海外駐在員レポート 

米国における農畜産物に関するEコマースの動向

ワシントン駐在員事務所 渡辺 裕一郎、樋口 英俊




1 はじめに

 90年代初め以降の米国経済の回復は、金融当局の適切なマクロ経済運営などに
加えて、コンピューターの高性能化とインターネットをはじめとする情報ネット
ワーク・システムの普及とが両々相まった、いわゆるIT(情報通信技術)革命が
原動力となってもたらされたものであるとも言われている。

 米国では、ITの急速な進展によって、情報の発信・伝達・交換といった機能が
飛躍的に向上し、これがさまざまな分野において活用されたことにより、業務の
効率化や新たなビジネス機会の創出などが図られ、経済成長を後押しする役割を
果たしたというわけである。

 中でも、近年における電子的なネットワーク・システムを通じて商品やサービ
スの販売・購入を行う電子商取引(Eコマース)の動きは目覚しく、最近では、
農畜産業分野への応用も積極的に行われてきている。

 そこで、今月は、IT革命をいち早く実践した米国に、農畜産物に関するEコマ
ースの先進事例を求め、その具体的な状況を中心に報告する。

 なお、わが国の畜産とITの関係については、「畜産の情報・国内編」(2000年
10月号)の「事業団からのレポート・畜産とITについて」の中で詳細に記述され
ているので、これと併せてご覧いただければと思う。


2 米国におけるEコマースの進展状況

(1)インターネットの普及状況

 米国におけるEコマースの市場規模は、コンピューターの保有やインターネッ
トの普及状況と密接に関係している。

 本年10月に米商務省が公表した報告書によると、全米の半数以上の世帯がコン
ピューターを保有しているとしており、その割合は、98年12月の42.1%から本年
8月の51.0%と、この20カ月の間に2割以上も増加している。

 また、インターネットにアクセスしている世帯の割合は、同期間中、26.2%か
ら41.5%へと15.3ポイント増加し、また、個人として見ても、32.7%から44.4%
へと急増しており、この傾向が今後も継続すれば、2001年には、米国人の2人に
1人がインターネットを利用することになるものと米商務省は予測している。

 こうした傾向は、農村地域においても同様であり、インターネットにアクセス
している世帯の割合は、22.2%から38.9%にまで増加するなど、地域間のデジタ
ル・デバイド(情報格差)は解消されつつあり、インターネットの普及が全国レ
ベルで急速に進展していることがうかがえる。

◇図1:米国におけるインターネットにアクセスしている地域別の世帯割合◇


(2)Eコマースの市場規模

 こうした情報インフラの拡大に伴い、Eコマースの市場規模も近年大きく膨ら
んでいる。

◇図2:米国におけるEコマースの市場規模◇

 米国の調査会社・フォレスター・リサーチ社の報告によれば、Eコマース全体
の取引額は、96年の約28億ドル(約3,100億円、1ドル=110円)から、99年には
約671億ドル(約7兆4千億円)と、約24倍にまで増加し、これが2002年には、99
年の約6倍の約4,300億ドル(約47兆3千億円)に拡大するものと推計されている。

 Eコマースによる農畜産物市場については、調査機関が異なるため、数値の整
合性がとれないかもしれないが、農業関係の業界誌であるトップ・プロデューサ
ー誌の報告では、耕種作物の場合、2000年の約2億2千万ドル(約242億円)から、
2002年には、約3億7千万ドル(約410億円)に拡大し、また、畜産物の場合には、
耕種作物に比べると低水準ではあるが、同期間中、約3,600万ドル(約40億円)
から約8,400万ドル(約92億円)へと増加するものと予測されている。

◇図2:米国におけるEコマースによる農畜産物の市場規模◇


(3)農家段階におけるEコマースの実施状況

 一方、本年9月における米農務省(USDA)の報告によると、97〜99年の間にイ
ンターネットにアクセスした生産者が倍増し、99年には全体の29%に相当する約
60万戸に及んでおり、その中の約15%がEコマースによる売買を行っているとし
ている。

 また、こうした生産者におけるEコマースによる売買の内訳は、耕種作物用の
肥料、種子、農薬といった生産資材の購入が43%、畜産農家における生産資材の
購入が32%、家畜の販売が25%となっており、現段階では、農畜産物の販売より、
生産資材の購入の方に比較的ウエイトが置かれていることが分かる。

