海外駐在員レポート 

岐路に立つ豪州酪農産業

シドニー事務所  野村 俊夫、幸田 太




1. はじめに

 豪州農業資源経済局(ABARE)は今年2月末、キャンベラで開催された農業・
資源観測会議(Outlook 2001)の酪農部会において、「豪州酪農産業は約20年に
わたる変革期を経て今や新しい時代に突入した」とし、豪州の生乳生産が今後5
年間で大幅に増加するという中期予測を公表した。一方、ABAREは、今年1月末
に発表した "飲用乳供給自由化の影響"と題する緊急調査レポートにおいて、昨
年7月に開始された酪農乳業改革と飲用乳価の下落が多数の酪農経営を非常に厳
しい状況に追いつめていることを明らかにした。

 上記の両レポートは豪州酪農産業を2つの側面から分析したものであり、おの
おの実態を表している。つまり、豪州酪農産業は、全体としては大幅な豪ドル安
や国際乳製品需給のひっ迫による乳製品輸出拡大という追い風を受けて前例がな
いほどの順調な発展を遂げているものの、その中においては、乳製品輸出拡大の
恩恵を最大に受けている者と、飲用乳価の下落によって厳しい打撃を受けている
者への2極分化が進んでいる。

 このため、今回は上記の両レポートに基づき、岐路に立つ豪州酪農の現在の姿
を探るとともに、その将来の方向性について検討を加えてみたい。
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【オートバイで乳牛を見まわり】


2. 農業・資源観測会議における中期予測

 ABAREは農業・資源観測会議において、豪ドル安を基調とする為替動向、EUな
ど主要酪農生産国の生産動向、日本をはじめとするアジア諸国・中東諸国などの
経済動向など、不確定な要因が多いとしながらも、豪州の生乳生産が今後5年間
に大幅に増加すると予測した。その概要は次のとおりである。

(1) 生乳生産量は5年間で11.6%増加

 豪州の生乳生産量は2000/01年度から2005/06年度までの5年間で11.6%増加し、
1,230万キロリットルに達する。1頭当たりの年間平均乳量も7.8%増加して5,483
リットルとなるほか、乳用経産牛飼養頭数も3.5%増加して225万2千頭になると予
測されている。


(2)乳製品の生産は軒並み増加

 生乳を用途別に見ると、飲用向けと加工原料向けがともに伸びるものの、加工
原料向けが全体の約8割を占めるという基本的な構造に変化はない。従って、乳
製品の生産量は、2005/06年度までにバター(11.0%増)、チーズ(5.6%増)、
脱脂粉乳(18.8%増)、全粉乳(15.6%増)と軒並み増加することが予測されて
いる。


(3)チーズを除く乳製品の輸出が増加

 乳製品の輸出は国際需給のひっ迫を背景に増加するが、脱脂粉乳(22.2%増)、
全粉乳(16.8%増)、バター(16.6%増)の輸出が大幅に伸びるのに対し、チー
ズの輸出は国内消費の増加もあって6.6%減少すると予測されている。なお、我
が国は、引き続き豪州産乳製品の最大の輸出先になるとされている。

◇図:豪州の生乳生産中期見通し◇

◇図:豪州の乳製品生産中期見通し◇


3. "飲用乳供給自由化の影響"緊急調査レポート

 ABAREが発表した"飲用乳供給自由化の影響"という調査レポートは、酪農乳業
改革の影響が余りにも大きいとの指摘を受けた連邦政府が緊急に作成を命じたも
のである。このレポートは、豪州酪農産業が全体として発展しつつある中で、地
域によってその状況が大きく異なることを浮き彫りにしている。
このレポートは、国内の主要酪農地域を11の地域(ビクトリア(VIC)州4地域、
ニューサウスウェールズ(NSW)州3地域、クインズランド(QLD)州南東部、南
オーストラリア(SA)州南東部、タスマニア(TAS)州北部、西オーストラリア
(WA)州南西部)に区分して改革の影響を分析している。豪州の酪農生産は限定
された地域に集中しているため、これらの11地域を合わせると国内に存在するほ
ぼすべての酪農経営がカバーされる。

