飲用乳価格支持撤廃に大きく前進(豪州)


VIC州、飲用乳価格支持制度の撤廃を表明

 ビクトリア(VIC)州政府は、7月14日、各州政府によって管理運営されている
飲用乳の価格支持制度に関する対応方針を明らかにした。現行の価格支持制度に
ついては、執行機関であるVIC州酪農庁(VDIA)ともども2000年6月末をもって
廃止し、その後は乳製品の食品安全性に関して責任を負う機関が新たに設立され
ることとなった。


消費者への利益還元を考慮した規制緩和

 豪州の飲用乳価格支持制度は、牛乳の安定供給を目的に、飲用向け生乳生産者
価格を州政府が設定することなどを柱とする。一方、加工原料向け生乳に関して
は、国内向け牛乳乳製品に課す賦課金を原資に、加工原料乳生産者に再配分する
国内市場支持支払制度(DMS)が連邦政府により実施されているが、これは2000
年6月末に廃止されることが既に決定されている。現在、豪州連邦政府は公共の
利益を尺度に各種の規制緩和を推進しており、農業分野では、豪州小麦ボードに
よる小麦の独占的販売などと並び、飲用乳価格支持が重要な焦点の1つとなって
いた。

 VIC州政府は「規制緩和によって、 VIC州酪農乳業の産業としての競争力を高
めるとともに、より低価格での牛乳販売が可能になる」とし、消費者への利益を
訴えている。


規制緩和後の影響が小さいとみられるVIC州

 ニューサウスウェールズ(NSW)、クインズランド(QLD)、ウェスタンオー
ストラリアの各州政府は、既に飲用乳価格支持制度の存続を答申しているが、今
回のVIC州の正式な意思表示により、再検討を迫られることになった。

 この背景としては、 VIC州の生乳生産は豪州全体の63%に上り、その約7割が
輸出向けの乳製品として加工されているため飲用向け処理量はわずかに8%にす
ぎず、NSW州の46%やQLD州の47%と比較した場合に、規制緩和による影響はは
るかに小さいとみられるためである。また、酪農適地であるVIC州の生乳生産コ
ストが他州よりも一般に低いことから、需給構造からみても他州はVIC州に追従
せざるを得ない事情がある。


規制緩和への評価が対立する各州飲用乳メーカー

 今回の州政府発表に当たり、 VIC州を集乳基盤とする飲用乳メーカーは、価格
競争力の向上から、市場シェア拡大の好機到来と歓迎している。これに対しNSW
州やQLD州を基盤とする飲用乳メーカーは、乳価の大幅低下により多くの酪農家
が廃業する一方で、消費者購入価格は変わらず、規制緩和による利益は流通や小
売部門で搾取されるとして、否定的な見解を示している。


タスマン海を挟む乳業再編の可能性

 現在の生乳価格支持制度を廃止することによって、需給構造が短期的に一変す
るとの見方は少ないものの、飲用乳メーカーを中心とした乳業再編は、これまで
以上に加速されると予想される。偶然にもVIC州政府が方針を明らかにしたのと
同じ7月14日、ニュージーランド(NZ)では、法律に基づくNZ・デイリー・ボー
ドの一元輸出管理を実質的に引き継ぐ民営単一組識を認める法案が議会に提出さ
れた。現在の酪農協の合併を認め、集乳ベースでほぼNZ全土を掌握する単一乳業
組識による一元輸出を目指すと言う。豪州乳業界からは、国際競争力の向上とい
う観点からこれをうらやむ声も出ている。一方、外資乳業のNZへの進出規制も緩
和されるとみられることから、今後はタスマン海を挟んだ乳業再編が見られる可
能性も出てきた。

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