飲用乳価格支持制度の撤廃に対する投票、生産者は賛成(豪州)


加速する酪農改革制度

 飲用乳価格支持制度の存続の是非に関して、ビクトリア(VIC)州では、昨年
12月6日から20日にかけて生産者による投票が実施され、89%の圧倒的多数を
もって同制度の廃止に賛成という結果となった。また、投票率も84%と生産者の
関心の高さを示した。
 
 全豪生乳生産の63%を占める同州での規制緩和が明確になったことにより、今
年6月末で廃止予定の加工原料乳の価格支持と併せ、豪州の酪農制度改革は一気
に加速しそうだ。

 豪州の飲用乳に関しては、消費者への安定供給を目的に、州政府が生産者乳価
を設定している。今回、投票の対象となったのは、連邦政府から17億4千万豪ド
ル(約1,218億円:1豪ドル=70円)に上る業界再編支援パッケージが提供される
ことを前提に、この価格支持制度を廃止し、飲用乳価格を市場取引にゆだねるこ
とへの賛否である。

 農業分野に限らず広範にわたって規制緩和を推進する連邦政府への答申として、
VIC州政府は、既に昨年7月に制度廃止との方針を表明していた。しかし、その後
の州議会総選挙で自由党と国民党による保守連合から労働党へと政権交代の際に、
生産者の意志を尊重するとの新政権の公約に基づき今回の投票が実施された。


連邦政府は、他州に対し制度廃止への再考を迫る

 投票の結果を受けて、直ちに連邦政府、各州政府の農業担当大臣による特別会
合が招集された。席上、連邦政府のトラス農林漁業大臣は、「VIC州での制度廃
止が明確なものとなった限り、他州の動向にかかわらず、VIC州産牛乳は今年7
月1日から豪州全域に流通可能であり、豪州全体としても制度廃止の回避は不可
能である」とし、ニューサウスウェールズ(NSW)州やクインズランド州など、
連邦政府に対して既に制度の存続を答申していた各州に再考を迫った。

 飲用乳価格支持については各州ともほぼ同様の制度を持っており、現行制度下
では、州を越えての牛乳販売は制限されるよう図られている。しかしながら、酪
農適地であるVIC州で制度が廃止された場合、他州と比較して生乳生産コストが
3割も安いとされるVIC州産牛乳が豪州全域にわたって流通する可能性は高くなる。


NSW州では、制度廃止により3分の1の離農を予測

 VIC州の制度廃止による影響を最も受けるのは、VIC州に隣接し、消費人口の最
も多いNSW州とされ、約3分の1の酪農家が離農に追い込まれ、場所によっては地
域コミュニティーそのものが存亡の危機に瀕するとの悲観的な予測もある。

 NSW州のアメリー農業大臣は、同州における制度の存続に関して「(州内)す
べての酪農家を対象に協議、意見提出の機会を設けた上で、州政府としての意志
決定を行う」とし、酪農家の意志を尊重する旨、言明しているが、VIC州での投
票結果が出た以上、残された選択肢は少ない。

 トラス農林漁業大臣は、今年7月のタイミングを逃して業界再編パッケージは
あり得ないとした上で、同パッケージをスムーズに導入するためにも、2月中に
は連邦議会による審議が必要だとして、直ちに酪農制度改革に向けた対応策を示
すよう各州に強く求めている。

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