豪州産生体牛の輸入禁止をめぐり波紋広がる(フィリピン)


フィリピン産果実に端を発し、豪州産農産物の輸入を禁止

 フィリピンでは、豪州からの肥育用生体牛の輸入禁止措置をめぐって、畜産・
飼料業界に大きな波紋が広がっている。

 豪州は、保存料として使用されている安息香酸の含有率が高濃度であることな
どを理由に、フィリピン産のマンゴー、バナナおよびパイナップルの輸入を、昨
年から禁止した。このうちマンゴーについては、長期に及ぶ試験により安全性が
確認され、豪州への輸出が再開された。フィリピン農業省は、バナナとパイナッ
プルについても同様の検査を実施するよう要求したが、豪州側がこれを認めなか
ったため、その対抗措置として、今年3月、肥育用生体牛をはじめとする豪州産
農産物の輸入禁止措置を発動した。

 これについて、フィリピンのアンガラ農業長官は、豪州に対して、対応の遅さ
を指摘するとともに、衛生上の不都合に問題点を転嫁し、事態の解決を先送りに
しているだけとして遺憾の意を表明している。


輸入禁止措置が飼料生産者にも飛び火

 こうした中、フィリピンでは、農業省の豪州産農産物の輸入禁止勧告を受けた
国内最大級の生体牛輸入業者が、飼料となるトウモロコシを、今後は契約農家か
ら購入しないことを明らかにした。これに対し、ミンダナオ島のトウモロコシ生
産者団体は、このまま政府の豪州産生体牛の輸入禁止措置が続けば、年間で6,64
0万ペソ(約1千8百万円:1ペソ=約2.8円)の損失を被ることになるとして、人
道的な見地から同措置の解除を求めた陳情書を同長官に提出した。同団体による
と、これまでミンダナオ島の農民は、1日当たり80トンのトウモロコシを納入し
ており、生体牛輸入業者との契約を継続するため、これらの農家はトウモロコシ
の作付けを終えた直後であるという。

 しかし、農業省のスポークスマンは、豪州がフィリピン産農産物の輸入規制を
解除しない限り、豪州産生体牛の輸入再開の手だてはないとして、豪州政府に対
しフィリピン産果実の輸出申請を受理するよう求めている。また、これらの果実
の輸入を妨げている衛生問題解決のためのタイムスケジュールの提示も、併せて
要求している。

 一方、在フィリピン豪州大使館は、大蔵省や運輸省などの関係省庁を通じ、農
業省の強い態度を軟化させようと働きかけたと伝えられるが、現在までのところ
事態の収拾には至っていない。

 なお、農業省は、今回のトウモロコシ農家の陳情騒ぎは、生体牛輸入の再開を
もくろんだ輸入業者が、トウモロコシ農家に圧力をかけたために生じたものであ
るとして、これら輸入業者に対し言動を慎むよう指導するとともに、生体牛の輸
入先をニュージーランド、米国、欧州などへ振り向けることを提案している。


両国の論争は拡大の様相

 豪州にとって、東南アジアは生体牛の輸出先として最も重要な地域の1つとな
っている。中でもフィリピンは、99年の豪州からの生体牛輸出の3割以上を占め、
名実ともに最大の出荷先となっているだけに、豪州にとっても今回の問題の影響
は大きい。このため5月23日、豪州政府の関係者が、同国の検疫制度について理
解を求めるためにマニラ入りした。

 しかし、5月24日に開催された両国の協議は、わずか90分で決裂した。フィリ
ピン政府は、豪州の厳しい農産物検疫は自国の農業保護が目的であり、自由貿易
の原則に反すると批判、豪州が主導するケアンズ・グループからの脱退を示唆す
るとともに、マレーシアやタイに呼びかけ、共同で世界貿易機関(WTO)に提訴
する考えも示すなど、問題は拡大の様相を見せている。

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