海外駐在員レポート 

オランダの畜産環境対策

ブラッセル駐在員事務所 島森 宏夫、山田 理




1 はじめに

 オランダは、ヨーロッパ諸国の中で最も家畜の飼養密度が高い国で、集約的・
先進的な畜産国として知られている。一方、この結果として、家畜ふん尿による
水質汚染などの環境問題が深刻化している。このため、オランダ政府は、80年代
から家畜ふん尿によるミネラル過剰問題に対して真剣に取り組み始めた。その後、
91年に制定されたEU硝酸塩指令(91/676/EEC)への対応も必要となり、対策
(規制)の強化が進んでいる。本稿では、オランダ農業自然管理漁業省農業部の
資料を基に、最近の同国の畜産環境対策について紹介する。

◇図1−1 EUにおける地域別家畜飼養密度(90年)◇
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2 要約

家畜ふん尿による環境問題

 オランダでは、畜産および園芸は先進的であるが、その結果、多数の家畜が飼
養され家畜の飼養密度が高くなり、家畜ふん尿(たい肥)が大きな環境問題を引
き起こしている。特にミネラルの窒素およびリン酸塩、アンモニアが問題となっ
ている。また、化学肥料や他の有機肥料にも窒素およびリン酸塩が含まれている
ことから、これらの投入も問題となっている。

 ミネラルは植物および家畜の生育に不可欠な栄養素であるが、過剰なミネラル
は環境に対して有害となる。すなわち、地上水や地下水に浸出することにより水
草や藻の大増殖の原因となり、飲料水へも悪影響を及ぼす。家畜ふん尿からのア
ンモニア放出は、土壌などの酸性化や富栄養化をもたらす。また、温室効果ガス
であるメタンや笑気(N2O)などの有害ガスも放出する。


ミネラル管理政策

 こうした問題に対処するため、オランダ政府は80年代に入りミネラル政策を導
入した。その後、EUの畜産環境への取り組み強化を受けて、同政策は徐々に強化
され、現在最終段階に入っている。この規制強化により、今後、数千の農家が離
農を迫られるものと予想されている。なお、規制強化による劇的な社会的影響を
ある程度緩和するために、畜産農家に対する離農補償などの副次的政策も実施さ
れている。また、畜産からのアンモニア放出を減少させるための新しい規則が作
られており、さらに、メタンおよび笑気の規制を準備中である。


ミネラル収支制度

 ミネラル政策の核となっているのは、ミネラル収支制度(Minas(マイナス) 
Minerals accounting system)である。この制度では、農家は窒素およびリン酸
塩の出入りを詳細に記帳しなければならず、法律で年間のミネラル収支計算報告
が義務付けられている。この出入りの差が当該農家のミネラル余剰量となり、1
ヘクタール当たりの窒素およびリン酸塩の余剰量が最大許容水準(亡失水準:lo 
ssstandard)を上回った場合に課徴金が課せられる。課徴金は制限的に高く設定
されているため、農家は環境へのミネラル亡失を最小限にするような対策を取ら
ざるを得ないという仕組みである。

 本制度は、98年に集約的畜産農家のみを対象として導入されたが、2001年から
は全農家が対象となる。また、政府は亡失水準を2003年までに段階的に引き下げ
ることを決定している。なお、窒素亡失に関し最もぜい弱な土地である乾燥砂地
における亡失水準については、環境目標を確保するために別の水準が設定されて
いる。

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ふん尿廃棄契約制度

 オランダ政府は、Minasを補完するため2002年からふん尿廃棄契約制度の導入
を計画している。ふん尿廃棄契約制度の下では、畜産農家はふん尿が生産される
前に廃棄計画を立てなければならない。農家は、Minasの亡失水準以下のふん尿
を自己所有地に投入できるが、過剰分については耕種農家、土地に余裕のある畜
産農家、もしくは、ふん尿処理業者との間に当該ふん尿の廃棄(販売・譲渡)契
約を結ぶことが義務付けられる。このため、十分な契約が確保できない農家では、
必然的に家畜頭数を削減しなければならない。


