農業牧畜の塩害対策に15億豪ドルを投入(豪州)


塩害に対する総合的な取り組みを実施

 豪州連邦政府は10月10日、農業牧畜などの分野で深刻化する塩害への対策とし
て、今後7年間で総額15億豪ドル(885億円:1豪ドル=約59円)を投入する計画
を発表した。また、11月初旬に行われた連邦・州政府関係閣僚会議では、計画に
投じられた資金のうち7億豪ドルは連邦政府が負担し、残りは各州政府が負担す
ることで合意した。

 計画によると、塩害地域を対象に、塩害の拡大防止と汚染土壌の復旧、塩害地
域における水質の改善、塩耐性作物の開発などを目標に掲げ、さらに、土壌など
に塩分が集積することを防止するための技術開発も行うこととしている。このた
め、州単位で@新たな水質基準目標の設定、A土地管理に関する責任を持つ調整
組識の設置、B土地所有権と水所有権との分離、C現行の土地と水価格制度の再
構築、D地表水と地下水についての利用制限、E新たなかんがい施設の建設禁止
−など総合的な取り組みが行われることとなる。

 なお、計画では、州政府に対し、現行の権利保持者から水利権を買い取る場合
には、補償措置を講じなければならないとしており、当面は、塩害の被害が深刻
となっているマレー・ダーリング川流域を対象に試験的に実施される予定である。


農畜産物の生産拡大が塩害の要因

 豪州最大の河川であるマレー・ダーリング川は、流域面積約91万km2、総延長約
5,328kmを誇り、いずれも農畜産業が盛んであるクインズランド州北部からニュ
ーサウスウエールズ州を縦断し、さらに、ビクトリア州を経てサウスオーストラ
リア州まで連なっている。このため、豪州の農業用かんがい用水の約7割をカバ
ーし、流域の生活用水までも支えるライフラインとなっている。下流地域では、
数十年前から塩害による生活用水への影響が懸念されており、その対応が迫られ
ていた。

 もともと、豪州大陸は海底が隆起して形成されたため、土壌中の塩分濃度は高
かったが、牧草地や耕地などの開拓に伴う森林伐採が土壌の状態を悪化させ、さ
らに、農畜産物生産の拡大を行うべくかんがい施設の急速な整備が、地下水位の
上昇を招き、結果的に高濃度となった土壌中の塩分が地下水に染み出して被害を
拡大させた。


計画の実施は農畜産物の生産に影響も

 年間降雨量が日本の半分ほどにも満たない豪州の半乾燥地帯では、強い蒸発作
用により土壌中の塩分が土壌表面へ集積しやすく、また、これが河川に流れ込む
ことにより、その塩分濃度が上がり、結果的にかんがいの農地の作物などに被害
を与えるだけではなく、砂漠化を進展させるなどの問題となっている。

 計画の策定に際して行われた調査報告では、新たな対策を打たなければ、豪州
の塩害地域は向こう30〜100年の間に、現在の250万ヘクタールから1千200万ヘク
タールに拡大するとしており、農畜産業の比重が大きい豪州にとって深刻な問題
である。

 かんがい用水の利用制限など塩害対策が計画通り実施されるとなると、今日ま
で、これを利用して牧畜、園芸、水稲などの生産性を向上させてきた各州への影
響は計り知れない。また、放牧地における水利用制限や草地開発そのものの制限
は、牧畜産業にも多大な影響を及ぼす可能性が高いだけに、今後の各州政府での
対応が注目される。

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