全人代、農業の構造改善と積極財政策で成長維持へ(中国)


三大改革総決算の年に

 中国の最高国家権力機関で、国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が、
3月5〜15日に北京で開催された。全人代は各省、直轄市、自治区、特別行政区
および軍が選出する代表により構成される。各代表の任期は5年で、大会は毎年
1回開催される。

 98年に就任した朱鎔基首相は、国有企業、金融、行政機構の三大改革に、3年
前後でめどをつけると宣言している。その3年目となる今年は、いわば改革の総
決算の年に当たる。同首相は、3月5日の政府活動報告(施政方針演説)において、
国有企業改革の目標は3年で実現可能であるなどとし、自信を見せた。国有企業
の経営は、株式制導入など企業形態の見直しにより、表面上は改革が進んでいる。
しかし、「公有制の原則」の枠の中では改革の速度に限界があり、理想的な形で
進展しているとは言い難いとの声も強い。

 このため、国有企業改革の遅れは税収減や銀行の不良債権を累増させ、行政・
金融改革の停滞を招いているほか、年内にも見込まれる中国の世界貿易機関(W
TO)への加盟により、外国との競争が激化して国有企業の赤字が増大し、結果的
に三大改革を袋小路に追い込みかねないとの指摘もある。


農業の戦略的な構造調整を強調

 今年の全人代では、四川省や重慶市など19省・市にわたる「西部大開発」、国
有企業改革とそれに伴う社会保障の充実、WTO加盟対策、そして汚職・腐敗問題
などが焦点となり、農業関係についてあまり多くは語られていない。しかし、中
国がWTOに加盟した場合、最大の影響を受けるのは農業部門ではないかとの見方
もある。例えば、同国で生産される大豆やトウモロコシなどのコストは、このと
ころ上昇が著しく、国際競争力について疑問視する声が強い。

 朱首相は政府活動報告の中で、同国の農業が新たな段階にあり、今後は戦略的
な構造調整が必要であると述べ、農産品の多様化と高品質化を求めた。また、国
家発展計画委員会・曽培炎主任は3月7日、経済政策に関する基本方針案の中で投
資・農業・工業の構造改革について触れ、農業の構造改革の一環として、1月の
中央農村工作会議で示されたインフラ整備や食糧作付総面積の減、さらに、質の
点で問題のあるインディカ米早生稲や冬まき小麦、東北の春まき小麦など一部の
食糧の減反・政府保護価格による買い上げ対象からの除外などを改めて提示し、
中国農業について、量から質への転換の必要性を強調した。


キーワードは「西部大開発」

 中国経済は、経済基盤や地理的な有利性などから、これまで沿海部を中心に発
展してきた。今年の全人代では、沿海部と内陸部の経済格差の縮小と、内陸部に
おける新たな市場形成の本格化により内需拡大を図るという一石二鳥を狙った政
策として、西部大開発が長期的な総合国家プロジェクトとして位置付けられ、中
西部への公共事業費の投入比率が、昨年の60%から70%に拡大された。

 石広生・対外貿易経済合作部長は、外資導入が西部大開発推進のカギになると
し、その誘致にさまざまな優遇措置をとるとしている。また、世界銀行の東アジ
ア・太平洋地域担当副総裁は、現在準備中の中国への融資のうち、今後3年間で、
約10億ドル(約1千1百億円:1ドル=約108円)を西部大開発のインフラ整備など
に投入する計画があるとし、西部大開発への積極的な支持を表明した。

 全人代は、3月15日に朱首相の政府活動報告(施政方針)や2000年度予算案な
ど、7つの決議項目を承認して閉幕した。しかし、国有企業改革などで発生する
年間約1千2百万人といわれる失業者対策や、まん延する汚職・腐敗問題など、朱
首相は多難なかじ取りを余儀なくされそうだ。

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