アンモニア放出の低減

 畜産は、酸性化の主要原因となっている。このため、いくつかの規制が導入さ
れているが、最も重要なのはアンモニアの放出を防止することである。例えば、
農家はふん尿を土中に注入しなければならず、ふん尿貯蔵タンクは覆い(カバー)
が必要である。アンモニア放出は、畜舎構造によって減少させることが可能であ
る。2001年には新たな畜舎規制を立案する予定である。すでに地方レベルでは、
新規畜舎の許可要件として放出量の減少を規定しているところも多い。

 また、土壌への重金属およびヒ素の汚染を防ぐため、汚泥やたい肥の品質と使
用方法に厳しい規制を設けている。


3 家畜ふん尿による環境問題

 オランダは、人口密度および家畜の飼養密度がヨーロッパで最も高い国である。
畜産および園芸分野では、土地価格の高騰により集約化が加速された。このため、
結果としてオランダ農業は近代的農法で発展を遂げてきた。また、有機・化学肥
料の集約的使用などにより生産性も高くなっている。しかし、この集約的農法に
は、肥料の使用が環境に大きな負荷を与えるという欠点がある。政府は、意欲的
目標を設定し、環境政策により環境への悪影響緩和に向けて取り組んでいる。

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集約的農業生産の現状

 オランダの農業・園芸に使われている土地面積は約200万ヘクタールであり、
内訳は牛の草地が半分を占め、飼料用トウモロコシが20万ヘクタール以上、穀物、
ジャガイモ、砂糖用ビートなどその他の耕種作物が70万ヘクタールとなっている。

 土地の生産性は高く、例えば、小麦の収量は1ヘクタール当たり8〜9トンであ
り、酪農家は1シーズンに牧草を5回刈り取る。そのほかのヨーロッパの地域では
このように大きな収量は望めない。

 オランダは小国であるが、多数の家畜が飼養されている(99年5月現在の飼養
頭数は、牛:420万頭(うち乳用経産牛:160万頭)、豚:1,400万頭(うち、肥
育豚:680万頭、雌豚:160万頭)、鶏:1億800万羽、羊:140万頭)。酪農家に
比べて、養鶏および養豚農家ではかなり家畜の飼養密度が高い。家畜の飼養密度
は農地面積1ヘクタール当たりの家畜単位(LU)*で表されるが、オランダは3.9
LUでヨーロッパ最大となっている。

*LU:複数の畜種・種類の家畜を比較・合計するために使用される単位で、飼料
   要求量に基づく同等量が定義されている。例えば、体重600kgの乳牛(年
   間泌乳量3,000kg)=1LU、肉用子牛=0.45LU、繁殖雌豚=0.5LUである。

◇図1−2 各国、地域の農地面積当たり家畜飼養密度(95年)◇


環境問題

 家畜ふん尿および化学肥料には窒素、リン酸塩、カリウムなどの植物の生長に
不可欠なミネラルが含まれている。また、肥料には植物および動物の生理学的働
きに必要な微量元素も含まれている(銅および亜鉛は重要な微量元素であり、カ
ドミウムなど実際は有害なものもある)。しかしながら、ミネラルおよび微量元
素の過剰蓄積は、環境に対し障害をもたらす。硝酸は硝酸塩に変化して地下水に
浸出し、飲料水の品質を直接的に悪化させる。窒素とリン酸塩は地表水にも浸出
し、藻の増殖を引き起こすとともに、水を濁らせ作物や動物の生命を脅かす。同
様に、北海の富栄養化問題も深刻になっている。また、アンモニアの放出は、土
壌などの酸性化や富栄養化の原因となる。特に、酸性化は自然(保護)地域の生
物の種多様性に大きな影響を及ぼしている。 

 農業、すなわち、ふん尿と肥料は、オランダの地上水硝酸塩汚染原因の約40%
を占め、硝酸塩汚染原因全体の約56%を占めている。また、農業からのアンモニ
ア放出は、国内の酸性化原因の42%を占めている。地域格差はあるものの、オラ
ンダ全体での窒素たい積値の平均値は1ヘクタール当たりほぼ3,000モル*であり、
自然環境として安全と考えられる量をはるかに超えている。端的に言って、効果
的なミネラル管理政策が必要であり、政府は政策の枠組みとしての環境目標を下
記のように設定している。

