酪農政策の変更に酪農家が反発(タイ)


国内生産者に不利な提案が閣議に上程

 タイ工業省は、83年から実施している、乳業メーカーによる国産生乳買い取り
義務の廃止を閣議提案した。また、大蔵省も、価格が上昇している乳幼児用粉ミ
ルクの関税率引き下げ案を閣議に提出した。これに対し、同国の酪農家は強く反
発、約100人が政府機関の入り口に生乳をまくなどの抗議行動を起こした。


関税割当制度の実施で、国産生乳買い取り義務は事実上機能せず

 工業省が廃止を提案した、乳業メーカーによる国産生乳の買い取り義務は、一
般に「1対1規則」と呼ばれ、国内酪農業の振興と、粉ミルクの輸入による外貨の
流出を防止する目的で実施されている。この規則では、牛乳を輸入する場合、最
低でも同量の国産生乳を1リットル当たり12.5バーツ(約36円:1バーツ=約2.90
円)で購入すること、そして購入量を毎年20%以上増加させることが義務付けら
れている。タイでは、ガット・ウルグアイラウンド合意により、95年から脱脂粉
乳の輸入に関税割当制度が導入され、前年の製造実績に基づき、政府が枠を@乳
飲料製造業者、A練乳製造業者、B乳製品を原料とする食品製造業者、C輸入商
社にそれぞれ割り当て、それを各業界内の企業で分け合う形を取っている。この
ため、国産生乳買い取り義務の規則は、事実上機能していない状況となっている。
なお、自動車部品などの工業製品に関する1対1規則は、既に99年8月に廃止が決
定されている。

 一方、大蔵省の提案は、消費者団体から、品不足により価格が上昇していると
抗議が出ている乳幼児用粉ミルクが対象で、現在5%の関税率を1%に引き下げる
というものである。


生産者団体はメーカーだけに有利と反発

 タイ酪農業協同組合は、これらの措置が実施されれば、乳飲料製造業者などが、
国産生乳を購入せずに安価な輸入脱脂粉乳の利用に傾き、国内の酪農家2万人以
上が生活に困ることになるとしている。また、米国などの先進国でも酪農業に対
し助成していることや、粉ミルクの品不足はメーカーが国産生乳を買い控えてい
るためであることなどを挙げ、提案の取り下げを両省に申し入れた。


政府は提案の延期で問題を先送り

 これに対し、農業協同組合省は、酪農家との話し合いや、小売価格の調査など
の時間が必要であるとの立場から提案の延期を要望し、結局、政府としては、今
回の提案を延期することで事態を収拾することとした。

 しかし、同国の乳製品については、アセアン自由貿易圏(AFTA)構想などを受
け、2004年以降自由化を行う方向で検討されており、今回の延期措置は市場のグ
ローバル化に逆行するもので、単に問題を先送りしただけであるとの見方が強い
ようである。

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