1 豪州酪農産業調査地域
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豪州の加工原料乳地域と飲用乳地域 

 豪州の酪農生産は、従来、飲用乳と加工原料乳の生産地域がはっきりと区分さ
れていた。豪州全体の生乳生産の約6割を担うVIC州や、TAS州、SA州は加工原料
乳地域であり、生産コストを下げるために生乳の季節生産性が高い。これに対し、
飲用向け比率が高いNSW州や、QLD州、WA州では各州の飲用乳制度の下で周年生
産の維持に重点を置いた飲用乳生産割当(クォータ)を実施し、飲用向け乳価を
高値に支持する一方、他州からの生乳の流入を州境で実質的に制限していた。

 この飲用乳クォータ、飲用向け乳価支持、州間生乳流通制限という基本3政策
を一挙に撤廃したのが昨年7月の酪農乳業改革であった。従って、改革の影響が
飲用乳地域の3州に集中したのは当然と言える。これらの3州では、飲用乳価が大
幅に下落したのみならず、飲用乳クォータの価値が消失し、地域によっては他州
からの生乳に直接脅かされることになった。
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【ロングタイプのロールベール】
(1)飲用乳地域の概要

 ABAREが区分した11地域のうち、飲用乳地域に当たるのは表1の5地域(NSW州
3地域、QLD州、WA州)である。これら5地域は、豪州全体の生乳生産の約24%
を供給しているにすぎないが、飲用向け比率が36〜52%といずれも極めて高いこ
と、周年生産に重点を置いて季節による変動が比較的少ないことが特徴である。

 QLD州やNSW州11区では、経産牛平均飼養頭数100頭程度の比較的規模の小さ
い経営が存続しているが、これはこれらの経営が両州の飲用乳制度によって手厚
く保護されてきたことを示すものである。

 実は、今回の改革の影響を最も強く受けているのはこれらの小規模経営であり、
特にNSW州やQLD州の沿岸部は近年土地価格が著しく上昇していることもあって
経営規模の拡大もままならなくなっている。

 NSW州13区は、生産規模が5地域の中で群を抜いて大きい。この地域は大消費
地から比較的遠いという不利な条件下にあるが、マランビジー川かんがい事業計
画地域にあるため、天候や季節に左右されない安定した生産が行える。また、近
年の土地価格上昇も沿岸部に比べると小さかったため、さらなる規模拡大の可能
性が高く、将来有望な酪農生産地域と目されている。

表1 飲用乳地域の経営概況
(96/97〜98/99年度平均)
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 資料:ABARE"Australian Dairy Industry 2000""Impact 
     of an open market in fluid milk supply"
  注:総経営戸数は98/99年の推定、総生乳生産量は
    これに調査農家平均を乗じて推定


(2)飲用乳地域への改革の影響

(ア)平均受取乳価が大幅に低下

 表2は、5地域の平均受取乳価が22〜34%も下落したことを示している。これら
の地域では昨年7月の改革以前、飲用乳クォータが実施されていたため、個々の
経営の受取乳価は当該クォータの保有数量によって異なっていた。しかし、改革
によって飲用乳クォータと飲用乳価格支持が撤廃されたため、乳業メーカーは乳
価を大幅に引き下げた上、飲用乳クォータの保有実績とは無関係に用途別配分を
定める方式に変更した。このため、改革前に多量の飲用乳クォータを保有してい
た経営ほど影響を強く受ける結果となった。

 各乳業メーカーは現在も用途別の乳価を定めているが、飲用向けは30〜36豪セ
ント/リットル(改革前は約50豪セント/リットル)にまで低下している。また、
用途別配分の方法は、傘下の全酪農経営で一律(プール乳価方式)を基本としつ
つ、年間を通じて一定の飲用乳を供給できる大規模経営に優遇措置を講じるよう
になった。

表2 平均乳価と生産コストの見通し
(飲用乳地域) 
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 資料:ABARE"Impact of openmarket in fluid milk supply"