 USDAは、後述するような農畜産分野におけるEコマース企業の多くは、99年
に創設されたものであり、今後、コスト削減やよりタイムリーかつ効率的な農畜
産物の販売などを目的とした生産者のEコマースの利用が増加していくものと見
込んでいる。

◇図4:米国の農家段階におけるEコマースの実施状況(99年)◇


3 Eコマースのタイプ

 Eコマースは、取引に参加する企業と消費者間の取引(Business to 
Consumer:以下「B to C」)と企業間取引(Business to Business:以下
「B to B」)とに大別される。

 B to Cについては、インターネットのウェブサイト上で消費者に商品を販売す
るオンライン・カタログとでもいうべき形態が最も一般的であり、一方、B to 
Bについては、売買の相手が限定された閉鎖型のシステムと、そうではない開放
型のシステムがある。


(1)B to C

 米商務省の推計によると、99年10月〜本年3月の6カ月間におけるB to Cによる
販売額は約104億ドル(約1兆1千億円)と、同期間中における全小売販売額・約
1兆5,700億ドル(約173兆円)の1%にも及ばないが、今後、大きく成長するもの
と見込まれている。

 消費者にとって、B to Cの最大の魅力は、居ながらにして他社との商品比較な
どを行うことによって、価格面などでの自らのニーズに見合った商品を選択し、
これが小売店に足を運ばずとも入手できることに尽きる。他方で消費者は、一般
的に、配達までの日数の短縮を求める反面、配達料の負担には消極的であり、ま
た、クレジット・カードによるオンライン上の決済に対する抵抗感も完全にはぬ
ぐい切れていない。

 このため、こうしたB to C事業を実施する企業は、厳しい価格競争に巻き込ま
れる中で、在庫管理や配送部門などにおける合理化を進めると同時に、消費者に
対する信頼度を高めていく必要性に迫られていると言え、こうした課題への対応
が、今後におけるB to Cの発展可能性のカギを握っているものと考えられる。

 なお、B to Cには、@先ごろ日本への進出も果たした、書籍などを扱うアマゾ
ン・ドットコム(Amazon.com)に代表されるような、店舗を持たずにオンライ
ンだけで販売を行う形態と、Aウォルマート(Wal-Mart)やKマート(K Mart)
などの大手スーパー・マーケット・チェーンを中心に展開されているような、既
存の店舗販売とオンライン販売とを並行して実施する形態とに区別することがで
き、今後も、ぞれぞれの持ち味を生かしながらの混戦状態が続くものとみられる。


(2)B to B

ア 閉鎖型システム

 商取引に関する電子化された情報を専用の通信ネットワークを通じてやりとり
するEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)方式が一般的であり、
業界内の垂直的な取引相手同士で用いられることが多いとされている。本方式に
よる取引は、30年近くも前に開始され、Eコマースの元祖とも言えるものである。

 小売最大手のウォルマートは、EDIによる生鮮食料品の在庫補給システムを実
施していることでも有名である。このシステムは、同社の在庫管理に関する一切
の責任を、商品を供給する業者に委ねるというもので、在庫管理に伴うリスクと
コストをサプライヤーに転嫁するという典型的な例である。具体的には、商品の
供給業者は、EDIを通じて同社の在庫水準を常にモニターし、必要な商品を3日以
内に同社の配送センターに供給しなければならず、これによって、通常のスーパ
ー・チェーンにおける在庫水準が約4週間分であるのに対して、同社の在庫水準
は、1.8週間分と低い水準に抑えられている。また、実質的に、商品の販売動向
が直接供給業者に対して伝えられることとなるため、消費者ニーズにマッチした
柔軟な商品供給が可能となるというメリットも有しているとされている。

 ただし、こうしたEDIを運営するための専用ネットワークの設置などにかかる
費用負担や、取引相手が特定の業者に限定されるという問題を考慮すると、EDI
の活用は、一定の流通量があり、限られた種類の商品を扱う、資金力に富んだ事
業者がメインになるものと考えられる。