*モル(mol)は物質量の単位で、窒素原子(N)1モル=14グラムである。


−窒素およびリン酸塩の環境目標−

○地下水品質目標
	窒  素:1リットル当たりの硝酸塩量50mg(一般目標)
	   	1リットル当たりの硝酸塩量25mg(上位目標)
	リン酸塩:1リットル当たりのリン量0.15mg

○地上水品質目標
	窒  素:1リットル当たり2.2mg
	   	(富栄養化の恐れがある非流水での全窒素量−夏期平均)
	リン酸塩:1リットル当たり0.15mg(全ての水での全リン量−年間平均)

○北海への浸出削減目標
	窒  素:85年に比較し50%削減
	リン酸塩:85年に比較し50%削減

○アンモニアによる土壌などの酸性化
	80年に比べ2000〜05年には、農業によるアンモニア放出を70%削減

○窒素たい積目標
	2000年目標 国全体の平均で1ヘクタール当たり窒素1,600モル
	(注:窒素放出の主な原因は、農業(アンモニア)および交通
    (窒素酸化物である。)
	2010年目標 森林地帯の平均で1,000モル

◇図2 オランダにおける土壌などの酸性化原因(98年)◇

 家畜密度が高いことは、ふん尿の生産が多いことを意味する。平均すると、オ
ランダの畜産は1ヘクタール当たり340kgの窒素を生産しており、これに加え、農
家は化学肥料にも大きく依存していることから、穀物、食肉、生乳などへの多量
の支出を差し引いても、相当な量の窒素が環境に浸出している。 

 また、家畜ふん尿とは別に、農家は、家庭のたい肥(コンポスト)および下水
汚泥などを有機肥料として使っている。これらの肥料は重金属やヒ素を含んでい
る恐れがあり、場合によっては土壌を汚染する可能性がある。政府は、土壌が多
面的機能を維持するようにという原理に基づき重金属の目標限度値を設定してい
る。言い換えれば、土壌は食料生産を含むあらゆる種類の利用が可能であるべき
ということである。家庭たい肥と汚泥についての品質分類も設定している。

 以上の環境目標や政策はオランダ独自のものではなく、その内容は、EUの硝酸
塩指令などの影響を強く受けている。この硝酸塩指令の下、オランダは全土を硝
酸塩汚染の危険度の高いぜい弱地域として指定しており、農家はその厳しい基準
に従う必要がある。さらに、EUではアンモニア放出削減指令について検討作業を
進めており、近い将来、オランダの環境政策に影響を与えるものと予想される。

 また、オランダは、さまざまな環境に関する国際的な合意を取り交わしており、
例えば、北海条約では北海への窒素およびリンの浸出50%削減が取り決められて
いる。


4 ミネラル管理政策

 オランダ政府は、ふん尿過剰問題に真剣に取り組んでいる。3で示したように
意欲的な環境目標を設定し、土壌、地下水、地上水へのミネラルの負の効果を克服し
ようとしている。ミネラル過剰の低減は、家畜頭数の削減および許容範囲を超え
た農家へ課せられる高額な課徴金によって達成される予定である。このほか、ア
ンモニア放出の低減のために、畜舎、ふん尿貯蔵および土壌投入に関する対策を
講じている。なお、温室効果ガスの低減政策は検討中である。


ミネラル政策の段階的推進

 政府は、農家が徐々に新しい規制に適応できるようにミネラル政策を段階的に
推進してきた。ただし、最近はその実施ペースを加速させている。

 政策は80年代に開始され、第1段階(87〜90年)ではふん尿過剰が増大しないこ
とを目標とし、第2段階(90〜98年)ではふん尿過剰の環境負荷を大幅に削減す
ることを目標とした。98年1月から実施されている現在の第3段階では、窒素およ
びリン酸塩の需給均衡の達成を目標としている。この中では、いくらかのミネラ
ル過剰はまだ許容されているが、許容亡失水準が設定されている。


ミネラル政策の手法

 最も重要なミネラル政策の手法は以下の通りである。

・家畜頭数の増加防止のための規制
・強制的に豚頭数を10%削減
・生産権の買い上げと取り上げ
・ミネラル収支制度(Minas)の導入

 同制度では実際のミネラル収支を計算し、年間のミネラル余剰を報告する。現
在、同制度は集約的畜産農家を対象に実施されているが、2001年にはすべての畜
産および園芸農家が対象となる。

