オランダの豚飼養頭数削減計画が中断


リン酸塩削減を目的として豚飼養頭数を削減する「豚生産の再編法」を制定

 オランダ政府は84年以降、地表水や地下水の水質悪化などを防止するため、家
畜ふん尿や化学肥料に起因するミネラル(窒素やリン酸など)の環境中へ排出を
減少させる政策に取り組んできた。同国では南・東部地域を中心に集約的な肉豚
生産が行われているが、環境汚染や過密飼養による家畜衛生などの問題が深刻化
していた。肉豚生産によるふん尿排出量は家畜ふん尿の総排出量の約20%を占め
るが、施設利用型の肉豚生産は自家農地へのふん尿の還元に限度があるため、余
剰排出量(自家農地への適正な還元量を超えるふん尿排出量)について見ると全
体の約3分の2を占めている。このため、豚の飼養頭数を削減することにより環境
汚染物質の1つであるリン酸塩の排出量を2000年までに25%削減するために「豚
生産の再編法」が98年4月に制定され、同年9月から施行された(詳細は本紙98年
12月号「駐在員レポート」参照)。この法律に基づくリン酸塩の削減計画は次の
通りである。

第1段階:98年中にリン酸塩を10%削減(政府補償なし)

第2段階:2000年中にリン酸塩を15%削減(一部を除き政府補償あり)

 リン酸塩削減のために豚生産権が導入され、98年に生産者ごとに95年または96
年の平均飼養頭数の9割に当たる豚生産権を割り当てることにより、第1段階の飼
養頭数削減が行われた。また、2000年1月1日からは、5%の豚生産権一律削減に
加えて、政府が生産者から豚生産権を買い上げ(Buying up)または回収(Cream
ing off)することで第2段階の削減を実施するとしていた。この結果、2000年には
豚飼養頭数は20〜25%削減されることが見込まれていた。


生産者団体の訴えにより「豚生産の再編法」が執行停止

 しかし、同国の豚生産の約40%を占める生産者団体(NVV)は、満足な政府補
償を伴わない強制的な豚生産権の買い上げ・回収は不当であるとした。その結果、
政府を相手取り法律の差し止めを求める訴訟を起こし、99年2月に原告の主張を
支持する判決が下された。これに対し政府は、判決を不服として控訴する一方、
代替法案の検討を進めた。この代替案は、強制的な削減を撤回し生産者の自主性
に配慮するものであったが、最終的に内閣の合意が得られなかったため、99年6
月7日、農業自然管理水産大臣は辞任に追い込まれた。

 6月10日には、二審でも一審を支持する判決が出され、政府は上告の意向を表
明する一方で、新大臣の下新たな代替策を検討し、9月には何らかの対策を打ち
出すこととしている。また、6月には裁判所の警告に従い法律の執行が停止され、
削減を義務付けられていた第1段階分の10%の豚生産権が生産者に返還された。
この結果、豚飼養頭数の削減計画は現在中断している。


豚コレラの終息で飼養頭数が回復する中、注目される政府の対応

 オランダでは、97年2月の大規模な豚コレラの発生によるとう汰の結果、飼養
頭数が大幅に減少したが、98年3月の終息後、飼養頭数は急速に回復している。
肉豚生産が環境へ及ぼす損害額は、年間5〜10億ギルダー(285〜570億円:1ギル
ダー=57円)にも上ると見積もられており、オランダ政府としては、豚由来の環
境問題をこのまま放置できない立場にある。執行を停止された「豚生産の再編法」
が、強力な環境対策としてだけでなく、過密飼養がもたらしたとされる大規模な
豚コレラのまん延に対する再発防止策の側面を持っていただけに、豚飼養頭数の
削減は必須とする政府が今後どのような提案を打ち出すか注目されている。

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