イ 開放型システム

 EDIの次世代モデルが、近年のインターネットの普及によって急速に伸びてき
た、不特定多数を相手とする開放型のB to Bである。
 その機能としては、@売り手が複数の買い手を求めるオンライン販売の場、A
買い手が複数の売り手を求めるオンライン購入の場、B複数の売り手と複数の買
い手が、それぞれの取引相手を求めるオンライン取引所などが挙げられる。
 閉鎖型が、限定された業者間のタテの流れを主な守備範囲としているのに対し、
開放型では、複数の同業者に関する情報の入手・比較が可能となり、取引相手先
の選択の幅が水平的に広がっていくという特徴がある。

◇図5 開放型B to Bの模式図◇
(例:オンライン取引所)
re-usg05.gif (18467 バイト)

 このため、@買い手にとっては、取引価格や取引コスト(例:より低価格の商
品を求めて、取引相手を探したり、交渉を行ったりする際に要するコスト)の低
減といったメリットが期待される反面、A売り手にとっては、価格や品質、製品
スペックなどに対する競争がさらに激化することが予想され、Bまた、実績のな
い業者との間の取引リスクをいかに回避するかといった、売り手、買い手双方に
とってのシステム運営上の問題点も浮かび上がってくる。

 こうした開放型のB to Bについては、ベンチャー的な新規参入と試行錯誤的な
取り組みとが、米国においても始まったばかりであるとも言える。

 このため、@買い手にとっては、取引価格や取引コスト(例:より低価格の商
品を求めて、取引相手を探したり、交渉を行ったりする際に要するコスト)の低
減といったメリットが期待される反面、A売り手にとっては、価格や品質、製品
スペックなどに対する競争がさらに激化することが予想され、Bまた、実績のな
い業者との間の取引リスクをいかに回避するかといった、売り手、買い手双方に
とってのシステム運営上の問題点も浮かび上がってくる。

 こうした開放型のB to Bについては、ベンチャー的な新規参入と試行錯誤的な
取り組みとが、米国においても始まったばかりであるとも言える。
【3大自動車メーカーによるBtoBへの取り組み例】

・本年2月、フォード社、ジェネラル・モーターズ社、ダイムラー・クライスラ
 ー社の3大自動車メーカーは、CovisintというBtoBによる部品調達のための
 合弁会社を設立した。最終目標は、部品メーカーからディーラーに至るまでの
 サプライ・チェーンを完全にカバーすることとされている。

・部品メーカーの参加は、オープンとされているが、参加メーカーからは、自動
 車メーカーが協調して圧力をかけることにより、取引価格が低く抑えられてい
 るのではないかとの懸念の声が上がっていた。

・これに対し、連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)は先ご
 ろ、自動車メーカー側の圧力による危険性は少ないとの見解を明らかにし、現
 在は模様眺めの状況となっている。


4 農畜産業分野におけるEコマース・ビジネスの事例

 米国における農畜産業関連の主要なEコマース・ビジネスのリストは、表1の
とおりである。本項では、その中の畜産業に関係する代表的なウェブサイトをい
くつか紹介する。

表1 米国における農畜産業関連の主要なEコマースのウェブサイト
re-ust01.gif (31503 バイト)


(1)ピーポッド・ドットコム(Peapod, Inc)
peapod.gif (7832 バイト)
	
ア 本ウェブサイト(www.peapod.com)を開設するピーポッド社は、89年に設
 立されたEコマース企業のしにせであり、食料品(生鮮食品を含む)をはじめ、
 雑貨、医薬品、酒類なども扱う総合的なB to C事業を実施している。対象地域
 は、シカゴ(イリノイ州)、サンフランシスコ(カリフォルニア州)、ボスト
 ン(マサチューセッツ州)、ワシントンDC、ロング・アイランド(ニューヨ
 ーク州)という、5つの主要都市となっており、約13万5千人の顧客を抱えてい
 るとされる。

イ 同社は、店舗は持たず、オンラインで注文を受けた商品は、自社専用の倉庫
 において包装され、4カ所ある配送センターなどを通じて各家庭に配達される。
 注文の最小単位は50ドルとされ、また、配達料金は、75ドル以上の注文の場合
 だと5ドル、それ未満は9.95ドルに設定(重量には関係なく一律に設定)され
 ている。配達は、毎日行われ、時間指定も可能である。代金決済は、クレジッ
 トカードによる。

