学乳事業をめぐる論争が過熱(タイ)


特定乳業者からの一定購入措置に業界団体などが反発

 タイでは、児童の栄養向上や酪農業の振興を目的に、92年から学乳事業が導入
されている。今年は70億バーツ(約194億円:1バーツ=約2.77円)が予算措置さ
れ、3万を超える小学校を対象に行われているが、このところ、本事業の運営に
異議を唱える声が大きくなりつつある。

 今年の学乳事業の実施に当たり、タイ政府は余乳対策も考慮して、タイ酪農振
興公社(DFPO)など国産生乳の購入に大きく貢献する乳業会社から、一定量の
学乳用UHT牛乳(日本のLL牛乳に相当)を購入する措置を発表していた。ところ
が、このほど、全国教師連合協議会や低温殺菌牛乳製造者団体などから、この措
置はDFPOなど特定の乳業会社を利するものであるとして、措置の取り消しを求
めた請願書が政府に提出された。タイ北部地域では、教育大臣の罷免を求め、児
童やその父母など5万人の署名を集める運動が起こる騒ぎにまで発展している。


輸入粉乳による学乳製造が余乳の発生を助長

 現在、学乳におけるUHT牛乳の割合は約4割とされ、取り扱いや保存の容易さ
から、各学校ではUHT牛乳を選択する傾向が強まっているといわれる。政府は今
年、大手乳業会社から合計9千万パックのUHT牛乳を購入する計画を発表してお
り、この傾向に一層拍車がかかるとも考えられている。購入計画では、DFPOに
対し、タイ国内の牛乳売上高第1位であるフォアモースト社を上回る、2千4百
万パックのUHT牛乳の納入が割り当てられている。

 政府は学乳事業の導入に際し、国産生乳の需給状況などを考慮して、本事業に
おける生乳の使用割合を25%以上と規定したが、残りの部分の調達方法について
は言及していない。このため、乳業会社はコストを削減しようと、輸入品の全脂
粉乳や脱脂粉乳を原料にUHT牛乳を製造して学乳用とすることが多く、皮肉にも
余乳対策の一環でもある学乳事業が、逆に余乳を生じさせる結果となってしまっ
ている。酪農家からの最低買取価格が、1リットル当たり12.5バーツ(約35円)
と定められている生乳に対し、輸入粉乳類から製造される還元乳の製造コストは
8バーツ(約22円)といわれ、タイで年間に消費される70万トンの牛乳のうち、
30万トンが輸入粉乳類から製造された還元乳であると試算されている。こうした
ことから、各学校が夏期休暇に入る3〜4月には、1日当たり200トンもの余乳が発
生するとされ、学乳事業の運営については、酪農家からも強い疑問の声が投げか
けられている。


信頼度の薄れるDFPOの事業参画に反感

 一方、政府には、経営が行き詰まって民間への売却も検討されているDFPOを
学乳事業に取り込むことにより、その負担をいくらかでも軽減しようという思惑
があったとみられている。しかし、酪農家に対する生乳代金の未払いが累積する
など、信頼度が急速に薄れているDFPOの事業参画が、教育現場や乳業会社の反
感をあおった感も強い。

 政府は今後、学乳供給の対象を小学6年生までの児童に引き上げるなど、本事
業を拡大する意向を表明しているが、納入業者の選定などをめぐる不正のうわさ
も取りざたされるなど、マイナスの要素も指摘されている。タイでは、牛乳消費
全体に占める学乳の割合が高いだけに、政府の速やかな対応が望まれている。

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