・秋と冬の家畜ふん尿の土壌投入禁止

・アンモニア放出を最小限にするための、家畜ふん尿投入時の土中注入方式の義
 務化

・ふん尿貯蔵タンクの覆いの義務化

・集約的畜産施設からのアンモニア放出要件の強化

・現存および新規畜舎の環境認可において、アンモニア放出低減対策を十分に審
 査

・土壌への重金属汚染を最小限にするため、家庭のたい肥(コンポスト)、下水汚
 泥、その他の有機肥料の品質要件の強化

・優良農業規範の普及推進

 すでにいくつかの成功事例あり。


化学肥料の使用削減

 集中的な広報運動と農家指導により、85年以降、化学肥料使用量は2割削減(8
5年:約250kg/ha→現在:約200kg/ha)され、家畜ふん尿の使用が増加した。98年
から導入されたMinasにより、さらに化学肥料使用量が減り環境負荷が低下する
ものと予想されている。


その他

 そのほかの対策としては、国内契約または輸出によるふん尿の廃棄や、よりバ
ランスの取れた飼料給与によるふん尿中へのミネラル含有量の低減方策がある。
後者では、豚の飼料構成を変えた結果、ふん尿中のリン酸塩含量が30%低下した
事例も報告されている。

 養豚および養鶏農家の過剰ふん尿は、現在、国中に効果的に分配されており、
1,500万トンのふん尿が集約飼養地域から家畜密度が低くふん尿が不足する地域
へと移送されている。さらに、鶏ふんは、数千トンのリン酸塩相当量がフランス、
ドイツなどへ輸出されている。

 一方では、ふん尿廃棄に関する野外試験も開始されており、ふん尿のたい肥化
およびミネラル濃縮物の開発試験が行われている。


監視

 近年、農地化した砂地土壌を対象に水質検査が定期的に行われている。この結
果、約85%の地域で地下水の硝酸塩濃度が1リットル当たり50mgを超えていること
が判明した。この検査は数年後に強化され、Minasの成果評価とEUへの硝酸塩指
令の達成度報告に使われる予定である。現在、予備実験が終了し、泥炭土壌およ
び粘土土壌の地下水の水質検査も開始される予定となっている。


温室効果ガス

 温室効果、すなわち、ある種のガスの放出増加による世界的な気候変動は世界
中で関心を持たれている。化石燃料の燃焼で生じる最も一般的な二酸化炭素(C
O2)のほか、メタン(CH4)、笑気(N2O)などが代表的な温室効果ガスである
が、オランダにおいては、農業生産に伴う放出割合はメタンの45%、笑気の35〜40
%と推定されている。メタンは反すう動物の消化過程で生じ、笑気は主に有機肥
料や化学肥料の形での窒素の農地投入で生じる。97年の京都会議では、これら温
室効果ガスの削減が合意され、オランダは2008〜12年までに二酸化炭素相当量で
6%削減を目標としている。具体的な削減対策は検討中であるが、アンモニアで
行われているのと同様に、温室効果ガスも削減できる畜舎の建設推進などが考え
られる(8の「アンモニア放出の防止」を参照)。

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5 ミネラル収支制度(Minas)

 オランダ政府は、国内の家畜ふん尿過剰を低減するため独自の制度を開発・導
入した。この制度はミネラル収支制度(Minas)と呼ばれ、現在、集約的畜産農
家のみに対して実施されているが、2001年以降はすべての農家に対して適用とな
る。制限的に高く設定された課徴金によって農家はミネラル過剰を減らさざるを
得なくなる。Minasの下、農家はミネラル収支の正確な記帳をし、実際の窒素および
リン酸塩の過剰量の計算結果は毎年提出しなければならない。もし、過剰量が大
きな場合には、課徴金が引き上げられる。


Minasの利点

 以前のオランダのミネラル政策では、リン酸塩の削減に焦点を当てており、窒
素の削減は間接的な効果にすぎなかった。また、家畜ふん尿に対しては制限を行
っていたが、化学肥料は考慮していなかった。さらに、畜種によるふん尿量や構
成成分の大きな違いへの配慮も欠いていた。Minasはこれらの欠点を解消し、優
れたミネラル管理を推進することを目的としている。