ウ 畜産物に関しても、ほとんどの種類の商品(生鮮品、加工品)が取扱対象と
 なっており、商品のグループや種類ごとに分けられたカタログの中から、欲し
 い商品を注文の点数とともに選択する。例えば、牛肉の場合だと、「骨付き、
 かたばら、ひき肉、串焼き用、ロースト用、ステーキ用、シチュー用、焼肉用」
 という区分にそれぞれ分けられており、個々の商品ごとに、商品名(部位やカ
 ット方法など)、重量、重量当たり単価および価格が表示される。また、商品
 によっては、写真映像や栄養成分なども見ることができる。


(2)イーマージ・インターアクティブ・ドットコム
(eMerge Interactive, Inc)
emerge.gif (24819 バイト)

ア 本ウェブサイト(www.emergeinteractive.com)は、Safeguard 
 Scientifics社をはじめとするIT関連企業4社によって94年に設立(99年7月に
 現在の名称に変更)された肉用牛業界向けB to Bサイトであり、アイオワ州立
 大学やUSDAなどとの技術的な提携も行われている。

イ その中には、CattleinfoNetという業界、市況などに関する情報の提供サイト
 や、実際の取引を行うサイトのほか、生産者(フィードロット)が自らの経
 営管理を行うためのサイトも設けられている。

@情報提供サイト

 国内外の肉用牛業界に関する最新ニュース、肥育牛および飼料穀物の市況見通
し、現金取引、オプション取引および先物取引による市況情報、リアルタイムな
相場情報、気象情報(5日間の予想天気予報)などが無料で提供されている。

A取引サイト

 肥育素牛の生産者、バイヤーおよびフィードロットのマネージャーを結んだオ
ンライン上の売買の仲介やオークションのサービスが行われる。

 仲介サービスには、あらかじめ登録されている生産者の販売希望リスト(種類、
頭数、体重、希望価格、出荷場所など)をバイヤーに提示し、その中から購入し
たい牛群をバイヤー自らが選ぶという方法と、バイヤーが入力した購入基準を基
に、コンピューターが、これにマッチする牛群を生産者の販売希望リストの中か
ら探し出すという方法がある。

 また、オークション・サービスでは、オークション開設日の3〜7日前には、販
売希望カタログが同サイト上で公表される。オークションは、カタログに記載さ
れた順番で画面上にそれぞれ約45秒間掲示される牛群を、市場における競りと同
様に、応札していくという仕組みである。

 なお、いずれのサービスにおいても、バイヤーが、ビデオまたは写真による映
像によって、販売される牛を閲覧することができる。

B経営管理サイト

 本サイトに登録された生産者における経営の効率化や収益性の向上を図ること
を目的として設けられたサイトであり、80以上ものグラフにより、当該生産者の
経営状況(性別、体重別、日齢別の飼養・出荷頭数など)と地域におけるそれと
の、日々の比較が可能となっている。また、生産者には、これらのデータを月単
位で取りまとめたレポートや、全米の地域単位での比較・分析を加えたニュース
レターも提供される仕組みとなっている。

 また、将来的には、家畜衛生、栄養管理などに関するサービスや、電子耳標を
活用した生産から流通、消費に至るまでの肉牛の個体管理システムの導入も予定
されている。

ウ なお、本年第1四半期におけるオンライン上の取引額は、約3,800万ドル(約
 42億円)と、99年第4四半期に比べ51%増加し、また、同期間中のバイヤーの
 数は125人と、同じく180%の増加となっている。取引頭数は、本年第1四半期
 が6万5,700頭、第2四半期が34万2,500頭と、大幅に増加している。


(3)フードUSA・ドットコム(FoodUSA.com)
foodusa.gif (29017 バイト)

ア 本ウェブサイト(training.foodusa.com)は、食肉(牛肉、豚肉、羊肉、
 子牛肉)および家きん肉についてのB to Bによるオンライン取引を行うため、
 99年に設立されたものであり、実際の取引は、本年4月にスタートした。これ
 に先立ち、本年3月には、食肉パッカーや食肉加工会社を会員とする全米最大
 の業界団体であるアメリカ食肉協会(AMI)との業務提携を行うことが発表さ
 れた(注:AMIの会員企業は、全米市場において約7割のシェアを占めている
 と言われている。)。具体的には、同社が、株式の11%をAMIに無償譲渡する
 代わりに、AMIは、会員企業に対して、Eコマースに関する教育や同社のPRな
 どを行うとされており、今後、AMIの会員企業がEコマースへの取り組みを本
 格化させていく上での足掛かりの1つになるものと思われる。

