経営の安定化が図られるアルゼンチンのフィードロット産業


フィードロット由来の肥育牛は全体のと畜頭数の約1割に

 99年のアルゼンチンにおけるフィードロット産業は、肥育素牛価格が高かった
ことなどから経営面で厳しかったが、2000年には肥育牛(主に若齢雌牛)価格が
回復していることなどから、最近では経営も安定し、新たな取り組みが見られる。

 アルゼンチン全体の9割近くのフィードロット経営は、91年の兌換(だかん)
法成立によりコスト的に採算のとれる取引きが可能になったことなどから、90年
代はじめから半ばにかけて米国などの技術を取り入れ始まった。90年代当初は、
利益率の高さから投機の対象になるほど経営体数が増加した。ここ数年は、経営
収支の悪化に伴う廃業も見られたものの、全体としては新規参入や経営規模拡大
によりフィードロット数は増加してきている。現在の経営体数は、フィードロッ
ト専業経営が250、穀物価格に応じ他の作物(主に穀作)と選択的な経営をする
投資額5万ドルまでの農家(小規模)フィードロットが300〜400とみられる。

 また、全と畜頭数に占めるフィードロット由来の牛は、約1割(98年はと畜頭
数1,135万頭のうち約150万頭)を占め、フィードロット専業経営、農家フィード
ロットからそれぞれ約半数ずつ出荷されているとみられる。


フィードロットでは若齢肥育牛が主体

 いくつかの大牧場を持つフィードロット専業経営は、その大半が、生産、販売
面で好立地のブエノスアイレス州、サンタフェ州にフィードロットを所有する。
サンルイス州に大規模なフィードロットを所有するイタリア資本のセルアルヘン
ティーナ社や米国資本のカクタス社は、その事例である。

 牛の肥育に必要な良質の牧草確保が困難な牧場経営者(主に子牛生産地帯)は、
「ホテル業」と呼ばれる肥育業者に肥育素牛を預託している。この場合、一般的
に食肉処理加工業者、と畜業者または穀物業者がフィードロットを所有し、大規
模に肉牛経営を行っており、このような経営形態は、フィードロット由来の肥育
牛と畜頭数全体の約半分を占める。生産者(牛の所有者)が肥育素牛を預託する
場合の経費は次の通りである。

@固定費:5ドル(約550円:1ドル=110円)/頭

A預り料:12セント(約13円)/頭/日

B飼料費:100〜110ドル(約11,000〜12,100円)/トン(肥育期間中、1頭当たり
 約0.6トンの飼料を消費)

 アルゼンチンでフィードロットに仕向けられる肥育素牛(主な品種はアンガス
種を主体とした英国系品種)は、7割弱が体重140〜150kgの離乳時期の雌子牛
(アルゼンチンでは200kg以下を子牛と呼ぶ)で、フィードロットで70〜100日間
肥育(この間に90〜100kg増体)させるのが一般的である。その理由は次の通り
である。

@主な販売対象を柔らかい若齢雌牛を好むブエノスアイレス大都市圏の富裕層に
 限定

Aテルネーラと呼ばれる若齢牛肉(出荷時体重が240kg以下で半丸枝肉重量65〜
 70kg)が高価格で取り引き。これ以上の大きさの枝肉は去勢若齢牛、未経産牛
 に分類され、売価が10%程度低下

B肥育期間延長は、単位増体量当たりのコストが増加
 例えばホテル業に預託した場合の増体量1kg当たりコスト(前述の肥育素牛預
 託経費の合計)は、次の通り推計される。

・仕上げ体重240〜250kgの場合:70セント(約77円)
・仕上げ体重約300kgの場合:75〜80セント(約83〜88円)
・仕上げ体重約400kgの場合:95〜100セント(約 105〜110円)


肥育牛価格の回復などにより収益は改善、新たな試みも

 2000年のフィードロット由来のと畜頭数は、99年の約120万頭を上回り150万頭
に達する予測もある。これは、穀物の国際価格が安いことや、フィードロット仕
上げの240kg前後の若齢雌牛が最近生体1kg当たり1.05〜1.10ドル(約116〜121円)
の高値で安定的に取り引きされているからである。素牛価格が安かった90年代前
半(生体1kg当たり65セント(約72円))は、肥育牛1頭当たり約70ドル(約7,7
00円)の純利益が上がったといわれているが、現在、素牛は生体1kg当たり約1ド
ル(約110円)で、肥育牛1頭当たり20〜30ドル(約2,200〜3,300円)の純利益と
推計されている(投下資本の3〜4%の月間利益回収率)。

 今年に入り収益が改善された背景には、最近の傾向として、母牛への負担を軽
くすること、代償成長を利用し短期間の肥育で最大の増体を得るなどのために早
期離乳を取り入れた肥育方法などの試みが挙げられる。また、アルゼンチン大手
スーパーマーケットのディスコ社は、昨年9月以降、干ばつに見舞われたウルグ
アイから早期離乳した3〜4ヵ月齢のヘレフォード種(体重110kg程度)を輸入し、
220kgに仕上げ高価格で販売するといった新しい取り組みも見られる。

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