 Minasでは、従来政策に比べ次のような改善が行われた。

1 リン酸塩に加えて窒素も焦点とした。

2 ミネラル過剰を真の問題として捉え、家畜ふん尿、化学肥料、そのほかの有
 機肥料を計算対象とした。

3 目標達成の方法から目標達成に主眼を置いた。すなわち、農家は目標達成の
 方法を一定の制限の下で自由に選択できるようになった。一定の制限とは、い
 つ、どのように農地にふん尿を投入するか、どのようにふん尿その他の有機肥
 料を運搬するか、ふん尿のサンプル採取と計量規則などである。


Minasの原理

 窒素とリン酸塩は、ほとんどの農産物(ふん尿、飼料、作物、生乳、食肉など)
の構成要素である。Minasの下、農家は窒素およびリン酸塩のミネラル収入、支出
の正確な記帳をし、その差が環境へ浸出する過剰量、または、減少量となる。こ
のため、農家は毎年ミネラルの過剰・
不足量を計算しなければならない。

 なお、一定量のミネラルは、ふん尿の土壌への投入時または飼料給与時に(自
然に)失われる。Minasの亡失水準は、このような不可避の亡失を考慮して設定
されている。農家は、1ヘクタール当たりの窒素およびリン酸塩の余剰量が亡失
水準を上回った場合に課徴金が課せられが、この課徴金は制限的に高く設定され
ている。すなわち、課徴金を支払うよりミネラル過剰を減少させる方が経済的で
あるため、農家は環境へのミネラル亡失を最小限にするような対策をとらざるを
得ないという仕組みである。また、政府は最大許容水準を2003年までに段階的に
引き下げることを決定している。

 Minas は収支を計算するだけでなく、農家のミネラル管理の細かい調整にも利
用できる。


収入および支出の種類

 収入および支出は、農場の外から入るものおよび農場の外に出るものがそれぞ
れ対象となる。Minasでは、自己の牛に給与される飼料作物を生産するための農
地への家畜ふん尿投入など、農場内でのミネラルの流れは考慮されていない。

−Minasにおける窒素およびリン酸塩の記帳対象物の例− 
収入(投入) →    農場      →      支出
濃厚飼料                   畜産物(生乳、食肉、卵など)
家畜       ミネラル亡失(過剰)量   耕種・野菜作物
副産物     =収入−支出         粗飼料
粗飼料                    家畜ふん尿など 
家畜ふん尿
有機肥料
化学肥料など

 Minasの目的は、農家ごとに窒素とリン酸塩の収支を正確に記録することであ
る。化学肥料、有機肥料、濃厚飼料の実際のミネラル含有量は供給業者から提供
される。家畜ふん尿は、搬出ごとに重量測定、サンプル採取、分析を行わなけれ
ばならない。ただし、実際のミネラル含有量決定のための分析は公認検査所で行
われる。また、動物と畜産物のミネラル量は標準量を基に算出され、野菜(粗飼
料)、作物のミネラル量も1ha当たりの標準量から算出される。


亡失水準

 亡失水準、すなわち、許容される窒素およおびリン酸塩の過剰量水準は、地下
水1リットル当たり硝酸塩量50mgなどのEU硝酸塩指令の目標が達成されるまで毎
年引き下げられる。なお、現状の平均亡失量は、窒素量で370kg/ha、リン酸塩量
で65kg/haと算定されている。


課徴金の引き上げ

 課徴金は、窒素およびリン酸塩の亡失水準を農家が超えないようにするための
ものである。亡失水準の漸進的低減により、農家は亡失の防止策を取らざるを得
なくなる。防止策の1つとしてはミネラル使用の効率化であり、化学肥料や濃厚
飼料の投入の低減である。また、低ミネラル飼料を購入する方法もある。課徴金
(特にリン酸塩の制限を超えた場合の課徴金)は制限的に高いため、ふん尿過剰
で課徴金を支払うよりも、家畜ふん尿の廃棄を適正に行う方が得となる。

 現在、課徴金は亡失量の増加に伴い漸増するように設定されている。

表1 窒素およびリン酸塩の年間亡失水準
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表2 亡失水準を超えた場合の課徴金額
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Minasの段階的実施

 Minasは段階的に実施されている。98年に最初の義務化となったが、その対象
は最も環境危険性の高い集約的畜産農家に限定されていた(農地1ha当たり2.5LU
を超える農家が対象で、実際上は、ほとんどすべての養豚および養鶏農家と集約
度の高い酪農家が対象となった)。2001年からは、耕作農家を含むすべての農家
が対象となる。