イ 取引は、売り手側・買い手側の双方から、売りオファー・買いオファーに応
 じた取引相手先の選定がそれぞれ可能であり、その過程においては、特定の取
 引条件や価格設定などの交渉や、ホルモン・フリー、オーガニックといった特
 定の商品の要望を提示することもできるとされている。最低取引単位は、4千
 ポンド(約1.8トン)であり、取引単位ごとに、売り手から取引額の5%相当額
 (最大450ドル(49,500円))が手数料として徴収される。

  また、食肉などの取引以外にも、業界関連のニュースや情報の無料提供を実
 施しているほか、輸送、保管などに関する物流戦略(ロジスティクス)、食品
 検査、融資、輸出促進などに関するサービスも行うとしており、特に、AMIの
 会員企業には、こうしたサービスが割引料金で提供されるという。

ウ なお、10月上旬には、これまでの取引実績が、金額ベースで3千万ドル(33
 億円)、数量ベースで3,500万ポンド(約1万6千トン)を突破したと発表されて
 いる。
【大手食肉パッカー6社によるB to Bへの参入】

・本年4月、食肉および家きん肉の大手パッカー企業であるIBP社、Excel社、
 Smithfield Foods社、Tyson Foods社、Gold Kist社およびFarmland 
 Industries社の6社は、製品のB to Bによるオンライン取引や、各種サービス
 および情報の提供を行うための共同出資会社を設立することを発表した。現在
 のこれら6社の年間売上高は、総額約400億ドル(約4兆4千億円)にも上る。今
 回の新会社設立に当たっての出資金は、2千万ドル(約22億円)とされている。

・この新会社が、6社とは独立した立場で、オンライン取引を中立的に行うとし
 て、本年夏にも取引がスタートされると発表されていたが、現在のところ、目
 立った動きは見られていない。

・なお、6社のうち、IBP社とTyson Foods社を除く4社は、FoodUSA.com
 が提携するAMIの会員でもある。また、これら以外に食肉関係のB to Bビジネ
 スを実施しているウェブサイトとしては、@Agribuys, Inc.(99年11月業務
 開始。魚介類や酪農品も扱う)、AGlobal Food Exchange(同99年10月。ロ
 シアやスペインをはじめ、アジアにもバイヤーを有する国際的取引を実施)、
 Btradingproduce.com(同99年11月。魚介類、飲料、花きなども扱う国際的
 取引を実施)、CSellMEAT(同本年5月。リアルタイムでのオークションのほ
 か、資金管理サービスなども実施)などもあり、早くも食肉B to Bビジネス
 の競争が過熱し始めている。
(4)デーリー・ドットコム(Dairy.com)
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ア 本ウェブサイト(www.dairy.com)は、米国における初めての乳業専門B 
 to Bサイトであり、全米の大手乳業8社によって、本年7月に設立された。メン
 バーは、Dairy Farmers of America社(世界最大の酪農協)、 Dannon 
 Company社(ヨーグルトメーカー)、Dreyer′s Grand Ice Cream社
 (アイスクリームメーカー)、Kraft Foods社(全米最大の小売パック
 食品メーカー)、Land O′Lakes社(大手農協)、Leprino Foods社
 (モッツアレラ・チーズメーカー)、Schreiber Foods社(チーズ
 メーカー)、Suiza Foods社(全米最大の乳業メーカー)からなる。

イ その機能としては、牛乳・乳製品の取引、酪農家サービス、情報の提供、ロ
 ジスティクス・サービスなどが挙げられており、設立企業以外の乳業メーカー
 の利用も可能であるとされている。

ウ 実際の業務開始はこれからであり、まずは2001年の第1四半期中に、牛乳や
 クリームなどの限定された商品の取引やロジスティクス・サービスに着手し、
 将来的には、すべての商品に関するスポット取引や長期契約取引、酪農家サー
 ビスなどに拡大していくとしている。


