発が広がりつつある。


VIC州の動向を注視

 こうした中で、今回の連邦政府の発表は、酪農乳業界に対し改革推進への固い
意志を改めて示したものと言える。ただし、当該改革案は、すべての酪農規制の
撤廃を前提としているため、VIC州が飲用乳制度の廃止を撤回すれば廃案となら
ざるを得ない。

 一方、来年6月で加工原料乳制度が廃止されることにより最大の損害を被るの
は、加工原料乳生産が主体のVIC州であることから、同州は、連邦政府の補償政
策を最も強く必要としているとも言える。

 今後、VIC州および連邦政府が、この難局にいかに対処するか、目の離せない
状況が続くと思われる。

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