検査の実施

 毎年、農家は、関係書類を添付したミネラル収支計算書を農業自然管理漁業省
課徴金室へ提出しなければならない。2000年には、提出書類の検証のため、会計
検査報告の提出が義務付けられている。ミネラル収支は、通常金銭取引を伴うの
で会計検査報告を用いた検証が容易である。Minasの適正な執行を確保するため、
課徴金室がミネラル収支計算の検証を行うほか、同省の一般監査なども実施する。


6 家畜ふん尿の市場均衡

 オランダ政府は、家畜ふん尿生産が投入可能な農地に見合う量にするという遠
大な政策を掲げている。さらに、農地1ha当たりの家畜ふん尿投入可能上限を設
けている。この上限は、EUの硝酸塩指令で定められた1ha当たりの窒素量170kgを
基準にしている。ただし、草地については、より高い上限値を緩和措置として認
めるようEUへ提案している。

表3 耕作地への家畜ふん尿の窒素投入限度量
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 一連の環境政策は、投入可能量を超える家畜ふん尿生産を防ぐことを目的とし
ている。もし、ふん尿生産量が需要量を大きく上回っていれば、ミネラル収支計
算の不正の危険性が増加する。政府は、この状況をふん尿廃棄契約制度の導入お
よび家畜頭数の削減により改善しようとしている。


養豚および養鶏からの家畜ふん尿の大半が過剰

 オランダの多数の豚および鶏は、主としてほとんど土地を持たない農場で飼育
されている。これらの集約的農家では、家畜ふん尿をふん尿不足農家(通常は耕
種農家)に販売する以外策はない。国内のふん尿過剰量は、リン酸塩として2万
7千トンと推定されている。

表4 オランダの推定家畜ふん尿過剰量(2003年の予測値)
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家畜頭数の削減

 家畜ふん尿の需給均衡のための重要な方法の1つは、家畜頭数の大幅削減であ
る。かつて好まれ行われた方法としては、生乳生産クオータとふん尿生産権の取
り上げである。原則として、集約的な家畜生産は現状規模に凍結し、ふん尿生産
権または養豚権を購入した場合には規模拡大が可能となる。政府は家畜(ふん尿)
生産権の取引ごとに養豚ではその60%を取り上げ、他の畜種では25%を取り上げ
ている。さらに政府は、生産権を積極的に購入する意向を持っている。

 最終的に政府は、農家段階で養豚権の10%削減を実施することとしている(当
初案は25%削減)。

 この生産権の取り上げ計画および養豚権の削減により、少なくとも2万1千トン
のリン酸塩過剰を減少させられると考えられている。

 なお、2000年3月22日から5月19日まで養豚農家の離農申請受付けが行われた結
果、2,415戸の申請が受理され、目標の約3割、年間7千トンのリン酸塩削減が図ら
れることとなった。生産中止・削減養豚農家には削減したリン酸塩重量に応じた
補償金、住宅建設助成金が準備された(本誌2000年7月号「海外トピックス」参
照)。


家畜ふん尿生産(投入)の制限 

 農家に対しては、農地当たりの家畜ふん尿の生産(投入)限度量が設けられた。
2003年にはEU硝酸塩指令の窒素170kg/haに適応したものになる。硝酸塩指令では
緩和措置の要求が可能であることから、オランダは、草地についての窒素量上限
を250kg/haにするようEUへ要望・提案している(表3が提案内容)。農家はふん
尿投入に十分な土地を持たなければならず、もし、ふん尿量が土地投入水準を超
えた場合には、ふん尿は不足農家に販売・譲渡するか、肥料等に加工するか、輸
出しなければならない。

 なお、草地での緩和措置については、いくつかの議論に基づいたものである。
まず、牧草は土壌種類にかかわらず、窒素摂取・利用量が高い。また、牧草はオ
ランダの気候で大変よく成長する。さらに、オランダでの生育期間は大変長期で
ある。したがって、オランダの草地では規制を緩和できると考えられる。この緩
和措置により、環境への負荷なしに家畜ふん尿の需給均衡が可能となる。