(5)ルースター・ドットコム(Rooster.com)
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ア 本ウェブサイト(rooster.com)は、本年3月に、生産者をはじめ、農業生産
  資材会社、穀物業者、輸送会社などに対する農産物および生産資材の取引の場
  を提供することを目的として、Cargill社、DuPont社、 Cenex Harvest States
  社およびArcher Daniels Midland社という 世界的なアグリビジネス会社など
  が共同で設立したものである。

イ 現時点における機能としては、農業関係ニュース、市況状況、気象などに関
 する情報提供が中心であるが、近いうちに、次のような、年中無休・24時間営
 業のオンライン取引の場が設けられる予定であるとされている。

@穀物の取引市場

 売り手(生産者など)が提供した特定のカントリーエレベーターからの出荷予
定穀物の価格や輸送方法などに関する情報を基に、買い手(加工業者など)が、
当該エレベーターからの距離などを考慮して応札するという方式で、成約の際に
は、Eメールによって通知される。その場合の代金決済、商品の品質、輸送など
に関する責任は、売買を行う当事者に帰せられる。

Aオンライン・ショップ

 これに関する詳細は、まだ明らかにされていないが、生産者に対し、農業生産
資材(農薬、肥料、種子、農業用機械など)、作物保険、融資などの商品・サー
ビスの販売・提供がオンライン上行われるとされており、生産者を消費者と見立
てれば、B to Cの機能も併せ持つことになる。


 このため、本ウェブサイトは、B to CとB to Bを行う多機能型モデルと言うこ
ともできる。

ウ なお、本ウェブサイトの収入源は、将来的には、上記のようなオンライン取
 引やオンライン・ショップによる手数料収入がメインになるものと思われるが、
 現在のところは、サイト上に掲載される他企業からの広告費と親会社からの追
 加的な資本注入によって賄われていると言われている。

◇図6 ルースター・ドットコムのビジネス・モデル◇


5 Eコマースに対する規制

 ここで、Eコマースに対する米国内における各種規制の動きについて紹介する。


(1)税制

 米国では、現行税法上、州政府は、当該州内に実質的に存在しない法人に対し、
売上税の徴収ができないこととされている。このため、電話やカタログなどによ
る通信販売と同様に、Eコマースによる販売に対しても、売上税は実質的に非課
税扱いとなっている。

 一方、連邦レベルにおいても、98年に成立したインターネット非課税法(Internet
 Tax Freedom Act:ITFA)では、2001年10月までの3年間の猶予期間が設けられ、
その間は、Eコマースに対して新たに課税することを禁止している。

 しかし、Eコマースの市場規模が拡大するにつれ、州政府にとっての税収減に
つながるという問題に加え、地元の関係業者における不満や、売上税の逆累進性
を助長するという問題(裕福な者ほどインターネットの利用が多いのに、課税さ
れないのは不公平であるという議論)などが指摘されてきており、ITFAに基づき
設置されたEコマースに関する諮問委員会の場でも、本件に関する扱いが検討さ
れている。一方、連邦議会には、ITFAによる猶予期間をさらに5年間延長するた
めの法案が提出されているなど、今後も、論争が続くものとみられる。


(2)プライバシー保護

 Eコマースによって消費者などから集められる個人情報に関するプライバシー
保護の問題についても、関心が高まっている。

 これに対し、連邦取引委員会(FTC)は、個人情報を収集する商業的なウェブ
サイトにおいては、@ユーザーに対して、情報の使途などに関する明確な通知を
行うこと、Aユーザーに対して、情報を公開することの適否などの選択権を与え
ること、Bユーザーが、収集された自らの情報内容にアクセスできるようにする
こと、C情報の秘密保護のための適切な措置をとること、という勧告を出してい
る。

 また、業界内部でも、政府による介入という方法によらない、プライバシー保
護のための独自の自主規制プログラムを確立するための検討が行われているとい
う状況にある。


(3)独占禁止法

 Eコマースと独占禁止法との関係では、特に、B to Bビジネスにおける価格形
成への影響などが問題視されている。

 実際に、49ページでも触れたように、大手食肉パッカー6社の共同によるB to
 B会社の設立については、畜産農家に不利益を与える可能性があるとして、ウェ
ルストーン上院議員(民主党、ミネソタ州選出)が、米司法省に対して調査要請
を行っている。

