上昇を続ける生体豚の価格(タイ)


通貨危機による離農などで、豚の生産頭数が減少

 タイの豚の農家販売価格(生体100kg、全国平均)は、97年9月以前には1kg当た
り40バーツ(約136円:1バーツ=約3.4円)前後で推移していた。しかし同年10月
以降、通貨の急落に端を発した経済危機の影響を受けて低落し、98年1 月には30
バーツ(約102円)を割る底値となった。また、97年8月以前、1頭当たり1千バー
ツ(約3,400円)を超えていたチャロン・ポカパン(CP:タイの巨大農業関連産業)
が販売する子豚価格は、98年1月には250バーツ(約850円)まで急落し最悪の状況
となった。

 このような厳しい状況下で、97年末から98年前半にかけて、多くの養豚農家が
採算の悪化や資金繰りの問題などで離農もしくは経営規模を縮小した影響から、
豚の生産頭数が減少した状況が続いている。


生産量の不足で上昇する豚価

 こうした状況を受け、98年11月に1頭当たり1千バーツへと回復していたCPの子
豚価格は、その後も上昇を続け、99年4月には約1千5百バーツ(約5,100円)に達
し、近年にない高値を記録した。また、98年12月に生体1kg当たり40バーツ(約
136円)まで戻っていた農家販売価格も、バンコク近郊のラーチャブリ、ナコン
パトムおよびチャチュンサオの各県において上昇を続け、今年6月には50バーツ
(約170円)に達している。

 養豚業界では、これらの価格の上昇は需要の高まりによるものではなく、生産
頭数の減少によるものとみており、経済が回復基調にあるものの、依然として消
費は低迷した状態が続いているとしている。また、隣国マレーシアで豚に発生し
たニパ・ウイルスの恐怖は、不振が続いていたタイの豚肉消費に追い打ちをかけ
たとしている。タイで1日当たり約1万1千頭とされた豚の消費頭数は、これらの
影響を受け、通貨の下落以前に比べ、約3〜4割減少したものとみられている。

 しかし、今年1月に1kg当たり約51バーツ(約173円)まで上がっていたバンコ
ク市場における豚肉卸売価格は、消費の不振にもかかわらず、出回り量の不足に
より4月末にはさらに約57バーツ(約194円)まで上昇している。


政府の監視も価格上昇の歯止めとならず

 タイ政府は、豚肉価格の上昇を抑えるため、これまで農家販売価格の上限を45
バーツ(約153円)/kgとする行政指導価格を定め監視してきた。しかし、養豚
業界では、通貨の下落により養豚農家がこれまで被った痛みの大きさを政府が十
分に理解しているため、農家販売価格が行政指導価格を超えているにもかかわら
ず、政府の指導を受けていないとしている。また、同業界は、過去に実施した生
体豚の輸入が、行政指導価格の下で農家販売価格の下落を誘発し、養豚農家に混
乱を引き起こしたことを当の政府が十分に認識しているため、輸入に踏み切れな
いものとみている。

 今後の豚肉消費については、好調な鶏肉消費の影響も受け、回復するまでには
かなりの期間を要するものとみられている。一方、養豚農家では、生産性の高い
品種の導入などにより、生産コストの削減などに努めるとしている。また、子取
り雌豚の大幅な増頭が見られない状況下にあって、豚の不足が2000年半ばまで続
くとみられるため、豚肉消費の不振にもかかわらず、豚価は今後も高値で推移す
るものと予測されている。

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