家畜ふん尿廃棄契約

 農家は、将来、ふん尿過剰分について耕種農家、もしくは、ふん尿処理業者と
当該ふん尿の(販売・譲渡)契約を結ぶことが義務付けられる。十分な契約が確
保できない農家では、家畜頭数を削減しなければならない。

 農家は、契約を結ぶ前にどれだけのふん尿が生産されるか計算しなければなら
ない。この計算は、家畜頭数×家畜種類当たりの一定率で行われる。この比率は
今年後半、もしくは、2001年初めに設定される予定である。農家は、それを基に
自己農地への投入可能量および販売必要量を計算しなければならない。

 例えば、2千頭の肉豚を飼養する農家で、標準ふん尿生産量が1頭当たり窒素8
kgであったとすると、農家のふん尿生産量は1万6千kg、農家の自己保有農地がと
うもろこし畑10haであると、当該農地へのふん尿投入可能量は窒素1,700kg(10×
170kg)、残る1万4,300kgが廃棄必要量で、ふん尿の足りない耕種農家へ販売する
としたら耕地への投入可能限度量も170kg/haであることから、耕種農家ではふん
尿受け入れのため84haの耕地が必要である。

 こうしたふん尿廃棄契約制度により、より効率的なふん尿分配がオランダ国内
で実現されると考えられている。

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7 肥料の投入

 オランダでは、「土壌保護法」で土壌汚染を防止している。この法律の下で、
ふん尿投入の時期と方法が規定されている。また、下水汚泥およびたい肥の品質
も規定している。

 なお、ふん尿投入方法の詳細については、8(アンモニア放出の防止)にも記
述している。

 投入規則は、土壌の種類(浸出しやすさ)、土壌の使用法(草地、耕作地、自
然地、その他)、地域の現状(指定地域)に応じた状況によって決まっている。

 州当局はこれら地域の指定が可能であり、この指定は、土壌保全または飲料水
向けの地下水保全に使われる。その場合、家畜ふん尿の投入規則を厳しく、投入
期間も短くすることができる。


家畜ふん尿の投入規則

 作物の成長時期に家畜ふん尿が投入されれば、作物のミネラル摂取が高く、地
下水および地上水への浸出の危険度は低い。したがって、春および夏がふん尿の
投入に最適な季節である。このため、耕作地および草地へのふん尿投入は、9月
1日から2月1日まで禁止されている。ただし、土壌が窒素を浸出しやすい、いわ
ゆる指定地域(砂地など)以外では、草地への家畜ふん尿投入が9月16日まで可
能である。秋・冬における化学窒素肥料の投入禁止措置も近々導入予定である。

 凍結した土地および雪が積もった土地への家畜ふん尿投入は、年間を通じすべ
ての土壌で常に禁止されている。これは、氷雪が解けたときに、ミネラルが土地
から流失し地上水を汚染するからである。農家は、ふん尿投入禁止期間にふん尿
を蓄えておくのに十分な容量の貯蔵タンクを装備しなければならない。

 また、丘陵地における7度を超える急傾斜地でのふん尿投入に関する新たな規
則は、間もなく導入予定である。


そのほかの有機肥料

 家畜ふん尿や化学肥料以外の有機肥料(下水汚泥、野菜・果物・庭ゴミのたい
肥など)も農業に利用されているが、これらの肥料も家畜ふん尿同様に、政府品
質基準に合ったものである必要がある。重金属およびヒ素の限度量も適用となる
(表5)。政府は、これらの肥料の投入量および方法も規定している(表6)。

表5 下水汚泥、たい肥(コンポスト)の成分規定、重金属および
  ヒ素の最大許容水準ならびに農地への投入許容水準
re-eut05.gif (14702 バイト)

表6 そのほかの有機肥料の投入限度量(乾物重量当たり)
re-eut06.gif (14363 バイト)

 なお、下水汚泥の投入規則は、家畜ふん尿と同様である。


環境アセスメント

 家畜ふん尿、下水汚泥、たい肥、黒土以外の肥料やEUで肥料とみなされないも
の(例えば石灰残渣)の環境アセスメントが現在実施されている。


8 アンモニア放出の防止

 家畜ふん尿からのアンモニア放出は、土壌などの酸性化や富栄養価を引き起こ
すため環境に有害である。アンモニア政策の基本目的は、土地への投入時の放出
とふん尿貯蔵タンクからの放出を減少させることである。オランダ政府は、アン
モニア放出と集約的畜産のための畜舎に関するより厳しい要件を作成中であり、
2001年から適用予定である。それまでは、低放出畜舎の建設は奨励により誘導さ
れている。オランダでは、地方政府がどこで畜舎建設を許可するかの区画計画の
責任を持っている。その延長で、自治体において畜舎施設の環境要件を設定して
いる。