 ただし、46ページにあるように、3大自動車メーカーのB to B会社Covisintの
設立に対しFTCが異議を唱えなかったという前例もあるため、比較的楽観視する
見方もあるようだ。


6 今後の課題と展望

(1)合併・とう汰も予想されるEコマース・ビジネス

 米国では、農業およびその関連産業に関係するウェブサイトだけでも、およそ
1千を数えると言われているが、その中で実際に機能しているのは、わずか1割
程度との見方がある。

 こうした状況は、Eコマース関連のウェブサイトについても同様であると考え
られ、特にB to Bの分野においては、前項で紹介したような事例を見ても、その
機能が本格化するのは、まさにこれからであると言っていい。

 また、しばらくは、Eコマース・ビジネスへの新規参入が続くことも想定され
るが、これまでの例を見ても、ウェブサイトを立ち上げるまでには、ソフト開発
やインフラの整備、当該ウェブサイトをPRするための広報活動などのために相当
の資本を必要とし、さらに、その機能を軌道に乗せるまでの間にも追加的な資本
注入を必要とした例もあるため、この1、2年の間に、合併やとう汰を余儀なくさ
れるケースが少なからず出てくるとの見方もある。

表2 農畜産業関連のEコマース・ビジネスへの資本投下の例
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(2)農業生産資材に関する利用が今後も増加

 先に述べたように、USDAの報告によると、生産者におけるEコマースの約4
分の3が、農業生産資材の購入のために利用されているという。米国における農
業生産資材の市場規模は、現在約2千億ドル(約22兆円)にも上るとされている
が(注:これには、肥料、農薬、種子、飼料、家畜、農業用機械などのほか、雇
用労賃、借入金利、税金なども含まれる)、中でも、Eコマースによる販売額は、
耕種部門、畜産部門ともに、今後2年間で2倍以上にまで増大するとの予測もなさ
れており、また、将来的には、燃料や電力といったものも扱われるようになるの
でないかとの見方もある。

◇図7:農業生産資材のEコマースによる販売額◇

 生産者にとっては、生産物の販売収入の確保という点に加え、生産資材のコス
トをいかにして低減させていくかということも重要な問題であり、今後も、Eコ
マースの活用によって、従来までとは異なった、より低価格の生産資材を供給す
るサプライヤーからの調達ルートが生まれ、また、大規模な生産者になるほどこ
うした傾向が強くなるともみられている。ただし、こうしたサプライヤーの選定
の際には、輸送距離や、アフターケアなどのニーズに見合った顧客サービスが提
供されるか否かといった点も無視できない問題となるとの指摘もある。

 なお、畜産関係では、特に、サプリメント(飼料添加物など)をオンライン上
で購入する動きが増えるとの見方があるほか、生体牛(特に肥育素牛)のオンラ
イン取引の伸びも期待されている。本誌「トピックス」(4ページ)でも触れた
ように、肉用牛の取引は、養豚部門で進展しているような生産契約などによるの
ではなく、スポット的に売買される形態の方が多い。こうした中で、先の事例の
中でも紹介したイーマージ・インターアクティブ・ドットコムをはじめ、キャト
ルセール・ドットコム(CattleSale.com)、キャトルバイヤーズ・オンライン
(Cattlebuyers Online, LLC)といった、生体牛のオンライン取引の場という機
能を有したウェブサイトが増えてきている。こうしたサイトを通じ、肥育素牛を
効率的に集めたいというフィードロット側と、よりタイムリーかつ有利に販売し
たいという繁殖・育成農家側の思惑が一致するのであれば、今後その市場規模が
拡大していく余地は大きいと考えられる。


(3)農畜産物単独のB to Cは伸びていくのか

 食料品関係のB to Cビジネスとしては、事例として挙げたようなピーポッド社
のほかにも、同じく店舗を持たずに独自の配送センターからの当日配達サービス
を展開しているウェブヴァン・ドットコム(Webvan Group, Inc.)や、大手スー
パー・マーケット・チェーンのセーフウェイ社(Safeway, Inc.)が店舗販売と
並行して開設したグローサリーワークス・ドットコム(GroceryWorks.com, Inc.)
など、その数は少なくなく、地域によっては厳しい競争が始まっており、また、
合併や買収といった動きも伝えられている。

