EU委員会、WTO次期交渉への課題を公表


WTO次期交渉は包括的交渉に

 EU委員会は7月、世界貿易機関(WTO)次期交渉へ向けたこれまでの準備の成
果を欧州理事会および欧州議会への提言として取りまとめた。

 本報告書の概要は次の通りである。

 まず、WTO次期交渉の形態については、「次期交渉は、広範囲の事項を含む包
括的なラウンドとすることがWTOメンバーすべての貿易権利を考慮するための最
善の方法と考える」とし、包括的交渉にすべきであるとしている。また、次期交
渉における課題として、次の4つを挙げている。

@貿易自由化、市場アクセス改善の推進による競争相手との条件改善および実質
 的なバランスの確保。この際には開発途上国への特例の継続を考慮

AWTOが国際貿易関係を管理する真の手段になるための多角的な制度の強化

B後発開発途上国育成のための特別活動を含むWTOの開発機能・能力の強化

CWTOが広範な公共的事項および健康、環境、社会的関心などの事項を引き続き
 取り上げること

 また、個別分野(農業、サービス、投資、競争、貿易促進など)について、昨
年の各委員会における議論の成果を反映させるものとして、各分野の交渉目的は
いかにあるべきかを併せて提示している。


CAP改革の実行確保に不可欠な既存条項の維持を求める

 農業分野については、次期交渉における課題として、EUの農業政策の重要要素
が立脚しているWTOの農業に関する協定(以下「農業協定」という)の既存条項
の維持を第1に挙げている。

@「青の政策(ブルーボックス)」の維持

 ガット・ウルグアイラウンド合意において、国内支持は削減対象の「黄の政策
(イエローボックス)」と削減対象外の「緑の政策(グリーンボックス)」に加
え、92年12月の米国−EU間の合意(ブレアハウス合意)を受けて、削減対象から
除外されないものの削減を免除された「青の政策(ブルーボックス)」の3つに
区分された。「青の政策」の対象となるのは、EUの穀物などに対する直接所得補
償と米国の穀物に対する不足払いであった。しかし、米国の不足払い制度は96年
農業法により撤廃され、緑の政策である固定支払制度が導入されている。一方、
EUの穀物などに対する直接所得補償は、99年3月に合意された共通農業政策(C
AP)改革においても穀物に対する政策の柱の1つとして残されている。

A2003年以降の「平和条項」の更新

 現行の農業協定では、削減対象外および削減を免除された国内支持などについ
ては、相殺関税の賦課の対象から除外すると規定されている。当初この規定の適
用期間は6年間とされていたが、93年11月の米国−EU間の合意(第2次ブレアハウ
ス合意)により、適用期間は9年間(95年から2003年まで)として農業協定に盛
り込まれた。

B特別セーフガードの更新

 関税化されており、かつ、特別セーフガードの対象として譲許されている品目
について、輸入数量が発動水準を越えた場合などに、関税を一定率引き上げられ
る措置である。

  この報告書では、域内農業の保護につながる以上の3点について「CAP改革の実
行確保に不可欠である」としている。


積極的な市場アクセス政策を推進

 第2に、農業協定の改善、特に域外市場のアクセスの改善を挙げている。また、
農業協定第20条(注)を考慮する必要があり、国内保護、関税割当管理を含む市
場アクセスに関する問題があることを指摘している。報告書では、「域外国の市
場参加への障害を除去するという観点から、EUは積極的な市場アクセス政策を推
進すべきである」としている。さらにこの点に関連して、輸出補助金や国家貿易
の問題があることにも言及している。


農業の多面的機能を重視

 第3に、農業の多面的機能を考慮した農村・環境政策との両立確保に加え、動
物愛護を含む新たな事項への対応が必要であるとしている。この点については、
同20条の「非貿易的関心事項」に該当し、これには農業の多面的機能の維持、人
間、動物、植物の生命・健康の保護、動物愛護、食品の安全性などや、農業に関
する消費者の関心事項が含まれるとしている。なお、これらの事項は、一般国民
との関連が密接になっており、EUの法律において重要な位置を占めている。さら
に、報告書は食料安全保障のように各国独自の重要事項があることを明確に認め
ている。

(注)農業協定第20条

 一定の用件を考慮して、改革過程を継続するための交渉を実施期間終了の1年
間に開始するとした規定。条文は次の通り

第20条 改革課程の継続

 加盟国は、根本的改革をもたらすように助成および保護を実質かつ斬新的に削
除するという長期目標が進行中の課程であることを認識し、次のことを考慮に入
れて、実施期間の終了の1年前にその課程を継続するための交渉を開始すること
を合意する。

(a)削減に関する約束の実施によってその時点まであられた経験

(b)削減に関する約束が世界の農業貿易に及ぼす影響

(c)非貿易的関心事項、開発途上加盟国に対する特別の、かつ、異なる待遇、
  構成で市場志向型の農業貿易体制を確立するという目標その他全文に規定す
  る目標及び関心事項

(d)これらの長期目標を達成するためにさらにいかなる約束が必要であるか

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