(イ)生乳単位当たりの収益が低下

 表2は、5地域とも生産コストの低下を上回る平均乳価の下落により、生乳1リ
ットル当たりの収益が大幅に低下したことも示している。特に、NSW州11区(63
%減)とWA州(78%減)の低下が著しい。

 なお、全地域で生産コストが低下した理由は、改革前に加工原料乳価格補てん
制度の財源として賦課されていた課徴金が撤廃されたことが大きく影響している。


加工原料乳価格補てん制度 

 連邦政府は「飲用向け生乳」と「国内向け乳製品の加工原料乳」に課徴金を賦
課し、この財源から「(国内・輸出向けを含めた)すべての加工原料乳」に補て
ん金を交付する制度を実施していた。99/2000年度における課徴金は「飲用向け
生乳」が1リットル当たり約1.9豪セント、「国内向け乳製品の加工原料乳」が同
3.5豪セントで、ここから「すべての加工原料乳」に対して同1.9豪セントの補て
ん金が交付されていたが、昨年7月の改革でこの制度は撤廃され、課徴金の徴収
も補てん金の交付もなくなった。

(ウ)3〜4年間の収益減少分を補償

 表3に各地域の農業粗収益の変化と酪農構造調整金による補償金総額を示した。
補償金は8年間にわたる分割交付が基本であるが、大部分の酪農経営は金融機関
の特別ローンを利用して一括前払いを受けている。

 これによると、今年度は全地域で農業粗収益の大幅な減少が予想されているも
のの、この減少額の2.7〜4.1倍に相当する補償金が交付される見込みである。ち
なみに、連邦政府は、補償政策を策定するに当たり、酪農経営の収入減少分の2
〜3年間分を補償するとしたが、この数値を見る限りその目標はほぼ達成されて
いると言えよう。

表3 酪農経営粗収益と補償金総額(飲用乳地域)
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資料:ABARE"Impact of openmarket in fluid milk supply"


酪農構造調整金 
 連邦政府は、酪農乳業改革を実施するに当たり、酪農経営に対する総額約17億
豪ドル(約1,071億円:1豪ドル=63円)の補償措置を実施した。これは、各経営
における98/99年度の生乳出荷実績に基づき、飲用向けについては46.23豪セント
(約29.1円)/リットル、加工原料向けについては8.96豪セント(約5.6円)/リ
ットルをおのおの乗じて加算した補償金総額を8年間にわたり分割して交付する
というものである。ただし、大部分の酪農経営は金融機関の特別ローンを利用し
て一括前払いを受けている。
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【乳牛群とデントコーン畑】
(3)加工原料乳地域の概要

 ABAREが区分した11地域のうち、加工原料乳地域に当たるのは表4の6地域
(VIC州4地域、TAS州、SA州)である。これらの地域を合計すると豪州全体の生
乳生産の約76%に達する。これらの地域に共通する特徴は、言うまでもなく飲用
向け比率が極めて低いことである。酪農家が州都アデレード近辺に集中するSA
州でさえその比率は21%、VIC州各区は7〜8%、TAS州はほぼ全量が加工原料向
けとされている。また、生産コストを抑えるため、一般に10〜11月を生産ピーク
とする季節生産方式を採用している。

 1戸当たり経産牛飼養頭数は130〜170頭で地域による格差はあまりないが、V
IC州22区では120ha未満で160頭以上飼養しているのに対し、SA州では300haで
130頭しか飼養できないという条件の格差は存在している。

 VIC州22区はかんがい面積が極めて大きいが、これはマレー・ダーリング川か
んがい事業計画地域にあるためである。

表4 加工原料乳地域の経営概況
(96/97〜98/99年度平均) 
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資料:ABARE"Australian Dairy Industry 2000""Impact 
    of an open market in fluid milk supply"
 注:総経営戸数は98/99年の推定、総生乳生産量は
   これに調査農家平均を乗じて推定