 これらは、食料品だけでなく、雑貨や医薬品などの生活用品も幅広く扱い、ま
た、各家庭まで自社配送するケースが多い。このため、畜産物についても、これ
ら商品の中の1アイテムという位置付けとなっており、例えば、食肉だけを専門
に扱うB to Cのウェブサイト(食肉パッカーや流通業者が直接消費者に食肉を
「産地直送」するようなEコマース)は、米国ではほとんどない模様である。こ
うした農畜産物を単独で扱うEコマースについては、前述したような、これから
本格化しようとしているB to Bへの取り組みの方が先であり、B to Cの多くは、
今後も、上記のような消費者に至るまでのコールドチェーンが整備されつつある
スーパー・マーケット的なウェブサイトに委ねられるものと考えられる。


(4)多様な機能を備えるB to B

 一方、農畜産物に関するB to Bについては、先にも紹介したように、商品の取
引を行う場としての機能だけではなく、業界や市況などに関する情報の無料提供
を行ったり、さらには、取引に付随する顧客への各種サービスの提供も加わるな
ど、多様性を帯びている。

 逆に言うと、多くの顧客を獲得するためには、こうした取引以外のサービスに
よって、当該ウェブサイトを訪れる「潜在的な顧客」の興味を常に引きつけてお
く必要があり、さらに次のステップとして、いかにして実際に取引にも参加して
もらうかという点も重要な課題であるため、今後も、その機能が多様化・進化し
ていくものと考えられる。


7 おわりに

 以上見てきたように、米国においても、農畜産業分野におけるEコマースへの
取り組みが本格化し始めたのは、ここ1、2年のことであり、現在もなお、発展途
上の段階にある。

 インターネットの利用が、将来的にもさらに増加し、Eコマースの市場規模も
大幅に拡大するという見方に対して、異を唱えるものは少ない。ただし、既に一
部のウェブサイトの間では、生き残りをかけての競争が熱を帯びてきているのも
事実であり、ITベンチャー企業の多くがふるいにかけられ、市場からの撤退を余
儀なくされたのと同様に、この数年の間に、農畜産業分野におけるEコマース・
ビジネスへの新規参入も一巡し、選抜・とう汰の時代に突入するものとみられて
いる。その間、各ウェブサイトにおいては、顧客の獲得・拡大に向けた機能の充
実・強化のための試行錯誤が続けられるものと考えられるが、その帰すうを見極
めるには、今しばらくの時間が必要である。

 一方、ITやEコマースの進展に関しては、ともすれば、効率化・迅速化による
コストの低減や価格の低下といった、商品やサービスの供給を受ける側にとって
のメリットばかりが注目されがちである。しかし、供給する側にとっての価格競
争が激化することに加え、Eコマースの開設者などがサービス分野における機能
を取り込んでいくことに伴う、いわゆる「中抜き」現象といった問題は、米国内
でも指摘されており、今後、それらの持つ功罪についての認識が一層深められる
ものと考えられる。

 さらには、このように、ITやEコマースの全体像が描ききれておらず、いまだ
漠然としている部分が多いため、関係者の過剰な期待感や誤解を招いている面も
あるように思われる。あらかたの方法論が出そろってきた感もあるB to C分野と
は異なり、B to Bの世界では、とりわけ畜産物の取引分野に限ってみても、買い
手側のニーズの多様化・高度化を反映して商品スペック(例えば、食肉のカット
方法など)が細分化される中で、オンライン取引を通じ、売り手側としてどこま
で対応できるのか、果たして、これが国際的な取引にまで発展する可能性はある
のか、といった点は、まだ未知数であるとも言える。これが、流通量の少ない、
特定の付加価値商品(例えば、わが国で言うところの「地域特産品」的なもの)
を対象とする売り手優位の市場ならともかく、大手の食肉パッカーや乳業メーカ
ーなどによるB to Bビジネスへの参画が、現行の商取引の構図を大きく塗り替え
ることになるのか、今後の動向を注視していきたい。

 米国におけるEコマースの状況が、わが国にとっての好例になるのかどうかを
判断するのは、もう少し先のことであると考えられるが、畜産分野におけるEコ
マースに関心をお持ちの方々にとって、本報告が少しでもご参考になれば幸いで
ある。

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