アルゼンチンの牛肉市場動向


 アルゼンチンの代表的な畜産情報誌"Informe ganadero"(畜産情報)の編集長
イグナシオ・イリアルテ氏が最近のアルゼンチン牛肉市場を解説し、今後の展望
を語った。国内外の畜産事情に精通し、少し視点を変えて観察する同氏の牛肉市
場展望は、決してバラ色ではないが、示唆に富むものである。


肉牛の供給量について

 98年のと畜頭数は1千2百万頭であったが、99年は去勢牛のと畜が増加すること
から1百万頭上回る1千3百万頭と見込まれ、枝肉重量も前年より増加する傾向に
なっている。

 このような状況から、99年の牛肉生産量は、前年に比べ8%以上増加すること
が予測されるが、一方、需要面では98年以降、景気低迷により牛肉消費が低迷し
ていることから、肉牛価格は下落するとみられる。しかし、1千3百万頭程度の供
給量であれば、国内需要が吸収し、メキシコのテキーラ危機の時のような肉牛価
格の暴落は生じないと予想される。牛肉に対するアルゼンチン人の胃袋はきわめ
て大きい(1人当たりの牛肉消費量は年間59.9kg(枝肉ベース))。

 価格下落に関し心配な点としては、近年、飼養頭数が5千3百万頭から4千8
百万頭に減少したものの、牛肉生産量は、さほど減少しないことが挙げられる。
すなわち、生産性が向上したことを意味するが、逆に、このことが価格の低下に
つながるのではないかと懸念される。


生産性が向上した理由とその影響

 生産性が高まった最大の理由としては、繁殖雌牛の出産率向上が挙げられる。
最近、パンパ地域では繁殖雌牛の出産率85%以上の生産者が多く、85%以下の出
産率では評価されない。

 現行の牛肉輸出価格では国際競争に勝てないことから、生産性向上による牛肉
増加分は、すべて国内市場に出回るとみられる。国内需要は強いので増加分は吸
収可能であるが、価格下落は避けられないと予想される。


牛肉の輸出動向について

 前述したように、アルゼンチン産牛肉には、国際市場での十分な価格競争力は
ない。内臓、皮、牛脂などの副産物価格がこの1年半で40%も下がり、業界全体
で3億ドル(312億円:1ドル=104円)の収入減となったことから、食肉処理加工
業者の経営状況が非常に厳しいことも不安材料として挙げられる。さらに、チリ
向けの牛肉および副産物輸出価格も下落している。

 輸出量は、枝肉ベースで毎月2万6千トンから2万7千トンで安定的に推移してい
るので、99年の輸出量は98年と比べ、さほど変わらないとみられている。


フィードロット肥育由来の若齢牛肉市場について

 大半が国内向けとなるフィードロット肥育由来の若齢の肉牛は、毎月10万頭
がと畜されている。このうち、約3割は3つの大手スーパーチェーンが握り、価格
決定上、優位な立場にある。これは、スーパーが必要としている以上に生産者が
契約を望むからで、スーパーは生産者との庭先取引で自由に価格を決め、不足分
だけリニエルス家畜市場で購入している。一方、市場取引シェアの低下傾向が見
られるリニエルス家畜市場では、生体価格が下落している。

 フィードロット経営者の多くは、食肉処理加工業者やスーパーとインテグレー
ションを形成し、仮に牛肉価格が下落してもフィードロット経営での損失をカバ
ーできるだけの体力をつけるとみられる。よって、将来的にも、フィードロット
経営者は、豊富な穀物を武器に牛肉生産に力を注ぐことになると予想される。

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