中国、12億人市場の開放加速へ


中国とEUがWTO加盟交渉に合意

 5月19日、中国の世界貿易機関(WTO)加盟をめぐる中国・EU間の交渉が妥結
し、中国の石広生・対外貿易経済合作部長とEUのラミー通商担当委員が合意文書
に署名した。

 5月15日にラミー委員が北京入りし、再開された第4次の交渉では、携帯電話な
どの移動通信や金融・保険、流通、自動車分野などで一層の市場開放を求めるEU
に対し、中国は、米国に対して示した譲歩が最大限との基本姿勢を強調してきた。
このためラミー委員は、19日午前の石部長との会談に続き、午後には朱鎔基首相
と会談し、最終的には中国の早期加盟実現に向け、双方が政治決断することで決
着が図られたとみられている。

 今回の交渉で中国は、前述の分野における市場開放を受け入れたほか、EUが得
意とするワイン、化粧品などの150品目について、輸入関税を8〜10%引き下げる
ことなどにも応じた。合意後の会見で、中国の江沢民国家主席は、同国のWTO加
盟への努力は、中国が対外開放を一層拡大させ、平等互恵を基礎に各国との経済
・貿易の関係を発展させるという意志を表明したものであると強調した。

 なお、中国は既に日本(99年7月)や米国(99年11月)などとの加盟交渉も終
えており、EUとの交渉が合意に達したことで、同国のWTO加盟は実質的な最後の
山を越えたと言われている。


米下院、中国のNTR恒久化法案を可決

 5月24日、米下院議会は、中国のWTO加盟に備え、同国に通常貿易関係(NTR:
最恵国待遇)を恒久的に付与するための法案を賛成多数で可決した。NTRは、第
三国に与える関税上などの有利な条件を、相手国に対しすべて自動的に付与する
ことを保証するもので、WTO協定では、加盟国が相互にNTRを恒久的に付与する
ことが義務付けられている。

 クリントン政権は、中国に対するNTR恒久化法案を「今年の最重要法案」と位
置付け、可決に向けてさまざまな工作を行ってきた。5月初めにはフォード、カ
ーター、ブッシュ各氏の大統領経験者が、対中NTR恒久化の付与を求める書簡を
議会に送付するなどの動きも見られ、法案は同月17日、上院財政委員会と下院歳
入委員会で可決され、それぞれ本会議に上程された。

 法案には、輸出拡大を期待する産業界や農業界が支持を表明する一方で、逆に
中国からの輸入増加や米国企業の中国進出により、雇用が奪われるとする労働界
が強く反対し、特に下院では激しい多数派工作が続いた。


中国は基本的に法案可決を歓迎、今年中にもWTO加盟へ

 可決された対中NTR恒久化法案では、@中国に対して恒久的なNTRを付与する
ことのほか、A上下両院議員などで構成される特別委員会が、中国の人権状況を
監視して年1回議会へ報告すること、B中国からの輸入急増に備え、他国より厳
しい特別輸入制限措置を法制化すること、CWTOによる年1回の点検を通じ、中
国のWTO協定の順守状況を監視することなどが、そのポイントとなっている。中
国政府は、一部の点に対して批判を加えながらも、「両国の健全で安定的な発展
に大きく貢献するもの」として基本的には歓迎し、今後、WTOの規則に基づく法
制・税制などの改革を加速させる意向であることを表明した。

 法案は6月に上院でも可決され、下院との修正手続きと大統領の署名ののち、
秋にも成立する見通しとなっている。しかし一部には、予算案について大統領と
合意が成立するか、または新政権発足後まで上院での採決を持ち越すべきなどの
意見もあり、成立の時期については流動的な要素もある。

 中国がWTOに加盟するためには、残り数ヵ国との2国間交渉をすべて妥結させ
る必要がある。その後の舞台はWTO本部の中国作業部会に移り、多国間交渉によ
る詰めの作業ののち、最終的には加盟メンバーの採決を経て加盟が承認される。

 今回、EUとの加盟交渉が合意に至り、米国の対中NTR恒久化法案の成立にも一
定の目途がついたことで、12億人市場を抱える中国のWTO加盟は、年内にも実現
することが確実な情勢とみられている。

 なお、中国のWTO加盟を念頭に置いた豪中の2国間貿易協定がi、5i月22日に北
京で調印された。今回の調印は、既に交渉が妥結しているものに対する形式行為
であるが、豪州の農業をはじめとする輸出産業にとって大きな朗報となっている。

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