(4)加工原料乳地域への改革の影響

(ア) 乳価への影響は軽微

 表5は、加工原料乳地域の乳価に及んだ影響が軽微であったことを示している。
SA州では13%、TAS州では9%の乳価低下を見込んでいるが、VIC州各区はいずれ
もわずかな低下または上昇している。この調査は昨年11月に実施されたが、その
後に乳製品の国際市況が高騰したことを考えると、輸出向け乳製品の加工原料乳
が大部分を占めるこれらの地域ではさらなる乳価の上昇が期待される。また、こ
れらの地域ではプール乳価方式を採用していたため、個々の経営によって改革の
影響に格差が生じることはなかった。

表5 平均乳価と生産コストの見通し
(加工原料乳地域) 
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 資料:ABARE"Impact of openmarket in fluid milk supply"

(イ) 生乳単位当たりの収益は現状維持または増加

 表5は、6地域の生乳1リットル当たりの収益がほとんど深刻な影響を受けなか
ったことを示している。平均乳価が低下したSA州やTAS州でさえ、生乳1リット
ル当たりの収益低下は1豪セント/リットル未満であった。これらの地域でも加
工原料乳価格補てん制度に係る課徴金の撤廃がコスト削減に影響した。この結果
を見る限りにおいては、特にVIC州各区で生乳の増産に向けた意欲が高まるのは
当然と言えよう。

(ウ) 補償金は経営改善に利用

 表6は、加工原料乳地域の酪農経営に対する酪農構造調整金の交付が、飲用乳
地域とはまったく異なる意味合いを持つことを示している。VIC州24区では粗収
益が増加したにもかかわらず補償金が交付され、同州21区、22区やSA州では粗
収益減少分の8〜29倍もの補償金が交付されている。TAS州の補償金は粗収益減
少分の約3倍にとどまっているが、それでも飲用乳地域の平均に相当する割合で
ある。加工原料乳地域においては補償金が借入金の返済や規模拡大への投資とし
て有効に利用されることが予想され、経営を維持するための当座資金に充てざる
を得ない飲用乳地域とは大きく異なっている。

表6 酪農経営粗収益と補償金総額(加工原料乳地域)
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 資料:ABARE"Impact of openmarket in fluid milk supply"


4. 今後の見通し

 ABAREは"飲用乳供給自由化の影響"調査レポートにおいて、酪農経営戸数や生
乳生産量、季節生産性などの基本的な動向が明らかになるには今後数年を要する
としているが、その将来の姿について現時点でとりあえず検討すると次のように
なる。
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【風車による地下水の汲み上げ】

(1)小規模経営が脱落し規模拡大が進展

 NSW州11区やQLD州などで小規模経営を中心に廃業が進むのは明らかである。
QLD州では既に廃業者の急増によって生乳供給が不足する事態となったため、地
元の乳業メーカーが複数の工場を閉鎖し、VIC州に拠点を移動する計画を発表し
た。また、NSW州酪農生産者組合(DFA)は、会員数の減少で単独農協として存
続することが不合理となったため、同州総合農業組合への合併計画を進めている。
酪農経営戸数は、QLD州、NSW州ともに3年以内に改革前の約3分の2程度に減少
するという予測が一般的となっている。

 一方、経営の大規模化は全国全地域で進展するとみられている。施設費や労働
費などの一定の固定費用がかかる中で平均乳価の低下に対処するには、基本的に
生産ボリュームを増やすしか方法がない。こうした中、NSW州の内陸部などでは、
経産牛2〜3千頭のフィードロット型大型酪農経営も出現しつつあり、関係者の注
目を集めている。


(2)QLD州の生乳生産量は減少、NSW州は現状維持

 QLD州では酪農経営戸数の減少に伴って生乳生産が減少するとみられている。
生乳生産の約46%が飲用向けであることからこの水準まで低下するという見方も
あるが、基本的には乳業メーカー側の需要(経営方針)に左右される部分が大き
いと思われる。

 NSW州は11区で生乳生産が減少するとみられるが、隣接するVIC州に対抗する
力を付けた12区や、かんがい利用で安定した生産が望める13区などではむしろ規
模拡大が進み、全体としては現状を維持するとみられている。

