共通農業政策(CAP)改革により、農産物価格は低下との予測(EU)


CAP改革の影響に関する予測分析結果を公表

 EUはこのほど、昨年3月に決定した共通農業政策(CAP)改革による農業およ
び経済への影響に関する予測分析の結果を公表した。分析を行ったのは、ドイツ
のボン大学、米国の食料農業政策研究所(FAPRI、ミズリー大学およびアイオワ
大学で分析)、オランダのアムステルダム大学世界食料研究センターの3機関で
ある。

 改革を行わなかった場合と比較したシミュレーション分析結果の概要は、次の
通りである。


牛肉:市場価格の低下で生産減、消費増

 牛肉については、支持価格の段階的な引き下げ、その後の介入買い上げの廃止
と民間在庫補助への移行、繁殖雌牛奨励金の交付上限頭数の拡大などが牛肉生産
を抑制する要因として働く一方、既存の直接支払いの単価引き上げ、と畜奨励金
の新設が比較的安価な飼料価格や生乳ク
オータの増加と関連して牛肉生産を拡大する要因となるとみられる。結果として、
市場価格の低下により生産はわずかに減少する一方、消費は改革を行わなかった
場合と比べ2〜3%増加し、在庫量は大きく減少すると見込まれる。これらの変化
の度合いは、域内市場の管理および輸出補助金に関するEU委員会の政策に主に影
響される。


豚肉・鶏肉:CAP改革による影響はわずか

 豚肉・鶏肉については、穀物および牛肉に関する政策改革の影響を受けるもの
と見込まれる。支持価格の引き下げに伴う穀物価格の低下により恩恵を受ける一
方、牛肉価格の低下がこれらの消費へ影響する。ただし、飼料価格の低下、豚肉
・鶏肉から牛肉への代替についての分析結果は、研究機関により異なるが、改革
を行わなかった場合と比べて顕著な変化は認められない。また、大半の研究では、
価格低下により、特に鶏肉で輸出補助金無しでの輸出機会が増加すると見込まれ
ている。


生乳:クオータの増加により生産増加

 生乳については、クオータの増加により生産が増加するものと見込まれる。た
だし、その度合いは、現状の加盟国でのクオータを超えた生産および国際市場に
おける生乳価格の低下が与える影響の仮定次第で、研究機関により異なる。牛乳
および乳製品の生産増加の大半は域内消費に吸収される一方、特にチーズについ
て乳製品輸出が増加すると見込まれる。しかしながら、生産が消費・輸出を上回
り、主に脱脂粉乳の在庫は増加するものと見込まれる。


農業所得:伸び率がわずかに下回る

 農業所得の伸びは、改革を行わなかった場合に比べわずかに下回るが、名目総
農業所得は92〜96年と比較し11〜12%上回ると見込まれる。また、労働単位当た
りの実質農業所得は、92〜96年と比較して2005年では16〜34%とかなり上回ると
見込まれる。(研究により、インフレ率、農業労働力の仮定に差があり結果が異
なる。)


消費者等への影響:農産物価格の低下により恩恵

 EUの消費者は農産物価格の低下により恩恵を受けると見込まれる。消費者等が
恩恵を受ける額は、EU全体で2005/6年度に約90億ユーロ(約9,360億円、1ユー
ロ=104円で換算)、2006/7年度には105億ユーロ(約1兆920億円)に達するも
のと見込まれる。恩恵の度合いは、主に農産物の市場価格の変化に影響される。
一般的に言えば、その大部分は消費者が恩恵を受けるものと見込まれるが、残り
は食品・小売業界に渡り、収益性や競争力の改善に役立つものと思われる。また、
農産物価格の低下は消費者物価指数を2005年に0.25%、2010年には0.33%引き下
げるものと換算され、前向きのマクロ経済効果を生むものと期待される。

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