複線政策

 オランダのアンモニア政策は複線で遂行されている。まず、大気中の平均アン
モニア濃度を減少させる目的で、ふん尿貯蔵、ふん尿投入方法・期間の一般規則
がある。さらに、個別の農場状況に適用される規則がある。後者は地域状況を勘
案して最善の方策を取るためのものである。例えば、環境的許可の適用審査では、
地方当局は特定地域における農家の存在または拡大の妥当性を考慮しなければな
らない。


ふん尿投入時の放出の低減

 農業者は、家畜ふん尿を土壌表面に散布してはならない、なぜならば、この方
法は許容しがたい高放出に結びつくからである。畜産ふん尿の使用規則では放出
を最小限にする投入方法を規定している。草地では、ふん尿を地中に注入しなけ
ればならない。耕地では、直ちに鋤き込むことを条件としてふん尿散布が許され
ている。


ふん尿貯蔵からの放出の低減

 家畜ふん尿の投入が許されるのは、春と秋の比較的短期間である。農業者はそ
のほかの期間にふん尿を蓄えるための十分な容量の貯蔵タンクを設置しなければ
ならない。畜舎に隣接する貯蔵タンクは地下貯蔵タンクに比べアンモニア放出量
が多い。屋外の貯蔵タンクは覆いができる場合に限り認められる。


環境免許

 オランダでは、家畜飼養農家は農場の存在する自治体から環境免許を得なけれ
ばならない。免許は、農場が地方当局の定める環境基準(アンモニア放出を含む)
を満たしている場合に交付される。


畜舎からのアンモニアの低減

 政府のグリーン・ラベル計画では、低放出畜舎の開発・建設を奨励している。
低放出畜舎に対しては、さまざまな税の誘導や補助金がある。

 オランダでは、遅くとも2001年には新たな畜舎規制が発効する。その後は、経
済的コストと環境利益のバランスが取れた合理的に達成可能な最低ラインという
原則の下で、畜舎の家畜当たりのアンモニア放出に対して一層厳しい要件が求め
られることになる。2008年には、低放出畜舎がすべての養豚および養鶏農家に義
務付けられる予定である。

 なお、低放出のための方策としては、牛の尿の早期除去、豚ふん尿の15℃以下
での貯蔵、鶏ふんの畜舎内での乾燥などの効果が認められている。


アンモニア政策

 99年12月、スウェーデンのイェーテボリにおいて、ヨーロッパ大陸諸国は、環
境の酸性化原因となるすべての物質の放出最高限度について合意した。オランダ
のアンモニア放出限度は年間12万8千トンで、2010年までに達成するよう努力が
求められている。

 EUでは現在、酸性化物質放出限度量を含む酸性化に関する指令を作成中である。
この中で、アンモニア放出に関してEUは、オランダが2001年に満たすべき限度値
として10万4千トンを提案する見込みである。

 すべての新しい畜舎を低放出型畜舎にしなければならないという規制は、オラ
ンダのアンモニア放出を許容範囲にまで減少させる上で大きな効果を挙げるもの
と期待されている。

◇図3 オランダのアンモニア放出量◇


9 おわりに

 以上のように、オランダ政府は、畜産の家畜ふん尿による環境汚染問題に対し
さまざまな対策を実施してきている。その政策実施も最終段階にかかってきてお
り、今後2003年まで一層の規制強化が続けられる予定である。ただし、EUの硝酸
塩指令に合致した環境水準に到達するためにはさらなる家畜頭数の削減等が必要
であり、畜産農家の協力・理解をいかに得るかが成否のカギとなっている。

参考資料

1 オランダ農業自然管理漁業省農業部
 「Manure and the environment」

2 EU委員会農業総局ほか「Agriculture, Environment,
   Rural Development: Facts and Figures
	−A Challenge for Agriculture」

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