拡充・強化されるカナダのセーフティ・ネット


農家所得に占める割合が増す政府直接支払い

 カナダ統計省が2月下旬に公表した「農家現金受給額」によると、価格低迷等
にあえぐ穀物や油糧種子等の耕種農家の現金受給額は、97年以降減少傾向にある。
一方、畜産農家については、肉牛や肥育豚等の販売額の増加により89年以降ほぼ
毎年増加している。このため、99年の農家全体の現金受給額は、前年比2%、過
去5年平均比7%増の303億カナダドル(約2兆3千億円:1カナダドル=75円)とな
っている。うち、約18億カナダドル(1,350億円)が連邦・州政府の制度に基づ
く直接支払いによってもたらされたものであり、その額も年々増加(前年比28%、
過去5年平均比31%)しているが、中でも、リスク管理対策(セーフティ・ネッ
ト)に基づく支払いの貢献度合いは大きい。


緊急対策を期間半ばでテコ入れ

 カナダのセーフティ・ネットは、@作物保険、A純所得安定口座(NISA)、B
これらを補完する各州ごとの付帯制度という3つの柱から構成される。これらに
加え、98年度(98年4月〜99年3月)からは、農産物価格の低迷や自然災害による
農家収入の減少に対処するため、2年間の時限措置として農業所得災害支援対策
(AIDA)が講じられている。これは、連邦政府6割、州政府4割の出資による基
金から、当該年度における各農家の所得(グロス・マージン)が直近の過去3年
平均の70%を下回った場合、その差額が補てん(すなわち、過去3年間の平均所
得の70%が補償)されるというもので、連邦政府の出資分だけでこれまでに約10
億7千万カナダドル(803億円)が投じられた。

 このAIDAについて、99年11月、カナダ政府は、1億7千万カナダドル(約128億
円)の追加支援を行うとともに、@当該年度の損失額(ネガティブ・マージン)
の70%をも補償の対象とする、Aグロス・マージンの比較対照の期間として、過
去5年のうち最高と最低を除く3年も適用可能とする、Bマージン算出時のコスト
に、雇用労賃のほか家族労働報酬の算入も認めるなどの改正を行った。


新年度予算案にも追加措置を導入

 こうした状況下、本年2月28日には、5年間で約580億カナダドル(約4兆4千億
円)という20数年ぶりの大幅減税を目玉とする2000年度予算案(2000年4月〜
2001年3月)が国会に提出された。その中でも、セーフティ・ネットの拡充・強
化が図られ、@今後2年間を対象とした、連邦政府の拠出額ベースで毎年5億カナ
ダドル(375億円)の新たな所得災害支援対策の導入(注:AIDAの後継対策と目
され、1農家当たり2万カナダドル(150万円)を上限とする新たな無利子融資も
含まれる模様)、A西部穀物輸送法の廃止(95年8月)で最も大きな不利益を被
ったとされる平原2州(マニトバ州、サスカッチュワン州)の穀物生産農家に対
する1回限りの4億カナダドル(300億円)相当の支援措置(注:連邦・州政府の
拠出額ベース)などが盛り込まれた。

 さらに、3月23日、連邦および州政府の農業大臣間では、今後3年間にわたるセ
ーフティー・ネットの運用に関する暫定合意が結ばれた。具体的には、@連邦政
府からの基金への拠出額につき、上記の新たな所得災害支援対策分を4億3,500万
カナダドルに減額する代わりに、その差額をNISAなどの既存対策分(注:これ
までは6億カナダドルを拠出)に上乗せし、6億6,500万カナダドル(約500億円)
とすること、A各州への基金からの支払額は、99〜2000年の交付実績を下回らな
いこととすること、B基金は、各州の農業規模に応じて配分されることなどを内
容としており、今後、連邦および各州における閣議承認を経て、具体化されるこ
ととなる。

 しかしながら、農業団体の間では、このような措置に対する歓迎の声ばかりで
はなく、生産者が抱える長期的課題の解決策にはならないとして、恒久的な対策
の実施を求める向きもあり、また、受取額についての各州間の不公平感は、完全
に払拭されていないとの見方もある。このため、各州政府、農業団体等を巻き込
んだ議論は、今後も続きそうだ。

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