 同州では、飲用乳クォータの撤廃により無理をして周年生産を維持する必要が
なくなった。従来、周年生産に必要な補助飼料は大部分が自給されていたが、そ
の生産期と需要期にギャップが生じやすく、不足時には外部からの購入に頼るケ
ースも多かった。しかし、今後は補助飼料の生産に合わせた生乳生産計画が組め
るため、より効率的な経営が可能になるとみられている。

(3)VIC州を中心に加工原料乳地域の比重が拡大

 ABAREが農業・資源観測会議で発表したように、豪ドル安の為替環境や国際乳
製品需給のひっ迫という状況が続くとすれば、豪州酪農産業が全体として発展を
続けることは確実である。その場合、増大する輸出需要に応えて産業発展のけん
引役となるのはVIC州を中心とする加工原料乳地域であろう。ABAREの中期予測
では、加工原料乳の生産は今後5年間で11.7%増加するとされている。このこと
を我が国などの輸入国側から見れば、必要とする乳製品の供給に当面は影響が及
ばないことを意味する。

 また、豪州酪農産業における輸出の比重がますます高まることも確実である。
従って、今回の改革によって国内の規制撤廃を完了させたことは今後国際政治的
にも大きな意味を持つと思われる。
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【乳牛の放牧】

(4)季節生産性の動向は不透明

 加工原料乳地域の比重が高まるとすれば季節生産性の動向が気になるところで
あるが、残念ながらこれに関する見通しは不透明である。酪農経営が季節生産に
特化すれば生乳生産コストは抑えられるが、オフシーズンが長期化して乳業工場
の稼働率が低下する。乳業メーカーが工場の稼働率を上げるべく傘下の酪農経営
に周年生産を奨励すると補助飼料などのコストがかさみ、加工原料乳価が上がる
というジレンマに陥る。逆に、酪農経営は、乳業メーカーがどれだけの奨励金を
オファーするかによって周年生産への転換が経営的に成り立つか否かを判断する
ことになる。

 極端な季節変動の改善策としては、搾乳後期に補助飼料を与えて乳量の低下を
抑制する方法が一般的であるが、VIC州やNSW州の一部では、乳牛群を2つに分け
てそれぞれの出産期を春秋の一時期に集中させる方法(牛群交代年2回搾乳)や、
すべての出産を秋に集中させる方法(冬期一括搾乳)などの特殊な生産方法も採
用されており、今後どのような方向に向かうかは推定の域を出ない。


5. おわりに

 今回、農業・資源観測会議の酪農部会に参加した者は、昨年7月の改革が酪農
産業に及ぼした多大な影響をめぐって白熱した討論が展開されることを期待して
いたのではなかろうか。このことは参加人数の多さや会場内の熱気からも感じら
れた。しかし、ABAREの基調報告は中期見通しの明るさを強調した内容に終始し、
学術界や業界からのコメンテーターも、改革がもたらした諸問題には積極的に触
れなかったため、議論がかみ合わないまま時間切れで閉会してしまった。

 ここで主催者と参加者の意識にギャップが生じた原因は、参加者側が酪農産業
の混乱という目の前の現象に意識を奪われていたのに対し、主催者側の政府や業
界指導者たちは今回の改革が15年間にもわたる長期産業政策の総仕上げに当たる
ことの意義を充分に認識していたことにあったと言えるのではなかろうか。つま
り、重要政策目標を達成するにはある程度の一時的な混乱は不可避と見なしてい
たのである。

 それにしてもこの大改革が、大幅な豪ドル安や国際乳製品需給のひっ迫という
豪州にとって好条件の下で実施されたのは幸いであった。仮にこれらの諸条件が
反対の状況にあったとすれば、国内酪農産業への影響は図り知れないほど拡大し
ていたはずである。

 何はともあれ、豪州酪農産業が"今や新しい時代に突入した"のは事実であろう。

参考文献:	

1.ABARE"Agriculture and Regional Australia OUTLOOK 2001"
2.ABARE"Australian Dairy Industry 2000"
3.ABARE"The Australian Dairy Industry Impact of an Open Market 
    in Fluid Milk Supply"
4.ADC"Dairy Compendium 2000"

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