USDA、食肉の原産国表示に関する報告書を発表(米国)


議会の要求に基づく調査報告

 米農務省(USDA)食品安全検査局(FSIS)は先ごろ、議会の要求に基づき実
施した牛肉および羊肉の原産国表示義務化の影響などを分析した報告書を発表し
た。

 米国は、世界最大の牛肉輸入国であり、99年には約130万トンが輸入された。
最大のシェアを占めたのは、カナダ(36%)で、これに豪州(33%)およびニュ
ージーランド(21%)が続いている。これらの多くは、ひき材などの加工用とみ
られている。

 このような状況の下、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)などの生産者団体
は、消費者が国産品を選択することにより生産者が利益を享受することができる
として、食肉の原産国表示の義務化を求めている。第105回議会(97/98年)で
は、こうした推進派の後押しにより、原産国表示の義務化を現状の輸入段階から
小売段階にまで拡大する法案が活発に議論された。

 しかし、議会では、コスト増を懸念する食肉加工業界などの反対で法制化には
至らず、99年度農業関連歳出法案通過時において、USDAに対して義務化の影響
に関する報告書の提出を要求することで、結論の先延ばしが図られた。


義務化には慎重な姿勢

 今回発表された報告書では、@原産国表示の義務化が食肉業界にコスト増をも
たらすのは明らかであり、それによって生産者には生産者販売価格の低下、消費
者には小売価格の上昇といった不利益が生じることも考えられる。A消費者が国
産品を選択することにより、生産者に利益をもたらすことも想定される。ただし、
実際に消費者が国産品をし好するかについては予測不能であり、また、利益がも
たらされるとしても、その度合いは表示義務化の方法などに左右される。B表示
上の用語の使い方や表示義務化に伴う食肉関連会社の輸入品排除の度合いなどに
よっては、国際貿易ルール上の問題を生じる可能性がある。C米国の原産国表示
義務化を契機として、輸入国が米国と同様、ないしはより厳しい表示義務化を導
入し、米国の食肉輸出に悪影響を及ぼすこともあり得るなどの点が指摘されてい
る。

 これらの分析に基づき、報告書では、議会が原産国の表示義務化を進める場合、
国内業界におけるコスト増の最小限化および国際貿易ルールの順守に配慮するよ
う求めている。


業界は賛成派、反対派ともに肯定的な受け止め

 今回の報告について、表示義務化に反対の姿勢をとる食肉パッカー等の団体で
ある米国食肉協議会(AMI)のボイル会長は、「小売段階での原産国表示の義務
化は、不必要かつ過剰なコストを食肉業界に強いるものであることが確認された」
と歓迎のコメントを発表した。

 一方、表示義務化に賛成するNCBAは、彼らの主張に対して懐疑的な見方が出
されたにもかかわらず、表示義務化の持つ潜在的な利益が認められたとして、今
回の報告に対して肯定的な見解を示した。また、同協会のスワン会長も、今後の
表示義務化実現に向けた基礎になるものと述べ、同報告書を好意的に受け止めて
いる。


原産国の扱いについて枝肉格付制度を見直す動き

 一方、USDA農業マーケティング局(AMS)は2月上旬、こうした表示義務化の
動きに関連して、輸入された牛、羊および子牛の枝肉に対しては、任意の制度で
ある枝肉格付制度において実質的な原産国を意味する格付印の適用を廃止または
より厳格なものとするための3つの見直しオプションを告示した。

 今回示されたオプションは、@輸入された牛、羊および子牛の枝肉に対する格
付けそのものを廃止する、A格付けされた輸入枝肉が部分肉に分割された段階で
原産国を明らかにするため、各部分肉にも原産国を示す印の保持を義務付ける、
B格付けされた輸入枝肉に対しては原産国を示す印を適用しない、というもので
ある。AMSは、本年4月3日までの期間に、すべての利害関係者からのオプション
に対するコメント等を受け付けるとしている。


生産者団体の要請に応えた見直し

 USDAによる見直しは、NCBAおよび米国羊産業協会(ASI)が、昨年夏以降要
請していた内容に応えたもので、NCBAが模索している小売業者との連携による
自主的な原産国表示プログラムの実施と併せた、原産国表示義務化の次善策とも
言える。

 現行の1946年農業マーケティング法関連規則の下では、格付けは家畜がと畜ま
たは最初に冷蔵された場所で行われなければならないとされている。

 NCBAは、他国でこうした処理が行われた後、米国に輸出された牛枝肉が、結
果的に米国内で「USDA」という格付印を付され、米国産であるかのごとき扱い
で販売されていることについて、消費者が知る由もなく、これまで築き上げてき
た高品質のUSビーフの評価にただ乗りするものであり、容認できないとして、輸
入牛枝肉に対するUSDAの格付けそのものを廃止するよう求めていた。

 実際上、米国内で格付けが行われる前に原産地がらく印されたものを除き、輸
入枝肉は国産枝肉と同じ扱いを受けており、仮に原産地を示す印が付されている
としても、流通段階で枝肉の処理・加工が進むにつれ、そのほとんどが失われて
しまうということをUSDAは認めている。


新たな貿易紛争への発展が懸念

 USDAによると、格付制度における原産国の扱いをめぐっては、これまで、見
直しを求める生産者団体のNCBAやASIとは対照的に、AMIなどの処理加工関連の
団体、さらには在米カナダ大使館までもが、現行制度の存続を求めていた模様で
あり、特にカナダとの間では、新たな貿易紛争の火種となるのではないかとの見
方もある。

 なお、USDAは、99年に、米国内で2千7百万頭分以上の国産牛枝肉と3百万頭分
以上の羊枝肉がUSDAの格付けを受けたのに対し、輸入牛枝肉および輸入羊枝肉
はそれぞれ5万頭分および8万1千頭分程度であり、輸入子牛枝肉に至っては格付
実績がないとしている。

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